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Hope〜希望を信じて〜  作者: 伊澄 ユウイチ
吉塚小隊と玲奈
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高峯紗也華1

 仁の姿を見た直人たちは素速く立ち上がり、驚いた表情を浮かべつつ敬礼する。


「いつも言っていますよね。敬礼はやめてください。僕は吉塚さんや舟見さんよりも年下なんですから」


 仁は優しい口調で直人と孝太朗に敬礼をやめさせる。


 次の瞬間、紗也華が仁に抱きつき、数秒前まで玲奈を睨んでいた顔が、別人のような顔に変わる。


「桜井先輩~! 聞いてくださいよ! あの人が!」


 紗也華が玲奈を指さし、玲奈を見た仁は肩をなで肩にして、紗也華を引き剥がす。


「お前はもう少し礼儀ってものを覚えろ」


「え~ッ!? でも先輩優しいですから許してくれますよね?」


 仁は軽くため息をつき、それを黙って見ていた隼人がドスが利いた声で仁に声をかける。


「それ以上紗也華に触れるな。桜井」


 仁は目を細めて隼人を見つめる。


「相変わらずだな。仮にも俺の方が年上だぞ? もう少し言葉を選べ」


 そして仁は再び玲奈に目を向ける。


「ところで、お前は何してるんだ? 初実戦の感想を言いに行ったら、誰もいなかったから探したんだぞ?」


 玲奈は面倒くさそうな表情を浮かべて、直人たちに目を向ける。


 仁の近くにいた紗也華が再び玲奈を睨みつけて、仁に全てを話す。紗也華の話を一通り聞いた仁は、玲奈の横に座り、飲み物を注文する。


「少し、話に混ざらせてもらうぞ」


 玲奈は無言で頷き、グラスに残っている氷をストローで弄る。


「さっきの話に、玲奈が反論しなかったところを見ると、本当の話のようだな……確かに自分もそう思いましたね」


 仁の一言によって直人と孝太朗は情けない表情を浮かべ、隼人と紗也華はムッとした表情を浮かべる。


「玲奈の言い方も悪いですね。まだ入隊して間もないのに先輩たちに失礼だぞ」


「本当のことを言わないと、この4人のためにならないよ」


 仁はため息をついて頭を抱え、テーブルの一点を見て、玲奈に言葉を返す。


「……それなら西原や月影にも本当のことを言えよ」


「……分かってるよ」


 その時、玲奈と仁を交互に見ていた紗也華があることを思いだし、テーブルを思いっきり叩く。


「あーッ!! 桜井先輩!! もしかして、こいつが先輩の言っていた弟子ですか!?」


 仁は顔を上げ、こいつ呼ばわりされた玲奈は声を荒けさせる。


「こ、こいつって!! 黙って聞いていたけど、あんた私より年下じゃない!! 生意気にも程があるんじゃない!?」


「お前なんか先輩だと思ってないし! 寧ろ、私の方が先に入隊したんだから私が先輩でしょ!?」


 再び火花を散らす2人の間に、仁と直人が止めに入る。


「玲奈落ち着け。もう少し我慢しろ」

「紗也華。水澤さんに文句を言う前に自分の言葉遣いを見直せ」


『……チッ!』


 2人は舌打ちして、お互いの顔を見ないように顔を横にする。


「……そうだ。玲奈は俺の弟子だ」


 その一言を聞いた紗也華は泣き出しそうな顔を浮かべて、下唇を噛む。


「お前が俺の弟子になりたいって言ってたのは随分前から知っていた。だけど、俺じゃお前の良さは引き出せない。だから断り続けていたんだ。決して紗也華が嫌いだから断っていたわけじゃないんだ」


