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第二十話

 食事が終わり、子供達が我先にと庭に飛び出すのを横目に見ながら、私は顎に手を当てて思案する。


 イースターエッグの隠し場所は、ベアトリスの他に孤児院の運営を手伝う修道女たちが決めている。

 小さい子のために分かりやすく置かれたものにはあえて手をつけない、というのが年長者の間での暗黙のルールだ。

 卒業生である自分は、高難易度の隠し場所を探しつつ、それとなく小さい子たちにヒントを与えてあげるべきだろう。


「おいおい、どうした物知りルーシー。難しい顔して考えたって、エッグハントの隠し場所は今まで読んだ本の中には書いてないぜ」


 揶揄うように声をかけてくるアルフィーを無視して、私は庭を見回す。


 庭からは聖ジュード修道孤児院をほぼ一望できる。

 二階建ての、いかにもな宗教風建築の修道院が正面に立ち、その右手前に三階建てで横長の孤児院が建てられている。

 建物にはどちらも鐘楼があり、修道院の鐘は礼拝や時報のために、孤児院の鐘は子供達への集合の合図に使われている。


 二つの建物に囲まれるように、今私たちがいる中庭があり、それ以外にはささやかな花壇があったり木が植えられていたりするだけで、物を隠せるようなところはあまり無い。

 だから難しい隠し方をするといっても、場所は限られているのだ。


 少し悩んだあと、修道院に近づき、しゃがんで丁寧に観察した。

 それから地面近くにある、排水や防湿のために作られた小窓に手を入れる。


 すぐに覚えのある球体に手が触れ、引っ張り出した。

 青色に塗られた卵が顔を出す。


「ちぇ、なんだよ。負けないからな」


 ことの成り行きを見守っていたアルフィーは悔しそうに言うと、走り去っていった。


 その後もいくつか卵を見つけた後、小さい子たちにヒントを与えていると、孤児院の方から鐘の音が鳴った。

 ガランガランと響く鐘の音に、子供達は後ろ髪引かれつつ建物へと戻る。


 傍で諦めずに卵を探していた女の子の手を取って、私も建物へと向かった。


 ――


「やあ、調子はどうだい?」


 二階へと上がると、廊下にアーロンさんが佇んでいた。

 腕を組んで壁に寄りかかっているだけで絵になる男に目を細めながら、私は肩を竦める。


「まあ、私が一番になっても仕方ないし。ほどほどに手は抜いたわよ」


「それはそれは」


 アーロンさんは目を細めると、私と並んで三階に続く階段を登る。


 三階には子供たちの部屋の他に広間がある。

 毎年鐘が鳴ると、ベアトリスがその広間で子どもたちを待っているのが慣例である。


 しかし今日はどうしたことか、広間にベアトリスの姿がない。


「あら、ベアトリスは?」


 手前に立っていたアルフィーに声をかけると、アルフィーは困惑を顔に浮かべながら首を振った。


「さあ……ちょっと俺、上見てくるよ」


 そう言ってアルフィーは鐘楼に続く階段へ走る。


「あ、待って。私も行くわ」


 慌ててアルフィーを追いかけると、私のすぐ後にアーロンさんも続いた。

 狭い石段の階段を登り、アルフィーが鐘楼に続くドアを開ける。


「うわぁぁ!」


 アルフィーが大きな声を上げ、尻もちをついた。

 何事かとアルフィーの後ろから鐘楼の奥を覗く。


 一つの人影が倒れている。


 上下不揃いなスーツを着た男性だ。

 虚ろな目を虚空に向け、口から泡を出したその顔は真っ赤に変色している。

 首元に引っ掻いたような跡、だらりと弛緩した手足、そして傍らに、無造作に置かれたロープ。


「アーロンさん!」


 私が大声で名前を呼ぶと、背後から現れたアーロンさんは男性に近寄った。

 傍にしゃがんで、首元に手を添えて脈を測り始める。


「死んでいるね。どうも首の骨も折れているらしい」


 そう言って、アーロンさんは男の首を揺らした。

 首の座っていない赤子のように、男の首がぐらぐらと揺れる。


「何があったの? 今の鐘の音は……」


 そう言って階段を上がってきたのはベアトリスだった。

 アーロンさんと傍らに倒れる男の姿を目にしたベアトリスは目を見開く。


「エディ……⁉︎ ああ、一体……、なんてこと……」


 そう言って倒れそうになるベアトリスの体を、駆け寄って支える。


「とにかく警察に連絡、早く」


 アーロンさんの言葉に、腰を抜かしていたアルフィーは慌てて立ち上がり、階下へと駆け降りていった。

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