第17話:Alcohol Weapons Trader
第17話:Alcohol Weapons Trader
「話は聞かせてもらいましょう」
「とりあえずスコッチをもう1瓶貰おうか」
「酔いすぎて商談がご破算にならなければどうぞ」
「ありがとよ」
ライカンは棚からスコッチを取り出して、ロックアイスの入ったグラスに注ぐ。
そんなにお酒というものは美味しいのだろうか?14歳の私には全く想像もつかない。
「さてと……こちらが望む物だが……魔砲少女を1人以上護衛用に欲しい。無論本当に護身用として扱わせてもらう」
「失礼ながらあなたは世界中の魔砲少女に嫌われています。交渉は難航しますよ」
「それはこちらも承知の上だよ。だけどまぁ……魔術界との戦争になれば要人護衛してる魔砲少女の方が最前線より生き残る確率は高いと思うけどね」
全く何を言うと思ったら……魔術界の全面戦争なんて……あれ?確か朝月さんが空挺降下中に魔砲妖精と話していたような……
私は心の中で相棒の魔砲妖精レグウェルに問いかける。
『聞こえる?レグウェル?』
『おー!レイラ!ちょいとええか?まぁ話させてもらうんやけどな、魔砲側と魔剣側で全面戦争になりそうなんや。そうなると人間たちもどうなるか分かるやろ?そっちは交渉中みたいやし、要点は伝えておいたで、ほななー』
私は目を開けて、目の前の酒に酔っておらず、葉巻の快感にも浸っていない至って「冷静な」武器商人との取引を続ける。
「状況が状況なのに冷静ですね。もしかして立場や身分を保証されてるとか?」
「そんな富裕国の上級国民みたいなパスポートは無いよ。ただ……今回の取引は欧州魔砲作戦統合管理局からの依頼だ」
急に声色を変えて、事情を説明するライカン氏にはいつもとは違う恐怖のようなものがあった。だからこそ彼も本気で交渉を持ちかけたのだろう。
ならばこちらも本気で向き合うべきかな。
「分かりました。後輩や先輩、国防総省にお声がけしましょう。待遇に関する正式書類を私の執務室宛てに送ってくれれば速やかに数名用意します」
「いや〜助かるよ。さてと、スリーシックスの居場所だけど……ギリシャだ。この時点で君たちなら察しが着いているだろう?」
ギリシャには魔砲少女になるための魔砲妖精と契約を交わすパラベラム祭壇がある。
同時にその地下には魔術界と繋がっている。
スリーシックスがまさか人類の敵なのか?いや、彼女は魔砲妖精にもマークされていた。
下手に動くより大人しくしていた方が安全なはずだ。
「えぇ、なんとなくは。ですが不思議ですね、世界中だけでなく魔砲妖精にすらマークされてる非正規魔砲少女が最前線にいるなんて。もしかして戦争に貢献して恩赦のようなものを求めてる……とか?」
「彼女は戦争を止めようとしているのだよ。人間達は彼女をテロリストとしてマークしているが、魔砲妖精達にはこうマークされてるそうだ。『契約の具現化』とね」
彼女が今まで世界から追いかけられてる理由が判明したか……魔砲妖精との契約履行は人間にとっては不都合が多い。そのためスリーシックスがある意味代行者として魔砲妖精との契約のバランスを取っていた。
……と推察される。
「まさか、スリーシックスが人類より正しい事をしていたことは正直意外でしたが、よくよく考えてみれば、ペンタゴン(アメリカ国防総省ビル、五角形の建物のためこのあだ名が付いた)爆破やグレムリン(モスクワにある城塞)の魔砲少女非合法研究施設襲撃は魔砲妖精との契約を考えれば正しいか……」
「そういう事だよ。とりあえず詳細を書いた書類を置いておくよ。私はこの後日本との協議があるからね」
彼との商談はここで終わりにしたいが、彼は武器商人だ。情報以外の優秀な物を持っている可能性があるとしたら購入しておきたい。先程の自分の発言に刃物を刺したくなる。
「もし……もし……優秀な武器があるなら売ってくれませんか?」
「先程の発言……と言いたいところだが、私も武器商人だ。魔術界の物質を使った欧州原子核研究機構、通称CERNの大型ハドロン衝突型加速器を用いて作った対魔砲生物用5.56mmNATO徹甲弾180発。60万ポンドでお売りしよう」
「仕様を見せてください」
渡された書面には線グラフで表された距離に応じた、魔法装甲に対する貫徹率と個体別に表示されている。
60万ポンドでこれなら皆を守れるかもしれない。しかも汎用性の高い5.56mmNATO弾なら仲間に渡すことも出来る。
今月は使えるお金は無くなるが命や仲間には替えられない。
