一難去って
本部の屋上に着地した玲奈は、司令室の隊員たちに迎えられる。
「水澤隊員! お疲れ様です!」
慣れない迎えに、玲奈は照れながら「どうも」と言葉を返す。玲奈の着地の10秒遅れで、優一と隼人が屋上に着地する。
「玲奈、良くやった」
「優一さん。ありがとうございます」
玲奈は優一に頭を下げ、何のことか分からない優一は困惑する。
「おい、待て待て! 俺は何もしてないぞ。顔を上げてくれ」
「私は他の隊員を気にすることなく戦えた上に、戦場に転送してくれたので、本当になんて言っていいのか……」
「転送したのは暁美だ。俺のお陰じゃない。それに、お前の飛ぶ速度に他の隊員は追いつけないだろう? お前の邪魔をしてしまうくらいなら、撤退させた方が良いと、俺が勝手に判断しただけだよ」
玲奈は顔を上げて、優一の顔を見つめる。そして、屋上にレジェンド6人が到着し、玲奈に敬礼する。
「水澤小隊隊長、水澤玲奈」
霊斗が真面目口調で玲奈の役職と名前を読み上げる。
「は、はい!」
思わず体が反応して、玲奈も敬礼する。
「苦しい中、1人で戦況をひっくり返してくれたこと、感謝する」
玲奈はブンブンと首を横に振り、言葉を返す。
「いえいえ! 私は優一さんの命令に従ってゴーストを殲滅したまでです!」
すると、霊斗たちレジェンド6人が、一斉に優一に目を向ける。こっそりとその場を後にしようとした優一に対して、全員が大声で呼び止める。
『優一!!』
『優一くん!!』
体をビクつかせて、優一は恐る恐る振り返る。
「な……なんでしょう?」
「なんだ!? あの采配は!? お前、隊員を死なせるつもりか!? あの場面、増援するのが常識だろう!?」
冷静で、感情を表に出さない霊斗が、優一の胸ぐらを掴んで前後に揺さぶる。優一は「わ~、わ~」と声を上げて、説教を聞き続けた。
「もう少し、命の大切さってものをな!!」
霊斗を援護するように、宏大、抄も優一に説教をし始め、蚊帳の外となってしまった玲奈は、ポカンと呆け顔になる。
「……あ、あの~」
玲奈は近くにいた紅志と悠香に声をかけ、2人は無表情で玲奈に視線を向ける。
「あ、お疲れさん。あんた、検疫室に行ってナノマシンのエレメント調整してきな」
感情がこもっていない声で、悠香は玲奈に検疫室に行くよう指示する。
「はぁ……」
「水澤先輩、自分が案内しますよ」
玲奈は隼人の後ろについていき、検疫室に足を運び始める。
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検疫室の前に到着した玲奈は隼人と別れ、どうすれば良いのか分からず、佇んでいた。
「お、来たね~。玲奈ちゃん」
声をかけたのは、水澤小隊のサポートをしてくれた穂香だった。
「穂香さん。今回は私たちのサポートをしてくださってありがとうございます」
頭を下げる玲奈に、穂香は「気にしないで」と声をかけ、検疫室に招き入れる。
「あなたのナノマシンは特殊だから私がエレメント調整してあげる」
「以前から気になっていたんですけど、エレメントって何ですか?」
「エレメントはナノマシンを守るプログラムのこと。ゴーストが出現する際に発生する死風からナノマシンを守ってくれるんだけど、何度も死風を防げるわけじゃないの。浴びるたびに守る力も弱くなっていくから、戦闘が終了したら毎回検疫室でエレメントの調整を受ける必要があるの」
「へえ~」
「調整受けないで、連闘しようものなら命の保証は出来ないよ」
その一言を聞いた玲奈は寒気が走り、死線を彷徨ったときのことを思い出す。
「それと、調整後の24時間は実戦でのバトルサポートは作動させないでね。エレメントが体全体に浸透するにはそれぐらいの時間が掛かるから覚えておいてね」
「わ、分かりました」
たたみかけるような説明に、玲奈は追いつけず、適当に返事をする。
「それじゃあ、説明も終わったし、始めますか」
穂香は机の上にノートパソコンを設置し、カタカタと操作し始める。真剣な表情でパソコンの画面を見つめる穂香を見ながら、玲奈は椅子に腰をかける。
「調整始めるよ。ちょっとくすぐったいよ」
穂香は画面に目を向けたまま、左手で玲奈の左胸を鷲掴む。思考が一瞬フリーズした玲奈は、穂香の手の位置を見て、騒ぎ始める。
「いやあぁぁぁ!!!! どこ触ってるんですか!?」
「あ、コラ! 動くなッ!! ジッとしてなさい!」
「ジッとして欲しいなら離してくださいッ!!」
「この方法が一番効率が良いのよ。我慢して。それに女同士だから恥ずかしくないでしょ?」
「女同士でも嫌ですよ!!」
言い争っていると、玲奈の眼前にナビゲーション画面が現れ、選択を迫られる。
「え? 外部端末の接続許可?」
「許可して。それでようやく調整に入れるよ」
玲奈は自分に向かって伸びている穂香の腕を見て、あることに気づく。
「もしかして……穂香さんの腕がケーブル代わりですか!?」
