覚醒・獣化
「聞いたぞ玲奈。今から紗也華と模擬戦だって?」
玲奈の転送室に顔を出した仁は、冷やかす気満々の顔を浮かべて玲奈の様子を見る。
「どうしたんだ? その顔?」
痛々しい顔になっている玲奈を見た仁は、冷やかそうと思っていた気持ちを捨てて玲奈を心配する。
「ちょっと無理しちゃって……」
無理矢理笑みを作って原因を有耶無耶にしようとする玲奈に変わって、穂香が顔の傷のことを仁に話す。
「紗也華ちゃんに謝ったらこうなったの」
「謝って?」
「でも後悔はしていない。あの時の暴言も……紗也華ちゃんに言った謝罪も」
真剣な眼差しを浮かべる玲奈を見た仁は、微笑んで背を向ける。
「あまり無茶はするな。西原や月影が心配するぞ」
「えへへ……肝に銘じるよ」
出口に向かおうとする仁だが、立ち止まって背を向けたまま玲奈に声をかける。
「……余計なお世話かもしれないが」
「何?」
「高峯紗也華はお前が思っている以上に強い。今のお前だと勝機は五分五分。油断や手抜きが出来る相手じゃない。気を引き締めろ」
一方的に言葉を残して部屋を後にする仁の背中を見て、玲奈はスッと目を閉じる。
(……バカ仁。そんなの言われなくても分かるし、油断も手も抜かない)
玲奈は少し口元をつり上げ、笑みを浮かべる。
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異次元電脳チャンネルに転送された玲奈は紗也華の転送を待った。
『玲奈ちゃん。今回の模擬戦だけど、公式のルールと同じで紗也華ちゃんは200メートル離れた場所に転送されるわ。中距離攻撃戦から始まるかもしれないから頭に入れておいて』
「分かりました。気をつけます」
玲奈は穂香からの無線を返し、200メートル先に転送された紗也華に目を向ける。
『両者転送確認。時間になったから始めるよ』
観戦部屋には水澤小隊と吉塚小隊、さらに劫火小隊が固唾を飲んで見守っていた。
『5・4・3・2・1』
カウントダウンが始まり、玲奈はキャノンに手をかけ、紗也華は無形武器の双剣を携える。
『戦闘開始!』
開始と同時に玲奈はキャノンの銃口を紗也華に向け、一色を纏わせた銃弾を数発放つ。迫る銃弾を見て紗也華は目を細め、態勢を低くしながら一色の銃弾を躱し、玲奈との距離を詰める。
(躱された?)
玲奈は瞬時に両刃剣を手に取り、紗也華の無形武器の刃と交わらせる。鍔迫り合いになり、2人は同時に後退して再び刃を交わらせる。
「……甘い」
紗也華がポツリと呟くと玲奈の体は弾かれたように後退し、高層ビルを突き抜ける。
「ガハッ!?」
一瞬何が起きたのか分からなかった遼と詩織は仁に解説を求める。
「玲奈が弾き飛ばされた? どうなってるんだ?」
「七色だ。七色の衝撃の力を無形武器に纏わせて玲奈を吹き飛ばしたんだ」
「衝撃の力? 七色目って霊力消費が大きいから序盤ではあまり使わないんじゃ……」
仁は腕を組んで詩織の疑問を晴らす。
「確かに入隊したときの講習ではそうやって教えられるが、短時間で終わらせるなら話は別だろ?」
ビルを突き破った玲奈は瓦礫を押しのけて立ち上がる。
「ケホケホッ! いきなり七色を使ってくるなんて……やる気満々じゃん」
「体の内にも衝撃を走らせたつもりなんですけど、効かなかったみたいですね。まあ斬っちゃえば関係ないですけどね」
再び紗也華は玲奈に急接近し、双剣を振るう。刃の軌道を瞬時に見極めた玲奈は剣で受け止めたり、体を動かして回避する。
「意外とすばしっこいですね」
「意外でしょ? この体でも早く動けるんだよ?」
ニヤリと笑みを浮かべながら対処する玲奈は、一瞬の隙を見て紗也華に対して剣を横に振る。冷静に玲奈の太刀筋を見切った紗也華は後方に跳び、回避する。
お互いに譲らない近接戦が続く中、観戦していた遼が口を開く。
「どうして……玲奈は飛ばないんだ?」
「飛んだら玲奈ちゃんが負けるはずないのに……」
詩織も意見が一致し、2人は不安げな表情を浮かべる。その表情を見た仁は2人に言葉を返すことなく、ジッと玲奈と紗也華の戦いを見守る。
「飛ばないんですか?」
紗也華は一向に翼を広げない玲奈に問いかける。息を切らしつつ、玲奈は紗也華に言葉を返す。
「対戦相手の心配する余裕があるの? 私を飛ばしたければ飛ばせてみれば?」
玲奈の両刃剣が赤く輝き、その輝きを目にした紗也華は大きく左に飛び跳ねる。紗也華のいた場所に赤い斬撃が飛んでいき、直径20メートルに及ぶ爆発が生じる。
「チッ……感づかれた」
(斬撃に一色を纏わせるなんて……いや、桜井先輩が師匠なら納得は出来るか。水澤玲奈……認めたくないけど動きといい、技術といい、Aランク以上……)
紗也華は玲奈の姿を視界に入れて、目を細める。
(それにまだ翼を広げていない。数時間前の戦闘で少し見たけど、空中戦に至ってはランクでは測れないほどの異質な飛び方。だけど何故飛ばない。理解できない。自分が得意とする舞台で戦えば勝機は大幅に上がるというのに……舐めている?)
