イヤな予感
遼と詩織は小隊部屋に戻るなり、玲奈と仁に頭を下げて、ある申し出をした。
「桜井!」
「玲奈ちゃん!」
「俺たちに近接での戦い方を教えてくれ!」
「お願いします!」
なりふり構わず頭を下げる2人を見て、劫火と早紀は慌てて駆け寄り、話しかける。
「自信を失っているのは分かるが、今の状態でも十分昇級することは出来る。焦る気持ちは分かるが、今は長所を活かすべきだ」
「劫火さんの言うとおりです! 近接が苦手だってことは前から知っていましたが、今気にする必要はありません」
しかし、遼と詩織は頭を上げようとはせず、玲奈と仁に頭を下げ続けて懇願する。
「……その様子だと、考え直したみたいだね」
ゆっくりと立ち上がる玲奈に反応するかのように、遼と詩織は顔を上げる。
「劫火さんたちにも言ったけど、私はあんたたち2人をAランクにさせたいの。強くさせたいの。その思いを理解してくれるかな?」
2人は勢いよく頷き、玲奈の言葉に同意した。そして玲奈と仁は顔を合わせて、軽く微笑む。
「劫火さん……すみません。励ましてくれるのは嬉しいですが、俺は自分の弱点を無くしたいです。どうか、わがままを許してください」
「早紀ちゃん。私も遼くんと同じ意見なの……お願い」
劫火は眉をつり上げて、悩んでいるような表情を浮かべ、早紀は劫火の述べる言葉を不安そうな顔を浮かべて待ち続けた。
「……分かった。そのわがまま、今回は許そう」
許しが出たことにより、遼と詩織は明るい笑みを浮かべ、早紀は仕方なそうな表情を浮かべて、肩をなで肩にする。
「ただし、わがままは今回だけにしてもらおう。それと、水澤と仁は二度と乱入しないことを誓ってもらおうか」
玲奈は無言で頷き、仁は深々と頭を下げて、感謝の言葉を述べた。
「はい。肝に銘じます。ありがとうございます」
「全く……これじゃあ、師弟関係の意味がないだろう……と言いたいところだが、近接戦闘に至っては、お前たち2人が教えた方が早そうだな。遼をしばらく頼むぞ。仁」
仁の肩をポンポンと優しく叩いた劫火は落ち着いた足取りで、小隊部屋を後にした。
「劫火さん……ありがとうございます」
部屋から出て行った劫火に対して、仁は呟くように改めてお礼を述べた。
「さてと……それじゃあ、早速教授してあげようか」
玲奈は詩織の目を見つめ、仁は遼の目を見つめた。そして1人になった早紀は、苦笑いを浮かべつつ、4人を見守り始めた。
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「伊澄さん」
「何?」
本部長室に向かう途中で、優一が真里にあることを伝える。
「……近々、レジェンドランクも戦場に出ることになるかもしれない」
「私たちが? 出撃?」
「ああ。厄介なゴーストが現れたんだ。それも俺がアレを使うほどの面倒なゴーストさ」
アレと言うワードに対して真里は目を細め、鋭い視線を優一に向ける。
「アレって……まさか」
「終世プログラム。ゴースト相手に使うことになるとは思ってもいなかった」
「終世プログラム……優一くんの切り札。未だに装備していたことは知っていたけど、まさか使用しただなんて……」
悲しそうな表情を浮かべる真里を見て、優一は優しい笑みを浮かべる。
「心配しないでくれ。この通り元気だし、体に異常はない。使って後悔はしていないよ」
「……お願いだから無理だけはしないで」
優一は言葉を返さず、心配してくれる真里に笑みを見せ続ける。そして2人は本部長室の前で足を止め、インターホンを鳴らす。
『来たな。入れ』
暁美が2人の入室を許可し、扉を開ける。部屋に入ると、2人の目に飛び込んできたのは、ソファーでだらしなく寝そべって煎餅をむさぼり食っている芳香の姿だった。
「水澤司令……少し行儀が悪いと思うんですが……」
優一が苦笑いを浮かべつつ、優しく指摘したが、芳香は改善することなく、そのまま寝転がり続ける。
「おー、来たか。2人とも。朝から自分を偽って堅苦しいことをしたら反動が来ちゃってさ~。もうしばらく横にならせてくれ~」
「横になるのは構わないのですが、寝ながら食べるのはどうかと……」
「一々芳香さんの行動を指摘するな。優一。気にしたところで、この人は改善する気はないんだから」
「暁美ナイスフォロー!」
呆れ顔を浮かべて、暁美はため息をつき芳香に言葉を返す。
「フォローなんかしていません。もう少し司令としての自覚を持ってください」
芳香は耳に手を当てて聞こえないふりをする。その行動に怒りを覚えた暁美だったが、何を言っても無駄だと諦め、優一と真里に目を向ける。
「時間が惜しい。さっさと話を済ませるぞ」
真里は気持ちを入れ替えて、真剣な表情で暁美の話を聞く態勢に入る。
「優一から話は聞いていると思うが、近々レジェンドランクを出撃させることになった。何故出撃させるか分かるか? 伊澄」
「優一くんが終世プログラムを使うほどのゴーストが現れたからですか?」
「半分正解だ。残りの半分は違う理由だ」
真里は目を細めて、暁美を見つめる。
「違う理由?」
「ゴーストを操っている人物が現れた」
驚いた表情を浮かべる真里に対して、優一は話を聞いていないかのように無表情を貫く。
