高峯紗也華2
紗也華は入隊試験者の控え室で目を閉じて呼吸を整え、リラックスして実技試験に備える。
「次の方~。高峯紗也華さん」
試験の案内人が紗也華の名前を読み上げ、反応するように紗也華は目を開け、案内人の前に立つ。
「はい」
「実技試験の第1科目を始めます。こちらに」
紗也華は案内人の後ろを歩き、ある場所に向かう。そして連れられた場所はベッド1つしかない部屋だった。
「それではベッドの上で横になってください」
紗也華は指示されるがままにベッドの上で横になって目を閉じる。
「異次元電脳チャンネルに転送するためにヘルメットを装着します。装着10秒後に転送しますので、そのまま目を閉じててください」
紗也華は声を出さずにコクリと頷き、転送の時を待った。そして次に目を開くと、そこは高層ビルが建ち並ぶ市街地に彼女は佇んでいた。
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異次元電脳チャンネルに紗也華が転送されたのを確認した吉塚小隊の3人は、小隊部屋で彼女の入隊試験を見届けていた。
「直人さん、始まりますよ」
孝太朗が直人に目を向けて、声をかける。直人は返事をすることなく、腕を組んでモニターを見つめ続ける。それを見た隼人は不安を抱えながらも、紗也華の実力を信じてモニターに目を向ける。
(紗也華……君なら直人さんを認めさせられると信じているよ)
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『それでは実技試験。第一科目の説明に入ります。これから50体のゴーストが現れます。事前に設定されたバトルサポートの武器を使用して倒してもらいます。手段は問いません。ですが、制限時間は10分とさせていただきます。準備はよろしいですか?』
試験官からの無線に紗也華は「はい」と返事をして、真剣な眼差しに変わる。そしてゴースト50体が現れ、試験が始まる。
『それでは……始め!!』
初めの合図と共に紗也華の姿が一瞬にして消え、あるビルの屋上に姿を現す。姿を現した数秒後に、50体のゴーストが一斉に消滅し始める。そして最後の1体が消滅した瞬間に、制限時間のカウントダウンが止まる。
あまりの出来事に、モニターで見ていた直人と孝太朗は目を丸くする。
『は?』
隼人は思わずニヤリと笑い、殲滅時計を見つめる。
『じょ……状況終了。記録……3秒フラット』
紗也華は「ふぅ」と息を吐いて異次元電脳チャンネルから離脱する。
「何だ? あの動き……」
孝太朗はモニター越しで起きたあり得ない現象に驚きを隠せず、何度も「あり得ない」と呟く。直人は声を上げることが出来ず、何も映っていないモニターを見つめ続けていた。
「驚いたでしょ? 僕はアレを学校で何度も見ていますよ。何度見ても寒気がするくらい速くて、鮮やかでしょ?」
しかし、直人は首を横に振る。
「まだ第1科目が終わっただけだ。第2科目を見てから決める」
隼人はため息をついて、モニターに目を戻す。入隊希望者全員の第1科目の実技試験が終了し、数十分後に第2科目の試験が始まる。
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入隊希望者全員が異次元電脳チャンネルに転送され、試験官が全員に無線を送る。
『これより第2科目の試験を始めます。実技試験はこれが最後になります。試験内容は入隊希望者全員でのバトルロワイヤルです。この試験の結果次第では後に与えられるランクにも関わってきます。みなさん全力で挑み、ベストを尽くしてください』
しかし、入隊希望者全員から返事は帰ってこなかった。なぜなら、圧倒的なタイムでゴースト50体を殲滅させた紗也華の存在が全員の心を折ったからだった。
(ベストなんて……)
(尽くしても意味ないよな……)
希望者全員の思いは1つとなり、バトルロワイヤルを行える状況ではなかった。
その状況をモニター室で見ていた試験官が頭をガリガリと掻いて、頭を悩ませていた。その時、試験官の無線サポートが反応する。
「はい。私です」
『どうしたの?』
「き、霧峰本部長!!」
試験官に無線を送ったのは本部長である暁美だった。
『試験が始まらないから無線を送らせてもらったわ。どうしたの?』
「そ、それがですね……」
試験官は暁美に全てを話し、暁美は「うーん」と悩んで試験官にある提案をする。
「ほ、本部長!! 本気ですか!?」
『たまたま本部長室に来ていて了承をもらったよ。彼女にも伝えなさい』
「……はい。分かりました」
試験官は暁美との無線を切断し、紗也華に無線を送る。
「高峯紗也華さん」
『はい……何でしょうか? まだ始まらないんですか?』
紗也華はやる気のなさそうな声で無線を返す。
「あなたは今から離脱しなさい」
『どうしてですか!? ……まさか!』
慌て始める紗也華を試験官は優しくなだめる。
「違う違う!! 不合格とかそんなんじゃないです。ただ、他の希望者のモチベーション向上のため、あなたには第2科目を棄権してもらって、特別試験を受けてもらいたいの」
『特別試験?』
「そういうことなので、離脱願います」
紗也華はスッと目を閉じ、不敵な笑みを浮かべて「分かりました」と言葉を返して電脳チャンネルから離脱する。
紗也華が離脱したのち、バトルロワイヤル方式の試験が始まる。
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「どういうことだ? 第2科目の試験に紗也華がいない」
隼人は目を細めて、第2科目の試験を見続ける。
「始まる前に離脱していたよ」
直人が腕を組みながら隼人の疑問に答える。
「離脱? 自分から棄権したのか?」
「いや、離脱する前に無線で話していたようだった。何を話していたのかは分からないが……」
(彼女……笑っていた?)
