第2階 足りない手
視点:ユイ
「はぁ〜、何よピクシーって!しかも三体も!
あんなの二階層で出るなんて反則だわ。」
朝食のスープを木のスプーンで、かき混ぜながら私は昨日の探索を思い返し溜息をついた。
「最近、変わったよなぁ、あのダンジョン。まるで俺達の手の内を知っているみたいだ。」
ダイキの言葉に私は黙り込む。
――カズヤがいなくなってからだ。
あの場所に、試されているかのように感じるようになったのは。
「昨日は散々だったね。」
エイレンの言葉に、私はうつ向いた。
カズヤを……探したいのに……
「カズヤ……やっぱり死んじゃったのかな?」
「あたしも……そう思う。」
「ダイキ!エイレン!変な事、言わないで!
――カズヤは、絶対に生きている!
だって……身に着けていた武器も防具も消えたのよ。
そんなの…おかしいじゃない!」
私は思わず立ち上がって大きな声を出してしまった。
周りの人達からザワザワと声が聞こえて……
冷ややかな同情混じりの視線を感じる。
『どうせ死体はモンスターの腹の中だろう。』
そう言いたげな空気感。
穏やかな朝食の時間。
……私の心は穏やかとは程遠かった。
私は、カズヤが生きていると信じている。
いや……信じないと、前を向いて歩けない。
「ユイ……あたし、ユイが満足するまで付き合うからね。」
「あぁ、レベル上げには良いダンジョンだからな。」
最近、あのダンジョンは変わった。
何というか……経験を積まされているというか……
今までは、殺伐としていた印象の…あのダンジョン。
カズヤが消えてからは、まったく違うダンジョンになった気がする。
――ダンジョンが変化するなんて、
そんな訳無いか。
「よし!じゃぁ、今日も頑張ろう!」
「おぅよ!」
「うん、行こう!」
私が手を出すと、ダイキとエイレンは手を重ねた。
前までは……ここにカズヤの手も重なったのにな。
今は、重なる手は三つ……一つ足りない。
私は右腕にはめた腕輪をそっと撫でた。
これはカズヤの部屋に残されていた腕輪。
『これ、俺のお守りなんだ』って言ってたじゃないの。
あの日――どうして装備し忘れちゃったのよ。
この腕輪、カズヤに渡さないと…
町から比較的近いダンジョン。
そこで、カズヤくんが消えた。
突然の強敵トロールの出現。
その恐怖から私達を逃がしたカズヤくん。
助けを呼んで、ふたたび戻った時……そこには何も無かった。
死体は勿論、カズヤくんが居た痕跡さえも……
「ねぇ……、もしかしてだけど……
ユイってカズヤの事が好きだったの?」
耳元で囁いたエイレンの言葉に、心臓が跳ねた。
「ち、ちがう、ちがう。リーダーを失うと困るでしょ?」
――否定しながら自分の頬が熱くなったのを感じた。
私が……カズヤくんの事が好き??
分からない。
頼れるリーダーだったのは間違いない。
仲間として大事な存在。
でも……それって、好きっていう事にはならないよね?
男の人を好きになるって…一体、どういう気持ちなんだろう?
今日もダンジョンに入る。
ドクンドクンと、心臓が波打つ。
それに呼応しているかのようにダンジョンからも同じ音が聞こえる。
――そして、視線を感じる。
「カズヤくん…見てる?」
◇◇◇ ダンジョン ◇◇◇
「お、今日も来たな~。」
俺はコタツ(のような精神世界)に座り、侵入してきた"蒼き閃光"を見つめた。
ユイはギュッと杖を握っている。
「あの杖……一緒に買いに行ったんだよな。」
ユイは、一人で選ぶ自信が無いとか言って……
俺のアドバイスを受けて選んだ杖。
「あーぁ、楽しかったな……あの日。」
真剣な眼差しのユイ、その表情から何かの決意を感じた。
……もっと力をつけて貰わないとな。
俺の体がある15階層に辿り着くくらい強い魔道士になってもらう。
「今日のモンスターは……俺特製のゴーレムだ。」
体をひねり…ダンジョン内にゴーレムの巨体を練り上げる。消費したマジックポイントは2つ。
「このゴーレムは特別製だ、関節を少し脆く作ってある。さて、この弱点を上手く見抜けるかな?」
手に汗を握りながら、三人を見つめる。
「お、目眩ましの魔法とはっ、
――ユイ、なかなかやるじゃないか!」
ダイキが盾で動きを止め……そして、エイレンの槍が的確に弱点である関節を突く!
「よしっ!ナイス連係!」
俺は、思わずエア机を叩いた。
飛び出して行って三人の頭を撫でてやりたい。
が……今の俺は言葉を発せないダンジョン。
もう、それは出来ない。
「さぁ、ユイ…早く育ってくれ。15階層で待っているからな。」
ユイが右腕につけた俺の腕輪を見つめる。
それは、幸運をもたらす腕輪…きっとユイにも御利益がある筈だ。




