第9階 誤解と表明
視点:ユイ
「このダンジョンは、他とは違う。」
みんなには、そう伝えたけど自分でも何を言っているのか分からない。
「回り込んで帰ろう。」
ダイキの提案に"赤い稲妻"のメンバーも賛同してくれた。
リーダーのカケルさんは意気消沈しているようで、
いつもの元気が消えている。
7階層への入り口付近へと戻る。
高台にあるそこから、見渡すと森を歩くモンスターの姿があった。
「ねぇ?アレがバジリスク??」
「そうだ…ヤツの目を見ると石化する。」
私の問いに"赤い稲妻"に新しく加入した剣士の方が教えてくれた。
「もし…破壊されていたら…」
"赤い稲妻"の魔法師、レザリーさんが肩を震わせた。
その言葉を聞き、私も背筋が凍る思いをする。
「何故だろう?6階層から3階層まで、まったくモンスターに出くわしてない。」
ダイキくんが呟く。
「まるでダンジョンが死んだようだ。」
"赤い稲妻"の剣士さんが言った。
死んだ?私は……違うと思う。
このダンジョンは、私達に対して"優しい"
理由は分からないけど、なんだかそう感じた。
だとしたら……カズヤくんは死んでいないんじゃない?
このダンジョンによって、守られて……どこかに居る?
「ねぇ、やっぱりカズヤくんは、まだ生きていると思うの。」
「何故……そう思う?」
私の問いかけに返してくれたのはエイレン。
「このダンジョンに私は優しさを感じるの。
――この前のグリーンゴブリンは、カズヤ君じゃなかった気がするんだけど……」
「優しさを感じるか……」
ダイキくんが私の言葉をなぞる。
「分からないけど、まだここに居る気がするの。」
「―――。」
私の考えは受け入れられなかったのか、2人は無言となった。
無事にダンジョンを脱出。
というか……脱出も何も、6階層から1階層まで一組のモンスターとも出会わなかった。
「ユイ、今日は助けてくれてありがとう。」
カケルさんの目は、真っ直ぐ私を見ていた。
「いえ、当然の事ですので。」
「俺の為に流してくれた涙、あの時の顔、ちゃんと見てたから。」
「ち、違います。何度も言っていますよね?」
「分かってる。」
そう言うと、カケルさんは微笑んだ。
手を振って去る"赤い稲妻"のメンバー達。
私達、"蒼き閃光"も手を振り返した。
「ユイ…気をつけて、カケルは絶対に勘違いしているわ。」
「ありがとうエイレン…あの人、思い込みが激しいから困るよね。」
「とりあえず疲れたな…ホームに帰ろう。」
ダイキくんに背中を押されて、家路につく。
私達は、街に一戸建ての家を借りている。
リーダーであるカズヤ君名義で借りた家。
――あの時は、楽しかった。
大きかったけど、年季の入った家を見つけた。
「ちょっと……オバケとか出そうじゃない?ここ?」
男勝りのエイレンだけど、実は少し怖がり。
「俺、この広い部屋がいい!トレーニングにちょうど良い!」
盾役のダイキくんは体を鍛えるのが好きで、毎日のトレーニングは欠かさない。
「まずは掃除だな。てか、色々と直さないと駄目だろここ。」
カズヤくんは面倒見の良いタイプ。
色々と指示してくれて、リーダーに最適。
「ちょうど良い水魔法があります!ウォータークリーン!」
私が使った清掃系の水魔法。
カズヤくんは凄く褒めてくれた……あの時は、嬉しかったな。
カズヤくんは消えた。
――でも、彼の部屋はそのまま残してある。
あの日から、すべてが止まった空間。
今日も部屋を覗いてみた。
二階にある角部屋。
そっと中へと入り、机の埃を払う。
その机に手を触れると彼の意識を感じられるかのよう。
「うん、彼は……カズヤくんは、きっとまだ生きている。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日、ギルドに行くと騒ぎが起こっていた。
あれは"赤い稲妻"と……知らない三人組のパーティー。
「バジリスクは危険に決まっているだろ!」
「いや、冷静に対処すれば問題無い。
――それよりも危険なのはサラマンダーだ!」
どうやら、カケルさんと三人組のパーティーが言い争いをしている様子。
「待て、ユイ。」
動こうとした私の肩をエイレンが掴んだ。
「関わらない方が良い。」
「え……でも。」
「また、カケルから誤解を受けるぞ。」
「確かに…」
騒動はギルドマスターの登場にて収まった。
彼の名前はアイザスさん。
「アイザスも立派になったな。」
「おかげさまで…」
ん?ギルドマスターの事を呼び捨て?
三人組の年老いた魔法師――確かに年上ね。
「昨日、あのダンジョンの7階層まで辿り着いた。
さらに下に行くには、私達だけでは心許ない。
――アイザス、いや、ギルドマスターよ。
同行して貰えるパーティーを紹介してくれるか?」
「はい!行きます!私達三人が同行します!」
この三人組が言っているのは、きっとカズヤくんが消えたあのダンジョン。
私は、思わず手を上げて協力を申し出た。
――カズヤくんを見つける為に。




