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Hope〜希望を信じて〜  作者: 伊澄 ユウイチ
吉塚小隊と玲奈
70/80

親睦会

 水澤小隊の部屋に招かれた吉塚小隊の4人は、お客用のソファーに背筋を伸ばして座っていた。


「……なんで私たちがここに居るの?」


 面倒くさそうな表情を浮かべる紗也華に、隼人は笑みを浮かべて声をかける。


「水澤先輩の要望だからね」


 紗也華は眉をつり上げて、引きつった表情を浮かべる。


「約束なんだろ? 彼女の謝罪を素直に受け止めるって」


 飲み物や食べ物の準備をしている玲奈たちを見つめながら、直人が紗也華に尋ねる。


「受け止めるって約束したけど、馴れ合いたいなんて一言も言ってないんだけど?」


「でも、僕たち他の小隊に誘われることなんてなかったから、ちょっと嬉しいかも……」


 孝太朗が自信なさげな声で呟くと、紗也華は目を光らせて孝太朗を睨みつける。睨みつけられた孝太朗は体を震わせ、直人にくっついた。


「おい、孝太朗! くっつくな!」


「す、すみません……」


「待たせてごめんね。もう少しで準備が終わるみたいだから」


 直人たちに声をかけてきたのは、ビールを片手に持った穂香だった。穂香の顔を見た紗也華は露骨に嫌そうな顔を浮かべ、直人たちはキョトンと呆け顔になる。


「穂香さん……未成年はお酒飲んだらダメなんですよ?」


 真面目な表情を浮かべながら直人は指摘する。穂香はその場で固まり、直人の言葉を耳にした3人は笑いをこらえるのに必死だった。


「な、直人さん。それは……」


 次の瞬間、直人の体が宙に舞い、大きな音と共に床に転がる。


「だ~れ~が~未成年だって? 見かけで人を判断するなって前にも言ったよね?」


 穂香はビールをテーブルの上に置いて、拳をポキポキと鳴らす。隼人と孝太朗は穂香をなだめ始める。


「ほ、穂香さん。悪気があって直人は言ったんじゃないんだ」


「お嬢様、怒った表情も素敵ですが、自分はやっぱり微笑んだ表情の方が好みですね」


 すると隼人の体が直人と同じように吹き飛ばされ、床にたたきつけられる。


「て……手厳しいですね」


「鳥肌立つような台詞を吐くな。クソナルシスト」


 隼人は気を失い、黙って見ていた紗也華は深くため息をつく。穂香は紗也華の隣に座り、グラスに残っていたビールを飲み干す。


「……紗也華ちゃん。ウチの隊長、玲奈ちゃんはどうだった?」


 紗也華は穂香から目を逸らし、準備作業をしている玲奈に視線を向ける。


「どうでしたって……まあまあですよ」


「翼を狙撃されたとき、どう思った?」


 模擬戦の後半がフラッシュバックした紗也華は目を細めて、穂香に言葉を返す。


「……正直、マグレだと思っていたんですが、冷静に振り返ると良い狙撃だと思いましたよ」


「でしょでしょ? なんで飛びながら狙撃できたか気にならない?」


「……別に」


 2人の会話を黙って聞いていた孝太朗が口を開ける。


「僕は気になります!」


 いつも弱々しい声しか出さない孝太朗が強い口調で話したことで、穂香と紗也華は少し驚いた表情を浮かべる。


「孝太朗さん……」


「良いよ~。何でも教えてあげるよ~。まず、精密な狙撃が出来たのは、私の自信作のシステムのお陰なの~」


「システム?」


 首を傾げる孝太朗に、穂香は自信満々に話を続ける。


「思想変換システム。強く抱いた思いを様々な力に変換するシステム。そのお陰で玲奈ちゃんは精密な狙撃が出来たんだよ」


「思いを変換?」


 孝太朗はさらに首を傾げ、紗也華はため息をついて「バカバカしい」と呟いた。


「まあ話せば長くなるから、気になるんだったらまた後で話すよ。そして紗也華ちゃんの翼を狙撃できた理由はもう一つ……」


