乱入
大変お待たせしました!
申し訳ございません。
「お……お母さんが、ホープの司令?」
現実を受け入れられない玲奈は、テレビに顔を近づけ、映し出されている芳香を凝視した。
「そんなに近づいたら目が悪くなるよ~」
脳天気な口調で真里が玲奈に話しかける。玲奈は勢いよく振り向き、真里に事実確認をする。
「これって本当ですか!? お母さんが司令になったって……」
真里はニッコリと微笑んで、コクリと頷く。
「玲奈ちゃんがゴーストと戦っている間に、水澤司令を説得したんだよ」
「説得って……一度口にしたことを曲げない性格のお母さんが折れるなんて……」
「折れたんじゃないんだよ。折ったんだよ。私が」
「え?」
少し真剣な表情に変わった真里を見て、玲奈は唾を飲み込む。
「今から話すことは他言無用でお願いね」
玲奈は戸惑いながらも、コクリと頷いて真里の話を聞き始めた。
「玲奈ちゃんと優一くんが戦場で戦っているとき、私と水澤司令はある賭けをして戦ったの」
「賭け?」
「うん。私が勝った場合、ホープの司令として戻る。水澤司令が勝った場合、大人しく帰って、金輪際関わらないようにするって約束だったの」
「それで、伊澄さんが勝った……」
「大正解!! だけど、油断していたら危うく負けるところまで追い詰められたけどね」
苦笑しつつも、真里は芳香が司令になった経緯を話した。
「それでね。司令……いや、お母さんから玲奈ちゃんに伝言があるの」
「私に? 伝言?」
首を傾げる玲奈に対して、真里はニッコリと微笑んで伝言を伝える。
「私は司令としてホープに戻る。戻るからには私情を捨てなくてはならない。人前では母親としてではなく、一隊員として玲奈のことを見る。差別はしない。情けもかけない。玲奈も私を母親として見るのはやめろ……ってね」
「お母さん……」
視線を落とし、少し悲しげな表情を浮かべる玲奈に、真里は優しく玲奈の肩に触れる。
「玲奈ちゃん……お母さんも悩みに悩んだ末の考えだよ。現実を受け止めて、前を見よう」
真里の顔を見た玲奈は、薄らと涙を浮かばせて微笑む。
「ありがとうございます……伊澄さん」
「真里で良いよ」
真里は再びニッコリと微笑み、玲奈は嬉しそうな表情を浮かべて「真里さん」と名前で呼ぶ。
その時、小隊部屋の扉が開き、ある人物が入ってくる。
「まだここにいたのか? 約束の時間過ぎているぞ」
「あ……仁」
「お、仁くんじゃん。おはよう~」
真里を見た仁はキョトンとした顔を浮かべ、少し首を傾げる。
「なんで伊澄さんがここにいるんですか?」
「相変わらず、可愛い顔して冷たいことを言うね」
「別に冷たくしてないでしょ? それより玲奈。準備は良いのか?」
目をゴシゴシと擦り、気持ちを切り替えた玲奈は、元気よく「うん!」と答える。
「あ、約束あったの? ごめんね、時間もらっちゃって」
『大丈夫ですよ』
玲奈と仁は声を重ねる。
「約束って訓練? それとも~?」
「はい訓練です」
即答する仁に対して真里はバツ悪そうな表情を浮かべる。
「なーんだ……ねえ! 良かったら見学させてくれない?」
「構わないですよ……と言いたいところですが、今日は玲奈の訓練じゃないんです」
「玲奈ちゃんの訓練じゃない? どういうこと?」
「それはですね……」
詳細を聞いた真里は目を輝かせる。
「結構面白そうじゃない~! やっぱり見たい!!」
仕方なさそうな表情を浮かべた仁は軽く息を吐く。
「それじゃあ、早速行くぞ」
仁は出口に向かって歩き出し、玲奈と真里はその背中を追った。
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異次元電脳チャンネルで訓練している遼と詩織の様子を、別室で見ている劫火と早紀は、2人の実力について語っていた。
「遼さん。大分七色の使い方が上手くなってきましたね」
「まあな。霊力量は少ないが、使い分けのセンスはある。Bランクの昇級試験も問題ないと思う」
「だけど、相手に詰め寄られると対処に困って、動きが鈍くなってますね」
遼の欠点を突きつけられた劫火は、顎に手を当てる。
「対処として、無形武器の基礎は教えたんだが……イマイチだな。実戦や模擬戦では少し厳しいな」
そして劫火は詩織に目を向け、詩織の状態を観察する。
「……的確な射撃だな。早紀ちゃんが教えたのか?」
早紀は横に首を振って、嬉しそうな表情を浮かべて話す。
「いえいえ。あの射撃センスは最初からです。最大2㎞先の的にブレることなく命中させることが出来ます」
「2㎞先……それ本当に見えて撃ってるのかな?」
「見えてますよ。相手の動き、風向き、自分の残り霊力量に応じて的確な射撃をするのが、詩織さんの特徴です……そして、詩織さんも」
「近距離か……」
「中距離はある程度こなせるんですけど、近距離になると完全に崩れてしまいますね」
「うーん……」
劫火はモニターから目を逸らし、早紀は2人の状態をメモし始めた。
その時、遼と詩織のいる電脳チャンネル内に乱入者が入ってきたことを知らせる警報が鳴った。
「乱入者!? 早紀!!」
