暁美と芳香3
数人の男女グループが学校の食堂でケタケタと笑いながら会話する。
「マジ、ゴースト出てきて焦ったんですけど~」
1人の女子が笑いながら周りの人間に話す。
「けど~、ホープがやっつけてくれるんだし、ぶっちゃけ避難するほどのことじゃないんだけど」
他の女子が思いを共感し、迷惑そうな顔を浮かべる。
「それな~! マジ、ゴースト出たからって騒ぎすぎなのマジうぜぇ」
人の言うことを聞かなそうな男子数名も、気だるそうな顔を浮かべる。
ワイワイと話している集団に、ある人物が声をかける。
「……おい」
『あぁ!?』
集団は声が聞こえた方向に目を向け、その人物を睨みつける。
「へぇ~、学校一不良のあんたが私たちに何の用? 芳香」
「それともなんだ? お前も俺たちと同じ意見か? 分かるぜぇ、その気持ち。どうしても気持ちを抑えられなくて俺たちと一緒に話したいんだろ?」
1人の男子が席を立ち、芳香に近寄る。ニヤニヤと笑いながら、芳香の肩に腕を回そうとした瞬間。
「おごぉッ!!」
芳香の肘打ちが腹部に決まり、その男子は腹部を抱えて床に寝転がる。それを見た他の男子が一斉に立ち上がり、女子も目を細めて芳香を見る。
「ちょっと! いきなり何すんの!!」
1人の女子が芳香に言葉を投げつける。
「殺されたくなかったら面貸せ」
芳香は殺意に満ちた目で、残りの数名を睨みつける。
======
「霧峰ちゃん……芳香ちゃんのこと、どう思う?」
唐突な京香の質問に、暁美は困った表情を浮かべ、すんなりと言葉を返せなかった。
「どう……って言われましても~。半日程度しか接点はなかったので……」
京香はクスクスと笑って、質問に言葉を足す。
「言葉が足らなかったね。芳香ちゃんを見て、どう思った?」
「先輩を見て? ……そうですね~、初めて見たとき、なんて可愛い小学生なんだろうって思いました」
京香は微笑んだ表情のまま、暁美に言葉を返す。
「それ、本人の前で言ったら殺されるからね」
暁美は顔を青くし、暁美の顔色が変わったのを見た京香は「冗談よ。冗談」と安心させる。
「じゃあ、考えてみよう。今時の高校生で、小学生みたいな身長、体型をしていたらどう思う?」
「病気とか? あとは、まだ成長していないとかですか?」
「世間一般的にはそう思うかもしれないね。だけど、芳香ちゃんの体は成長していないじゃなくて、成長させてないの」
「え? 成長させてない?」
頭上にハテナマークを浮かべている暁美に、京香は優しい口調で説明する。
「芳香ちゃんはナノマシン設定で、戦闘において最適のサイズまでしか体が成長しないようにしていたの」
「……戦うために、自分の体を……」
「理由は私にも分からないわ。だけど、人って急に変わることもあるんだなって思ったわ」
「え?」
京香はスッと目を閉じて、芳香と出会ったときの話を暁美にする。
「私がまだ11歳で、ホープが世間に認知されていなかった頃に、あの子が現れたの。私の7つ下だから当時は4歳だね」
「4歳……そんな幼い時から……」
「横にいたあの子の祖父が、私と私が所属する小隊の隊長に、頭を下げてあの子を預けてきたの。『老いぼれの一生の頼みだと思って引き受けてくれ』……ってね。当時のあの子は極度の人嫌いだった……初日から暴れ回ったし、隊長がちょっと本気を出して止めてくれたけど、4歳児とは思えないほどの力だったわ」
「ちょっと良いですか? 祖父? 水澤先輩のご両親はその場にいなかったんですか?」
京香は一瞬顔を曇らせるが、笑みを浮かべて言葉を返す。
「芳香ちゃんの両親は……芳香ちゃんが生まれてすぐに蒸発しちゃったの」
「蒸発?」
「どんな理由で蒸発したのかも私は分からないし、芳香ちゃん本人も知らないことなの」
謎が多すぎて頭が混乱しそうな暁美だったが、京香は容赦なく話を進める。
「……5年掛かったわ」
「5年?」
「あの子が私たちに心を開くために掛かった年月よ。私の名前を呼んでくれたときは涙を流したわ。今でも鮮明に覚えているわ」
暁美は苦笑いを浮かべて、当時の京香の気持ちを想像する。
「だけど喜んでいられたのも束の間。あの子が心を開いたのと同時期に、彼らが現れて、私たちは世界の命運をかけた戦いに赴くことになった」
「……ゴースト事件」
ボソッと呟く暁美の言葉に、コクリコクリと頷く京香。
「僅か20人足らずでゴーストの大群に立ち向かい、世界を救った。その時のメンバーに、私も芳香ちゃんもいたわ。当時、小学生の女の子でありながらも、1番多くゴーストを倒したのは芳香ちゃんだった。あの子は自分の描く未来のために必死になって戦っていたの」
「水澤先輩の描く未来? どんな未来ですか?」
「自分みたいに他人を避けている人に、手を差し伸べることが出来る未来。あの子は私たちと出会って、長い月日をかけて変わっていったの。人は1人では生きていけない。それを知ったあの子は、自分だけじゃなく、他の人にも気づいて欲しいと思ったから頑張っていたの……だけど」
京香の顔が険しくなり、その顔を見た暁美は唾を飲み込む。
「ゴーストを全て消滅させて、戦いが終わったと思ったあの時、地上では大きな地震が起こり、空では日照りと豪雨が交互に起きた」
「それは……」
