第34階 成長の実感と拭えぬ不安
「ちょっと待ってください!」
俺が叫ぶもサファイアさんは出した手を下げずに、顔を下に向けたままでいた。
——まるで自分には関係の無い事。そう言っているかのように感じる。
「森のダンジョンが管理者不在で、モンスターが溢れています!とても危険な状態です!」
サファイアさんの指がピクリと動いた事を俺は見逃さなかった。
「森の町、リュウリーンが困っておってのぉ。」
シイラスさんが、そう付け加えるとサファイアさんの腕が下がる。
「確かに、リュウリーンからは国王様宛に調査依頼が来ている。」
俺達に向き直すと、サファイアさんはそう伝えた。
「調査なら、黒宴の皆さんと俺達で済んでいます!町には、まだ報告していませんが……。」
「——何だと?」
サファイアさんの表情が変わった。
「結論から言うと、森のダンジョンの管理者が管理を放棄。結果、ダンジョン内のモンスターが森へと湧き出ています。」
「ダンジョンからモンスターが湧き出ているだと?……そんな事が信じられるのか。」
否定するかのように、大きく腕を水平に振るサファイアさんは声を荒げる。
それに対し、シイラスさんが言葉を発した。
「サファイアよ。カズヤ殿が言っている事は本当じゃ。ワシらの調査結果も同じじゃぞ。」
「調査結果は分かった……だが、私は自分の目で見ないと信じる事が出来なくてね。」
「そんな……。」
「だが、ちょうどリュウリーンへの調査隊を編成していた所だ。少し……早めるか。」
「よし、じゃぁワシらが案内をしよう。」
「冒険者達に案内をか……私達、軍隊は規律を重んじる。君達にも私の指示に従って貰う事になるが、問題無いか?」
王城に入る時……賄賂を受け取ったのは、規律を重んじる軍の方でしたけどね。
俺はそう思いながら横目で見ると、シイラスさんはニヤリと笑っていた。
「俺達は、問題ありません……よね?シイラスさん?」
「あぁ、ワシら"誓いの黒宴"は大丈夫じゃ。お主の指示に従うとする。」
黒宴の二人、サイバーさんと、バーサスさんも頷く。
「俺達、"蒼き閃光"も規律を守ります!」
ダイキとエイレンに目を配った後、俺はそう返事をした。
——王都軍の出発は3日後に決まった。
「問題は……森のダンジョンの調査を終えた後、どうやってユイが待つダンジョンまで誘導するかですね。」
酒場で夕飯を食べながら相談する。
「そうじゃなぁ……プランは、まったく無いのぉ。」
「そんな……なんとかサファイアさんを説得してくださいよ!」
「まぁ、何とかなるじゃろうて…」
「クソッ!ユイが、待っているっていうのに……俺は何も出来ないのか!?」
「ガスヤは、よくやっていると思うぞ。」
「今は焦らない事だ。ヒントは必ずある。」
サイバーさんと、バーサスさんは俺を励ましてくれた。
「なぁ、カズヤ……サファイアさんに頼るだけじゃダメだと思うんだ。」
「そうだな、俺達も強くならないとな。」
「私達がユイを取り戻さないとね!」
「という事で……誓いの黒宴の皆さん、出発まで俺達の指導をお願いしたいのです!!」
王都に着いたら指導を受けたいと、移動の時から話していた。俺達の願いを、3人は快く受けてくれた。
「魔法師のワシは……教える相手が居ないがのぉ。」
シイラスさんが寂しそうに言う。
「ユイが……復活したら、是非お願いします!」
次の日から、王都から少し離れた場所で、模擬戦を行っている。
主にシイラスさんが敵役を引き受けてくれた。
空飛ぶワイバーンへの対応。
ヒュドラやケルベロスといったAランクモンスターへの対応。
そして——ドラゴンの口から吐かれる炎への対応。
エイレンとダイキも熱心に指導を受ける。
——ユイを助けたい!
この2人の思いも俺と同じだ。
ダイキの盾の傷が増え、エイレンは肩で息を整える。
「3人共、なかなか形になってきたな。」
「「「はい、ありがとうございます!」」」
正直、ドラゴンと対峙するのは怖い。
あの時のように話が通じるのか?
通じたところで……ユイを取り戻すヒントを得られのか?
「どうしたのじゃ、カズヤ殿?迷いが生じておるな。剣が正面を向いておらぬぞ。」
——シイラスさんには敵わないな。
「ドラゴンと上手く話が出来るのか不安でして……」
「それは、ワシも不安じゃな。
良いか……カズヤ殿。不安は大事じゃ。怖さが身を守る。だがな、恐れていては前へは進めぬ。」
「はい……それは、何となく分かります。」
「カズヤ殿には、問題を解決する為の武器がある……それが何だか分かるか?」
「え?武器ですか?……俺は手に持った剣を見つめた。」
「それは……仲間じゃ。ダイキ殿、エイレン殿。
そして……ワシら"誓いの黒宴"じゃ。」
ニコリと笑うシイラスさんの優しさに俺はグッと涙を堪えた。
「明日は出発じゃ……今日は、ゆっくりと休みなさせれ。」
「はい!ありがとうございました!」
いよいよ、サファイアさん達、王都軍と共に森のダンジョンへと向かう日が来る。
俺は、気持ちを抑えられず……夜中まで剣を振るった。




