第18話:Black Princess
第18話:Black Princess
特別自習言語レポート期間を終え、大半の生徒はB+からA判定だったらしい。A判定で1ヶ月半の夏休みで、A+で2ヶ月。無論私と桜さんはA+にしてもらい、三河さん達ともその話で盛り上がった。
「三河さん、Aだったんですか?」
「はい……朝月さん……自信あったんですけどね……」
「審査する教授さん達は厳しいらしいですからね……」
こうして、午前の課業を終え、食堂で焼肉定食を頼み、その甘辛いタレと玉ねぎとロース牛肉の炒め物に舌鼓を打っていると何やら噂話のようなものが、耳を立てずとも聞こえてきた。
「3年生に転入生が入ったらしいな」
「あぁ、美人だけどなんか怖いんだよな……」
「ほんとほんと。俺のクラスなんだけど普通に笑顔を見せてるんだけどなんか不気味なんだよな……」
「弥生さん……?」
「あぁ、いえ。なんでもないわ。最近物価高で桜さんにはご迷惑をかけているわね」
「いえいえ〜、頭を使う家事も好きですから!」
そんな時噂をすればなんとやら。その転入生が食堂に入ってきた瞬間私と目が合う。
それは私のかつてのライバルであり、表向きの日本最強クラスの魔砲少女が私なら、彼女は裏の日本最強の魔砲少女だ。
「御崎……黒姫……!!」
「校内でドンパチするつもり?朝月さん。私は構わないけど勝てないと思うわよ」
「お前が清水一等陸佐を廃人にした事は未だに忘れてないからな」
「清水……あぁ、あの無能魔砲少女の」
「黙れ!!これ以上は私の理性が持たない」
「ふふっ、じゃあ私も焼肉定食を食べるとしますか」
私はすぐに焼肉定食を食べ終えて、銃の整備が許可されてる部屋で、コルト・ターミネーターの分解清掃と実弾を込める。
あいつがここに来た以上何が起きるか分からない。
イライラと憎しみが作業の正確性に亀裂を生じさせる。
清水一等陸佐は私の先輩であり、世界で唯一の飛行戦闘魔砲少女だった。それをあいつは海外行動任務不可という理由だけで内閣国防情報局に志願した彼女を記憶削除の処置を実施し、失敗し、廃人と化した。今でも自衛隊病院特殊精神科病棟でお世話になっている。
とても許せる話じゃない……
スライドとフレームが噛み合わず、カチャカチャ鳴らしてると、国岩一等陸佐から連絡が来た。
「なんだ?……すみません、少しイラついていて……」
「御崎の妹、黒姫が転入した事は知っている。だが、彼女は君を尊敬し、同時に嫌っている。それとギリシャへの特別研修の日程が決まった、4日後だ。そして……飛行戦闘魔砲少女大隊の設立が統合幕僚監部と防衛省次世代作戦戦闘開発局により決まった。お前が大隊長の最有力候補だ」
恐らくだが、魔術界との戦争が決まったのが事実上確定したのだ。
そして飛行戦闘魔砲少女大隊は過去に何度も議論され、廃案となってきた。同時に技術的にも非常に困難という現実が歯止めを掛けてきてくれた。それが破られた以上恐らく三風重工業の作っていた装備……まさか……この時のために!?
「国岩一等陸佐……もしかして三風重工業の装備は……心の弾丸の侵食抑制は建前で……」
「貴官は優れた自衛官だ。だからこそ知らないものと知っていいものの区別は着くと信じている」
「口が過ぎました。しかし魔法特殊作戦コマンドはどうなるんですか?」
国岩一等陸佐の方のマイクが、書類をめくる音が聞こえ、少し話し合いの声がする。
「それは私が話そう。朝月「二等陸佐」」
「や、山岩陸将!お疲れ様です!」
「魔法特殊作戦コマンドは魔法特殊作戦機動師団へ再編成。訓練大隊、MCH2個大隊、飛行戦闘魔砲少女大隊、精鋭特殊歩兵連隊、機甲特科構成連隊戦闘団で組織される予定だ。国岩君には陸将補として副師団長兼統幕交渉担当官を務めてもらう。そして君が大好きな御崎一等陸尉は精鋭特殊歩兵連隊の大隊長として回す予定だ。その方が君もやる気が出るだろう?」
私は「ご厚意に感謝します」と伝え、同時に疑問になっていた御崎一等陸尉の妹、御崎黒姫が何故今になってこの国際言語文化高等学校に来たのかついても問う。
「あぁ……それはだな。国家情報局も魔砲少女戦闘にもっと食い込みたいという事で我々の魔砲少女聖域に踏み込んだ形だ。無論無用な争いは避けたまえ。あぁ、そうそう。君の大隊の直属の指揮官だが、ドイツから優秀な指揮官を招いた。対魔砲戦闘における世界的重鎮参謀の1人エーリッヒ・フォン・ゼールーア大佐だ。こちらの魔砲少女装備の提供と引替えに来てもらった。ギリシャの時に会うだろう。それでは体調を大事にしたまえよ」
