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第九話

「……かくして、美食家殺人事件は、何ともすっきりしないまま幕を閉じたのであった、と」


 呟いた言葉を日記に書き留め、書き間違いがないか二、三度確認した後に日記帳を閉じる。

 大きくひとつ伸びをして、机に頬杖をついた。


 この二日間いろいろなことがあった。

 初めての社交、未知の美食、殺人事件、謎の手紙、そして……。


 脳裏に帰路のアーロンさんの顔が浮かぶ。

 あの時のアーロンさんは何かを思い出していた、と思う。



 でも、何を?



 アーロンさんが私を引き取ったのはほんのひと月前だ。

 懐かしむほどの思い出など、二人の間にはない。


「ふぁ……」


 欠伸が漏れ出て、口元を手で抑える。


 とにかく怒涛の二日間だったのだ。

 それに今朝も早くに起こされたせいで、疲れが溜まっている。


「また明日考えようかな……」


 そう呟いてベッドに飛び込み、私は目を瞑ったのだった……。



 ✼••┈┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈┈••✼




 静かな部屋で、男は一人思案していた。


 時刻は午前零時。

 ベッド脇のサイドテーブルに置かれたテーブルランプの灯りだけが、薄暗い部屋を頼りなく照らしている。


 ――及第点、と言ったところだ。

 "完成"には程遠いが、素質は垣間見える。


 男の短く整えられた爪が、トントンとサイドテーブルを叩く。

 振動でオレンジの光がゆらゆらと揺れ、部屋の輪郭を曖昧にした。


 ――次は、どうするべきか。


 思案していた男の瞳が、無意識に揺れる炎に吸い寄せられる。


 ――炎か、悪くない。

 おあつらえ向きに、よく燃えそうなものが街に滞在していたはずだ。


 男は暫し目を閉じ、想像する。


 暗い空の下、炎が上がり、空を橙に染め上げる光景と、それを見つめる空色の瞳。


 それからゆっくりと目を開いた。


 ――さて、次の事件では、名探偵はどのように私を魅せてくれるかな。


 男の指がテーブルを叩くのをやめる。

 代わりにくつくつと含み笑いが部屋に響いた。



 ✼••┈┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈┈••✼



 美食家殺人事件 fin.


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