第20階 決意の揺らぎ
グルグルと思考が巡る。
『誰かを犠牲にしてまで俺は生き返るのか?』
『ただ…生き返れば、またユイと冒険が出来る。』
『ダイキとエイレンとも…あの楽しかった日々を再び取り戻したい。』
『他の誰かにダンジョンの管理人を押し付け…不幸にしてまで生き返ると?』
『――それでいいのか?」
自問自答を繰り返す。
いつの間にかリーンはカケル達"赤い稲妻"と合流していた。俺が生み出していたサハギンとホワイトシャークは倒されている。
だいぶ苦戦したようで、赤い稲妻のメンバーは疲労していた。
リーンだけは涼しい顔をしている。
「先生、大丈夫か?」
「私は問題無い、この剣がある限りな。」
赤い稲妻があの二体のモンスターを倒せたのは間違いなく、この稲妻を纏った剣の使い手のおかげ。
「リーン、この先はどんな感じだ?」
「まだ、8階層の半分にも届いていないわ。
そして、次は9階層の火山地帯。火魔法は厳しいエリアね。」
カケルの問いに対して淡々と答えている。
火魔法を得意とする魔法使いの女性は少し俯いた。
「よし……先に進むぞ!」
カケルは勢いよく立ち上がる。
「進むのか……じゃぁ……」
赤い稲妻が立ち上がると同時に発した俺の独り言。
「次のモンスターは……」
ドクンドクンと心臓が高鳴るのを感じる。
「………」
思考が止まった。
何も生み出せない。
モンスターを生み出すのは簡単な事。
なのに、出来ない。
……俺は冒険者を殺せるのか?
そして……再び目を覚ますのか?
ふたたびその問いが頭を巡った。
赤い稲妻が慎重に8階層を進んでいくのが見える。
モンスターを生み出さないと……
自分自身でも焦っている事が分かる。
警戒の声を掛け合う赤い稲妻の言葉だけが、ダンジョン内に響く。
――ついに俺は選択する事が出来なかった。
9階層 《火山地帯》
ここまで来させてしまった……
リーンが不思議そうな顔をしながら、天井を見つめているのが分かる。
おそらく……何故、動かないの?
そう考えているであろう。
崖の上に立ったカケルが叫んだ。
「はっ!大したこと無いな!」
「何?大したこと無いだと?」
俺はカケルの言葉を繰り返した。
「このダンジョンは俺が攻略する!」
――はぁ?
「お前じゃないだろ?その連れの紳士風剣士のおかげだろ!?」
高々と剣を振り上げるカケルの姿を見つめながら言う。
少し離れた所に立つリーンの顔は呆れていた。
何だろう?
急に腹立たしい気持ちが湧いてきた。
やってやる。
「出でよ!ワイバーン!!」
俺は一気にワイバーン3体を生み出し、宙を舞わせる。
それを見たリーンがニヤリと笑った。
「天使様どころか……この子は、もしかして……」
その後に続く言葉を飲み込み、俺は首を横に降る。
「サンダーブレード!」
崖から駆け下りた紳士風剣士が空中に向って剣を振るう。
剣から放たれた稲妻が音を立てながらワイバーンに向かうも、その翼の一振りで稲妻は掻き消された。
「先生!何とかしてください!」
カケルが叫ぶ。
「ダメだ、射程距離に届かない!レザリーさん、魔法であいつらを降ろせませんか?」
「そんな事、言われても…ファイヤーボール!」
火魔法が放たれる。
ワイバーンはまったく動ぜず、その魔法を受け止めた。
魔法を受け、むしろ喜んでいるかのようだ。
「クソッ!リーン、土魔法で何とかしろ!」
「随分と上からの言い方ね。」
リーンは、そう言うと土魔法を空中に積み重ね始めた。
1体のワイバーンの頭上に無数の石が積み重ねられていく…
が、残り2体のワイバーンが、その長い尾で石を薙ぎ払った。
そして赤い稲妻の頭上をグルグルと回り始めた。
まるで遊んでいるかのようだ。
今まで、モンスターには知能が無いと思っていた。
が、あのドラゴンに出会って俺の考えは変わった。
もしかして、このワイバーン達にも知能がある?
だとしたら……今、何を考えている?
一体のワイバーンが大きく口を開いた。
「来るぞ!火の玉だ!」
赤い稲妻の盾役が前へと出た。
ドン!!
――盾役が火の玉を防ぐ。
が、さらに2体のワイバーンからは火の玉が吐かれていた。
「ファイヤーボール!」
相殺を狙った火魔法が放たれる。
が、跳ね返される。
「ロックウォール。」
静かに土魔法を発動したのはリーン。
ドドドーン!!
「やるな。」
見事、リーンは赤い稲妻を守った。
が……カケルが叫んだ。
「おい!何故、俺の前にだけ壁が出なかったんだ!
ヤラれるところだったじゃないか!」
「まだ戦闘は終わってないわよ。」
カケルの叫び声に対し、冷静に答える。
「カケル殿、撤退しよう。相手が悪い。」
「先生!無理なのか!?」
「私の剣が届かない以上、魔法使いが重要だ。
だが、私達のパーティはワイバーンに対して有効な魔法使いが居ない。」
「残念だが、防戦一方だな。」
紳士風剣士と盾役の大男の意見は一致していた。
「仕方ない……撤退だ。」
カケルは悔しそうに、そう伝えると我先にと逃げて行った。
「ふぅ……逃げたか。」
「残念だったわね、それじゃ。」
後詰めを務めていたリーンは、まるで自分の役割を終えたかのように叫んだ後、去って行った。
「俺は……カケルを殺そうとした。」
そう呟いた後、俺は深い溜息を吐いた。




