《一章 盗マレタモノト盗厶モノ》
「────ここにアデルという男はいませんか?」
そう尋ねてきたのは、二人組の男性のうち、コウショウと名乗った若く背の高い人物だった。
(アデル......アデルディアさんと似てる?きっと違うと思うけど、何か、何か引っかかる)
問いが私の鼓動を早めたのを確かに感じ取った。それが、二人の探している人物に心当たりがあったからではない。私の内側で燻り始めた”何か”があり、アデルという人物が過去の自分に関係すると直感したからだ。
「その人は、どんな人、なのですか?」
これは目の前の人物からの質問に答えるためのものではない。自分の中にある、”何か”を捉えるための質問だった。
「いや、実は俺たちもよく知らなくて。ただ、この街に似た名前の人物がいると聞いたから、もしかして、と」
コウショウと名乗る人物が言った。
似た名前、その言葉が私の意識を掌握する。アデルという音に反応して、”何か”のピースが揃い始めた。
”何か”はきっと過去の自分。そして今、それに関係するであろうアデルという人物が、アデルディアさんであることの可能性が高まったのだ。
ただ、なぜ同じ音を持つアデルディアに反応を示さなかったのか。
それと、どうして、もしも同一人物であるならば、なぜアデルディアさんは名前を変えたのだろうか。
私は二つの疑問が浮かんだ。しかし、私は”私”を知らない。答えは自分でさえと分からない。
唯一可能性があるとすれば、アデルディアさんしかない。ただし、彼の口から伝えられる”私”に、偽りや隠し事がないとは言い切れないのだ。
「大丈夫ですか?」
少し無言で考えすぎていた私を心配したコウショウさんが私に声をかけた。
「え?あ、はい!」
「心当たりありましたか?」
「いえ、ごめんなさい、そのような男性はご存知ないです」
アデルディアさんが二人の探している人であるかもしれなかったが、敵意の有無が分からないため、私は何も知らないないふりをした。
だが、
「......あ」
気づいた時には既に遅かった。
「────そうか、男性であることは知ってるのだな」
もう一人の、カムイという人物が私のミスを指摘する。アデルディアさんのことが頭に浮かんでいた私は、ついそんな男性を知らないと言ってしまった。二人は決して性別を話していなかったのに、だ。
「い、いえ人違いです。私の思い違いでした」
「......まぁ、安心しろ。深くは追求せん。ただ少し気になっただけだからな」
「そ、そうですか」
カムイさんの少し圧のある言葉遣いを前に、私は目を逸らす。
「あ~、脅かしすぎだ、神威」
そんな様子を見かねてか、コウショウさんが仲裁に入ってくれた。その言葉でハッとしたカムイさんは、私に頭を下げる。
「……そうだな。すまなかったお嬢さん。お詫びと言ってはなんだが、何かあったら俺達を呼んでくれ。近頃はこの辺りの治安が悪い。”怪盗”も出るくらいだからな」
「気にしないでください。それよりも……怪盗?」
初めて聞く話に、私は聞き返した。
「今やってる依頼で少し関係があるんだ。俺達は何でも屋をやってて、犯罪以外の仕事なら、金次第でどんなことでも請け負ってる」
「そうなのですね」
「だからさっきの迷惑料として、無料で一度働くよ」
コウショウさんの申し出はありがたかった。この前も二度も襲……あれ?
確か、カーラに助けて貰ったのは二回あったけど、シレンテが襲……あれ?
何故か記憶が曖昧だ。確かアデルディアさんが……いや、これは気にしなくていいことだ。
だから私は、これについて考えるのをやめた。
「えぇ、その時が来たら、ぜひお言葉に甘えさせてもらいますわね」
「あぁ、そうして────」
私とアデルの家は決して裏路地にあるわけではない。中心地からはさほど離れておらず、つねに人通りがまばらにある。だから、視界の端に人がいるのは自然なことだった。だがしかし、私達の間に割り込む人が現れることは、一度もなかった。
「【窃盗】」
紅城の言葉は途中で遮られ、女の声が小さく響いた。その女の両手はそれぞれ、神威と紅城に触れていた。
《タイトルについて》
あえてモノ(カタカナ)にしてます。者と物を掛けてるので。
《紅城と神威の強さについて》
こちらの世界においても上位の戦闘力を持っています。そのお披露目は、今回の五章の中盤頃になると思います。
《作者コメント》
五章と六章のイメージは殆ど固まっていますが、五章の結末で迷っています。
ルナと"ルナ"は素材が良いので、調理に気合が……。




