伝える想い
親睦会という名の穂香の所属祝いがお開きとなり、玲奈たちはそれぞれの個室に入って眠りについた。
布団に入って数分もしないうちに玲奈は寝息をかき、気持ちよさそうに眠る中、遼と詩織は眠ることが出来ず、同時に個室から出る。
「あ……詩織」
「遼くん……遼くんも眠れないの?」
「まあな」
詩織は笑みを浮かべて、遼にホットミルクを作る。
「はい! 熱いから気をつけてね」
熱々のホットミルクを息で冷まして飲もうとした遼は、白玉のような白い肌に、艶のある詩織の唇に見とれてしまう。顔が赤くなっている遼に気づいた詩織は、ホットミルクを一口飲んでから遼に声をかける。
「どうしたの? 遼くん。私の顔に何か付いてる?」
遼はブンブンと首を振って、ホットミルクを口にする。口に付着したミルクをティッシュで拭った遼は、軽くため息をついた。
「いつもありがとう……気をつかってくれて」
詩織はクスリと笑って、残っているホットミルクを飲む。その後2人に会話はなく、設置されている時計の秒針音だけが小隊部屋に響く。
(やっべ~。いつもはスッと会話が出てくるのに……今に限って話すことがねえ……どうすれば良いんだ?)
視線を合わせようとしない遼に疑問を抱いた詩織は声をかける。
「本当に大丈夫?」
遼は言葉を返さず、コクリと頷く。
再び静まり返ろうとする空気を拒むように詩織が遼に尋ねる。
「遼くん……なんで遼くんは強くなりたいの?」
遼は沈黙を守り、詩織は話を掘り下げようとする。
「ホープになれない人のため? お姉さんのため? 亡くなった両親さんのため? 玲奈ちゃんのため? それとも他の理由?」
真剣な眼差しで詩織は遼を見つめ、遼はスッと目を閉じて長い沈黙の末、詩織に言葉を返す。
「……ホープに入る前は、街の人を守りたい……玲奈やお前と肩を並べて戦いたいと思って努力をしていた」
遼は詩織に目を向け、気持ちを伝えようとする。
「だけど、今は違う……何のために強くなりたいって、はっきり言えないけど、以前とは思っていることが変わってきたんだ。だけど、未だに俺は弱いままだけどな……詩織は何のために強くなりたいんだ?」
曖昧な答えだけ述べた遼は、詩織に同じ質問をする。詩織は少し遼から視線を逸らし、微笑みながら思いを口にする。
「私は玲奈ちゃんのために強くなりたいんだ」
「玲奈のため?」
遼は首を傾げ、詩織は答えの理由を述べる。
「正確には玲奈ちゃんのお荷物にはなりたくないって思ってるの。玲奈ちゃんは強いし、飛び方も綺麗だから手助けはいらないと思うの。玲奈ちゃんには不安を抱えることなく戦ったり、飛んでもらいたいの。だから、自分の身は自分で守るために強くなりたいの」
「詩織……」
遼は眉をハの字にして視線を落とす。
「それに……遼くんに振り向いて欲しくて」
詩織は口が滑ったことに気がつき、遼は「え?」と拍子抜けた声を漏らして詩織を見つめる。今度は詩織が顔を真っ赤にして、遼から視線を逸らした。
「俺に振り向いて欲しいってどういうことだよ?」
詩織は恥ずかしがりながら思いを口にする。
「う~……だって、遼くんいつも玲奈ちゃんのことばっかり見て私のこと見てくれないんだもん。遼くんは玲奈ちゃんみたいに強い女の子が好きなんでしょ? だから私も強くなって遼くんの目に止まるような女の子になりたいと思って……」
遼の思考回路は一瞬凍結し、呆けた顔で詩織を見つめ、詩織は顔を手で隠し、モジモジする。
「は……はああぁぁ!?」
思わず大声を出した遼の口を詩織は両手で塞ぐ。
「シーッ!! 大きな声出すと玲奈ちゃん起きちゃうよ~」
口を閉じたと確認した詩織は遼から手を離し、玲奈の個室に目を向ける。玲奈が部屋から出てくる気配はなく、詩織はホッと胸を撫で下ろす。
「悪い……大きな声を出してしまって……勘違いしているようだが、俺は玲奈のことは友達だとしか思ってないし、好意は一切ない。寧ろあっちから迫ってきても俺から断る。強い女の子が嫌いってわけじゃないけど、アイツの横に俺が立つなんて恐れ多い」
「じゃあ、何でいつも玲奈ちゃんを見ていたの?」
「飛び方は見ていたけど、決して気があって見ていたわけじゃない」
真相を聞いた詩織はガクッと肩を落とし、大きく息を吐いた。
「ど、どうした? 大丈夫か?」
「大丈夫……ただ、チャンスがあってホッとしただけ」
「え?」
遼は目を丸くし、詩織は覚悟を決めて真剣な眼差しで遼を見る。
「遼くん。私、前から遼くんのことが好きなの。遼くんは私のことどう思っているか分からないけど、どうか思いを受け止めてくれる?」
「し、詩織……またまた~。俺をからかうなんて、趣味悪いぞ~」
しかし、遼は詩織の目を見た瞬間、冗談じゃないと察し、顔を真っ赤にして詩織から目を逸らす。
「ま……マジなのか?」
「うん」
詩織の即答により、遼はさらに顔を赤くする。
「ほ、本当のことを話すと……俺もお前のことを思って強くなりたいと思っていたんだ」
恥ずかしがりながらも、遼は思いを口にし、詩織は目を丸くする。
「俺はいつもお前に支えてもらって戦ってきた。学校の時も、今回の実戦でも。俺は密かにお前に想いを寄せていたんだ。月影詩織という人間がいたから、俺はここまで来られたんだ」
「遼……くん」
「詩織。覚悟できたよ。俺もお前のことが好きだ」
思いを口にした遼の顔から照れはなく、凜とした表情で詩織の目を見つめていた。詩織はコクリコクリと頷き、嬉し涙を流す。2人は互いの手を取り、あることを決意する。
「俺たちは玲奈あっての存在」
「こうやって結ばれたのも玲奈ちゃんのお陰だね」
「詩織はお荷物なんかじゃない」
「遼くんは弱くない」
「2人で玲奈を支えてやろう」
「2人で玲奈ちゃんを支えよう」
再び2人は堅く手を握り、微笑みながらそれぞれの個室に戻っていった。
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(……なんだぁ? この2人)
翌朝、目を覚ました玲奈は遼と詩織の距離に違和感を感じていた。
「詩織、皿だしておいたぞ」
「ありがとう遼くん。遼くんコーヒーは微糖のミルクたっぷりで良かった?」
「いや、今日からブラックで頼む」
「分かったよ」
(イヤイヤイヤ!! おかしいでしょ? 遼が詩織の手伝いをしているなんて……詩織も詩織で嬉しそうな顔で遼のコーヒーなんか作ってんじゃないわよ!)