「分かりました。購入させて頂きます。護衛に付かせる魔砲少女に希望はありますか?」
「とにかく強い子で頼むよ」
「承知いたしました。それでは」
「あーあと……スコッチとウイスキー2本ずつ持っていて構わないかな?」
「……勝手にどうぞ」
私は半ば呆れ返りながら会議室を後にして、エミリアのいる特殊作戦軍団司令部の執務室へと足を運んだ。
イギリスでは私たち魔砲少女の階級には階級名の前に特務が付く。私なら特務中佐、エミリアちゃんなら特務少佐と言った具合だ。
魔砲少女の本格的な軍参入から今までほぼ軍事力を捨ててきた、イギリス近衛部隊は大規模な特殊作戦対応部隊として再教育と再編成が実施されたけど、警備の近衛兵は伝統を重んじ、非常時以外は音を立てず、動かない。
だが、魔砲少女執務室の警備はスーツ姿の特殊部隊員がメインだ。装備はグロック17にコンペンセイター(発射時の銃口の跳ね上がりを抑える装置)とサイレンサー、軍用規格のフラッシュライト、L字型のドットサイト。さらには素早く脱着可能なストックも持っている。
「レイラです。エミリア特務少佐に話があります」
「証明証を拝見いたします」
私が渡した近衛部隊の証明証を専用のスキャナーで調べた後に返される。
「レイラ特務中佐。どうぞお入りください」
「ありがと」
私はドアを開けて、仕事に追われるエミリアちゃんに声をかける。
「おはようエミリアちゃん」
「今いそ……レイラ特務中佐!お疲れ様です!なにか御用でしょうか?」
「さっきライカンが来たわ。そして魔術界との話もあってね。レグウェルからも魔術界の戦争に我々も参戦するように要請が来てるそうよ」
「それは……なんとも……」
私はライカンから渡された情報を伝えつつ、史上初の異界大戦も想定した話を持ち出す。
異界大戦も現実味を帯かけてる以上、人類は今までのレベルを遥かに超えた協力と軍事力の投入を余儀なくされると思う。
そして異界が突破されれば人類の本土、地球決戦が行われる運びとなるのも想像にかたくない。
「各国との連携を密にする他無さそうですね……」
「うん……アメリカ政府の日本に与えた損害も全てこの為なら説明が着く」
「じゃあスリーシックスが指揮したというテロ案件は……」
「えぇ。アメリカ政府がこれを隠匿するための架空の情報だったみたい」
エミリアちゃんは「かぁーー!」と言いながらため息を吐き出して、紅茶を一気飲みする。
彼女の怒りも強く伝わってくるのは事実。敵だと思わされていた人物が実は上にとって都合が良くないだけ。その上今更になって助けを求めるなど都合が良すぎる。
その時、部屋の外から揉め事のような声が聞こえる。
殴り合いや発砲にはなってない事から不法侵入やテロではない。恐らく権力的な問題?
「エミリアちゃん!」
「うん!」
私達2人は魔砲少女装備を展開して、銃器を構える。
ドアが開かれた時、そこには日本人の男性3名と1人の魔砲少女がいた。
「エミリアちゃん!あの子ヤバいよ!魔力量が尋常じゃない!!」
「ほぉ〜、ぺったんこ娘、貴殿かアーサー・レイラ中佐と見て間違いないな」
「ぺ……ぺったんこだって!!??ふざけてるの!?いくら魔砲少女の私でも我慢の限界があるんだよ!!」
彼女は笑いながら1本の普通のポリスバトンを抜くだけだ。この時点で私は察した。彼女は朝月さんすら超える化け物だと。
「レイラちゃん!攻撃する!?」
「いや……私達じゃ勝てない……あいつオールラウンダー(万能武器使い手)だよ……」
「来ないのか?なら、話は早い。日本国国家情報局第三課はイギリスの近衛部隊に対して魔法関連情報引き渡しを命じる。法的根拠は国際魔法関連推進条約に基づくものだ」
「1つ聞かせて、貴女何者?」
「私は……おっと乗せられる所だった。必要ならしっかり言うのは当然だろう。今はその必要は無い。君のお兄様から情報を聞かせてもらうよ」
私は低くなんとか抑えた声で殺気を込めて、睨みつけながら唱える。
「お兄様に手を出したら生きてここから帰れると思うなよ」
「うむ。噂通りのブラコンか。部下達、国防省の情報管理室に向かうぞ。くれぐれも手を出すなよ」
「「「はっ!」」」
4人組は去っていくと私は呼吸を荒くしながら、魔砲少女装備を解除する。
だがおかげであいつは気がついてない。顔写真が撮られた事に。
「エミリアちゃん、奥のパソコンで写真と映像は撮れた?」
「確認するね……バッチリ撮れたし、声も録音できた!日頃の警戒心が役に立つとはね〜」




