第31階 放棄した心
「もしかして……私の声が聞こえるの?」
今にも消えそうな、か細い声が頭の中に流れる。
その声は何故か懐かしさを感じた。
「あぁ……聞こえる。君は?」
何もない真っ白な世界。
目の前に広がっているように感じるが、実際にこの世界が存在しない事は分かった。
「私は……アマネ。このダンジョンの……。」
アマネと名乗った女性の声は途中で止まった。
「俺の名前はカズヤ。元、管理者だ。」
目の前に居るように感じるアマネの存在。
——だが、その姿は見えない。
「元……管理者……誰かを殺したの?」
重苦しい雰囲気が漂う。
「あぁ……大切な人を……次の管理者にしてしまった。」
ユイの事を……思う。
「そう……あなたは強いのね。」
「強い?いや、俺は弱く、ちっぽけな存在だ。」
「それでも……私から見れば強いわ。」
「どういう意味だ?」
「私は、ダンジョンの管理者の仕事を放棄した。」
「何だって!?それだと、君は……」
「ここはね……忘れられたダンジョンなの。たまに迷い込む人は、狩人とか。そう……私のような。」
「キミは冒険者じゃないのか?」
「私は単なる狩人……そして、ここに辿り着く人も、また同じような人。」
「君は……一体、何年ここに居るんだ?」
「さぁ……もう分からないわ。ただ言える事は、もし私が生き返ったとしても、この世界には私を知る人は、もう誰も居ない。」
「——!!!」
「もう諦めたの……私は、ずっとこのダンジョンとして存在する。だって、私みたいな人を増やす訳にはいけないわ。」
アマネの姿は見えない……ただ、この言葉を聞いた時、優しく微笑んでいる姿が見えた気がした。
「君の言う事は分かる……ただ、このダンジョンのモンスター達が森へと這い出ているんだ。」
「そんな——確かに、私はモンスターの管理を放棄したわ。だって、誰かを殺すなんて出来ないから。」
「——おそらく、その結果がモンスターの解放。」
「ごめんなさい……私、そのまでは分からなかった。ただ、私は何もかも放棄した。それだけ。」
「君のした事が間違っているとは、俺は言えない。君の気持ちも分かるから……」
「そう、ありがとう……見ず知らずの私にそんな事を言ってくれるなんて……」
「あぁ……」
「久しぶりに人と交わる事が出来て嬉しかった。」
「何も出来なくて……ごめん。」
「いいの……私が選んだ道だから。」
「…………」
白の世界の片鱗が崩れていく。一つ、また一つと欠片が落ちていくように……
「——ズヤ。」
「——カズヤ。」
白い空間は途切れ……元の洞窟へと戻る。
目の前には心配そうに俺を見る、ダイキとエイレンの姿があった。
「えっと……どのくらい時間が経った?」
「ほんの数分よ。」
俺は、2人と黒宴の皆さんに、さっき起きた不思議な体験を伝えた。
「森にモンスターが溢れているのには、そんな理由があったのか。」
「依頼達成には、この女性が再び管理者として動く必要があるのか……」
「そしてそれは、モンスターを使って誰かを殺す……という事ね。」
「八方塞がりじゃのう。」
「森の町のギルドからの依頼は達成出来そうに無いな。」
5人が口々に落胆の声を上げる。
「俺は……この狩人の女性も助けたい。」
「そんな方法があるのか?」
俺の言葉にダイキが質問する。
「方法は……分からない。だけど、あのドラゴンに聞けば、きっと何かが分かる!」
「なんと……ドラゴンに聞くだと?」
「はい、シイラスさん……実際、俺はあのドラゴンと会話をしました。」
「そんな事が、出来るのか?」
「きっと……出来ます!なので、黒宴の皆さん、俺達を手伝ってください!」
「信じられない話だな……」
「「お願いします!」」
顎に手を置きながら難しい表情をするサイバーさんに対して、ダイキとエイレンが頭を下げた。
黒宴の3人は俺達の姿を見て、頷きあった。
「分かった……手を貸そう。じゃが、戦力不足じゃ。
わしの弟子の男にも手伝いを依頼しようと思うのだが、どうしゃ?」
「はい!是非、お願いしたいです!」
「それで、そのお弟子さんは、どこに居るのですか?」
「——王都じゃ。」
俺達の次の目的地は決まった。
そして……新たな戦いの始まりを感じる。
俺達は冷たく閉ざされた狩人の女性に別れを告げ、ダンジョンの出口へと向かう。
——きっと助ける!この女性、アマネさん。
そして、ユイも。




