第九話
「……かくして、美食家殺人事件は、何ともすっきりしないまま幕を閉じたのであった、と」
呟いた言葉を日記に書き留め、書き間違いがないか二、三度確認した後に日記帳を閉じる。
大きくひとつ伸びをして、机に頬杖をついた。
この二日間いろいろなことがあった。
初めての社交、未知の美食、殺人事件、謎の手紙、そして……。
脳裏に帰路のアーロンさんの顔が浮かぶ。
あの時のアーロンさんは何かを思い出していた、と思う。
でも、何を?
アーロンさんが私を引き取ったのはほんのひと月前だ。
懐かしむほどの思い出など、二人の間にはない。
「ふぁ……」
欠伸が漏れ出て、口元を手で抑える。
とにかく怒涛の二日間だったのだ。
それに今朝も早くに起こされたせいで、疲れが溜まっている。
「また明日考えようかな……」
そう呟いてベッドに飛び込み、私は目を瞑ったのだった……。
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静かな部屋で、男は一人思案していた。
時刻は午前零時。
ベッド脇のサイドテーブルに置かれたテーブルランプの灯りだけが、薄暗い部屋を頼りなく照らしている。
――及第点、と言ったところだ。
"完成"には程遠いが、素質は垣間見える。
男の短く整えられた爪が、トントンとサイドテーブルを叩く。
振動でオレンジの光がゆらゆらと揺れ、部屋の輪郭を曖昧にした。
――次は、どうするべきか。
思案していた男の瞳が、無意識に揺れる炎に吸い寄せられる。
――炎か、悪くない。
おあつらえ向きに、よく燃えそうなものが街に滞在していたはずだ。
男は暫し目を閉じ、想像する。
暗い空の下、炎が上がり、空を橙に染め上げる光景と、それを見つめる空色の瞳。
それからゆっくりと目を開いた。
――さて、次の事件では、名探偵はどのように私を魅せてくれるかな。
男の指がテーブルを叩くのをやめる。
代わりにくつくつと含み笑いが部屋に響いた。
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美食家殺人事件 fin.




