近距離指導訓練
玲奈と仁に近接戦闘の戦い方を教わっている遼と詩織は、ホープ本部の外周を走らされていた。
「ぜぇ……ぜぇ……あのドSコンビめ……」
息を切らしながらも、遼は玲奈と仁に対して悪態をつき始めた。
「頑張って、遼くん」
並ぶように走っている詩織の表情は余裕すら感じられた。
「お前は何で……涼しい顔しているんだ?」
「持久走は得意だからね」
『コラー!! 喋る余裕があるなら周回増やすぞ~!』
上空で2人の様子を見ていた玲奈が無線越しで怒鳴る。
「1周1㎞近くあるホープの外周走を、いきなり5周走れってのは無理だろ!!」
怒鳴るように玲奈に無線を返す遼を、詩織は苦笑いを浮かべてなだめる。
『走る前に言ったよね? 近接戦闘は技術よりも機動力。文句があるなら私と模擬戦でもする? ハンデなしの』
「テメェ……あとで覚えてろよッ!! 玲奈!!」
「周回増やされるのはイヤだから、先に行くね。遼くん」
詩織はスピードを上げ、遼を置き去りにする。
「あ! おい! 詩織!! 待てよ!!」
必死に詩織に追いつこうとするが、遼の脚は限界が近く、スタミナも底をつきかけ、現状速度を維持するのでやっとだった。
その様子を空から見ていた玲奈と仁は、今後のトレーニングメニューを考える。
「見立て通り、詩織は持久力があるね。瞬発生には欠けるけど」
「西原はしばらくの間、周回トレーニングが必要だな。最初ら辺に見せた軽い足取りを持続することが出来れば、そこそこの近距離戦闘が出来るんだが……」
お互いに顔を見合わせて、軽く微笑む。
「予定通り、私が詩織に教えて、仁が遼に教える。問題ない?」
「構わない」
玲奈はクスクスと笑って、緩く流れている風に乗り、上昇する。
「2週間後が楽しみだね」
======
「八色……光の壁」
目を丸くする真里に対して言葉を返すこと無く、優一はコーヒーを飲む。
「八色って七色と違って、生きている人間じゃないと使えないはずなのに……ってことは」
「そうだ。ゴーストを操るフードの戦士は、生きた人間ってことだ」
「生きた人間が……どうして?」
優一は残念そうな表情を浮かべながら、手に持っているコーヒーカップをテーブルの上に置く。
「理由が分かれば苦労はしないよ。意思がないゴースト相手ならまだしも、意思があって、同じ人間が敵だと知ったとき、隊員たちは戦意を喪失することなく、戦えるか不安だがな」
「宏大くんたちや抄ちゃんたちは大丈夫だと思うけど……」
「AAAランク以下の隊員がどうなるかだ」
2人の間に数秒の沈黙が訪れ、2人は同時にため息をつく。
「面白そうな話をしているじゃないか」
不意に話しかけてきた声に優一と真里は思わず身構える。
「悪い悪い! 盗み聞きするつもりはなかったんだ」
優一は背後にいる人物に目を向ける。
「ふ……藤田さん?」
2人の視線の先には、コーヒーの香り、味をじっくり堪能している藤田幸春の姿があった。
「よッ! あいさつが遅れてすまないね」
「いつからいたんですか?」
優一は目を細めて、幸春を見つめる。
「君たちが注文する前から俺はいたよ。本部長や司令に内緒の話は、余所でやった方が良いぞ?」
「全部、聞いていたんですね」
真里は苦笑いを浮かべ、優一はやっちまったと言わんばかりの顔を浮かべる。
「誰もいないと思って話していたのに……俺もまだまだだな」
「気にすんな優一~。ただ単に俺が陰薄いだけだ。お前の感覚は間違っちゃいないよ」
優一と真里を無視して幸春はケラケラと笑い始める。
「出来ればとは言いませんが、さっきの話は……」
