上を目指すなら
大変お待たせしました!
転送用のベッドの上で、遼は冷や汗を掻きながら目を覚ます。遼から遅れて数秒後に、別室の詩織も目を覚ます。2人とも呆然と天井の一点だけを見つめ、体を起こすこともしなかった。
「……まさか」
「ほんの数秒で終わっちゃうなんて……」
遼と詩織が玲奈と仁に瞬殺されるシーンを一部始終見ていた真里は、つまらなそうな表情を浮かべる。
「あれ? もう終わっちゃった? 2人とも、もう少し頑張るかと思ったのになぁ~」
モニターを見つめる劫火の体は震え、早紀は納得のいかない表情を浮かべて、モニターから目を背ける。
(これだけあっさりやられちゃうと、本当に心折れるかもね……)
フラついた足取りで遼と詩織は転送部屋の外に出る。そして2人が部屋から出てくるのを待っていた玲奈と仁は、優しく微笑む。
「……いきなりなんだよ。弱いものいじめか?」
遼は玲奈と仁を睨みつけ、詩織は2人から目を逸らす。
「遼と詩織の弱点確認と実力確認」
「毎日会ってて、一々模擬戦しないと実力を確認できないのかよ」
「まあ少し強引だったけどな。実力は十分、分かった」
「瞬殺しておいて何が分かっただ」
遼はイラつく気持ちを抑えながら、その場を後にしようとした。
「待って」
その場を去ろうとした遼を引き留めたのは、玲奈だった。
「私と仁は2人を強くさせたいの」
「そのためには自分たちの弱点と向き合ってもらいたかったんだ」
「向き合わなくたって……強くなれる」
「そうだよ……やっと自信が付いてきたのに……玲奈ちゃんたちは私たちの心を弄んで楽しんでいるの?」
遼は怒りを、詩織は悲しみを滲ませた声で言葉を返す。仁はため息をつき、玲奈は覚悟を決めてスッと目を閉じた。
「弱点を抱えたまま上級隊員になって、下級隊員の見本になれる?」
「見本にならなくてもいい」
即答する遼に対して、玲奈は続けて問う。
「いざって時に弱点を突かれて死んでも良いの?」
「いざって時は撤退機能があるもん……」
玲奈の問いに対して詩織が弱々しい声を漏らす。
2人の胸の内を耳にした玲奈は、スーッと息を吸い込む。
「ざっけんじゃないッ!!」
玲奈の怒鳴り声に驚いた遼と詩織は目を丸くし、隣にいる仁は表情を崩すことなく、壁にもたれかけて様子を見る。
「2人はいつからそんなに弱くなって、何かに甘えるようになったの? 自分の弱さを突きつけられて逃げるようになったの?」
「れ……玲奈」
「玲奈……ちゃん」
「昨日の実戦の撤退でも……ゴーストの数が増えて、予想外のことが起きて、自分たちの戦い方が出来なくなる。そして何もかもが崩れて、悔しそうにする。あんたたちバカじゃないの? もし、あんたたちが仕方ない……これが私たちの今の実力って思っているのなら、その弱り切った根性……私がたたき直してあげる!」
玲奈はツカツカと遼に歩み寄り、頬を思いっきり殴る。
「グフッ!!」
「見本にならなくてもいい? じゃあ、あんたはこれから入隊するであろう人間に対して、弱点があったって良いじゃないかって言うの?」
地面に倒れる遼を心配した詩織が近づいた瞬間、玲奈に胸ぐらを掴まれ、勢いのまま壁にぶつけられる。詩織は声を発することも出来ず、噎せ返る。
「撤退機能がある? それこそ甘えだね。じゃあ詩織は、撤退機能がない私を見捨てるの?」
玲奈は詩織の胸ぐらから手を離し、地面に落とす。
「……気持ちが落ち着いたら戻ってきて。しっかりと話をしようよ」
玲奈は足早にその場を去り、黙って見守っていた仁は壁から背を離し、倒れている2人の様を見る。
「玲奈の言うとおりだ。甘さを捨てろ。お前たちはまだ自覚が足りていない。死ぬかもしれない。多くの人を守らなければならない。もう一度、思い返してから玲奈の前に戻ってこい」
そして2人に背を向けて、歩きながら言葉を残す。
「勘違いだけはするな。お前たちは弱くはない。ただ……今の考えだと、遠からず死ぬことになる。よく考えろ」
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(遠からず死ぬ……か)
去り際の仁の言葉を思い返しながら、屋上で空を見上げる遼は、気持ちを落ち着かせようと深く息を吸う。
「……遼くん」
「ん?」
遼の隣で膝を抱えて座り込んでいる詩織が、ぎこちない笑みを浮かべて話しかける。
「思い返していたら私たち、結構甘い考えだったね」
「……昨日の晩の勢いが完全になくなった上に、いつの間にか……ホープにいる以上、持つべき思いを完全に失っていたよ」
「壁にぶつけられるのも無理ないね……」
「……俺はマジギレした玲奈のグーパンチなんて初めて食らったよ」
2人は同時に鼻笑いするが、心の底から元気が湧いてこなかった。
「……どんな顔して帰れば良いのか分からないよぉ」
涙をスーッと流す詩織を見て、遼は表情を曇らせる。
その時、2人は得体の知れない何かを感じ、同時に屋上の入り口に目を向ける。しかし、目を向けた先には人の姿はなかった。
「い、今のは?」
「何?」
「もっと荒れてるのかと思ったら、結構反省しているようだね」
入り口とは反対方向から声が聞こえ、遼と詩織は一斉に視線を移す。
『い、伊澄さん!?』
「やっほー。2人が気になって、ちょっと遠くから様子を見させてもらったよ」
