昇級
遼と詩織の近接縛りの模擬戦は、玲奈と仁の予想を超える長期戦となっていた。
お互い一歩も譲らず、斬られては斬り返し、躱してはカウンターの連続だった。模擬戦が開始して1時時間を迎えようとしていたその時、終わりを迎える瞬間がやってきた。
「詩織……息上がってるぞ?」
「遼くんこそ……片足だけでよく粘るじゃない」
遼は左足、詩織は左手首の自由を失っていた。
遼は隙が少ない動きで無形武器を投げる。詩織は冷静に飛んできた無形武器を弾くが、振り切った腕の先に遼の姿があった。
「ヤバッ!!」
「悪いな、詩織。今回は俺の勝ちだ」
躱すことも、受け止めることも出来ない詩織の態勢を瞬時に見て、遼は勝利を確信する。
しかし。
『警告』
「なんだ?」
遼の眼前に警告文字が現れ、生成しようとしていた無形武器が風景と同化するように消える。
『霊力残量ゼロ。戦闘不能と見做し、強制的に撤退します』
ナビゲーションが無情にも遼の撤退を知らせる。
「な!? こ、こんな負け方ありかよぉぉぉぉ!!」
叫び声と共に、遼はダウン宣言され、異次元電脳チャンネルから除外される。そして、最後まで異次元電脳チャンネルに居続けた詩織の勝利が観戦室に表示される。
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「あのバカ……」
遼の敗北を突きつけられた仁は、頭を抱えて画面から視線を逸らす。隣に座っている玲奈は満面の笑みを浮かべて、喜びを露わにする。
「やったぁぁ!! 勝った勝った!!」
「まさか……霊力切れで終わるなんて……呆気なさ過ぎるでしょ」
穂香は苦笑いを浮かべ、静かに観戦していた真里はクスクスと笑う。
「まあ、2人らしい決着の仕方じゃない?」
「真里さん! どうでしたか? 私が指導した詩織は?」
玲奈が嬉しさのあまり、真里に感想を求める。少しニッコリと笑った真里は、それぞれの戦い方に対し、感想を述べる。
「そうね~。詩織ちゃんは確かに勝ったけど、実力的にはほぼ互角。長期戦に持ち込んだ結果、遼くんの霊力切れで勝利できたけど、まだまだ甘いかな? 遼くんにも言えるけど、常に周囲の状況を見ていないと戦場では命取りになる」
仁はハッとなって真里の顔を見て、聞く体勢に入る。
「命取りになるとは?」
玲奈が率直な疑問をぶつける。
「言葉通りだよ。1対1の戦いなんて起きることが少ない。こっちが多数で敵が少数。逆のパターンもある。常に周りが見えていないと味方同士、障害物に接触する可能性が大きくなる。それに、障害物を利用する戦い方もある。実力が無いのなら、戦場にあるもの全てを利用するべきだよ」
真里はスッと立ち上がって、出口に向かおうとする。
「これは仁くんや玲奈ちゃんにも言えることだよ。私のアドバイスが無駄にならないことを祈るよ。今日はありがとう。楽しかったって2人に伝えておいてね」
一方的に言葉を残していった真里は、部屋から出て行き、異様な空気だけがその場に漂う。
「……すごぉ。めちゃくちゃ冷静に見ていたじゃん」
真里のアドバイスにより、完全に喜びが消え去った玲奈は、目を丸くしてその場から動けずにいた。
「だが、言っていることは確かだ。初歩的なことを見落としていた。俺もまだまだだな」
その場で反省し始める仁と玲奈に対し、穂香がポンポンと背中を叩く。
「それぞれ反省するのは後。頑張った2人を迎えに行ってあげて。あくまでも明日の昇級試験が本番なんだから」
『はい!』
元気溢れる声で返事した2人は、転送室にいるであろう遼と詩織を迎えに行った。
「……まったく。2人とも無茶苦茶な戦術教えすぎ……まあ、面白かったし、いいか~」
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「負けた……」
遼は転送用のベッドの上で、天井を見つめていた。そこに詩織の顔が映り込み、遼は悔しそうな表情を浮かべる。
