第16話: break time destruction
第16話: break time destruction
休日の昼間、私は演習で疲れた心も体も癒すために、昼まで寝ていた。想定より短く終わったのは嬉しい話だが、リジャーシャが送ってきたメッセージも気になるところではある。
そんな療養という名の惰眠を貪っていると友達用の通知音が鳴る。
全く全身筋肉痛なのに……
「はぁい?もしもし?」
「あ、朝月さん?お休みのところでしたか?」
まさかのララさんからの通話で、驚かない程度で平然を装う。
「少し仮眠を……どうされましたか?」
「ちょうど実家からスペインのルビア・カジェガ牛が送られてきて16年熟成物なんですよ。あと朝月さんと桜さんに食べてもらおうと思って神戸ビーフの但馬牛の霜降りもご用意したのですが……お会いできませんか?」
なんという棚からぼたもち!こんな美味い話、例えでもない美味い話がくるとは!
「えぇ、ぜひとも。この住所に来てくだされば大丈夫ですよ。今送りました」
「はい、受信しました!待っててくださいね、すぐ向かいます!」
私はいつも通り、下着シャツ姿からブレザー風のオシャレな私服に着替えて、桜さんの様子を見に、リビングへ向かうと、何やら裁縫道具やハンドメイドアクセサリーグッズが机に広がっていた。
「あ、おはようございます!机の上を散らかしてしまってすみません……」
「大丈夫ですよ、ただこの後にララさんが世界最高級の牛肉を2種類持ってきて下さるみたいなのでお片付けよろしいですか?」
「はい!承知しました!ステーキでもお鍋でもできるように準備しますね」
私も食器の準備をなどをしていたが、桜さんの記憶力には驚かされた。初日に家に来た時から一度も部屋の物を間違えて置いたり、場所を聞かないのだ。
記憶力なのか観察力なのか……とりあえず自衛官としては優秀この上ない才能なのは間違いない。
しばらくしてインターホンが鳴ると、オシャレなドレス姿のララさんが防犯モニターに映る。
「いらっしゃい、ララさん」
「マジカル・パシフィックお疲れ様です。朝月さん、桜さんはお呼びになっていますでしょうか?」
「これは秘密にしておいて欲しいんだけれど学校公認でうちに住んでるわ。上がってもらっても大丈夫ですよ」
彼女はハイヒールを抜き丁寧に揃え、執事から渡された木の箱を持ってリビングへと向かってくれる。
執事さんはここでお辞儀をして去る。ここから女子3人組でのパーティーだ。
「お邪魔します、わぁ〜とても明るいリビングですね!朝月さん!桜さんもマジカル・パシフィックお疲れ様でした!」
「ありがとうございます!ステーキかすき焼きどうしますか?」
「私の好みでレア焼きしゃぶしゃぶをしようと思いまして……トリュフ塩と刻みわさびを持参しました!私が調理しますので……」
「せっかくですから桜さんもララさんも3人で楽しみましょう」
「「賛成!」」
熟成肉と高級牛肉のしゃぶしゃぶはめちゃくちゃという言葉では表せないほどの美味しさだった。味覚の美味みセンサーが許容値を超えて測りきれない限界の美味しさなのは言葉で語らず済むだろう。
しかもトリュフ塩と卵黄と少し良いしゃぶしゃぶタレを混ぜて食べると、更なる美味しさへ進化を遂げ、脂身も口の中でとろけて、そこに白米を加えると無限機関の完成だ。
ご飯を食べながら、マジカル・パシフィックの話せる範囲を話す。
「そうなんですよ……私重傷判定受けちゃって……」
「他の国の魔砲少女の助けがなかったら戦死してましたからね。朝月さん」
「日本最強の称号を背負ってるのに恥ずかしい限りです……」
「私にとっては……朝月さんはずっと世界最強ですよ。学校で私を助けてくれたこと一生忘れません!」
ララさんは恩は何倍にしても返すタイプなのはよく分かる。だが、魔砲少女としてあまり深く関わりすぎるのも正直微妙なのが本音だ。
ここはプラモデルの話で逃げ切ろう。
「実は私と桜さんはプラモデルが好きで今日も一緒に組み立てる予定だったんですよ」
「実は私もお父様の影響でプラモデルが好きなんですよ!スイス軍の1/700軍事基地も作ってて!」
ララさんは剣幕をまくし立てるように語った後にスマホで2m×2mの台ある軍事基地を見せてくれる。正直塗装の技術も細かい1/700スケールなのに化け物クラスの繊細さだった。
「これは……凄い……国旗もご自分で?」
「えぇ……決して上手くないですけど……」
そうは言うが1/700の兵器にデカール(簡単に言うとプラモデル用シールみたいなもの)無しの直筆でここまで綺麗にかつ、部隊模様も描けてる時点で下手と言うほうが無理がある。
「実はノワール・アルカンシェルの1/100と随伴艦を買ったので一緒に組み立てませんか?」
「はい!私でよろしければ!」
「桜さんもいいかしら?」
「問題ありません!」
こうして食後は共同で食器を洗い、女子3人がプラモデルを作るというなんともマニアックな女子会へと変貌した。
塗料の香りとプラモデル用接着剤の独特な香りが交わる12m×18mの巨大プラモデル専用部屋の真ん中の大きな台はノワールアルカンシェル関連専用で用意した。
私はエッチングパーツ(プラスチックで表現しにくい金属製のパーツ)加工と色合い確認、桜さんはメイン組立、ララさんは塗装担当で始まる謎のプラモデル女子会のテンションは有頂天となり、疲れを吹き飛ばすには十分すぎた。
同時期ロンドン午前6:00イギリス国防総省王室近衛特殊作戦軍団司令部にて
私は今紅茶を飲みながら、朝の勉強をしている。と言っても特殊作戦学校に登校する前の簡単な予習だけど。
司令部のあるこの国防総省宮殿の中庭での勉強は静かな落ち着きと鳥のさえずりが、自然に勉強へと視線を集中させてくれる。
「レイラ様、エルトハイム・サー・ライカン様がお見えになりました。何でも取引がしたいとか……どうされます?」
サー・ライカンのやつが?
欧州最大規模の武器商人にして、最も魔砲少女から嫌われてる武器商人が?
それを自覚していない馬鹿でもないはず。今日は学校は休もうかな。
「メイドさん、特殊作戦学校には今日は職務のため休暇をお願いいたします」
「かしこまりました」
私は教科書をパタンと閉じて、第1応接室へ向かうと分煙という言葉を投げ捨てたような白いスーツに青いネクタイ、金髪の若い男がタバコを吸いながら、国防総省の一部の要人にしか出さない高級スコッチを楽しんでいた。
「ずいぶんと楽しそうですね」
「やぁ、レイラちゃん。お久しぶり〜、新しい自動小銃買わない?」
「それがたとえ神を殺せる銃だとして、1ポンドだとしても買いませんよ。要件は?」
ライカン氏は焦らすように、今度は葉巻をマッチの火で炙りながら煙を吐く。
よほど自信のある取引なのか、はたまた自分が有利すぎると錯覚しているのか。どちらにしろあまりロクな展開にはならないだろう。
「スリーシックスの居場所と目的についての情報なんだが……要らないのか?」
その名を聞いた時、私の心境は一気に臨戦態勢かつ、とてつもなく高度な取引を要求されることを確信した。