突然無言になる直人を隼人は見続ける。その時、小隊部屋のインターホンが鳴り、孝太朗が訪問者の確認をする。
「はい、吉塚小隊です……え!? い、今開けます!」
孝太朗の異常な動揺を確認した直人と隼人は、訪問してきた人物に視線を向ける。
「よう。みんなおそろいで入隊希望者の試験を見てるなんて、勉強熱心ですね」
陽気な口調で部屋の中に入ってきたのは。
「大丈……優一さん」
直人は目を細めて優一を睨みつけるように見る。優一はニコニコ顔で直人たちにあることを伝える。
「第1科目で派手にゴーストを殲滅したあの子と関係があるんだろ?」
「あったら何ですか?」
直人は冷たく優一に言葉を返す。
「暁美からの伝言だ。入隊希望者、高峯紗也華は実技第1科目にて、素晴らしい結果を残したため入隊を認める」
その一言を聞いた隼人はパァッと明るい笑みを浮かべて、自分のことのように喜びを露わにする。
「ほ、本当ですか?」
「ああ。暁美は既に認証書類を作っていたよ」
「直人さん! 紗也華の入隊が確定しましたよ!」
しかし、直人の表情は険しく、視線は再び優一に向けられる。
「優一さん……その話には続きがあるでしょ?」
優一は「あらら……」と呟き、クスクスと笑って話の続きを述べる。
「直人の言うとおり。入隊が確定して終わりってわけじゃないんだ」
隼人と孝太朗はキョトンとした表情を浮かべ、直人は優一から視線を逸らす。
「彼女には第2科目試験が終了次第、特別試験を受けてもらう」
『特別試験?』
隼人と孝太朗は声を重ねて首を傾げる。
「そうだ。正規隊員と1対1の勝負。彼女が勝てば、それ相応のランクを与えると暁美は言っている。正規隊員は七色の使用禁止。銃弾は通常のものを使用する。飛行も無し。ただし、個人的に使用している特殊技の使用は有りだ」
正規隊員の縛りを聞いて、3人は無言で頷く。
「そして彼女の相手となる隊員は……」
一瞬にして3人の表情が変わり、直人も驚きの声を上げる。
「優一さん……正気ですか?」
「俺は乗り気じゃないが、暁美が珍しく無茶を言うもんだから仕方なく手を貸してやったんだ」
3人は顔を青ざめさせて、一斉に小隊部屋から飛び出す。直人たちを見送った優一はニコニコ顔から無表情になり、ゆったりとした歩みで小隊部屋を後にする。
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控え室に戻った紗也華は別の試験官と共に別室に足を運ぶ。移動中、紗也華はニヤニヤと笑みを浮かべる。紗也華の笑みを見てしまった試験官は顔を強ばらせる。
(何だこの希望者? 不気味すぎるんだが……)
試験官はある部屋のインターホンを鳴らし、自分の名前と紗也華を連れてきたことを伝える。すると扉が開き、紗也華と試験官は部屋の中に入る。
「連れてきてくれて、ありがとう。お疲れ様」
「いえ!」
試験官は素速く目の前にいた女性に敬礼し、部屋の隅に身を寄せる。紗也華は女性を見つめ、女性が紗也華と目を合わせる。
「初めまして。私は霧峰暁美。このホープ本部の本部長です」
紗也華は目を大きく開き、驚きの表情を浮かべる。暁美はニッコリと笑みを浮かべ、紗也華をソファーに座るよう促す。
「し、失礼します」
紗也華はソファーにゆっくり腰を下ろし、ソワソワし始める。
「急に呼び出してごめんなさいね。緊張しないで私の話を聞いてくれる?」
「は……はい」
(この状況で緊張しない方が無理でしょ?)
紗也華は苦笑いを浮かべつつ、暁美の話を聞く体勢に入る。
「単得直入に言わせてもらうわ。あなたは合格よ」
「合……格?」
暁美はコクリと頷いて、紗也華の合格を祝う。紗也華自身も嬉しさが緊張を上回って、思わず拳を握る。
「でも、第2科目試験を受けてませんが、大丈夫ですか?」
「あなたの第1科目を見ていた人間なら納得できるでしょ?」
「そういうものですか?」
「ここでは私が認めたら全部大丈夫なの」
理不尽とも言える暁美の言葉を聞いた紗也華は「好き勝手な人間」と暁美を見て思い込む。
「第1科目を圧巻の動きでクリアしたあなたに提案なんだけど?」
暁美が提案し始めた瞬間、空気は重苦しくなり、紗也華も本能的にヤバい提案だと悟る。
「なんでしょうか?」
「特別試験を受けてもらうって話は聞いてるでしょ?」
「はい」
「その特別試験なんだけど、正規隊員と1対1の模擬戦をしてもらいたいの」
紗也華は驚きの表情を浮かべ、目をパチパチさせる。
「正規隊員と?」
「そう。そして対戦相手は既に決まってます」
会話の途中でインターホンが鳴り、スピーカーが反応する。
「タイミングが良いわね」
部屋の扉が開き入ってきたのは、紗也華が通う高校の男子制服を身に纏った青年だった。
色白で整った顔に高身長。黒い髪の天辺は彼を象徴するかのようなアホ毛がピョンと立っていた。
「お待たせしました。本部長」
「良く来てくれたね……高峯紗也華さん」
暁美は紗也華に視線を戻し、紗也華は暁美の目を見つめる。
「彼は桜井仁。今からあなたの特別試験の相手になる隊員よ」
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