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Hope〜希望を信じて〜  作者: 伊澄 ユウイチ
吉塚小隊と玲奈
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謝罪と怒り

 紗也華の入隊当時の話を聞いた玲奈は勢いよく立ち上がり、カフェから出て行く。


「水澤先輩?」


 隼人は首を傾げ、仁は呆れた表情を浮かべてため息をついて、直人や孝太朗に目を向ける。


「あいつのことは気にしないでください。大体想像つきますんで」


『はぁ……』


 直人と孝太朗の声が重なり、仁は机に肘を置いてスッと目を閉じる。



 ======



 買い出しを終えた遼、詩織、穂香の3人はショッピングモールの通路を歩いていた。


「玲奈のヤツ遅いな……」


 両手にビニール袋をぶら下げた遼がボソッと呟く。隣にいた詩織が優しく遼に言葉を返す。


「まあまあ。心配しなくても良いじゃない」


「……そうだな。あいつの心配は野暮だったな」


「ちょっと……2人とも。歩くの早いよ」


 2人は同時に振り向いて、声のした方向に目を向ける。そこには両手で一生懸命ビニール袋を抱えている穂香の姿があった。


「あーあ。だから言ったじゃないですか。俺が一番大きいヤツ持ちますって」


 遼は呆れた表情を浮かべつつ、穂香に駆け寄る。


「一番年上なのに……一番軽いヤツを持つのは……」


 息を切らしながら懸命に前に進もうとする穂香のビニール袋を取り上げた遼は、一番小さい袋を手渡す。


「女性には優しくですよ」


 少し頬を染めながら遼は前を見る。穂香はニッコリと笑みを浮かべて、遼の横に並ぶ。


「案外、可愛いところあるじゃん。遼くん」


「だッ! ……黙ってくださいッ!」


「素直じゃないところも可愛い~。ね? シオリン」


 詩織は苦笑いを浮かべて「そうですね」と軽く流す。


 その時、3人の前にある人物が横切り、全員脚を止める。


「あれ? 玲奈じゃん」


「そうだね……」


「キョロキョロしてるようだけど……」


 玲奈がある方向に視線を移し、走り去っていく。


「……何だあいつ?」


 遼と詩織は首を傾げ、穂香は走り去っていく玲奈の背中を見て目を細める。


「遼くん。シオリン。先に帰ってて」


 穂香は詩織にビニール袋を押しつけて玲奈を追う。目を合わせる遼と詩織はため息をついて、仕方なさそうな顔を浮かべて小隊部屋へと歩みを進める。



 ======



 生活棟の非常階段に座り込んでいる紗也華は鼻をすすり、赤く腫れた目をゴシゴシと擦る。


(なんで……いつもみたいに我慢できなかったんだろう)


 カフェでの自分の言動を悔い、自然と目から涙がこぼれ落ちる。


(直人さんたちはあの女にペコペコするし、桜井先輩もあの女に肩入れしてるし……あの女……水澤玲奈。あの女だけは……許さない)


 スカートの端をギュッと握りしめ、脳内で玲奈の顔を浮かべる。


(何が本当にAランクなの? ……直人さんや孝太朗さんが努力してやっと手に入れたAランクを……あの女)


 その時、勢いよく非常扉が開き、眩い光が入り込む。光に目を潰されそうになった紗也華は手で目を保護し、ゆっくりと目を慣らした。そして自分に向かって歩いてくる人物の顔を確認する。


「はぁッ……はぁッ……やっと見つけた」


「水澤……玲奈!!」


 紗也華は玲奈を睨みつけ、今にも噛みつかんと言わんばかりに呻り声を上げる。


「……あなたに用があるの」


「私はない。お前の顔なんて見たくない。とっとと失せろ」


 冷たく重い口調で紗也華は玲奈との会話を拒否する。息を整えた玲奈は、座り込んでいる紗也華に目線を合わせ、思いを口にする。


「酷いこと言ったね……ごめんね」


 紗也華は歯ぎしりし、目にも止まらぬ速さで玲奈の首を掴む。


「謝るな!! お前なんかに謝られることなんてない!!」


「うぐッ!? ……ギッ!」


 玲奈の首を絞めている紗也華は握力を強める。息が出来ずに玲奈は声を思うように発せなかった。


「聞くけど、誰に何をして謝ったんだ? 直人さんたちに対する暴言のことか? 私から桜井先輩を盗ったことに関しての謝罪か? それとも自分の立場の保身のためか? どうなんだよ? 言ってみろよッ!!」


 紗也華は壁めがけて玲奈を叩きつける。ゲホゲホと噎せ返る玲奈は、首に手を当ててゆっくりと呼吸し始める。


「……吉塚小隊に関しての……暴言全てのことに」


 紗也華の中で何かが切れ、玲奈の腹部を思いっきり蹴りつける。例えがたい痛みが走った玲奈は、吐き気を抑えながら蹲る。


「嘘だよ……見え透いた嘘だよ。本当は自分の立場を守りたいからでしょ? 言い過ぎた、言葉を間違えたと思って私に謝りに来たんでしょ? そして私が許して終わりって算段だったんでしょ? 私は騙されないよ……私はお前を絶対許さない。私を変えてくれようとしている人たちを……侮辱したお前は死んでも許さない」