「分かってるって! 他言無用だろ?」
「……感謝します」
優一はそそくさと会計を済ませてカフェから出て行く。真里は幸春に軽く頭を下げて、優一の後を追う。
「……人間が相手だとはね~」
幸春はスーツの胸ポケットから煙草を取り出し、流れるように火をつける。
そして肺に入れた煙を天井に向かって吐き捨てる。
「あまり時間がなさそうだな……事は慎重に進めるべき、か……」
======
ホープ本部の外周を5周走りきった遼は、空を見上げるように寝転がっていた。
「何寝てるの?」
空から降り立つ玲奈を、遼は睨みつける。
「見て分からないか? 疲れたんだよ!」
「何言ってんの。近距離戦闘の指導は、今から始まるんだから」
遼は目を丸くし、玲奈の背後にいる詩織は、少し嫌そうな顔を浮かべる。
「マジで言ってるのか?」
「マジマジ」
遼の近くに降り立った仁が無理やり遼の体を起こし、訓練棟へ連れて行こうとした。力を振り絞って抵抗する遼だが、仁の力に敵うはずもなく、ズルズルと引きずられる。
「さてと……遼は仁に任せて、詩織は私と一緒に訓練しましょう」
「訓練って……次は何するの?」
「取り敢えず、異次元電脳チャンネルに行って、近距離戦闘のみでゴースト100体倒す」
「ひゃ、100!?」
驚きの表情を浮かべる詩織に対して、玲奈は軽くため息をつく。
「100体程度で驚いちゃダメでしょ? 実戦だと100体以上ゴースト出てくるんだから、この程度で音を上げてもらっちゃあ、困るよ」
驚きのあまり詩織は言葉を失い、玲奈の手によって強制的に転送室に移動させられた。
======
異次元電脳チャンネルにて、黙々とゴーストを殲滅する遼と詩織の姿を見て、玲奈と仁はメモ用紙にペンを走らせる。
そして、仁が遼のある動きを見て、ペンを止める。
「……もしかして、西原……」
仁の呟く声を聞き取った玲奈は、仁とモニターに映し出されている遼を交互に見る。ペンを止めた仁は軽く微笑んで、ペンを机の上に置く。
「何か分かったみたいだね」
「……ああ。悪いが、明日から本番前日まで、西原とマンツーマンで訓練をする」
玲奈はスッと目を閉じて「どうぞ。ご自由に」と言葉を返す。
「そして最終日に西原と月影に模擬戦をさせる」
「……なるほど。どっちが2人を強くさせられるか勝負って訳ね」
仁はニヤリと笑って、玲奈に言葉を返す。
「玲奈と月影には悪いが、西原が勝つ」
仁の自信満々の表情を見た玲奈は、対抗心を燃やした目で仁を見つめる。
「相当な自信ね。仁と遼の泣き顔見るのを楽しみにしているよ」
玲奈の言葉に対して仁は鼻で笑い、お互いの目を見て微笑み合う。
その時、モニターから声が聞こえ、2人は同時にモニターに目を向ける。
『おい!! 100体以上倒したのに、まだ続くのかよ!?』
『玲奈ちゃん……流石に限界……』
訓練を始めたときの動きに比べて、明らかに鈍くなっている2人の姿を見た玲奈と仁は、仕方なさそうな表情を浮かべて、訓練中止信号を電脳チャンネルに送信する。
「流石にオーバーワークだったね。今日は終わり。詩織、離脱して」
玲奈の無線を受け取った詩織は、速やかに電脳チャンネルから離脱した。
「西原も終わりだ。離脱後、ちょっと俺に付き合えるか?」
モニターに映し出されている遼は、少し首を傾げながらも、電脳チャンネルから離脱する。
「それじゃあ、先に上がらせてもらう」
「お疲れ様」
玲奈はそのまま観戦室の椅子に座り続け、仁は足早に遼を迎えに行った。
======
「んで? 訓練終わったのに、まだ何かあるのかよ?」