早紀は部屋に常設されているパソコンを操作し、乱入者をモニターに映した。そしてモニターが映し出したのは。
「み……水澤!?」
「え? ……お兄ちゃん!?」
モニターに映し出されたのは、翼を広げて飛行している玲奈と仁だった。
「2人とも、遼さんと詩織さんに近づいています!」
劫火は遼に無線を送る。
「遼! 聞こえるか!?」
『劫火さん! 乱入者って?』
乱入者の通知が入っていた遼と詩織だったが、誰が乱入してきたのか分からない状況だった。
「……水澤と仁だ」
遼と詩織は驚きの声を上げ、玲奈たちが来るであろう方向に目を向けた。
「玲奈先輩とお兄ちゃんのバトルサポートの起動を確認!」
「水澤! 仁! 一体何の真似だ!?」
怒鳴り声に近い声で、劫火は玲奈たちに無線を送る。
『何の真似って……今から遼たちと模擬戦するんですよ。2対2の』
「も、模擬戦?」
思いもしてなかった展開に、思わず劫火は声を裏返す。
「やめろッ!! 今の遼や月影の実力だと相手にならない!! 昇級試験前の隊員の心を折るようなことはさせない!!」
『2人の成長具合は把握しています』
「仁!! お前まで何しているんだ!?」
冷静な口調で無線を送ってきた仁に対して、劫火は呆れた表情を浮かべる。
『この乱入は俺の提案です』
「はぁ!?」
劫火と早紀は驚きの顔になる。
『2人には再度、自分たちの弱点を理解してもらうためです。そして、そこから目を背けさせず、向き合ってもらうためです』
「訳の分からないことを言うな!! もういい! 直接止めに行くぞ! 早紀!」
「はい!」
2人が観戦室から出ようとすると、ある人物が部屋に入り、2人の行く手を遮った。
「い……伊澄さん? どうしてここに?」
「私も仁くんの意見に賛成なの。どうしても止めに行きたいのなら、私を倒して」
笑顔を浮かべている真里から、異様なものを感じ取った劫火と早紀は、足を前に進めさせることは出来なかった。
「……一緒に観戦しましょう」
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玲奈と仁が接近しているのを確認した遼と詩織は、ビルの屋上で話し合う。
「冗談だろ? 玲奈と桜井と模擬戦するなんて……」
「遼くん! あと20秒で2人が着いちゃうよ!」
どうすれば良いか分からなくなった遼は、決断を下す。
「……仕方ない。来るもんは拒まずだ。詩織、やれるか?」
詩織はコクリと頷き、ホークを手に取り、スコープを覗く。遼は一色と四色を合成させた霊力弾を生成し、玲奈たちを迎え撃つ準備を整えた。
一方、玲奈と仁はナノマシンの望遠機能を使って、2人の状態を確認した。
「2人とも迎撃準備完了のようだね。一色と四色の合成弾まで待機させてやる気満々だね」
「中距離、遠距離だとこっちが不利。やることは分かってるな?玲奈」
玲奈は仁の言葉に対して笑顔で返す。
「私は詩織を狙う」
「なら、俺は西原だな」
2人はスッと目を閉じて、深く息を吸って目を開く。
「行くよッ!」
「行くぞッ!」
2人は同時に急降下し、遼と詩織との距離を詰める。急降下してきたことを確認した遼と詩織は躊躇うことなく、攻撃を開始する。
「来たよ!」
「これでも食らえ!!」
広範囲にわたって遼は一色と四色の合成弾を放ち、2人の行動範囲を限定させる。
合成弾を躱し続ける玲奈たちに向かって、詩織はホークの引き金を引く。四色を纏わせ、威力と弾速重視の設定にしている銃弾が玲奈たちに向かって飛んでいくが、玲奈には華麗に躱され、仁には銃弾を真っ二つに斬られた。
「嘘ッ!?」
「飛んでくる場所さえ分かれば」
「対処は簡単だ」
玲奈と仁はさらに加速し、2人との距離を詰める。
詩織はその場にいるのが危険だと判断し、ビルから飛び降りる。遼は詩織を逃がすために、さらに霊力弾を放つ。
「近づかせるかよッ!!」
一色を纏わせた赤い霊力弾が濃密にばらまかれるが、玲奈は瞬時に風の流れを読み、仁の腕を掴んで弾幕を回避する。
「遼は任せたよ!!」
「了解!!」
玲奈は仁の腕を放し、逃亡した詩織を追跡した。
「あ! 待て!!」
「お前の相手は俺だ」
玲奈の後を追おうとする遼に対して、仁は斬撃を放つ。間一髪回避した遼は、屋上に降り立つ仁を睨みつける。
「そう怖い顔するな。楽しくやろうぜ」
「桜井……」
遼の両手に赤色の霊力で生成された剣が握られ、それを見た仁は軽く微笑む。
遼と離れ、狙撃ポイントを探している詩織は、ある高層ビルに向かって駆けていく。
(あの建物なら……)
翼を広げて飛ぼうとした瞬間、右翼が消滅し、飛ぶことが出来ない状態になる。
「くッ!!」
痛み自体はないが、思わず顔を歪め、詩織は背後に目を向ける。
「やっぱりね。あんたが次に選ぶ狙撃ポイントは、さっきのビルと同じ、それ以上の建物の屋上。バレバレだよ」
「玲奈ちゃん……」
詩織は右手に黄色の霊力で生成した剣を握りしめ、切っ先を玲奈に向ける。玲奈は両刃剣を鞘から抜き、攻撃態勢に入る。
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