遼VS詩織
それぞれ黙々と訓練を行う遼と詩織。その後は何もなく、時間は流れ、昇級試験前日。ついに遼と詩織の模擬戦の日が訪れた。
転送室の前で玲奈と仁に模擬戦のルールを説明される。
「西原、月影。急遽行った近接訓練の仕上げだ。今から2人で模擬戦をしてもらう。ルールは玲奈と話し合った結果、飛行有り。七色の使用有り。中遠距離武器の使用禁止。ただし、七色を纏わせた斬撃攻撃は有りだ。飛行も有り。そしてコレが肝心……ギブアップ及び、妥協禁止だ」
遼と詩織は顔を見合わせて、ギブアップと妥協禁止の意味を尋ねた。
「どういう意味だ?」
「お互い知っている相手だから、どちらかが情に流されてわざと負ける可能性を考えたの。どうやら2人は友達以上のようだしね」
玲奈がニヤニヤと2人を交互に見つめ、急激に2人の顔が赤くなり、遼が声を荒けさせる。
「お、お前! 玲奈! 知っていたのか!?」
「2人の訓練に乱入した日から薄々知っていたよ。私に秘密を作ろうなんて100年早いんだから」
今にも玲奈に飛びかかりそうな遼だったが、仁が冷静になだめる。
「西原。鼻息を荒くするのは結構だが、今日の相手は玲奈じゃない」
仁は隣で恥ずかしがっている詩織に目を向け、2人にエールを送る。
「2週間。頑張った成果を俺たちに見せてくれ」
赤面していた2人は軽く微笑み、自信に満ちあふれた表情を浮かべる。
「おう!」
「はい!」
そして2人はそれぞれの転送室に入り、玲奈と仁2人だけが通路に残り、観戦室へと足を運ぶ。
「……西原が勝っても文句を言うなよ?」
「そっちこそ。後で泣かないでよ」
映画館のような観戦室に、穂香と何故か真里の姿があった。
「あれ? 真里さん?」
「あ、玲奈ちゃん~。お邪魔してるよ~」
玲奈は真里の隣に座り、頭上に疑問符を浮かべる。
「どうして遼と詩織の模擬戦観戦を?」
「いや~、穂香ちゃんから話を聞いてね~。興味が沸いたから見に来ちゃった」
「何が見に来ちゃったよだ。私を脅して見させろって言ってきたくせに」
その時、穂香の腕に鋭い痛みが走る。穂香は痛みが走る部分に目を向けると、真里が腕を抓っていた。
「痛いからやめて。結構痛い。やめて」
「じゃあ、前言撤回して」
「本当のこと言っただけじゃない」
「ドMなの? もっと痛くしようか?」
笑顔のまま、さらに強く抓ろうとする真里に、穂香は即座に前言を撤回する。
「すみませんでした……」
見えなかった玲奈は何をしているのか気になり、覗こうとした。
「何してたんですか?」
「何でもないよ」
「真里さん。差し支えなかったら2人の模擬戦終了後にアドバイスを……」
仁が堅苦しい言葉で真里に、模擬戦終了後のアドバイスを求める。
「え~ッ? ただ見るだけじゃダメなの?」
「呼んでもないのに勝手に来たんですから、アドバイスくらいしてください。西原や月影のためでもあり、自分や玲奈のためにもお願いします」
真剣な表情で頼み込む仁に対して、真里はクスクスと笑いながら言葉を返す。
「仕方ないね~。結構、辛口で行くから覚悟してね。あと堅苦しすぎ。敬語も無理に使わなくても良いよ~」
「……ありがとうございます」
「ほら、堅すぎ!!」
真里のペースに付いていけない仁は戸惑いつつも、玲奈の隣の席に腰を下ろす。
そして時間を確認していた穂香が、異次元電脳チャンネルの様子を映している大画面に目を向ける。
「そろそろ転送されるよ」
穂香の声に従うように、玲奈たちも大画面に目を向ける。
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同時に異世界電脳チャンネルに到着した遼と詩織は、観戦しているであろう仁と玲奈に無線を送る。
「桜井、準備は出来てる」
「始めて良いよ。玲奈ちゃん」
2人の転送を確認した仁は、開始の合図を送る。
『これより西原遼と月影詩織による特殊模擬訓練を行う。両者構え!』
遼と詩織は素速く距離を取って、臨戦態勢に入る。
『開始!!』