「ゴースト事件直後の天変地異。歴史の教科書では『霊が現れたことによって、この世の均衡が崩れた瞬間』と記載されているわ。存在していた土地がなくなり、新たな土地が出来あがる。そして出来たのが、新たな世界。離れていた陸地は1つとなって、急激な環境変化によって多くの人が息絶え、体の一部に異常が出た。そして、その影響は後世にまで及んでしまった……未だに、この天変地異の原因は不明になっているわ。私たちは人々をゴーストから守ったのに、環境変化によって犠牲者が出たことによって、多くの人から怒りの声を浴びたわ」
少し悲しそうな表情を浮かべる京香を見て、暁美も悲しい気持ちになる。
「その怒りの声は芳香ちゃんの耳にも入ったわ。人間の黒い部分を見て、自分は何のために、誰のために戦ったのか分からなくなった……って1人で泣いていたわ。それ以降、芳香ちゃんは私たちホープ隊員以外には心を開かなかった……だけど、どういうことか、あなたには少し心を開かせているみたいね」
「え?」
暁美は目を丸くし、京香は軽く微笑む。
「あの子がこの病室に毎日通っていたなんて、あなたは知らなくて当然よね。あなたの何を見て、芳香ちゃんが心を開いたのかは分からないけど、仲良くしてあげてね」
京香は暁美の体に繋がっている点滴を全て外し、暁美は自由を取り戻した。
「もう身体に異常はないけど、健康管理をしていたナノマシンはまだ取り込んでいないから無茶はしないでね」
京香は言葉を残して、暁美の病室を後にした。暁美は横に置いてあった車椅子に体を移し、ある場所に向かい始めた。
======
「うぐッ……み、水澤ぁ~!」
地面にひれ伏している男女数人が、苦しみながらも芳香を睨みつける。芳香は相変わらず殺意を宿した目で、伏している全員を睨み返す。
「今生きていることに感謝出来ねーってなら、殺すよ」
殺す……芳香の口から出たその言葉は現実味があり、寒気と共に恐怖が彼らを襲った。そして全員気を失い、芳香はスカートのポケットから煎餅を取り出し、食べ始める。
「……この煎餅……生臭い」
芳香は血で汚れた自分の手をハンカチで拭き始め、その場を後にする。
======
ホープ本部に戻った芳香は、暁美の病室に足を運ぶことなく、屋上で煎餅をかじっていた。風に当たり、スッと目を閉じて自分の心を落ち着かせる。
(ここで風に当たっているときが一番落ち着く……)
その時、屋上の扉が開き、芳香は思わず構える。しかし、そこにいたのは。
「あ、暁美!?」
「いた! 水澤先輩!」
車椅子に乗っている暁美を見て、芳香は思わず駆け出す。
「馬鹿野郎! まだ完全回復していないのに出歩くんじゃねーよ!」
「水澤先輩!」
芳香は暁美の目を見て、思わず口が塞がる。そして暁美は車椅子に乗りながら、深々と頭を下げる。
「すみませんでした!」
急に謝り出す暁美に、芳香は慌て始める。
「おいおい! 何に謝ってるんだよ! 謝ることなんてないだろ?」
「……まだ言ってませんでしたからね」
芳香は理解しがたい表情を浮かべ、暁美は優しい笑顔を浮かべる。
「私がゴーストに襲われてたところを助けてくれて、ありがとうございます。それなのに私は自分の意見だけを芳香さんにぶつけてしまって、芳香さんの気持ちを理解していませんでした」
「暁美……1ヶ月前のことを引きずってんじゃねーよ。私はなんとも思ってねーから。当然のことをしただけだって」
「それでも……ね?」
その時、強い風が2人を襲い、暁美は車椅子から倒れそうになる。
「きゃあ!!」
地面に手を付くか、付かないかのところで、芳香が暁美を支える。
「大丈夫か?」
「水澤先輩……また助けてくれましたね」
芳香はハッとなって、暁美を車椅子に乗せた後、顔を赤くして空を見つめる。
「水澤先輩……大丈さんから軽く話を聞きました。先輩の過去も、描いていた未来も」
(京香さんめ……余計なことまでベラベラ喋って……)
「話を聞いて決めました。私、先輩と一緒にいたいです!」
「は? 私と? 暁美、何も聞いていなかったのか? 私は他人が嫌いなんだ。1人でいたいの。だから一緒にいなくて良いよ」
「私は先輩といたい!! 他人が嫌いだろうと、私は水澤芳香さんと一緒にいたいんです!! これは今、私が描いている未来です!! それに、私を守ってくれるって言ったじゃないですか!!」
力が入らず、震える足に無理を言わせて暁美は車椅子から立ち上がり、芳香の目を見る。暁美の真剣な眼差しを見て、芳香はため息をつき、再び体を支える。
「……やっぱりあんたは他の人とは違うよ」
「え?」
「……しゃーない。後輩にここまで言われたら、先輩として断り続けるわけにもいかないからな」
芳香はニッコリと明るい笑みを浮かべる。芳香につられるように、暁美も笑みを浮かべる。
「芳香で良いよ、暁美」
「じゃあ、芳香さん」
「私たちは親友だ」
「私たちは親友です」
2人は声を重ね、お互いを見つめ続ける。そして、暁美は自分の眼鏡を手で包み、芳香は暁美の手を優しく包み込んだ。
いつもご覧になっていただきありがとうございます!
面白かったら評価していただけると嬉しいです。
続きが気になる方はブックマーク登録の方をお願いします!
みなさんのお陰で今回も更新することが出来ました。
これからもよろしくお願いします!




