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Hope〜希望を信じて〜  作者: 伊澄 ユウイチ
吉塚小隊と玲奈
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高峯紗也華3

 入隊希望者の控え室に辿り着いた直人たちは、紗也華を探す。第2科目試験を終えた希望者たちがウロウロしていたが、紗也華の姿だけがなかった。


「直人さん……」


 隼人の表情が強ばり、直人は「フン」と鼻息を立てる。


「彼女はもうここには戻ってこないぞ」


 直人たちの背後から話しかけたのは優一だった。


「あまりここで突っ立ってると希望者の邪魔になる。安心しろ。ちゃんと彼女の元に連れていってやる」


 優一は直人たちに背を向け、ゆっくりと歩み始める。直人たちは言葉を返すことなく、優一の背中を追う。


「彼女の特別入隊試験のことは他の希望者たちも知っているし、試験映像も見せる。だが、正規隊員たちには秘密ということになっている」


「試験内容は他言無用と言うことか」


 直人が優一の背中に向かって呟く。


「……すまないな」


 優一の突然の謝罪は直人たちの虚を突いた。


「なんで優一さんが謝るんですか?」


 隼人は優一の進行方向の前に立ち塞がり、謝罪の理由を尋ねた。優一は無表情を保ち、あっさりと隼人を躱してそのまま前に進む。


「先に謝っておかないと彼女がもし壊れてしまったときの責任は……俺にもあるからな」


 躱された隼人は驚いた表情を浮かべつつ、優一の後を追う。


「桜井仁……若くして、AAAランク隊員でブレーダー部門で1位をマークしている天才。その師匠である優一さんがそんなことを言うってことは、桜井隊員の勝利は濃厚だと言いたいんですか?」


 孝太朗は優一にビビりながら声を出す。相変わらず優一は表情を崩すことなく、前だけを見て言葉を返す。


「仁の勝利……ってだけなら良いんだが。生憎なことに、あいつは他人を見下す悪い癖がある。普通に勝負が決するならまだしも、彼女の心を踏みにじるようなことがあるかもしれない」


「それは師匠が弟子に教えるべきことなのでは?」


 直人が冷たい口調で優一に指摘する。


「それが出来ていればとっくの昔にやっている。それに、これはあいつの精神的な問題なんだ。俺が口を出してもあいつのためにもならないし、時間の無駄だ」


 そして優一たちはある部屋の扉の前で足を止める。


「さあ。彼女の全力を拝見させてもらうじゃないか」


 部屋の扉が開き、奥では暁美とレジェンドランク隊員7人が巨大モニターの前で佇んでいる姿が見えた。優一たちもモニターの前に立ち、今から始まる特別試験の観戦に集中する。



 ======



 三度、異次元電脳チャンネルに転送された紗也華は、澄まし顔で対戦相手の到着を待つ。


『高峯紗也華候補生の転送を確認』


 機械的な声が異次元電脳チャンネルが創り出した市街地に響き渡り、間髪入れずに暁美が口を出す。


『審判。候補生じゃないわ。もう隊員よ』


『失礼しました。次からは気をつけます』


 暁美は軽く息を吐き、紗也華に声をかける。


『色々と振り回してごめんなさいね。もうじき対戦相手が到着するわ。緊張してる?』


 紗也華は表情を和らげ、暁美に無線を送り返す。


「緊張はしてません。寧ろワクワクして体が熱いです」


『それは結構。ルールを再確認します。制限時間は無し。1回のダウンで即終了。あなたは縛りがないから思う存分力を出し切りなさい』


 スッと目を閉じた紗也華は不敵な笑みを浮かべて、転送されてきた仁を見つめる。


「分かりました」


「……こちら桜井。無事転送されました」


 仁の転送を確認した暁美は、試験開始宣言をする。


『これより、高峯紗也華隊員の特別試験を開始する。カウントダウン開始』


 異次元電脳チャンネルの上空にうっすらと数字が浮かび上がり、審判が数字を読み上げる。


『5・4・3・2・1』


 0を告げられる前に2人は重心を低くし、紗也華は霊力で生成された黄色の双剣を握りしめ、仁は左腰に携えている『霊楼剣』に手をかける。


『0! 開始ッ!!』


 開始と同時に2人の姿が消え、鉄と鉄がぶつかり合う音が響き渡る。再び2人の姿が見えたときは、鍔迫り合いになっており、刃から火花が散る。


「申し訳ないけど、さっさと終わらせますよ!」


 紗也華は脚と腕に力を集中させ、仁に押し勝とうとした。仁はため息をつき、呆れた表情を浮かべて、少しだけ腕に力を込める。


「え?」


 仁に押し勝とうとしていた紗也華だったが、あっさり後方数メートルほど飛ばされ、建物に衝突する。


(押し負けた? 全力で押しに行ったのに?)