通話が切られ、私はゼールーア大佐を思い出す。訓練生時代に1度お会いしたが絶対に魔砲少女に無理をさせず、戦力温存と集中の法則に重きを置きつつ、機動戦力は徹底的に機動させ敵を翻弄し、疲弊したところを徹底的に叩く。
まさにドイツ軍らしい参謀だ。
そして午後の課業を済ませ、4日後のギリシャ特別研修が公開され、1年生の中では誰が行くかの予想や誰と行くなどの駆け引きが行われていた。
私と桜さんが行く時点で三河さんとララさんも来てくれるそうだが、ほとんど一緒に居られないのは悲しい話でもある。
そのまま4日は一瞬で過ぎていき、私は不満を隠さず国岩陸将補に異議を投げた。
「なんで、私と桜さんは学校の皆と一緒じゃないんだ?」
「大人の都合……と言っても納得してくれないから言わせてもらうが武装外交行嚢(外交行嚢は送った国の人間以外開けられない外交特権。本来なら武器等の危険物は開封される可能性があるがここでは別)があるからな。ギリシャ大使館に寄る必要がある」
「んで?何を受け取るんだ?」
「飛行戦闘魔砲少女大隊の主力装備にあたる33式9.8mm航空機関銃と33式航空魔砲拳銃。34式SSM及び飛行装備だ」
全くギリシャ政府は甘すぎないか?これだけの武装を送り付けられ、戦闘でも起こされたら怒り心頭どころが、怒り有頂天突破だぞ。
というか、もう飛行戦闘魔砲少女大隊の練習があるのか。
リジャーシャも頭を抱えそうだ。
ギリシャまではC-130に揺られながら、自衛隊中の高位な魔砲少女が集められ、私の大隊員として乗り込んでいた。
その中では先日の習志野で見かけた魔砲少女も少なからずおり、新人大隊同然なのは語るに至らずと言える。
エンジン音しか聞こえない機内は不安をそそられ、清水一等陸佐への思いが積もるばかりだった。
出発前日に山岩陸将に許可を貰い、顔を合わせたがずっと目を開いたまま天井を眺め、私の声には1ミリも反応しなかった。
あの優しく頼りがいのある声で「僕に任せて!弥生ちゃん!」と言っていた明るいボーイッシュな先輩の面影などもう……
「あの大隊長……」
「な、何かしら?」
「今演習はどこで行われるのでしょうか?」
「私にも知らされてないわ。少なくとも楽ではないはずよ。覚悟はしておいて」
「はっ!」
彼女達は女子中高生。高負荷な戦闘にはおそらく耐えられない。ならばリーダーの私が気を配る必要がある。
そしてギリシャに着き、クレタ島にあるスダ空軍基地に着く。ここはNATO軍の要所とも知られており、同時に米軍のテリトリーの離れ庭の一つだ。
機体から降りるとやはりと言うべきかカロライナとミラの姿に他のアメリカ側の魔砲少女が十数名武装していた。
「やっぱりアメリカは直接持ち込めるんだね」
「おぉ〜!弥生!会いたかったよ!結婚してくれるなら核兵器だって持ち込むよ!」
「その冗談は笑えないわ。私たちの外交官が今武器を取りに行ってるんだけど、あなた方ももしかして……」
「そう。飛行部隊としての試験演習だよ。気乗りはしないけどね」
「私はパイロットに憧れがあるわ」
「なら戦闘機も撃ち落としてみせるよ」
全くカロライナは……だが、そこが彼女の魅力だ。この前の演習で分かった。彼女のジョークとおふざけは苦しい時に優しくしてくれた時のギャップとしてより効力を発揮する。
さて、ウィルソンCIA担当官も来てそうだが……
辺りを見回すと珍しくスーツ姿に黒のプレートキャリアにM4のMLOKシステムハンドガード(簡単に言うとレールの取り外しを出来るようにして軽量化を図ったハンドガード)を持ったウィルソンさんがいた。
「ハロー、ウィルソンさん」
「おぉ!ミス、朝月!この前は我々アメリカ政府が身勝手な真似をして本当にすまなかった……」
「ウィルソンさんの指示じゃないことくらい分かるよ。まぁ天の声ってやつでしょ?」
「イエス……」
すると先に到着していた輸送機から久しぶりに見る緑熊35式特殊作戦用重装甲車に加え、米軍のMRAP(特殊地雷防護車両)が十数台基地内に入ってきて、山岩陸将が車外に出て一言。
「魔砲少女及び関連部隊の皆さん!ようこそ魔術界の前進準備基地へ!」
やはり、そういうことだったのか。
「皆さんおはようございます。朝月二等陸佐よ。昇進を歓迎してくれる方がいたら評価やブックマーク待ってるわ。そしてお知らせよ。黒井作者が書いていた『この少女、僕が買います』シリーズの第2章が既にストックが十数話分書けたそうだから近いうちに続くらしいわ。ちなみにだけどその他ランキングの日刊2位にもなっていたらしくて作者も夢かと思ってたそうよ。それでは皆様、良い1週間をお過ごし下さい」




