第16階 気持ちの行方
視点:ユイ
「はぁ、疲れた〜。」
私はリビングのソファーにもたれかかり、天井を見上げた。
模様も無いただ白色が広がるこの天井が私は好き。
「ヒュドラとケルベロスを突破したと思ったらドラゴンだぜ……無理だよなー。」
ダイキくんは、そう言うと項垂れた。
確かに、あのドラゴンの威圧感は尋常じゃなかった。
「10階層まで行けたんだ…ひとまず、良しとしよう。」
エイレンは、相変わらず冷静。
いつも頼りになる…私の心を支えてくれる存在。
「なぁ…これから、どうする?』
ダイキくんからの質問。
「「うーん。」」
私とエイレンは唸り声をあげた。
「ちょっと…気分転換しようか。」
エイレンからの提案。
「うん、そうね…。」
私は小さな声で呟いた。
「買い物に行こうよ…この前の探索でお金、沢山入ったでしょ。」
10階層まで潜った事で素材を沢山入手出来た。
シイラスさん達のおかげだったのに、取り分を半々で分けてくれた。
黒宴さんは、強くて良心的なパーティーだった。
「俺は、気分転換に体を鍛える事にする。」
「私は…行くわ。」
ダイキくんは趣味の筋トレ。
私はエイレンの誘いに乗っかった。
エイレンと2人きりで歩くのは久しぶりかな。
女の子同士…でも、ちょっと趣味は違う。
エイレンは少し男の子っぽい感じ。
見に行きたいお店も武器屋さんが中心。
私は、可愛い物が好き。
服屋さんにエイレンを付き合わせた。
「あー、疲れた。」
私達は、カフェに入り休憩を取ることにした。
「この食器、可愛いよねー。」
新しく買った食器を取り出して眺める。
「そうだな……ユイ、ちゃんと4人分買ったんだな。」
「蒼き閃光は4人なんだから、当然でしょ。」
私がそう言うとエイレンは静かに笑った。
「あの10階層…シイラスさん達はドラゴンが出るなんておかしいと言っていたな。」
「うん…ドラゴンはSランクだから13階層からしか出ない筈だって…」
黒宴の皆さんが言う事がすべて正しいとは思わない。
けど……私も何か違和感を感じていた。
「あたし…あのドラゴンは、何かを伝えようとしていた気がするんだ。」
「え?それ……私も思った。」
(そんな訳無い。)
――そう思って誰にも言わなかった違和感。
まさか、エイレンも同じ様に思っていただなんて。
私の心はザワついた。
「あと……あのドラゴン、石化したよね?」
「うん、バジリスクが天井から降ってきて。」
「巨体を持つバジリスクが降ってくるってのもおかしいよな?」
「うんうん、あの時は必死だったから思わなかったけど…脱出してから考えると不思議すぎて。」
「やっぱり…あのダンジョンって、おかしいよな。」
「そう、おかしい!
――あのバジリスクも、まるで私達を助ける為に現れたみたいに思うの。」
「ぶっ、ははははは〜」
「え?何?どうしたのエイレン、急に笑い出して。」
「いや、ユイが今度はあのバジリスクがカズヤだと言い出すんじゃないかと思ったらさ〜。」
「流石に、それは言わないわよ。バジリスクは、ちょっと怖すぎよ。」
前に私がゴブリンがカズヤかも?って言った事を思い出した。
顔が熱くなるのを感じつつ反論する。
「でさ…」
エイレンは急に真面目な顔となり、私に顔を近づけた。
「え?何?」
ジッと私の目を見つめるエイレン。
「ユイは…カズヤの事が好きなのか?」
「え?」
思わず声が高くなる。
私が、カズヤくんの事が好き?
そう聞かれた瞬間、カズヤくんの笑顔が頭の中で何枚も再生された。
「ちょっと、黙ってないで…どうなのよ。」
エイレンの言葉で我に返る。
「分からない、でもカズヤくんに会いたいって気持ちは強く心にあるの。」
私はエイレンから目をそらしながら答えた。
「何?はっきりしないわね。」
「うーん、でも…男の子を好きになるって、どういう事なのかな?」
エイレンの表情が曇る。
「何?ユイって、恋愛感情が乏しい感じなの?」
「うん……分からないの。ごめんなさい。」
「謝らなくても良いけどさ〜。
――そうだな、カズヤの顔を思い出すと、胸が熱くなる。とか無い?」
「うーん、それは最近、ある。」
「じゃぁ…好きなのよ。って、違うか。」
「違うかも…でも、合ってるかも…」
エイレンと2人、テラス席で唸り声を上げる。
「エイレンは…好きな男の子っているの?」
「今は…居ない。前は…居たな。」
「そうか…、エイレンは大人ね。」
「まぁ、カズヤだけどな…」
「えーーー!?」
「ちょっと、声が大きいって。」
「いつからなの?」
「ユイが、"蒼き閃光"に入る前からさ。」
そういえば、私は入る前のパーティーの事を知らない。
エイレンは言葉を続けた。
「あたしが、前のパーティーの仲間から裏切られてさ。ヤケになっている時にカズヤに誘われたんだ。
『"蒼き閃光"に来て欲しい』って。」
「さらに、裏切った元仲間に文句を言いに行ってさ。
騙されていた分のお金を返させたんだ。
――カッコよくてさ、つい惚れちまったんだ。」
伝え終えるとエイレンは、笑顔を向けた。
「でも、今はもう好きだという気持ちは無い。」
「聞いていい?一度好きになった男の子を嫌いになる事ってあるの?」
「違う違う、嫌いになった訳じゃないんだ…ただ、好きな気持ちが尊敬の気持ちに変わっただけ。」
「尊敬か…それなら、私も同じ気持ちかも。」
カズヤくんの指導力を思い出しながら、そう伝えた。
「うーん、どうだろうな。答えを見つけるには、やはりカズヤにもう一度、会わないとな。」
「うん、あのドラゴンは怖い……でも、私、ドラゴンは何かを知っている気がするの。」
「知ってたとしても、ドラゴンと会話は難しいだろ。」
「そうね、ちょっと難しいかなー。」
エイレンと2人、笑い合う午後。
――だけど、私の気持ちは固まった。
あのダンジョンに挑み続ける、カズヤくんともう一度、会う為に。