「どうしたの? 玲奈ちゃん」
詩織が玲奈の顔を見て、頭上にハテナマークを浮かべる。
「朝から真剣な顔してどうしたんだ?」
キョトンとした表情を浮かべながら遼は、玲奈の向かいに座る。
(どうしたんだって聞きたいのはこっちだよ!!)
玲奈は心の声をグッと抑え込み、ブスッとした態度で言葉を返す。
「何でもないよ。朝は低血圧だから話しかけないで」
2人は首を傾げて、朝食を食べ始める。玲奈は2人をチラチラと見ながら、机に顔を伏せる。
「ふぅ。ごちそうさま」
「さてと、今日も劫火さんのところに行ってくるか」
詩織は食器に向かって手を合わせ、遼は立ち上がって背伸びをする。
「先に行ってて。片付けてから行くから」
「分かった。早紀ちゃんにそう伝えておくよ」
遼は颯爽と部屋から出て行き、詩織はササッと洗い物と洗濯を行い、顔を伏せている玲奈に声をかける。
「じゃあ、玲奈ちゃん。私行くから留守番よろしくね」
「はいはい」
玲奈は適当に返事をして、詩織を送り出した。そして1人になった玲奈は、顔を上げて独り言を言い始める。
「……ダメだ。頭の弱い私じゃ状況が理解できない」
「あれ? 玲奈ちゃん悩み事?」
「はい……2人が仲良かったのは前から知ってたんですけど、今日は何か距離が近すぎるような気が……え?」
玲奈1人しかいない部屋に女性の声が聞こえ、玲奈は周囲を見渡す。
すると玲奈の視界が真っ暗になり、笑い口調でその人物は玲奈に話しかける。
「だ~れだ?」
「え? えッ!?」
「分からないかな?」
真っ暗な視界から解放された玲奈は背後に目を向ける。
「おはよう! 玲奈ちゃん」
「い……伊澄さん!? いつ入ってきたんですか?」
「ひ・み・つ」
玲奈は顔を引きつりながら、真里の顔を見つめる。そしてため息をついて、キッチンに足を運ぶ。
「来るのは構わないですけど、ちゃんとインターホン押してくださいよ~」
「えへへ。良いタイミングで詩織ちゃんが部屋から出て行ったから、気配を消してこっそり入ったの」
玲奈は呆れ顔を浮かべ、コーヒーカップを用意する。真里は玲奈が座っていた椅子に座り、声をかける。
「あ、飲み物大丈夫だよ。持参してるから」
真里はスカートのポケットから紙パックのカフェオレを取り出して、嬉しそうな顔で飲み始める。玲奈はコーヒーを作るのを中断して、真里の向かいに座る。
「で? 朝早くから何の用ですか? まさか、冷やかしに来たって訳じゃないですよね?」
真里は微笑みながら、玲奈に言葉を返す。
「冷やかしじゃないよ。前に言ったでしょ? ちょくちょく遊びに来るって」
「言ってましたけど、朝から来るとは思ってませんでしたよ。それにアポなし」
嫌そうな顔を浮かべる玲奈とは対照的に、真里は笑みを浮かべ続ける。
「実はね……もう少ししたら、見てほしいものがあるの」
「見てほしいもの?」
真里は玲奈の了承を得る前に、テレビを操作する。
「ホープ内の情報発信チャンネル……私に何を?」
「もうそろそろだから待って」
玲奈は真里と共にテレビに視線を向ける。そして時刻が9時になった瞬間、暁美の姿が映し出される。
『日々精進している隊員のみんな。おはよう。突然だが、みんなに紹介したい人物がいる』
テレビに映し出された人物を見て玲奈は目を丸くし、思わず口を開けてしまう。
『初めまして。本日付でホープ本部の司令に任命されました水澤芳香です。以後、お見知りおきを』
テレビ越しで芳香を見た玲奈は、頭がショートし、視線を動かすことが出来なくなった。
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