過去を知って
芳香と共に病室に戻った暁美は、京香にこれでもかと言うくらい怒られていた。
「全く、ちょっと体の自由が利くからって無茶しすぎ。自分の体がどういう状態なのか理解していないでしょ?」
「はい……ごめんなさい」
「ごめんなさいって言うくらいなら、もう少し考えて行動して!」
「はい……」
視線を下に向けて、完全に落ち込んでいる暁美を見て、芳香が苦笑いをしつつ京香をなだめる。
「まあまあ、京香さん。その辺にしときましょうよ。京香さんが暁美を動かすような発言をしたのも原因ですよ」
「うぐッ! ……確かに、私にも責任があるわね……と言うとでも思った!? あなたが素直じゃないからこうなったって言っても過言じゃないのよ!?」
芳香は「なんで!?」と言わんばかりの表情を浮かべ、暁美と一緒に落ち込み始める。その時、病室の扉が開き、1人の男性が入ってくる。
「なんだ? 大声で喋って。ここは病室だってことを理解しているのか?」
「義弘くん……」
京香が男性を見た瞬間、強ばっていた表情が和らぎ、優し声に変わり、芳香は驚いた表情を浮かべる。
その男性は170㎝あるかないかの身長で細身の体。色白の優しい顔立ちで、黒いハット帽を被っており、ノリの利いた紺のワイシャツに、黒いメンズパンツを着こなし、左腰には黒い剣を携えていた。
男性はベッドの上で落ち込んでいる暁美を見て、京香に尋ねる。
「この子がさっき無線で言ってた……」
京香は暁美をチラッと見て、男性に紹介する。
「芳香ちゃんの初友達の……」
暁美はハッとなって、顔を上げて男性の顔を見る。
「霧峰暁美です」
「霧峰ちゃんか……」
男性はハット帽を取り、自分の黒髪を暁美に見せる。
「俺は大丈義弘。芳香が所属している小隊の隊長で、京香の夫です」
自己紹介を終え、義弘は再び暁美に頭を下げる。暁美は戸惑いながらも、義弘に頭を下げる。
「義弘さん、どうしてここに?」
「芳香の友達が目を覚ました途端にいなくなったって、京香から無線が来たから、探していたんだよ」
「すみません……」
暁美は深々と頭を下げて反省した。義弘は「フフフッ」と笑い、暁美に顔を上げるように声をかける。
「霧峰ちゃん、京香から話は聞いているよ。死風を浴びて、ナノマシンが壊れたんだって?」
「そうですね。ナビゲーションも現れないんで完全に体から消滅していますね」
「そこでだ、提案がある」
義弘は嬉しそうな表情を浮かべて、暁美にある提案をする。
「芳香の初めての友達だって聞いて、俺は心から喜んでいる。君さえ良ければ、ナノマシン投与代は俺が負担しようと思っている」
「え?」
暁美と静かに聞いていた芳香が目を丸くして、義弘を見つめ続ける。
「そ、そんな! そこまでしていただかなくても……」
「義弘さん、本気で言ってんの?」
義弘は芳香を見て、スーッと涙を流し始めた。
「霧峰ちゃんの病室に、毎日顔を出していたお前を見て、俺は感動した」
「え? ちょっと!?」
「何も出来ない俺だが、せめてこれくらいさせてくれ」
急に涙を流し始める義弘を見て、芳香は慌て始める。
「私も義弘さんと同じ意見だよ。霧峰ちゃん、こういうときは甘えなさい」
京香は義弘を援護し、暁美は眉間にシワを寄せるほど悩み続け、答えを出す。
「……分かりました。みなさんに甘えさせてもらいます」
義弘と京香は満面の笑みを浮かべ、芳香は苦笑いを浮かべる。
「ですが、私のお願いを聞いてくれませんか?」
京香だけ表情を崩さなかったが、義弘と芳香はキョトンとした表情を浮かべて言葉の続きを待つ。
「私を……ホープに入れてくれませんか?」
芳香は口を開けて驚き、義弘はニヤリと笑って言葉を返す。
「お安いご用だ」
「ちょっと待ってください!」
芳香は暁美と義弘の間に入り、暁美に動機を尋ねる。
「どうしたらそんな考えになったんだよ。お前、ホープに入ったら何するのか分かってるのか?」
暁美は真剣な眼差しで芳香を見つめ、思いを語る。
「分かっている。だけど、私はゴーストと戦うつもりはないよ」
「は?」
芳香は目を丸くし、暁美は言葉を続ける。
「私は隊員じゃなくて、ナノマシン・サポートの研究者になる」
「け、研究者!?」
「私は芳香さんの役に立ちたい! 守ってもらってばかりじゃダメだと思うの。それに……いつもの生活に戻っても、面白くないし」
「だけどよ……」
「芳香、そこまでにしておけ。本人が本気で決めたことなんだ。それを止めるのは野暮ってもんだぞ」
義弘の説得により、芳香は発言を控え、暁美から離れる。
「こう見えても学力はあります。ナノマシンの基本構造も理解しています。ホープのバトルサポートの構造を理解できれば、今よりも量産することが出来ます」
暁美の覚悟ある発言を聞いた義弘は京香に目でコンタクトを取り、京香は静かに病室の外に出て行った。そして暁美の目を見て、再びニヤリと笑う。
「……研究者志願であることが勿体ないくらい、良い目つきだ」
義弘は暁美の横まで歩み寄り、手を差し出す。
「俺の権限で、君をホープの研究員として迎えるよ」
暁美は義弘の手を取り、固く握手を交わす。
「よろしくお願いします」