開始のブザー音と共に、遼は駆け出して先手を取る。
「速攻で終わらせる!!」
詩織の首筋めがけて無形武器を振る。詩織は冷静に太刀筋を見切り、遼の斬撃を最小限の動きで避け続ける。そして腰に携えているある武器に手をかける。詩織の反撃を察した遼は、少し後退して攻撃を回避しようとする。
『西原ダメだ!!』
無線でアドバイスを送ってきた仁の声が聞こえたときには、既に遅かった。
「居合抜刀……」
目にも止まらぬ速さで抜刀された太刀は、遼の左足首を切断する。斬られた遼は勿論、観戦していた仁と穂香は驚きの表情を浮かべていた。
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「なんだ……あの抜刀の速さは?」
「なるほどね……高速抜刀なら太刀武器の方が向いているね」
仁は大画面を見続けている玲奈に目を向け、説明を求める。
「玲奈……お前、月影に何を教えた?」
「何をって……抜刀のやり方だけ教えたの。それだけ」
「それだけって……それだけじゃ、あの抜刀の速さは生み出されないだろッ!」
玲奈はニヤリと笑って、仁に言葉を返す。
「元々、詩織が持っていたセンスよ。私はそこに目をつけただけ。他に何か聞きたいことでもある?」
仁は歯をギリッと鳴らして、大画面に目を向ける。
「思ったよりも早く終わりそうだね」
「脚は失ったが、勝負はこれからだ」
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(なんだ? 今のは……)
遼は無くなった左足首をチラッと見て、詩織に目を向ける。
一点だけを見つめる詩織の目は、まさに全集中という言葉が相応しい目つきをしていた。詩織は太刀を納刀し、再び抜刀を行う。
「次は右手……」
詩織の呟きが、遼の耳に届く前に、遼が握っていた無形武器が音を立てながら粉々になり、右手に痺れが走った遼は顔を歪ませる。
「チッ!!」
(これが本気の詩織か? なら、俺も出し惜しみするわけにはいかないな……)
劣勢であるにもかかわらず、思わず笑みを浮かべる遼に対して、詩織は危機を察し、追撃を躊躇う。
「手を止めたな?」
遼は翼を生成し、距離を取るように飛翔しながら、左手に残った無形武器を詩織めがけて投げつける。無形武器は銃弾とほぼ同じくらいの速度で飛んでいき、詩織の右肩をかすめる。
「!?」
何が起きたのか分からない詩織は、出血している右肩を庇う。
『詩織! 止まらないでッ!』
玲奈の無線が届くと同時に、遼は詩織との距離を一気に詰め、追撃する。間一髪、太刀での防御が間に合った詩織は、全力で踏ん張り、遼を押し返す。
「間に合ったか……だけどなぁ!」
再び無形武器を投げる遼。飛んでくる無形武器を、太刀で弾き続ける詩織。立場が完全に変わり、今度は詩織が防戦一方になった。
「このままじゃ……」
『詩織、遼の翼を狙いなさい。片足が死んでいるなら、落としてしまえば優勢になる』
「分かった!」
玲奈の提案を受け入れた詩織は、多少のダメージを覚悟し、太刀に七色を纏わせる。それに気づいた遼は、無形武器に一色を纏わせ、詩織に投げつける。詩織の足下に爆発が生じ、黒い煙が詩織の姿を隠す。
「直撃……か。ダウンが宣告されてないって事は、まだ来るか」
滞空して状況を確認する遼に対して、爆煙から緑色の斬撃が2つ飛んでくる。
「何ッ!?」
斬撃は遼の翼にヒットし、翼が消滅した遼は地上に向かって墜落する。
「詩織、このヤロ~。やってくれたな」
地面に伏しながら遼は、爆煙の中から姿を現す詩織を睨みつける。
「着弾寸前で無形武器を斬れたのが大きかったね。あのままだと威力が落ちなくて、私はやられてたけど」
遼は片足で何とか立ち上がり、詩織に無形武器の切っ先を向ける。
「まだまだ終わらせないぞ」
「そう来なくっちゃ」
再び2人の刃が重なる。
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