その時、玲奈がニヤリと笑い、その笑みを見た紗也華は玲奈の思考を読み取り、冷や汗を流す。
(こいつ……私が先に飛ぶのを待っている。自分から先に飛んでしまうと地上から狙撃されて、翼を失う可能性がある。それに、後から飛んできた方が後ろに回ることが出来る有利性がある。それに加えてあの異質な飛び方。先に飛んだら確実に仕留められる……そうなると私の負け。ならば、私が選べる選択は……1つ)
「水澤玲奈」
「呼び捨てかよ……」
ダルそうな表情を浮かべる玲奈を無視して、紗也華は言葉を述べる。
「お前の狙いは分かっている。私が飛ぶのを待っているんだろ?」
「だったら何?」
紗也華はニヤリと笑い、何かを感じた玲奈は思わず身構える。
「お前に対して先に飛ぶのは自分から勝負を終わらせるようなもの。わざわざ勝利を譲るつもりは微塵もない。だから……」
対峙している玲奈は当然、観戦していた人間全員が紗也華に注目する。
「私は……私の全力を使って、お前を叩き潰すッ!!」
その一言を聞いた隼人は咄嗟に紗也華に無線を送る。
『紗也華!! それはッ!!』
隼人の呼び止めは虚しくも紗也華を止めることは出来ず、紗也華はスッと目を閉じる。隼人に遅れること数秒、仁も紗也華がやろうとしていることに気づき、慌てた声で穂香に指示する。
「穂香さん!! 2人を強制離脱させてください!!」
「仁くんダメ!! 紗也華ちゃんの周辺に膨大な霊力反応!! 近くにいる玲奈ちゃんと紗也華ちゃんのナノマシンがこっちの操作を受け付けないよ!!」
仁は悔しそうな表情を浮かべ声を漏らす。
「遅かったか……」
「何が……」
「始まるの?」
遼と詩織は2人を映し出している映像を見つめる。
異次元電脳チャンネルで流れている水は止まり、吹き抜けている風は止み、景色が一気にモノクロへと変わる。突然起きた異変に玲奈は動揺し、佇んでいる紗也華に目を向ける。紗也華の周辺には黄金色の霊力が現れ、彼女を包み込む。
そして紗也華は呟く。
「覚醒……獣化」
紗也華を包み込んでいた黄金色の霊力が、紗也華の体の中に入り込む。すると紗也華は四つん這いになり、苦しそうな呻り声を上げて体を痙攣させる。
「かな……しいかな……これを使うと……10分しかここには居られないけど……お前を倒すには……それだけで……十分!!」
紗也華に金色の尻尾が生え、歯は鋭い牙となり、爪は伸び、鋭く尖る。金色の髪が光り輝き、瞳の色が青色に変わる。
深く息を吸った紗也華は空に向かって咆哮し、異次元電脳チャンネルに響き渡る。
そして2人のナノマシン状況を管理していた穂香のパソコンに、紗也華の残り時間を表すタイマーが表示される。
「こ……これが紗也華ちゃんの本気……」
そして一瞬の出来事だった。
玲奈は腹部に違和感を覚え、視線を腹部に向ける。そこには紗也華の脚があり、玲奈の体は数百メートル先に飛ばされる。たった一撃で玲奈の体は戦闘不能に近い状況に陥り、やっとの思いで立ち上がる。
「イツツ……」
そして自分の意思とは裏腹に体は紗也華を恐れ、震え始める。
(体が言うこと聞かない……)
「よかった……まだダウンしていない……簡単にダウン……させませんよ」
地面が抉れるほど駆けてくる紗也華を見て、玲奈は覚悟を決めて翼を広げる。間一髪、紗也華の鋭い爪が届く前に空に逃げた玲奈は震える体を酷使して、キャノンを構える。
「チャージ弾モード! 一色装飾!」
キャノンがチャージ弾をチャージし始め、限界まで集約されたチャージ弾が勢いよく紗也華に向かっていく。紗也華は咆哮した後、向かってくるチャージ弾を手で掴んで、玲奈に向かって投げ返す。
「そんなッ!?」
自分が放ったチャージ弾が返ってくることを知った玲奈は、目を大きく開き、為す術なくチャージ弾をまともに食らう。
「玲奈!」
「玲奈ちゃん!」
翼を広げたまま墜落する玲奈の姿を見た遼と詩織は、体の力が一気に抜ける。地面に墜落した玲奈はダウン宣告を受けることなく、異次元電脳チャンネルに残り続ける。
「まだダウンが宣告されない……高峯のヤツ……手を抜いて玲奈を痛めつけるつもりか?」
「やめてくれ、紗也華!! もうやめてくれ!!」
懇願する隼人の声は紗也華には届いておらず、紗也華はうつ伏せで倒れている玲奈にゆっくり近づく。
「どう? ……完全に心を折られる気分は?」
「グッ……カハッ!! ……ハァッ……ハァッ」
紗也華は玲奈の頭を掴み、野球のボールを投げるように玲奈をビルに向かって投げつける。ビル数個を突き破った玲奈は、コンクリートにめり込み、視界がかすみ始める。
「……いい眺めだよ。水澤玲奈。最後に……苦しみながら敗北を受け入れろ」
紗也華は玲奈の首を絞め、窒息させようとする。息が出来なくなった玲奈は視界が真っ暗になり、瞼を閉じようとする。抵抗する力が弱くなったのを感じた紗也華はニヤリと笑い、勝利を確信する。
(勝った……あまり気持ちのいい勝ち方じゃないけど……私は勝った!)
しかし、喜んでいられたのも束の間。
紗也華は異様な寒気に襲われ、思わず玲奈を手放し、大きく後退する。
「……まだ……まだだよ。私は……まだ負けてない」
震える声と共に、玲奈は立ち上がり、紗也華を睨みつける。
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