「そうだよ。私のナノマシンを介して、エレメントの調整をしているの。本来だったら注射して、パソコンに接続してやるのが主流だけど、私はこっちの方がやりやすいし、慣れてるからね」
手を止めることなく調整作業を続ける穂香を見て、玲奈は呆気にとられる。そして1分も経たないうちに、穂香は玲奈の胸から手を離し、両手でパソコンを操作して調整の最終段階に入る。
「……エレメント、体全体に浸透開始。バグ、ナノマシンの損傷なし。全ての数値、基準値をキープ。システムエラーなし……エレメント調整終了。お疲れ、玲奈ちゃん。これで実戦後の調整は終わりだよ」
玲奈は自分の胸を腕で隠し、信用できない人間を見るような目で穂香を見つめる。
「もう油断はしませんよ!」
「……大丈夫。私そんな趣味ないから」
呆れた表情で穂香はパソコンの電源を落とし、帰る準備を始めた。安心しても良いと判断した玲奈は、改めて穂香に頭を下げた。
「穂香さん、今日はウチの小隊の2人を助けてくれてありがとうございます」
「……お礼を言うのはこっちの方よ」
玲奈は顔を上げて、穂香に目を向ける。
「久しぶりに小隊のサポーター出来て楽しかったし、アルカディアのデータも記録することが出来たから私的には満足させてもらったよ。ありがとう」
「いえいえッ!」
その時、穂香の頭にある考えが浮かび上がり、即それを口にする。
「ねえ、玲奈ちゃん」
「はい?」
「迷惑じゃなかったら、私をサポーターとして水澤小隊に所属させてくれない?」
その一言を聞いた玲奈は一瞬目を丸くし、優しい笑みを浮かべる。
「気を遣わなくても良いんですよ?」
「いや、私はマジで言ってるよ」
穂香は眼鏡の位置を修正し、真剣な眼差しで玲奈を見つめる。
「私を本気にさせる人間は、玲奈ちゃんで3人目だよ。私の意思を全力で受け止めて」
玲奈は複雑な表情を浮かべて、穂香に返答することを躊躇った。
「うーん……結成して間もない小隊ですよ? 過大評価しすぎじゃないですか?」
穂香はクスクスと笑って、玲奈に言葉を返す。
「それが良いのよ。未完成で連携がうまく取れない小隊だからサポーターをしたいの。完璧な連携を行える小隊のサポーターなんてつまらないからさ」
玲奈は苦笑いを浮かべ、思い切って穂香に手を差し出す。
「穂香さん。こちらこそお願いします」
穂香は微笑んで玲奈の手を取る。
「それじゃあ、招待お願い」
玲奈はナノマシンのメッセージボックスを開いて、穂香を水澤小隊のサポーターとして招待し、穂香は招待メッセージを了承する。すると、穂香の白衣の肩部分に水澤小隊のエンブレムが浮かび上がる。
それを見た2人はお互いの顔を見て、軽く微笑む。
「じゃあ、小隊部屋に行きましょうか」
玲奈と穂香は検疫室を後にして、小隊部屋に向かった。
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ヘリでホープ本部に戻る暁美は、流れていく景色を見つめて、自然と笑みを浮かべる。暁美の向かいに座っている芳香は、それを見て暁美に声をかける。
「何笑ってんの?」
「いや……その、嬉しくて、つい」
芳香はニヤリと笑って、シートベルトを外して暁美の横に座る。
「そんなに私が復帰して嬉しいのか? 暁美?」
暁美は顔を少し赤くして、芳香から目を背ける。
「ち、違いますよ! ……いや、本当のことを言うと、芳香さんが戻って嬉しいです」
暁美が思っていた反応と違った芳香は、からかうのをやめて、ある方向に目を向ける。
「……私はあの子に心を動かされたんだよ」
暁美は芳香が見ている方向に目を向ける。その先にはスゥスゥと寝息をかく、真里の姿があった。
「伊澄……ですか」
「まだこの世界に、こんな戦士がいるのかと思ったら、もう一度復帰してみたくなったんだよ」
戦っていたときと別人のような表情を浮かべて寝ている真里を見て、芳香は思わずニヤニヤする。
「あんたがこの子を最強だと認めたのも納得できるよ」
「ありがとうございます」
「それにしても、戦っていたときは殺すような目つきをしていたのに、寝顔は可愛い顔しているね」
芳香は真里に近づき、マジマジと顔を観察し始める。見られていることに気づいていない真里は、寝息をかき続ける。
「どーれ、その白くて可愛い肌でも触ってやろうか」
芳香が真里の頬を触ろうとした瞬間、芳香に寒気が走り、思わず霊力で生成した剣を真里に突きつける。そして、芳香の体全体から冷や汗が流始め、呼吸が荒くなる。
(今のは……)
芳香の様子がおかしいと感じた暁美はシートベルトを外して、芳香に駆け寄る。
「芳香さん!」
「……暁美」
芳香は不敵な笑みを浮かべて、真里に突きつけていた剣を消滅させる。
「こいつ……もしかして」
暁美は無言で頷いて、芳香を座席に戻す。
「ますます楽しくなってきたじゃない。明日から楽しみだよ」
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