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ホープに入る前の暁美と、玲奈すら知らなかった芳香の過去を聞いた、玲奈、優一、真里は目を丸くし、声を出すことすら出来ないくらい驚いていた。
しかし、それぞれ驚いていた内容は異なっていた。
「お母さん不良だったの!?」
「俺の親父とお袋の小隊メンバー!?」
「暁美さん研究者志願だったの!?」
驚く声を余所に、暁美と芳香はお茶を一口飲む。
「3人とも心に残ることが違いすぎる。返答しようにも出来ないぞ」
暁美は冷たい口調で、3人に言葉を返す。芳香は「なつかしいな~」と言葉をこぼして、当時を思い返す。
「まずは優一が驚いているところに触れてやろう。芳香さんはお前の両親の小隊に所属していた人間だ。それも創立前からだ」
優一はあっけらかんとした態度を取る芳香を見つめ続けた。
「それに私がホープに入ったとき、お前は生まれていたんだぞ」
暁美は優一を見ながら発言する。その一言で優一は暁美にも目を向ける。
「は? 生まれていた?」
「当時2歳。いつも物陰に隠れては、人を嘲笑うかのような表情を浮かべていた、クソ生意気な子供だったがな」
芳香は大笑いし、優一は信じられないと言わんばかりの表情で言葉を返す。
「いやいやいや!! 俺そんな記憶ないぞ! 親父たちが死ぬ前の小隊メンバーは、暁美だけじゃなかったのか?」
「覚えていないのも仕方ない。私は義弘さんたちが死ぬ前に小隊を抜けているからね。その時のあなたはまだ5歳。覚えていたら大したもんだよ」
芳香は煎餅を豪快に食べ、スッと目を閉じる。
「だけど、今日あんたを見て一瞬で分かったよ。あの2人の1人息子、優一くんだってことを」
玲奈と真里も芳香に目を向け、優一は額から一筋の冷や汗を流して言葉の続きを聞く。
「顔は義弘さんに似ているけど、その紫色の瞳はお母さん譲りだね」
玲奈は優一の紫色の瞳を見て、思い出したことを口にする。
「そういえば、その目って特殊な目だって言ってましたよね? どんな目なんですか?」
「優一のその瞳は、全てを見透かす瞳だ」
玲奈の質問に答えたのは暁美だった。そして優一は玲奈に目を向け、自分の瞳の性質を明らかにする。
「俺は見たものの名前、余命、感情など、ありとあらゆるものを見ることが出来る。集中すれば近い未来も見ることが出来る」
「その特殊な瞳の持ち主が、母親である京香さんだった」
芳香は天井を見つめ、京香の顔を思い出そうとする。
「優しくて、面倒見の良い人だったな~」
『怒ると面倒くさいけど……』
暁美と芳香は声を重ね、優一の母、京香の印象を口にする。
「まあ、話の途中であったとおり、私はおじいちゃんに連れられて、あなたのお父さんの小隊に所属していたの」
「お母さんのおじいちゃん……私のひいおじいちゃんか……見てみたいな~」
「何言ってんだよ玲奈。いつでも見に行けるぞ」
玲奈は目を丸くし、流石にマズいと感じた暁美は芳香の名前を叫ぶ。
「なんだよ暁美。喋っちゃマズいことなのか?」
「……一応、極秘事項なので」
「かあ~!! 暁美は昔と変わらず真面目だね~。だけど、そういうところが好きなんだけどな」
暁美は少し顔を赤くし、芳香に「余計なことは言わないでください!」と言葉を返す。そして暁美は真里に目を向け、真里の驚いたところに触れていく。
「伊澄の質問にも答えてやろう。私は元々ナノマシン・サポート研究者で、今の坂本穂香の立場だった。日々ナノマシンの改良を試みて、実験を繰り返し、今の強制離脱システムと武器収納システムを搭載させたんだ」
玲奈は装備説明を受けていた頃を思い出し、それを作ったのが暁美だと知って驚いた。
「あれ暁美さんの作品なんですか!?」
「そうだ。私が改良したナノマシン、第2世代のナノマシンが主流となって、今までホープを支えてきたのだが……」
『だが?』
3人は声を重ね、言葉の続きに耳を立てる。
「この人が無理やり私を隊員にしたの!!」
暁美は芳香を指さし、さされた芳香は「そうだっけ?」と、とぼけ始める。
「私は鮮明に覚えてますよ! ……いや、今日その一部を夢で見ましたよ! 私はナノマシンの改良で忙しかったのに訓練するぞって連れ回して!」
「おおー! そんなこともあったな!」
悪びれもしない芳香の態度を見て、暁美は肩を落として落ち込んだ。
「ごめんって! またいつか相手してやるから元気出せ」
「少しは反省してくださいよ!」
その時、暁美に無線が入り、一瞬にして会話が途切れる。芳香は笑っていた表情から一変、少し真剣な顔で暁美を見つめる。
「失礼します」
暁美は芳香の許可をもらって無線に出る。
「私だ」
『本部長! 大変です!』
無線相手が焦っていると判断した暁美は玲奈たちにも聞こえるように、スピーカーモードに切り替える。
「どうしたんだ?」
『ゴーストが本部の近くで出現しました! その数、2,000!!』
ゴーストの数を聞いた玲奈は目を見開き、優一と真里は真剣な顔で無線を聞き続ける。
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