遼と詩織に歩み寄る真里は、スカートのポケットから紙パックのカフェオレを取り出して飲み始める。そしてビルが並び立つ風景に目を向けながら、2人に話しかける。
「本当は逃げたいんでしょ?」
遼と詩織は黙って真里を見つめる。
「今のあなたたちの気持ちは、少なくとも分かるところはあるよ」
「最強の称号をもらっている人間に言われても説得力がないですよ」
冷静な口調で遼が真里にツッコむ。真里は微笑みながら、言葉を返す。
「最強、最強って私は言われ続けたけど、入隊したときの私は最強とは程遠かったんだよ?」
「でも、公式戦では無敗だって……」
詩織の言葉に反応するかのように、真里は2人に目を向ける。
「確かに公式では無敗。今の私なら誰にも負ける気はしない。だけどね……今の強い私があるのは、他人の思いあっての私なの」
『他人の思い?』
「そう……入りたての私は戦い方の『た』の字すら知らない隊員だった。元々持っていたセンスだけで模擬戦や公式戦は勝っていた。だけど、自分の弱点を突きつけられて、壁にぶち当たったときは、心も折れかけて、思うように体が動かなくなったの」
口を挟むことなく、遼と詩織は真剣に真里の話を聞き、真里はカフェオレを一口飲んでから話の続きを口にする。
「精神は崩壊し、もうホープから身を引こうとした時、今まで一緒に戦ってきた仲間が私の復活を信じていたの。その思いを受け取った私は、弱い自分から強い自分になるために、弱点を受け入れて克服したの」
辛い過去を思い出した真里の表情は、心なしか悲しそうな表情に変わっていた。
「……最強にも、心が折れた時期があったんですね」
「誰にでもあるものだよ。人間は心が折れて、立ち直る度に強くなるんだよ。苦しいかもしれないけど、強くなっている証拠だよ。それと、一度持った目標は絶対に見失わないこと。強くなる上での重要事項だよ」
遼と詩織は表情を和らげ、真里に頭を下げる。
「伊澄さん。ありがとうございます」
「私たち、必ず立ち直ります」
真里は満面の笑みを浮かべて、2人を玲奈の元に送り出す。
「楽しみにしてるよ。2人の強くなった姿を」
遼と詩織は真里に背を向け、屋上から立ち去る。そして、その場に残った真里はカフェオレを飲み干し、スッと目を閉じる。
「盗み聞きなんて趣味悪いよ?優一くん」
「ありゃ? バレてた?」
突如、屋上の出入り口付近に優一が現れる。
「二色を使って姿は消せても、気配と霊力の流れは消せてないよ?」
「二色は気配も消せるんだけどなぁ……それよりも、伊澄さん。ありがとね」
「それは水澤小隊の大丈優一として言っているの? それとも個人的に?」
真里は目を細め、緊張感のない顔を浮かべている優一に目を向ける。
「両方だよ。本来なら俺が動くべきだったんだけど、ちょっと出遅れてしまってな」
真里は軽くため息をつき、屋上に設置されているゴミ箱に、カフェオレの容器を投げ捨てた。
「……で? 私に何の用? ただ会いに来たって訳でもなさそうだし」
優一がニヤリと笑った瞬間、冷たい風が吹き抜ける。
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「……中々、来ないな」
水澤小隊のリビングにて、玲奈と仁は遼と詩織の帰りを待っていたが、2人は中々帰ってこなかった。
「無理もないよ」
玲奈は仁が用意してくれたコーヒーを飲みながら巧みに液晶端末を操作し、ホープ内のニュースが書き込まれている掲示板を見ていた。
「私が2人に対してマジでキレたのは今回で初めてだから。ビックリしているのもあるし、自分たちの考えがいかに甘かったか考え直すには、もう少し時間が掛かるよ」
その時、部屋全体にインターホンが鳴り響く。
玲奈はゆっくりと椅子から腰を上げ、扉の向こうにいる人物を確認する。
「誰?」
『水澤ちゃん。俺だ。劫火だ』
扉の向こうにいたのは、暗い顔を浮かべている劫火と早紀だった。扉のロックを解除し、玲奈は2人を小隊部屋の中に入れ、来客用のソファーに座らせた。
「水澤ちゃん……仁。どうして2人の心を折るようなことをしたんだ?」
開口一番に劫火が口にした言葉はそれだった。
「知ってるくせに、わざと聞いているんですか~?」
玲奈は煽るような口調で劫火に言葉を返す。劫火は真剣な眼差しで玲奈を見つめ続ける。
「弱点を知ってもらい、向き合ってもらうためですよ」
「確かに2人は弱点を抱えている。だが、それでも2人はBランクに昇級するほどの力を持っている。慎重になるべきタイミングで、今日みたいな乱入は如何なものかと俺は思うんだが……」
「……劫火さんは目先のことばかりしか見ていない」
劫火と詩織のコーヒーを持ってきた仁が、柔らかい口調で話しに混ざってくる。
「目先のこと?」
劫火の隣にいた早紀は軽く首を傾げ、仁の言葉を必死に理解しようとした。
「私と仁は、2人のBランク昇級は通過点に過ぎないと見ています」
劫火と早紀はキョトンとした表情を浮かべ、玲奈は続きを口にする。
「Aランク……それを目指すなら、悠長なことはやってられませんよね?」
伊澄ユウイチです!!
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