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つれづれグサッ  作者: 犬物語
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【臨床心理学】ゲシュタルト療法

当事者はマジメでも傍から見る限りヤバい儀式してるように見える。そんな感じのアレ。

 ゲシュタルト(Gestalt)はドイツ語で『形・像』的な意味があります。名詞として『ある"まとまり"を一概に表現する』的な活用法がされ、心理学的には『ゲシュタルト心理学』が有名ですね。人は物事を認知するとき、ある一定の"まとまり"とごに認知するという考え方です。かんたんな例を紹介しましょう。


123


 これを人は「ひゃくにじゅうさん」と認識します。では次はどうでしょう?


12   3


 おそらく「じゅうに()さん」という認知になるはずです。では次はどうでしょう?


IamDog


 おそらく「I()am()Dog」と認知したでしょう。大文字で"まとまり"を認知することができ、Iamの部分は英語の知識が備わっていれば「ああ、I amだな」と解釈することができます。このように、人は「IとaとmとDと...」ではなく、しっかり『単語』というまとまりで認知しています。


 ここまで紹介しといてなんですが、ゲシュタルト心理学とゲシュタルト療法はあまり関係性がありません。いやまあ関係あるんですけど、なんて表現すればいいのか……ゲシュタルト心理学の考え方をもとにしていますが、ゲシュタルト療法は『自分自身の心というひとつのゲシュタルト』を見つめ、意識的にコントロールし、ある種の『完成』に近づけていく的な試みです。心の"穴"を埋めるという表現もありますね。


 ゲシュタルト療法は、概念が完成した時代の影響を多分に受け形成されていきました。今回はゲシュタルト療法の基本と、代表的な治療法について紹介していきましょう。




 ゲシュタルト療法はドイツ出身の精神科医『フレデリック・パールズ(Friedrich Salomon Perls)』が中心となり創始されました。妻であり精神分析学者でもある『ローラ・パールズ(Laura)』と協力して理論構築し、第2次世界大戦の火種からアメリカへ逃れ、1940~1950年代にかけて少しずつ完成されていきました。


 ゲシュタルト療法はフロイトの『精神分析』に大きな影響を受けていましたが、フロイトが幼少期のトラウマを重要視したのに対し、ゲシュタルト療法では『今現在の意識』を重要視しています。過去という今現在起きていないイベントではなく、今現在実際に起きている(・・・・・・・・)イベント(・・・・)に焦点を当て、今現在の気持ち、状態をしっかり認知することからスタートします。過去や未来は『今、この瞬間の自分がどう捉えているかの指標』でしかないのです。


 ざっくり言っちゃえば、フロイトは「幼少期のトラウマが今アナタを苦しめてるんだよ」ってのに対し、ゲシュタルト療法は「今のアナタが過去や未来をどう捉えてるかってだけだよ」ということになりますね。ちょっとアドラー風味。


 ゲシュタルト療法の基本は『集中』です。今、この瞬間の自分に集中し、そこにある今現在の自分の悩みを探します。幼少期のトラウマを材料にするのも良いですが、結論はあくまで『今現在の自分がもつ心の課題』です。セラピストとの対話などを通じ、今現在の自分が抱えていた心の問題を認知、つまり『気づき』を得ます。いわゆるひとつのマインドフルネス的なあれを、セラピストといっしょにやりましょ、っていうことですね。で、自分がもつ心の課題(心の穴と言い換えても良い)に気づき、それを解決(穴を埋める)するために協力していきましょうってのがゲシュタルト療法の本筋となります。次は具体的な手法について書いていきましょう。




 ゲシュタルト療法を利用する際、最も基本的なアプローチは『対話』です。ゲシュタルト療法は『本人の気づき』を重視しているため、セラピスト側から積極的な働きかけを行うことは少ないです。まずは会話を通して相手自身の『気づき』を促し、クライエントと協力して具体的な療法を開発していきます。


 まあ基本を守って、あとは流れで的な感じかね。


 ここでセラピストが注意するのは、クライエントがある一定の情報に集中しすぎないようにすることです。認知の歪みというわけではないのですが、人間ってばあるひとつのことが気になると、ずっとソレについて考えてしまうものです。気づきを得るにはそういった偏向をなくさなアカンので、セラピストは会話を通してうまい感じに調整する必要があります。で、クライエントが今抱えている課題を気づかせるために、セラピストは『エンプティ・チェア』や『ドリームワーク』などのアプローチを仕掛けていくのです。ちょっちご紹介していきましょう。




 ゲシュタルト療法は『今』を重要視しており、個人の『評価』はあまり重要視していません。なので、心に持つあいまいな『不安』などがある場合、実際はどうなんだろう? ってことで実験する場合もあります。つまり『実際に体験したり、やってみたりする』ことです。わたしは野球が好きなので野球で例えますが、たとえば「三振するのが不安です」っていう方がいたとして、セラピストは「不安なの? じゃあやってみよう!」となかなか鬼畜なことをアドバイスしたりします。で、実際に打席に立った結果を確認していく。