 紗也華は何が何だか分からず、混乱しつつも仁の姿を視界に入れる。


「どうしたの? 攻めてこないと終わらせられないよ?」


 見え見えの挑発に乗ってしまった紗也華は、地面を思いっきり蹴り、一瞬にして仁の懐に潜り込む。しかし、双剣を振ろうとしたその時。


「霊楼剣技」


 仁がポツリと呟いた瞬間、紗也華の視界がブラックアウトし、仁を見失う。そして振り切った双剣からは、何かを斬った感覚は無かった。


(視界が……何も見えない)


「夜桜・一閃」


 真っ暗な世界の中でギラリと刃の輝きを目にした紗也華は、瞬時に左側に飛んだが、刃は紗也華の右肩を捉えた。


「ぐッ……」


 右肩から痛みが走り、真っ暗な世界から解放された紗也華は仁の姿を視界に入れつつ、血があふれ出ている右肩を押さえる。


「ほぉ。終わらせるつもりだったけど、ギリギリで避けるか……だけど、右腕は死んだね」


 紗也華の右肩の傷は深く、もげる寸前だった。表情を歪めながら、紗也華は仁を睨みつける。


「いたぶる趣味はないから……次で終わらせようか」


「……まだだ。まだ終わらないッ!!」


「言ってることが矛盾してるね。さっきは早く終わらせたいって言ってたのに」


 紗也華は取れかけている右腕を引きちぎり、右手が持っていた黄色の剣を口にくわえる。獣のような目つきをする紗也華を見て、仁は再びため息をつく。


「そんな目をしても、君の不利な状況が覆ることはない」


「……その余裕。いつまで保っていられますか?」


 息を切らしながら、再び仁の懐に潜り込もうとする紗也華だが、仁は再び視界を暗くさせようとする。


「させるかぁ!!」


 紗也華は仁の持っている剣を振らせまいと押さえ込もうとする。振り切れないことを知った仁は、自由の利く左手で紗也華を殴り飛ばす。


「ガハッ!?」


 再び建物に受け止められた紗也華は噎せ返りながら、ユラユラと立ち上がる。


「新人。ギブアップを勧める。これ以上は無意味だ。君の実力はよく分かった」


「ハァ……ハァ……何言ってるんですか? 私は……まだ本気を出してません」


 わずか数十秒の戦闘でボロボロになっている紗也華の姿を見て、仁はため息をついた。


「愚かだね」


「何!?」


「君が自分自身の評価をどれくらいしているかは分からないけど、少なくとも実力者相手には最初から全力で挑むのが礼儀だよ。そんなことも分からない相手に、負けるわけにはいかないね」


 正論を突きつけられた紗也華は一瞬表情が固まり、不敵な笑みを浮かべる。


「……本気を出してしまうと、周りが見えなくなってしまうんですよ。最初から出すわけにはいかないんですよ」


 すると紗也華が失ったはずの右腕が霊力によって形が再現され、その場で紗也華は四つん這いになる。


「もう後には退けませんよ」


 紗也華の目が光り輝き、一瞬で姿を消し、仁を地面に押しつける。間一髪、防御が間に合った仁は歯を食いしばって紗也華を押し返す。大きく後退した紗也華は呻り声を上げて、再び仁に接近する。


(こいつ……自分の心を)


 獣のような動きをする紗也華を見て、仁は目を細める。


「君の本気……へし折らせてもらうよ」


 霊楼剣を地面に突き刺した仁は瞼を閉じて、霊楼剣技を発動させる。


「霊楼秘技・百花繚乱」


 地面に突き刺さっている霊楼剣の刃が桜色の霊力を纏い始め、開眼した仁は霊楼剣を引き抜き、紗也華に向かって斬撃を飛ばす。しかし、飛んでいった斬撃は虚しくも紗也華の拳によって消滅させられる。