 紗也華は穂香を視界に入れ、孝太朗は唾を飲み込んだ。


「玲奈ちゃんは風の流れを読んで、紗也華ちゃんの動きを先読みしたの」


『動きを先読み?』


 紗也華と孝太朗は声を重ね、頭上に疑問符を浮かべる。


「彼女は風読みって言う特技を持っているの。どんな感じで風を読んでいるのかは不明だけど、風読みの力を使って人を魅了させてしまうような飛び方をしてきたんだよ」


 紗也華は再び玲奈に目を向ける。


「風読み……か」


「おっ邪魔しま~す」


 元気が溢れる声が小隊部屋に響き渡り、全員部屋の入り口に目を向ける。


「誘い言葉に乗りに来ました」


「劫火さん! 早紀ちゃん!」


 部屋に入ってきたのは劫火小隊の3人だった。玲奈は明るい笑みを浮かべて、3人を迎え入れた。


「仁も来てくれたんだ」


「ああ。何も手伝わないで来てしまってすまないな」


 玲奈はブンブンと首を横に振って3人に空のグラスを手渡す。


「全員揃ったし、そろそろ始めましょうか。穂香さんは我慢できなかったみたいですけど」


「遅いぞ~劫火くん」


 穂香に声をかけられた劫火は苦笑いを浮かべて、用意されていたビールをグラスに注ぐ。ソファーの後ろで寝ていた隼人と直人は起き上がり、全員で1つのテーブルを囲む。


「それでは穂香さんの所属祝いと親睦会を始めます! みなさん飲み物の準備は良いですか?」


 全員のグラスに飲み物が注がれていることを確認した詩織は、玲奈に目で合図を送る。


「忙しい中、集まってくれてありがとうございます! 料理もお酒もジュースも沢山用意しています。今日は私たちのことを知って帰ってください。それでは乾杯!!」


『乾杯!!』


 皆それぞれの飲み物を喉に通し、料理に手を伸ばす。



 ======



 本部棟の最上階に設けられた個室料亭にて、暁美と芳香はある人物の到着を待っていた。


「暁美、今から来る人物には私が司令だってことを伝えているの?」


「はい」


「それならいいけど……」


「どうかしたんですか?」


「部外者だと思われるのはちょっと嫌なの」


 暁美はクスクスと笑って暁美の不安を払う。


「今から来る人物に部外者も関係者もあったもんじゃないですよ」


 その一言を聞いた芳香はテーブルの上に並んでいる魚の刺身に箸を伸ばす。そして刺身を一切れ口に頬張った瞬間、料理長が待ち人が来たことを伝えに来る。


「失礼します。お約束の方が到着されました」


「ありがとう」


 料理長と入れ替わりで入室してきたのは、高身長で細身の男性。


 顔は整っており、女子ウケ良さそうな雰囲気を漂わせているが、無精髭にだらしなく伸びた髪を後ろで束ね、スーツやシャツはシワシワのヨレヨレを着用。


 俗に言うモテそうなのにモテない残念な男性が、暁美と芳香の向かい席に座る。


「お待たせして申し訳ないね」


「待たせた割には身だしなみがなっていないわね」


 男は笑いながら暁美の言葉をさらっと流す。暁美はため息をついて、芳香に男性の紹介をする。


「芳香さん。彼がナノマシン開発部の部長。藤田幸春ふじたゆきはるです」


 紹介された幸春は無我夢中で刺身を頬張っている芳香にペコリと頭を下げる。


「紹介に預かりました藤田です。あなたが新司令の水澤芳香さんですね。気軽に幸春と呼んでください」


「よろしくどーも」


 幸春はニッコリと笑みを浮かべて芳香を見つめるが、芳香は幸春と目を合わせず、興味なさそうな表情を浮かべる。


「んで? 新司令と共に俺を呼び出して何の用だ? 暁美は」


 暁美は表情を引きつりながら、幸春に言葉を返す。


「仮にも私は本部長なんだけど? もう少し、言葉を選んだらどう?」


「長い付き合いじゃないか。偉くなった途端、冷たく接してくるのはどうかしてるぞ」