「操っている……誰なんですか!?」
「身元は分からない。ただ、4つのホープ支部にてゴーストの襲撃時に、フードに覆われた人物が現れたとの報告があった。無差別攻撃を行っていたゴーストが、その人物の出現と同時に集団行動を取るようになり、苦戦を強いられたとのことだ。そして、その人物と直接交戦した支部がホープNORTHだ」
「実力者揃いのホープNORTHと直接……」
「AAAランクの隊員10人掛かりで立ち向かったが……」
暁美はスッと目を閉じ、太陽の光が入り込む窓に目を向け、続きを述べる。
「1分も経たないうちに全滅。10人中3人が命を落とした」
「死亡!? 即死されたってこと?」
暁美はコクリと頷く。
「一体何者なのかは知らないが、ホープのバトルサポートの仕組みを知っていて、AAAランク隊員をあっさりと全滅させる程の手練れだ。もし、セントラルの管轄内にヤツが現れたら、犠牲者が出る前にレジェンド全員を出す。理解してくれるか?」
真里は無言で頷き、暁美の言葉を了承する。
「出てきてから出撃じゃ、遅いんじゃないの?」
ソファーの上で寝転がっていた芳香が上半身を起こして、真剣な表情を浮かべる。
「心配は無用です。そのための優一です」
芳香は優一に目を向け、「ほぉ~」と言葉を漏らす。
「行動制限が掛かっているレジェンドと違って、優一はAAAランク。ゴーストが出現し、ヤツが現れたときには戦場にいます。足止めくらいにはなります」
「解決策は把握した。その前に、レジェンドランク隊員に行動制限が掛かっていることに私は疑問を抱いているんだけど、そのことに関して何か説明はないの?」
暁美は気まずそうな表情を浮かべつつ、芳香に言葉を返す。
「ホープマスターが決めたことです。どうすることも出来ません」
芳香は軽く舌打ちし、天井を見つめる。
「何考えてるんだか……現場を見て規則を作れよ」
ブツブツと文句を言い始める芳香を無視して、暁美は優一と真里に目を向ける。
「何か言っているが気にしないでくれ。とにかく、優一はフードが出現したら足止め。伊澄は優一に変わってレジェンドランクの指揮を執ってくれ。話は以上だ」
「了解」
「分かりました!」
優一の気だるそうな声と、真里の元気溢れる声が混ざる。2人は本部長室から出て行き、暁美は椅子に座って脱力する。
「ふー……あまりホープマスターの話をさせないでください」
「しなければ良いじゃない」
「本部長と司令では、司令の方が立場が上。司令の命令なら従うしかないじゃないですか」
芳香はクスリと笑って暁美に目を向ける。
「相変わらず石頭だねぇ。まあ、そんなところが好きなんだけどね」
暁美は頬を赤く染め、芳香から目を逸らす。
「と、とにかく! 機密事項のことに関する話は本部長室以外ではしないでくださいね!」
「はいはい」
面倒くさそうな表情を浮かべながら芳香は言葉を返し、再びソファーに寝転ぶ。だが、優一と真里が入って時とは打って変わって、真剣な表情だった。
「ゴーストを操るフードの戦士……ねえ」
「情報が少ないですが、私が認めたレジェンドたちが負けるとは思っていません」
「私も、あんたが認めている隊員たちが負けるとは思っていないよ。ただ……」
「ただ?」
芳香は深く息を吐いて目を閉じた後に、思いを暁美に伝える。
「何か……イヤな予感がする」
暁美は芳香に言葉を返すことはせず、ただジッと見つめ続ける。
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本部長室から出た優一と真里は、並んで通路を歩いていた。
(私がレジェンドの指揮……想像するだけで緊張する~)
「……緊張することはないよ」
「え?」
真里の心境を読み取った優一は、優しい口調でフォローする。
「こ、心読まないでよ!!」
「読まなくても分かるよ。緊張すると拳作ってしまう癖は治らないね」
優一は真里の両手を見て微笑み、指摘されて真里は思わず両手をスカートのポケットに突っ込む。
「む~。相変わらずの観察眼だね」
「得意分野だからね。折角だし、お茶でもしていかない?」
数十メートル先にあるカフェを指さす優一に、真里は無言でコクリと頷き、2人はカフェへと入っていく。
2人は向かい合うように座り、ホットコーヒーとアイスカフェオレを注文する。注文を終えるなり、優一はキョロキョロと周囲を見渡し、小声で真里に話しかける。
「伊澄さんだから話すけど、本部長室で話してたゴーストを操るフードの人物。実は2回ほど戦ったことがあるんだ」
「ええッ!?」
思わず大声を出す真里に対して、優一は鼻先に人差し指を当てる。
「声が大きいよ。落ち着いて聞いて」
真里はコクリコクリと頷き、話の続きを聞く。
「NORTHのAAAランクがやられたのも頷ける実力だ。実力の無い隊員が会敵すれば瞬殺されるだろう……だが、俺はあるものを見てしまった」
「あるもの?」
「一瞬だけ見えた……八色の光の壁を」
真里は開いた口が塞がらず、優一は真剣な表情で真里を見つめ続ける。
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