お礼の場に暗雲
「ただいま~」
小隊部屋に戻った玲奈は、先に帰っていた遼と詩織に顔を見せる。
「玲奈ちゃん! お帰り!」
「戻ってきたか」
詩織は満面の笑みを、遼は軽く微笑んだ表情で玲奈を迎える。
「2人とも、頑張ったね。隼人から聞いたよ。2人の活躍が目立ってたって」
玲奈の口から出た褒め言葉に、2人は顔を少し赤くしながら受け止める。そして、玲奈は背後に目を向け、2人に笑みを向ける。
「2人に紹介したい人がいるの」
『ん?』
玲奈の背後から穂香が姿を見せ、穂香は眼鏡の位置を修正して、頭を軽く下げる。
「あれ? 穂香さんじゃないですか」
詩織は首を傾げて穂香を見つめる。玲奈は嬉しそうな口調で、2人にあることを告げる。
「今日から穂香さんは水澤小隊のサポーターになりました!」
2人は顔を見合わせ、穂香に目を向けて、驚きの声を上げる。
『ええ~ッ!?』
「私が玲奈ちゃんにお願いしたの。そういうことだから、よろしくね」
「穂香さんが私たちみたいな低ランク小隊のサポーターを……」
詩織の一言にムッとした玲奈は思いを口にする。
「低ランク小隊なのはあんたたちのランクが低いからでしょ?」
玲奈は詩織の頬を横に引っ張って、謝罪を求める。
「ご、ごふぇんなしゃい(ごめんなさい)」
玲奈はため息をついて、詩織の頬を撫でて元に戻す。
「余っている一室に穂香さんが入るから、今までみたいに騒いでいたら迷惑になるから注意してね」
遼と詩織は口を揃えて玲奈に言葉を返す。
『うるさくしているのは』
「玲奈だろ!?」
「玲奈ちゃんだよ!!」
玲奈は指で耳を塞ぎ、聞こえないふりをする。
3人は穂香がいることを忘れ、言い争い始める。それを見た穂香はクスクソと笑う。
(やっぱりこの子たちといると、自然と笑っちゃう)
「コラコラ! 喧嘩はやめなさい」
穂香が3人の喧嘩を止め、得意げな顔を浮かべる。
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「ん? ん~!! よく寝た」
ヘリの中で熟睡していた真里は、目を擦って外の景色を見る。
自然が広がっていた景色から打って変わって、ビルが並び立つ市街地上空を飛んでいるのを確認した真里は、悲しそうな顔になる。
(……こうしてみると、私たちの身近に自然って無いんだなぁ~)
「お目覚めかな?」
真里が声のした方向に目を向けると、無表情で景色を眺める芳香の姿が目に入った。その向かいの席では暁美が、コクリコクリと船を漕いでいた。
「可愛い寝顔見させてもらったよ」
真里は顔を真っ赤にし、荒けた声で言葉を返す。
「み、見たんですか!?」
「写真も撮らせてもらったよ」
さらに真里の顔が赤くなり、頭上から蒸気が上がる。
「け、消してください!!」
芳香は片目を閉じて、少し舌を出す。
「冗談。でも、目には焼き付けさせてもらったから」
真里は頬を膨らませて、芳香から視線を逸らす。
数分沈黙が続き、気まずいと感じた真里は、必死に話しかけるための話題を探していた。
(どうしよう……何を話せば良いんだろう……この沈黙、結構キツい~……)
真里が悩んでいるところに、構うことなく芳香は重い口を開ける。
「……ねえ?」
「はッ! はい!!」
「あんた。玲奈のことどう思う?」
真里はキョトンとした表情を浮かべ、芳香はと真里に視線を向ける。スッと答えが出ない真里は視線を落とし、ようやく頭の中に出てきたことを口にする。
「出会ってまだそんなに話してないですけど、優しい子だってことは分かります」
芳香は黙って真里の言葉の続きを聞いた。
「こう見えても、私人見知りなんです。だけど、玲奈ちゃんを見ていると、何だか心の底から親しくなりたいなって気持ちになるんです。他人を見てこんな気持ちになったのは初めてです。あんな子が妹だったらな~って思いますよ」
真里は芳香の方を見るが、芳香は言葉を返すことなく、窓の外を見続ける。
「あ、ごめんなさい! 何か気に障るようなことでも……」
すると芳香は突如笑い出し、船を漕いでいた暁美が反応するかのように目を覚ます。
「んはッ!? しまった。寝ていた」
「まだ寝てても良いよ」
芳香は優しい口調で暁美に睡眠を促す。しかし、暁美は自分の頬を叩いて、完全に目を覚まさせる。
「いや、十分寝ました。大丈夫です」
「そうか」
芳香はスッと目を閉じて、シートベルトを外し、ゆっくり立ち上がって真里の横に腰掛ける。
「玲奈のこと気に入ってくれてるじゃん」
「え? あ、はい」
再び真里はキョトンとした表情になり、芳香は「ニッシシ!」と笑う。
「あんたなら……いや、恐らくあんたじゃないと出来ないことを頼むよ」
「へ?」
何が何だか分からない表情を浮かべる真里を、芳香は微笑みながら見つめ続ける。その様子を暁美は目を細めながら見守り、フッと視線を窓の外に向ける。
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「それじゃあ、穂香さんの所属祝いの準備をしよう!」
収拾がついた水澤小隊の小隊部屋では、穂香の所属祝いの話をしていた。
「準備って……食事処を貸し切るときは当日じゃダメだろ?」
遼が呆れた表情で玲奈を見つめる。玲奈はやれやれと言わんばかりの仕草をして、遼に言葉を返す。