 蹲っている玲奈の頭を紗也華は躊躇いなく踏みつける。地面に頬をつける玲奈は「ごめんね」と弱々しい声で謝罪し続ける。


「まだ言ってる……鬱陶しいんだよッ!! その腐った頭粉々にしてやるッ!!」


 本気で玲奈の頭を砕こうと紗也華は脚を上げる。紗也華の脚が落ちてくるのを見てしまった玲奈は、目を閉じて踏みつけを食らうことを覚悟する。


 しかし、紗也華の脚が玲奈の頭に落ちてくることはなかった。


「う……嘘でしょ?」


「……ん?」


 玲奈が目を開けるとそこには紗也華の脚を、脚で受け止めていた穂香の姿があった。


「穂香……さん?」


「面白そうなことしてるじゃない。玲奈ちゃん」


「邪魔しないでくださいッ!!」


 紗也華は踏みつける脚に力を込め、穂香の脚ごと玲奈の頭を踏みつけようとしたが、穂香は涼しい顔を浮かべて眼鏡の手入れをし始める。


「な、なんで?」


「ただのナノマシン研究員だと思った? 残念。戦えるナノマシン研究員なのよ。私は」


 穂香は紗也華の脚を押し返し、バランスを崩させ、伏せている玲奈の顔を確認する。


「あーあ。これまた酷くやられてるじゃない。可愛い顔が台無しじゃない」


「穂香さん……」


「悪いね。見守っているつもりだったけど、ヤバそうだし出てきちゃった」


 ユラリと立ち上がる紗也華に目を向けた穂香はニッコリと笑みを浮かべる。


「あんたの気持ちも分かるよ。だけどね、自分の思いを抑えきれず、手を出してしまうのは良くないね」


 紗也華は自分は悪くないと言わんばかりの表情を浮かべ、穂香から視線を逸らす。何とか自分の力で起き上がれた玲奈は、顔の痛みに耐えながら紗也華に目を向け、再び頭を下げる。しかし、紗也華は動くどころか玲奈とは目を合わせず、口も開けなかった。


「……平行線だね。よし! それじゃあ、こうしよう!」


 穂香はポンと手をつき、2人にあることを提案する。


「今から2人で模擬戦して、玲奈ちゃんが勝ったら高峯ちゃんは、玲奈ちゃんの謝罪をきちんと受け止める。高峯ちゃんが勝ったら気が済むまで玲奈ちゃんに何をしても良いってことにしない?」


「はい。お願いします」


 玲奈は穂香の提案に即答する。対照的に紗也華は口を頑なに開けようとしなかった。


「受けようじゃないか」


 声が聞こえた入り口方向に全員目を向けると、そこには隼人の姿があった。


「隼人……何勝手に返事してるの? 私は模擬戦なんかする気はないんだけど?」


「水澤先輩が意志を固めて、お前に反撃することなく謝り続けたんだ。ただ痛めつけて、許しませんなんて外道のすることだよ。もう少し大人の考えをするんだ。紗也華」


 紗也華は眉をハの字にし、隼人と玲奈を交互に見る。2人の真剣な眼差しを見た紗也華は、仕方なさそうな表情を浮かべて、視線を落とす。


「……分かった。受けるよ」


「思い立ったら即行動。それじゃあ、30分後に異次元電脳チャンネル3の住宅市街地で」


 紗也華はその場から逃げるように去っていき、隼人は玲奈と穂香に軽く頭を下げて紗也華を追う。


「……ねえ玲奈ちゃん」


「なんですか?」


 玲奈は痛みが走る顔を撫でながら穂香に目を向ける。


「なんで謝ったの?」


 玲奈は視線を落とし、穂香はさらに続けて話す。


「何があったのかは分からないけど、謝って良いときと悪いときがあることは覚えておいた方が良いよ。でないとさっきみたいにボコボコにされるかもしれないよ?」


「……ええ。分かっていますよ。だから謝ったんです」


「え?」


「穂香さんには感謝しています。彼女と模擬戦ができる流れは私の予定通りです」


 穂香は背筋をゾクつかせ、目を丸くして玲奈を見る。そして玲奈は不気味に微笑む。


「蹴られても何もしなかったのは、彼女に模擬戦を拒否する選択肢を捨てさせるためです」


「まさか……全部計画通りってこと? ただ単にあの子と模擬戦をしたいために?」


「だけど、ここまで本気で蹴られるとは思いませんでしたけどね」


「あなたって……本当に面白いね」


 穂香は苦笑いを浮かべて、玲奈の顔の手当をし始めた。



 ======



 本部長室に呼び出された優一たちレジェンド7人は横一列に並び、姿勢を正して待機していた。入り口の扉が開き、一斉に視線を向ける優一たちは素速く敬礼する。


「みんなご苦労様。伊澄。戻れ」


「はい」


 暁美は横にいた真里は駆け足で優一たちの横に並び、姿勢を正す。


「敬礼解除」


 暁美の冷静な口調に反応した優一たちは敬礼をやめる。本部長席の前で立ち止まった暁美はスッと目を閉じる。


「お前たちを呼んだのは他でもない。紹介したい人がいる。入ってきてください」


 優一たちは再び入り口に目を向け、その人物を視界に入れる。部屋に入ってきたのは黒いスーツを身に纏った芳香だった。芳香からあふれ出ている何かを感じ取った優一と真里は、一瞬だけ体をヒクつかせる。


 そしてレジェンド8人の前に立ち、腕を組む。


「初めまして。私は水澤芳香。明日からこのホープ本部セントラルの司令を務めさせてもらうわ。以後よろしく」


 事情を知っている真里以外はザワつき、優一は目を細める。

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