 脚を止めることなく、仁の前に辿り着いた紗也華は、急所である心臓めがけて剣を突き刺そうとする。紗也華が狙っている場所を瞬時に察した仁は、咄嗟に左腕を犠牲にして紗也華の剣を止める。


(やはり急所を狙ってきたか……あくまでも勝ちにこだわるのか)


 仁はフッと笑みを浮かべて、霊楼剣に霊力を送り込む。


「左腕1本くらい……くれてやるよ!!」


 横一線を描いた仁の霊楼剣は紗也華の首と胴体を離れさせ、紗也華に敗北を与えた。


 紗也華の戦闘不能を確認した電脳チャンネルは紗也華を現実世界に戻し、仁を勝者として称えた。


『戦闘不能を確認! 高峯ダウン! よって勝者桜井仁!』



 ======



 悪夢から覚めるような目覚めの悪さによって、紗也華はベッドの上で天井を見つめていた。


(私が……負けた?)


「紗也華!」


 転送室の中に入ってきたのは隼人だった。隼人は寝そべっている紗也華の傍まで駆け寄り、顔色を見る。


「……隼人。私……負けちゃった」


 心なしか無気力の声を漏らす紗也華に、隼人は静かにコクリと頷く。


「なんだ隼人。お前の知り合いか?」


 隼人は背後を振り向き、部屋の入り口にいる仁を睨みつける。


「桜井さん……」


 仁は隼人に構うことなく、寝ている紗也華に声をかける。


「まずは対戦ありがとう。面白かったよ」


 紗也華はゆっくりと上体を起こして、仁の目を見る。


「そうですか……」


 気落ちしているのが目に見えて分かる紗也華に、仁は低い声で話す。


「……悔しいのか?」


 紗也華は悔しそうな表情を浮かべて、ゆっくりと頷く。


「それなら良かった」


 仁は安心の笑みを浮かべ、紗也華と隼人は目を丸くする。


「最初の鍔迫り合いで分かったよ。君は今まで挫折というものをしてこなかった。それが今日までの君の力であり、力の限界でもあった」


 隼人はツカツカと仁に歩み寄り、胸ぐらを掴む。


「何偉そうなことを!」


「やめて……隼人」


 隼人は紗也華の弱々しい姿を見て、渋々仁の胸ぐらから手を離す。


「今後のためのアドバイスだ。これからいっぱい挫折して、新しい心の支えを見つけろ」


 仁は紗也華と隼人に背を向けて出口に向かう。


「良い動きだった。次戦うときを楽しみにしている」


 扉は閉まり、隼人は眉間にシワを寄せて、思いっきり床を踏みつける。


「桜井のヤツ!! ちょっと実力があるからって偉そうに!!」


 そして紗也華に目を向け、優しく声をかける。


「紗也華。気にすることはないよ。言わせておけばいい」


 しかし、隼人の声が聞こえてないのか、紗也華は仁が出て行った扉を見続ける。


「ん? 紗也華?」


「……桜井先輩」


 紗也華の頬が薄らと染まり、視線を下に落とす。そして隼人の腕を掴み、懇願する。


「隼人! 私を隼人のいる小隊に所属させて!」


懇願する紗也華の目は涙を浮かべつつも、しっかりと前を見ている目だった。



======



 廊下を1人歩く仁を待っていた優一が声をかける。


「珍しいな。お前が他人にアドバイスなんて。俺はてっきり心を折りに行ったのかと思ったぞ」


「酷いですね師匠。僕を何だと思っているんですか?」


 優一はクスクスと笑い、仁はため息をついた後、クスリと笑みを浮かべる。


「……久しぶりでしたよ。手が震えるくらい強い相手に会えたのは」


 仁の右手をチラリと見た優一はスッと目を閉じる。仁は歩き出し、優一はその背中を見送る。


(ハンデがあったとはいえ、仁から腕1本持っていくとは……これだから隊員はやめられないんだよな~)


 嬉しそうな笑みを浮かべた優一は、離れていく仁に背を向け、歩き出す。

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