「少人数で祝うのに食事処を貸し切るのはおかしいでしょ? 本部からせっかく良い部屋もらったんだし、ここで良いじゃない」
「私も賛成。食事処を貸し切れたとしても、なんか落ち着かないし」
玲奈の擁護をしたのは穂香だった。詩織も無言で頷き、遼は仕方なさそうな表情を浮かべて息を吐く。
「……そうですね。じゃあ、ここでしようか」
「それじゃあ、買い出しに行こうか」
その時、小隊部屋のインターホンが鳴り、玲奈たちは一斉に入り口に目を向ける。
「だ~れ? こんな時に来るなんて」
嫌そうな顔を浮かべる玲奈が来客に対して不満を口にする。詩織がパタパタと応答モニターに駆け寄り、来客の顔を確認する。
「はい。水澤小隊です」
『失礼。三上だけど』
モニターが映し出したのは、隼人と体格が良く、高身長で堅物なイメージの男と、低身長で自分に自信がなさそうな表情を浮かべている男と、口をモゴモゴと動かしている金髪女子の4人だった。
『水澤先輩に話したいことがあって来たんだけど』
詩織は玲奈に目を向け、玲奈は引き続き嫌そうな顔を浮かべる。
「だってさ……玲奈ちゃん」
「嫌だ」
即答する玲奈の言葉を、そっくりそのまま詩織は扉の向こうの4人に伝える。堅物イメージの男が頭を下げながら「数分だけ時間をください。お願いします」と懇願する。
それを見た玲奈はため息をついて、入り口に向かって歩き出す。入り口の扉が開くと、緊張しているような表情を浮かべたAランク隊員と、ニコニコと笑みを浮かべている隼人と対面する。
「何の用ですか? 私、今から忙しいんですけど?」
「まあまあ、そう言わずにちょっと僕らに付き合ってくださいよ。先輩」
玲奈は後ろにいる遼たちに目を向ける。3人はコクリと頷いて、「行ってこい」と言わんばかりの表情を浮かべる。
「……少しだけですよ」
頭を下げた隊員は再び頭を下げて感謝の言葉を述べる。
「ありがとうございます」
「取り敢えず、カフェまで行きましょう」
隼人たちは玲奈をカフェに連れて行き、遼たち3人は玲奈抜きで買い出しに出かける。
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玲奈はやる気の無い態度で、注文したアイスカフェオレを飲み進める。
相変わらず隼人はニコニコと笑みを浮かべ、その他の3人は無言で玲奈を見つめる。そして、我慢しきれなくなった玲奈は口を開ける。
「さっきから静かですけど、私に何の用なんですか?」
すると小隊部屋の前で頭を下げた隊員が沈黙を破る。
「急な訪問失礼しました。実は、水澤さんにお礼を言いたくて……」
「お礼言う前に、どちら様ですか? 名乗ってもらわないと、お礼を言われても嬉しくないんですけど?」
玲奈は冷たい口調で言葉を返す。
沈黙を守っていた金髪女子が一瞬、表情を曇らせて口を開けようとするが、隼人と頭を下げた隊員が抑止する。
「これは失礼。自分は隼人が所属している小隊、吉塚小隊の吉塚直人です」
直人に続くように沈黙を守っていた男女も、渋々自己紹介をする。
「吉塚小隊の舟見孝太朗です」
「同じく高峯紗也華」
孝太朗は少し表情を和らげたが、紗也華だけ玲奈を睨みつける。
「で? 隼人のところの小隊さんが私に何の用ですか?」
「まずは、押されていた戦況を覆してくれたことを感謝します」
再び直人は深々と頭を下げ、隼人たちも軽く頭を下げる。玲奈は表情を変えることなく、頭を下げている4人を見つめる。
「水澤さんの参戦がなかったら、犠牲者が出ていたかもしれませんでしたし、他のAランク隊員の出動は避けられませんでした。私がAランク全員の代わりにお礼を述べさせてもらいました」
玲奈は無表情でカフェオレを飲み干して、ため息をつく。
「……吉塚さん、舟見くん、高峯ちゃんだっけ? 隼人も含めて、全員本当にAランクなんですか?」
玲奈の冷たい一言は吉塚小隊全員は表情を曇らせる。
「まあ、隼人は自分の戦闘スタイルを崩してでも私の小隊メンバーを助けてくれていたし、仕方ないと思うけど、他の3人は何をしていてゴーストに苦戦していたんですか?」
玲奈が言い切った瞬間、紗也華が玲奈の胸ぐらを掴む。
「何お前? こっちがお礼言っているのに説教だなんて、何様だよ」
玲奈は目を細めて紗也華を見つめ、胸ぐらを掴んでいる腕を掴み、ゆっくり引き剥がす。
「なッ!?」
本気で胸ぐらを掴んでいた紗也華は腕を引き剥がされて驚きの表情を浮かべる。
「……もう一回聞くよ。何してたの?」
「…………チッ!」
紗也華は腕を振りほどき、バツ悪そうに座り込む。直人は府外なさそうな表情を浮かべて、玲奈に言葉を返す。
「撤退命令が出ていた。ゴーストの殲滅よりも、B・Cランクの隊員の撤退を優先していたんだ」
「撤退することを意識しすぎて殲滅するのに苦戦したと?」
「正直なところ……その通りです」
直人と孝太朗は視線を落とし、隼人は口を開けることなく「言ってくれるね」と言わんばかりの表情を浮かべ、反論してやろうと言わんばかりに紗也華は歯ぎしりする。
その時、ある人物がカフェに現れ、玲奈の顔を見てキョトンとした表情を浮かべる。
「玲奈? お前こんなところで何しているんだ?」
隼人たちは一斉に声のする方向に目を向け、隼人以外の3人は目を丸くする。
『さ、桜井隊員!!』
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