 4打数1安打1四球1三振

 『左飛・二ゴ・三振・四球・中2』


 重要なのはこの後です。これらを見て評価はせず(・・・・・)、実際はどうだったか? 客観的事実だけを取り上げていきましょう。不安だと言っていた三振は5回に1回、同じ数だけ安打を放ちましたね。出塁という点では4割打者です。


 次の日は3打数無安打ながら三振はなく、その次は4打数2安打に打点1――っと、こんな感じに『事実』だけ記録していくと、クライエントに客観的事実というデータを提供することができます。そのなかでクライエントが「あれ? ワイ意外と三振してなくね?」という気づき(・・・)が得られればしめたものですね。実際どのようなセラピーをするかは、アナタが実際に確かめてみると良いでしょう。ってことで、次は『エンプティ・チェア』についてご紹介。




 エンプティ・チェア。つまり『だれも座ってないイス』ですが、ここにはクライエントが想像する『だれか』に座ってもらいます。自分がイメージしただれかに座ってもらい、その人と仮想的な会話を繰り広げる、という内容です。


 傍から見れば怪しげな光景ですが、ちゃんとプライバシーは護られてますし、側にはちゃんとセラピストもいるので安心してください。ここで重要なのは、このイスに座る対象は『クライエントがイメージしたもの』であることです。つまり、自分自身の心を投影した相手になるわけですね。


 苦手な上司がいて、職場の人間関係に悩んでいる、という悩みをもつ場合、そこに『苦手とする職場の人』をイメージさせます。で、その人と自由に会話するのです。もっと細かく指導してほしいとか、自分はあっちの仕事のほうが得意なので任せてほしいとか……そんな会話をしていると、やがてイロイロな気づきを発見していきます。たとえば「そうか、ボクはあの上司のことを"苦手"だと思っていたけど、単純に"もっと自分を見てほしかった"だけなんだ」的なね。


 そしたらもうアレよ、自分の心に気づいたんだから、どうすればいいかもうわかってるよね? ――上司に自分の思いを打ち明けるよい方法を探しましょう的な流れになっていきます。エンプティ・チェアの良い部分は、投影を利用して気づきを誘発しやすいってことでしょう。また、セラピストはクライエントの呼吸や姿勢など、細かい点を観察して介入してきます。もしクライエントとして空になったイスに喋りかけるときは、決して緊張せずセラピストを信じてやってみましょう。じゃ、次はドリームワークですかね。




 ドリームワーク、ざっくり概要を説明すると『夢の内容から自己分析する』って感じでしょうか。精神分析の考え方では、夢は無意識領域や心のあれこれが表面化しやすいとされています。ただ、ゲシュタルト療法は『今』をリアルに追求するため、ドリームワークでは『夢の登場人物になりきる』、つまりロールプレイでもってアプローチすることになります。


 懐中電灯だろうがロールプレイします。わたしは懐中電灯だ。


 クライエントが夢を見た時、セラピストは夢の内容をひととおり語らせます。で、夢を再現させる手順に入るわけですが、先述のとおり、クライエントは夢に出てきた『懐中電灯』にでもなんでもなりきります。マジな話ですわよ?


 夢が過去の内容だったとしても、それを再現するのは『今のクライエント』です。子ども時代、野球の練習中の夢を見ていたとしたら、夢の時間軸を(・・・・・・)今に設定して(・・・・・・)再現(・・)してもらいます。夢という舞台に、クライエントは監督のような気持ちで打ち込んでいただくわけですね。


 夢はその人自身の『投影』と考えられます。つまり、その人の心あれこれが表面化したわけですね。それらをロールすることで、自分自身の心を統合していくわけですが――あー、つまりなんだ。


「ぼくは懐中電灯です。ふだんは部屋の隅っこで大人しくしています」

「けど、夜の間は大活躍するし、停電になったらぼくの力が必要になるんだ」

ふだん(・・・)は――でも、()停電(・・)になったら活躍できる」

「そうか! ぼく(・・)は環境を変えれば活躍できるようになるんだ!」


 こんな感じ、伝われ。




 ゲシュタルト療法は事象を評価したりするのではなく、ただ純粋に事実確認をすすめ、やがてクライエントの気づきにつなげていく手法。このへんは認知療法に通じるところがありますね。エンプティ・チェアやドリームワークなど、一部ヤベーことしてる感がありますが、これはこれでれっきとした介入なのです。


 アナタの悩みはなんでしょう? ヘンな夢を見ることがありませんか? もしよろしければ、アナタの悩みのタネをイスに座らせたり、夢に登場したものになりきってゲシュタルト療法を試してみてはいかがでしょう? なーに、心配いりません。誰にも見られない環境でやれば、ただアナタ自身が怪しい儀式をしてるだけにしか見えませんから。

ガチで実践したいなら近くのセラピーへ行きましょう。ちゃんと「ゲシュタルト療法やってますか?」って聞かなきゃダメだゾ。

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