転送室のベッドの上でスポーツドリンクをガブ飲みする遼に、仁は液晶端末の画面を見せた。
「ん? 何だこれ?」
「お前の近接戦闘用の武器だ。色んな武器を想像していたが、お前のある動きでこれに決めた」
「ある動き?」
キョトンとした表情を浮かべる遼にコクリと頷いた仁は、メモ用紙と液晶端末を交互に見て、遼の近接戦闘スタイルを提案する。
「西原、武器を投げろ」
「はぁ?」
「言葉が足りなかったな。無形武器の剣を投げて攻撃するのが、お前に一番合っていると思う」
「待て待て待てッ!! 端折られた説明されてもピンとこない! もう少し具体的に説明してくれ!」
仁は仕方なさそうな表情を浮かべて、録画していた映像を液晶端末で見せる。手渡された液晶端末を凝視する遼は、ダサすぎる自分の動きを見て思わず目を逸らす。
「我ながら近接になると動きがトロいな……」
「目を逸らすな。大事な部分はもう少しだ」
嫌々ながら自分と向き合った遼は、仁が目をつけたシーンを見る。
「あれ?」
「自分でも気づいたか?」
映像を巻き戻し、もう一度見返すと、疲労でヤケクソになった遼が霊力で生成された剣をゴーストに投げつけていた。遼の手から離れた剣は、目で追えないほどの速さで、数体のゴーストの体を貫いて消滅した。
「俺こんなことしてたっけ?」
「ああ。武器を投げるなと注意しようと思ったが、意外な収穫に思わず笑ってしまったよ」
何度も同じシーンを見続ける遼に、仁は隠れていた遼の才能を口にする。
「お前には人間離れした肩力がある。剣を振る腕力も悪くはないが、こっちの方がお前には合っている。シューターで狙い撃つ訓練もしているからコントロールも良い。どうだ? 俺の意見を取り入れる気はあるか?」
「結構、型破りだな。だが、俺は霊力量はそんなに多くないぞ。何本も無形武器を生成して投げることは出来ないぞ?」
遼の発言に対して仁は軽く微笑み、落ち着いた口調で言葉を返す。
「勿論。これは奥の手に近い戦法。基本戦術も身につけてもらう」
「あ、やっぱり?」
「ただ、ブレーダーはシューターと違って剣を生成してしまえば、霊力を大幅に消費することはない。実際、七色を纏わせた霊力弾を放つより、霊力の剣1本の方が消費する霊力は少ない。中距離をメインとするお前にとっては、一番都合が良い戦術だ」
自分に見合った戦術を見つけた遼は嬉しそうな表情を浮かべて、液晶端末の方に目を向ける。
「あと、お前や月影が他の人たちと同じ戦術をしても勝てないからな」
他人よりも弱いと指摘された遼は一瞬にして表情を強ばらせ、液晶端末を思わず握りつぶそうとする。
「型破りで良いんだ。ダサくても良いんだ。強いと言われるのに形は関係ないんだ。お前はお前で強くなれば良いんだ」
そして仁は遼に手を伸ばし握手を求める。
「あと2週間……いや、Aランクになるまで俺が臨時の師匠になる。望むか望まないかはお前次第だ」
仁の真剣な眼差しを見た遼は、一瞬だけ視線を逸らすが、覚悟を決め、仁の手を握る。
「よろしく頼むぞ。臨時の師匠」
仁と遼は互いに微笑み合い、遼はゆっくりとベッドから腰を上げる。
いつもご覧になっていただき、ありがとうございます!
そして更新が遅れてしまって申し訳ございません……。
ぎっくり腰でした……すみません。
さて、いつも通りにいきます!
続きが気になるという方はブックマーク登録よろしくお願いします!
評価や感想を送っていただけると今後の励みになります!
誤字脱字、文章的におかしな部分がありましたら報告お願いします。
これからもよろしくお願いします!