「そのマイペースな性格が羨ましいよ」


 嫌味を吐きながら暁美は額に手を当て、幸春は何故か嬉しそうな顔を浮かべる。


「それほどでも~」


「褒めてないわよ」


「どーでも良いから本題に入ったら?」


「新しい司令は結構冷静な人ですね」


 やる気なさそうな芳香の言葉に、何か言いたげな表情を浮かべる暁美だが、ため息をついて本題に入った。


「芳香さんにはまだ話してなかったのですが、先日優一が単独調査中に、生きた人間に憑依したゴーストと接触した報告がありまして……」


 憑依したゴーストというワードに反応した芳香は刺身に箸を伸ばすのをやめ、鋭い目つきで暁美に目を向ける。


「憑依? まさか!!」


「いいえ。憑依されたのは一般人です」


 芳香は奥歯をギリッと鳴らして、話の続きを聞く。


「外見は普通のゴーストと見分けがつかない上に、優一が苦戦を強いるほどの戦闘力とのことです」


「当時の対処は?」


「優一のナノマシンに搭載されている特殊システムにて処理。憑依された人間は残念ですが……」


 悔しそうな表情を浮かべる暁美を横目に、芳香はお猪口に入っている日本酒を飲み干す。


「そうか……」


「今後も人間に憑依したゴーストが現れるかもしれません」


「そこでナノマシン開発部の部長も加わって対策会議ってこと?」


 幸春はニッコリと笑みを浮かべ、暁美はスッと目を閉じて酒を口にする。


「見た目、性格に難ありですが、技術は本物です」


「……開発部長を交えるのは構わないけど、役者が1人足りないんじゃないの?」


「……優一ですか?」


 芳香はコクリと頷き、お猪口に酒を注ぎ足す。


「対峙した本人がこの話に混ざらないと進まない」


「了解しました。明日から優一にも参加してもらいます」


「頼む……暁美」


 淡々と話が進んでいく中、幸春は芳香をジッと見つめていた。


(最強の称号を手にしていた水澤芳香。今度は隊員ではなく、隊員を使役する司令となって戻ってきた……ホープ創設に関わった大丈優一の両親が認めるほどの実力者。今後の働き……期待してますよ)



 ======



(あ~、やっぱり大勢の人がいる空間は苦手だ……)


 具合の悪そうな顔をする紗也華は、離れたソファーに座り込んでいた。楽しそうに会話をする玲奈たちを見つめながら、オレンジジュースを一口飲む。


「具合でも悪いのか?」


「桜井先輩……大丈夫ですよ。少し休めば楽になりますから」


 紗也華に声をかけた仁は、紗也華に了承を得ることなく横に座る。


「……覚醒。何故使った?」


 数時間前の模擬戦の話を持ち出してきた仁に、紗也華は暗い表情で言葉を返す。


「……深い理由はありません。ただあの時は水澤玲奈という人間に腹を立てていたからです」


「嘘つくな。嘘をついてるときのお前の顔は、生きた人間の顔をしていないぞ」


 紗也華は仕方なさそうな表情を浮かべて、仁に胸の内を話す。


「覚醒を使わなかったら私は……空中戦を強いられて負けていました。入隊したばかりの人間に対して覚醒を使うなんて大人げないことは理解しています。だけど、直人さんたちを馬鹿にされたことだけは許せなかったんです。たとえ、他人を奮い立たせるための言葉だとしても……」


 隊服の裾をギュッと握る紗也華を見て、仁は玲奈に目を向けて手招く。仁の手招きに気がついた玲奈は、場の空気を壊さないように抜け、仁と紗也華のいるソファーに足を運ぶ。


「紗也華……少し、3人で話をしないか?」


 玲奈と仁を交互に見た紗也華はコクリと頷き、誘いに乗った。3人は静かに小隊部屋を後にし、その場に残った全員は温かい目で3人を見送った。

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