《四章 定メラレタ運命ノ中デ》
引きに注目!!
ルナとメフィストが襲撃者の姿を捉えるのと時を同じくして、異なる場所でも相対する者たちがいた。
「その家に何か用か?」
それはアデルからだった。ポーラからの指示で行なっているウロボロスの調査を止め、昼ご飯を食べに家に帰ると、そこには紅城と神威がいた。二人は怪盗の足取りが掴めなくなり、一度態勢を立て直そうとルナを探したが見当たらなかった。お互いに何かが起こったことを察したため、集合地点であるアデルの家の前に戻ってきたところ、こうやって探していたアデルと鉢合わせたところだった。
「いや、少し探している人が二人、いや三人いるんです。ただ、一人は少し急ぐ必要があって」
「良かったら手伝うが、その人物は?」
まだ紅城の言う一人がルナであることを、アデルは知らない。
「紅城。名前は確か、ルナだったよな?」
怪盗を探す前、三人は自己紹介を済ませていた。だから神威はルナという名前を知っている。知らないのは、その名前が他ならぬアデルにとって、劇薬であるということだけだった。
「紅城……今思い出した。お前達、アデルを探している連中か?」
アデルの情報網は広い。国の諜報機関であるポーラ、アデルの切り札であるカーラ、自身の知人であるバーのマスター。数としては少ないが、一つ一つに連なるものは多い。
故に、自分を探す者たちがいることをアデルは知っていた。
「そうですけど、知ってますか?王国から帝国に移っている可能性があって」
まさか本人に質問しているとは思わない紅城。だが、そんな質問など、アデルには関係なかった。今すべきことは、自分とルナを探している相手が敵である可能性に対処すること。
勘違いである可能性も高い。しかし、一歩の遅れが何を引き起こすのかを、アデルは身に沁みて分かっていた。
「……構えろ、紅城!こいつは既に臨戦体勢だぞ!」
神威の叫びと同時に、アデルは地面を駆け出した。
「【幻ノ時間】」
アデルは地面をスライドするかのように、肉体の限界を超えた速さで紅城に迫る。未知数の敵に対し、切り札である【幻ノ迷イ人】は使えない。それは、紅城以外に神威がその場にいるからである。【幻ノ迷イ人】の対象は一体のみ。つまり、邪魔が入る今は有用でないのだ。
迫るアデルに対し、紅城がしたことは慌てるわけでも、侮るわけでもなかった。
「【天十握剣】」
怪盗メフィストに奪われたのは刀一つであり、今取り出したこの武器は空間に収められている。
それはこの世界とは異なる場所から持ち込まれた、理外の武器。紅城達の世界でその武器は、【神器】と呼ばれていた。
────居合 陽閃撃
鞘に収められた刀にエネルギーが集中し、爆発的に増大する。
────刹那、刃が閃く。
その一撃はアデルの動く先を読んでいた。しかし、アデルはそれすら読んでいた。
肉体の速度上限を更に引き上げ、予測を超えた動きでそれを回避する。
だが、それではアデルに勝ち目はない。
「【猛火】」
紅城を巻き込まない位置で、神威はアデルに向かって神術を唱える。魔法に近しいそれは、神威から発動に必要なエネルギーを奪い、そして、世界に作用する。
世界に構築された神術から炎が勢いよく吹き出され、アデルを包み込んだ。
ただでさえ、アデルの実力は紅城、神威と比べても優れているわけではない。まして異なる世界からの来訪者達は、乗り越えた場数も質も規格外だ。
どちらかだけであれば、対処は可能だったかもしれない。だが、ニ対一、数的不利がどこまでもついて離れない。
「おい神威、殺すな!!」
紅城が叫ぶ。まだ何も話し合っていない状況で、巻き戻せない惨状を生むことを否定する。
「分かってる。だが、そう簡単に死ぬ相手じゃないみたいだぞ」
神威の視線の先で、炎が灯っていた。だが、それは揺らいでいなかった。
────まるで、時間が止まったかのように。
そこから現れたのは、無傷のアデルだった。
「化け物め」
神威が呟いた。
「────なら、私とお友達ね」
誰かが神威の背後で囁いた。何一つ悟らせず、彼女はそこに立っていた。
招かれざる者の名は、カーラ。始祖の吸血鬼であり、アデルの共犯者であり、ルナに従う者でもある。
「妖の類に属する者か」
突如現れた気配にその場から飛び離れ、相手を自らの視界に収めた神威。カーラの持つ気配から、ただの人ではないことを見抜いていた。
「そちらの目的は何かしら?良ければ教えてほしいのだけれど」
まだカーラは事態を把握していない。ルナがまた事件に巻き込まれていることを。
「こちらとしては、ルナの行方を探しているだけなのだがな」
まだカーラは気づいてない。紅城達が自分達と同じく、ルナの身を案じていることに。
だから、
「────【血雨削】」
カーラも間違える。今この場において、この四人が争う必要は何一つない。だが、争った理由はあった。
単なるすれ違いが、こうも大きな事態を引き起こす。
ただ、この大きな事態はルナに何一つ影響を及ぼすことはない。言うなれば、この争いが起ころうが起こるまいが、運命は変えられないのだ。
その運命は至ってシンプルなものである。
────その日、『ルナ』が殺される。
【作者コメント】
File6、7分のネタは湧いてます。