「おつかれ、遼くん。今回は私が勝たせてもらったよ」
「……ああ。強かったよ。お前」
「中距離戦術が使えれば、遼くんが勝ってたかもしれないよ?」
「どうかな? お前だって遠距離からの狙撃があるから、勝敗は分からないだろう?」
詩織はクスクスと笑って、「そうだね」と言葉を返す。遼は上半身を起こし、詩織に握手を求める。
「え?」
「驚いた。お前が太刀系武器を使っているときのお前の目は、鳥肌が立つくらい、良い目をしていたよ」
「え~。どんな目をしていたの? 自分じゃ全く分からないよ~」
「優しい顔から想像できない目だった」
詩織は手で顔を隠し、耳まで真っ赤にして恥ずかしがっていた。
「あんまり意地悪なこと言わないでよ~」
遼は悔しい気持ちを忘れて高笑いし、恥ずかしがっていた詩織はソッと遼の手を握る。そこに、仁と玲奈が乱入してくる。
「お疲れ~って、おお~」
「……お前ら、そういうのは小隊部屋戻ってからやってくれ」
玲奈はニヤニヤし、仁は呆れ顔で2人に指摘するが、遼と詩織は構うことなく玲奈と仁の前に立ち、頭を下げる。
「桜井」
「玲奈ちゃん」
『ありがとう』
突然の感謝の言葉に戸惑う玲奈と仁。2人から視線を逸らして、言葉を返す。
「ま、まあ。2人とも結構良かったよ」
「及第点だが、良い模擬戦だった」
4人は最後に笑顔を浮かべて、転送部屋を後にした。
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翌日。
小隊部屋のソファーで、何度もゴロゴロと寝返りを打つ玲奈が、呻き声を上げていた。
「ううぅ……」
「お前がそんなんじゃ、昇級しようとしている2人が良い結果残せないだろ?」
玲奈と共に、遼と詩織の昇級試験結果を待つ仁が、横に座って声をかける。
「大丈夫だとは思うけど……何か心配」
仁はため息をつき、持参していた炭酸ジュースをゴクゴク飲む。
「試験に行ってから、心なしか時間が経ちすぎているような気が……」
珍しくマイナス思考になっている玲奈を見て、仁は呆れ顔を浮かべる。
「心配しすぎだ。確かにまだ帰ってこないのは不安だが……」
試験に行ってから2時間経過。仁の表情も少し強ばり、2人は静かに遼と詩織の帰りを待った。
その時、入り口の扉が開き、玲奈と仁は同時に入り口に目を向ける。待っていた2人が駆け足で部屋に入ってきて、2人にある紙を見せつける。
「玲奈! 桜井!」
「やったよ……私たちやったよ!!」
玲奈と仁は2人が持つ紙を凝視し、内容を見て目を丸くする。そして、紙に書かれていた内容は。
「昇級合格……」
「Aランクの適性が高いため、Aランク昇級……」
玲奈と仁は顔を見合わせ、驚きの声を上げ、玲奈は詩織に抱きつく。
「飛び級のAランク! 遼! 詩織! おめでとう!!」
「れ、玲奈ちゃん!痛いよ~」
仁は嬉しそうな表情を浮かべ、遼に声をかける。
「驚いたな……遅くなったのはAランクの昇級試験も受けていたからか?」
「ああ。Bランク昇級試験は中・遠距離メインだったから余裕でクリアできた。見てくれた試験官たちが、Aランクの昇級試験も受けないかと言ってくれたから、腕試しついでに受けてきた。近距離を克服しておいて良かったぜ」
「中々、無茶をするな」
仁は軽く微笑み、遼も嬉しそうな笑みを浮かべる。
「これで、水澤小隊全員がAランク。そして全員がAランクだから小隊ランクもAになった」
仁は目で玲奈にコンタクトを取り、玲奈はコクリと頷く。
「最後の仕上げだ。玲奈、西原、月影。小隊ランク戦をして、小隊ランキングを上げてこい。そして、先駆け部隊として活躍するぞ!」
「ええ」
「おう!」
「うん!」
玲奈の理想が叶い、仁の理想まであと少し。
そして……水澤小隊のランク戦が解禁された。
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