第4階 忘れられた話
視点:ユイ
「いや、絶対!あのグリーンゴブリンはカズヤ君だって!」
レッドスコルピオンに襲われた時、
私を助けてくれたモンスター。
ホント、危機一髪。
私はもう少しで毒に犯されるところだった事を思い出す。
何故か、その後…走って逃げていった。
脳裏からその姿が忘れられない。
「あの緑色のが……カズヤだって?」
ダイキは不思議そうな顔をしながら頭を傾げている。
「確かに……走り方が似ていたような。」
エイレンは、真剣な眼差しで答えた。
「そうよ、きっと何かの事情があって……あんな姿に。
それでも……私を助けてくれた!」
「でもさ……カズヤだったら、何故逃げたんだ?」
「それは……分からない。」
ダイキの質問に私は答える事が出来なかった。
「あたし達に……あの姿を見られたくなかった。
――とか?」
テーブルに肘をつき、両手を合わせるエイレン。
確かに……その考えも一理あるわ。
あんなモンスターみたいな姿を私達に見られたくなかったのかも。
「俺には、ごく普通のグリーンゴブリンにしか見えなかったけどな…」
ダイキは両手を頭の後ろへと置き、空を見上げた。
「そうかもだけど……私、もう一回あのグリーンゴブリンに会いたい。」
「単なるグリーンゴブリンだったら、もう他の冒険者に倒されているかもな?」
「うん、分かってる……でも、私、一言だけでもお礼を言いたくて。」
そう伝えると、ダイキは笑顔となった。
「ユイには負けたよ……分かった、また明日潜ろう。
――エイレンも良いか?」
「あぁ、あのダンジョンは経験値稼ぎにも、ちょうど良いしな。」
良かった……三人共、分かってくれた。
カズヤ君が、あのグリーンゴブリンに変化した…
違うかもしれない。
だけど……後ろ姿が頭から離れなかった。
「よぉ、"蒼き閃光"の皆さん。」
「あ、こんにちは。」
食堂のテラス席。
声を掛けて来たのはパーティー"赤い稲妻"のリーダー、カケルさん。
この方……実は苦手。
一生懸命に私の事を誘ってくる。
ご飯とか…遊びに行こうとか…
さらには、"赤い稲妻"に移籍して欲しいとまで。
移籍だなんて…そんなの考えもしない。
「君達も、あのダンジョンによく行っているね。」
「あ、はい…経験値が美味しくって。」
ダイキの返事にカケルは顔をしかめた。
「ん?経験値が美味しい?あのダンジョンが?」
「そうだな…特にユイが経験値を増している。」
「あー、そうなのか…」
「そっちも、新メンバー加入で勢いに乗っているそうじゃないか。」
「アイツなら、クビにした。」
「は?早くないか?」
「腕力ばかりで、脳が足りなかったのでな。」
「―――。」
私達三人は、カケルの言葉に唖然とする。
「まぁ、また新しいのを探すさ。」
去り際……カケルは明らかに私だけを見て笑った。
「なんか嫌な感じなのよねー、あの人。」
ずっと黙っていたエイレンが口にする。
「昔は……あんな事を言う奴じゃなかった気がするが。」
私も、ダイキの意見と同じ。
「カケルさんが、変わったのって…カズヤ君が居なくなってからの気がする。」
「確かに……そもそも、カズヤが居た時は話しかけてさえ来なかったからな。」
うん、私にちょっかいを掛けて来たのは、カズヤ君が居なくなってから。
「あー、多分だけど、怖かったんだと思う。
――カケルって人、カズヤに怒られた事があるから。」
「エイレン、どういう事?」
「カケルって人、結構、見境なく勧誘するじゃない。
それが問題になった時、ギルドでね……叫んだのよ、カズヤが。
『冒険者は駒じゃない!もっとメンバーを大切にしろ!』
的な事を。
そしたら、カケルが怒ってね。
喧嘩勃発……そんで、カズヤがカケルをコテンパンに倒しちゃった訳。」
「へー、そんな事があったんだ。」
「私…そんな話、聞いた事なかった。」
エイレンの話に私とダイキは驚いた。
「ユイが、冒険者になる前の出来事だったかも知れないわね。この話は。
ダイキは…その場に居なかったのかも。」
「でも……カズヤ君、私にはそんな話しなかった。」
「カズヤはさ、自慢話とかしないでしょ?」
「確かに…そうね。」
「そもそも、忘れてそうだな……アイツは。」
「そうね……忘れっぽいよな。」
ダイキとエイレンがそう言うと、何だかおかしくなって、私達は笑いあった。