 すると、紗也華は勢いよく席を立ち、カフェの外に出て行ってしまう。重苦しい空気が漂う中、仁は直人に対して頭を下げる。


「すみません。メンバーさんを泣かせてしまいました……」


「いや……良いんだ。俺たちはあいつに何もかもを背負わせすぎたんだ」


 その一言を聞いた玲奈は直人たちに目を向けて、口を開ける。


「……その話、詳しく聞いても良いですか?」


 直人は軽く頷き、コーヒーを一口飲む。



 =====



 遡ること1年前。


 直人と孝太朗は小隊部屋で、小隊ランク戦の作戦を立てていた。


「……う~ん。Aランク隊員ばっかりの小隊相手じゃ、少しキツいな」


「すみません……自分たちがBランクなのが足を引っ張ってますね……」


 直人はハッとなって孝太朗を慰める。


「そんなことはない! お前や隼人は良くやってくれている。寧ろ不甲斐ないのは俺だ」


「直人さんはAにも上がって、個人戦でも結果を残してきているじゃないですか。直人さんは悪くないですよ」


 直人は視線を落として「それでも……な?」と孝太朗に自身の思いを察しさせる。


「……それよりも、隼人はどこに行った?」


「さ……さぁ?」


「あいつ……今日はランク戦の作戦会議をするぞって言ったのに……仕方の無いヤツだな」


 次の瞬間、小隊部屋の入り口が開き、直人と孝太朗は入り口に目を向ける。そこには隼人と気の強そうな金髪少女が佇んでいた。


「お疲れ様です~」


 隼人は悪びれる様子もなく、スタスタとソファーに足を運び、ドカッと座り込む。


「おい、隼人」


「なんですか? 直人さん」


「なんですかじゃないだろう? 何か言うことがあるだろう?」


「ああ。彼女は高峯紗也華さんです」


 隼人が紗也華を直人たちに紹介するが、直人は呆れ顔で隼人に言葉を返す。


「彼女の紹介じゃない。今日は作戦会議だって言っただろ! それに、そこの女の子はホープで見たことない顔だ。隊員なのか?」


「ああ。彼女は来週入隊試験を受けるんですよ」


 隼人の一言を聞いた直人と孝太朗は驚きの表情を浮かべて、隼人と紗也華を交互に見る。


「ら、来週入隊試験!? お前、寝言は寝て言え! 民間人を招くなんて何を考えているんだ!」


 直人の怒鳴り声が小隊部屋に響き、黙って見守っていた孝太朗が体をビクつかせる。当の隼人は耳に指を突っ込んで、うるさいアピールをする。


「は~や~と~!!」


 直人が今にも殴りそうな勢いで、隼人の胸ぐらを掴む。その時、口を閉ざしていた紗也華がようやく口を開ける。


「……隼人、私邪魔になったね」


「紗也華?」


「帰るよ。じゃあね」


 隼人は慌てた表情を浮かべて、直人の腕から脱出し、立ち去ろうとしている紗也華の手を掴み、引き留める。


「待ってくれ! 君は邪魔になんかなってない!」


「お前はバカ? メンバーさんが困った表情を浮かべてるじゃん。いきなり知らない奴が来て混乱するのは当然だよ。今日は帰るよ」


 隼人の手を振りほどき、紗也華は部屋を後にしようとするが、孝太朗が紗也華の前に立ち塞がる。紗也華はキョトンとした表情を浮かべ、孝太朗が述べる言葉を待った。


「せ……せっかく来たんですから、お茶くらい飲んでいってください」


「いえ。迷惑かけてしまったのに、それは出来ません」


「そうだな、孝太朗の言うとおりだ。俺が悪かった。我を失って周りが見えてなかったよ。お客さんの前で取り乱すなんて恥ずかしいことだ」


 紗也華は直人に目を向けて、仕方なさそうな表情を浮かべて「それでは、お言葉に甘えさせてもらいます」と踵を返した。隼人は乱れた服装を整えて、再びソファーに座り、紗也華はその隣に腰を下ろした。


「……ありがとう」


「別にお前に気を遣ってここに座ったんじゃない。メンバ-さん2人の好意に甘えただけ」


「高峯さん、何飲みますか?」


 孝太朗はオドオドした表情を浮かべたまま、紗也華に飲み物を尋ねる。


「ホットミルクってお願いできますか?」


「あ、はい! 大丈夫ですよ」


 孝太朗は明るい笑みを浮かべて、キッチンに向かい、飲み物を用意し始める。


「よっこいしょ。さっきはお見苦しいところを見せてしまってすまないね」


 直人は紗也華と直人の向かいに座り、軽く頭を下げる。紗也華は無表情で「大丈夫です」と言葉を返す。


「で? 隼人。お前の言い分をしっかり聞いてやろう。どうして彼女をここに連れてきたんだ?」


「率直なことを言わせてもらいます。彼女が入隊したらウチに引き入れましょう」


 直人は目を丸くし、キッチンにいた孝太朗はマグカップを床に落としてしまう。


「お前……本気か?」


「僕はいつだって本気ですよ」


「嘘つけ」


 隼人の性格を知っている直人は、隼人の言葉が本気なのかを疑っていた。スーッと直人は紗也華に目を向けるが、紗也華は表情を変えることなく、お茶菓子に手を伸ばしていた。


「高峯さん……隼人の言っていることは本当なんですか?」


「はい。寧ろ私がお願いしたくらいです」


「どうしてウチなんだ? 隼人の口車に乗せられて無理してるんじゃないのか?」


「失礼ですね」


 隼人は不満そうな表情を浮かべるが、孝太朗が優しくなだめる。


「質問に答えましょう。私のことを覚えてないのですか?」


 直人と孝太朗は顔を見合わせて、懸命に記憶を掘り返す。中々思い出せない2人に痺れを切らして、隼人が口を出す。


「1ヶ月前。数百体のゴーストが現れたとき、彼女は訓練用のバトルサポートでゴーストを足止めしていたんです」


 当時の状況を思い出した2人は一斉に紗也華に目を向ける。


「ま……まさか」


 直人と孝太朗の額から汗が流れ落ちる。


「そうです。ですが、訓練用のバトルサポートじゃゴーストは倒せません。どうやってゴーストを倒そうかと考えていたとき、みなさんが助けに来てくださったのです。あのままだと私はゴーストに殺されていたかもしれません。改めてお礼を言わせていただきます」


 紗也華はぺこりと頭を下げ、直人と孝太朗にお礼を述べる。


「その時の恩返しがしたくて、隼人に頼んだんです」


「それで俺たちの小隊に入りたいってことか」


「そうです」


 直人は腕を組んで真剣に悩み始め、孝太朗は1人でオドオドし始める。


「高峯さん。気持ちは有難いんですけど、そういうのは入隊してからゆっくり考えた方が」


「いえ。私の気持ちは変わりません」


 紗也華は孝太朗の出した提案を迷うことなく突き返す。


「ねえ、良いでしょ? 直人さん。それに彼女は実力がある。僕が保証します」


 隼人が珍しく真剣な表情で直人の目を見る。直人はスッと目を閉じて、決断を下す。


「……なんだかんだ言って、隼人の観察力にはいつも驚かされているからな。実力があるのは本当なんだろうな」


 直人は笑みを浮かべて、隼人の目を見返す。


「君の思いが本気かどうか見せてもらおうか」


 紗也華は首を傾げて、頭上にハテナマークを浮かべる。


「来週が入隊試験だって言ったな? なら、その入隊試験で他の入隊者を圧倒してみろ」


 その一言を聞いた孝太朗と隼人は驚きの表情を浮かべ、紗也華は口元をつり上げてニヤリと笑う。

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