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Hope〜希望を信じて〜  作者: 伊澄 ユウイチ
過去を辿って
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暁美と芳香2

「警戒アラート!? ゴーストが近くにいる!」


 暁美は勢いよく立ち上がり、芳香は表情を崩すことなく、ベンチに座り続ける。


『ゴーストが出現しました。速やかに避難を行ってください』


 心がこもっていない案内放送に、暁美は急ぎつつ、冷静に避難を始める。


「行きましょう! 水澤先輩!」


 その時、芳香のナノマシンに通信が入り、芳香は仕方なさそうな表情を浮かべて応答する。


「はい、水澤」


『今日もラッキーだな芳香。近くにゴーストが現れて』


「勘弁してくださいよ。雑魚相手だと疲れるだけなんですよ」


「水澤先輩! のんきに通信している場合じゃないですよ! 早く避難しないと危ないですよ!」


 声が出る限り暁美は芳香に叫ぶが、芳香は先に行けと言わんばかりのジェスチャーを暁美に見せる。


「水澤先輩!!」


「うるせーな。後で行くから、暁美は先に行ってろ」


『近くに誰かいるのか?』


 芳香の通信相手が、その場の人数を尋ねる。芳香はやる気のなさそうな声で通信相手に言葉を返す。


「そんなこと聞く暇があったら早く来てください。先におっぱじめてますから」


 通信相手はクスクスと笑って『了解』と言葉だけ残し、通信を切断した。


「暁美、先に行け」


「水澤先輩も行くんですよ!!」


 その時、芳香は何かを感じ取り、暁美に怒鳴るように言葉を返す。


「暁美!! 逃げろ!!」


 暁美はふと自分の背後に目を向けると、そこには体の原形をとどめていない人間の姿が数人いた。


「ゴースト!?」

「チィッ!!」


 ゴーストの1体が腕の形を剣に変え、暁美に向かって襲いかかる。恐怖によって体が動かない暁美は、逃げるタイミングを失って、「死んだ」と心の中で呟いた。


「サポート起動! 消えろ!!」


 暁美に迫っていたゴーストが、背後から聞こえた声と共に消滅する。そして、後ろに控えていたゴーストも次々と消滅する。恐怖から解放された暁美は背後に目を向けると、ゴーストがいた場所に向かって、人差し指を向けている芳香の姿が見えた。


「み、水澤先輩?」


「聞こえなかったの? さっさと逃げろ」


「水澤先輩、もしかして」


 暁美が続きを述べようとするが、近くで爆発が起き、芳香は黒々と上る煙に目を向ける。


「雑魚のくせにやることが派手なんだよ」


 芳香は青い翼を背中に生成し、暁美に目を向ける。


「隊員の言うことは聞くもんだ。さっさと逃げろ」


 芳香は軽く翼を羽ばたかせて、空に舞う。何が起きたのか理解できない暁美は、屋上で芳香の飛ぶ姿を目で追いかけた。



 ======



 未だに屋上で佇んでいる暁美の姿を見た芳香は、目を細める。


「全く、トロい後輩だな」


 そして飛来してくるゴーストの大群に目を向け、自分の手に青い剣を創り出す。


「私の速度についてこれるか?」


 芳香は再び軽く羽ばたき、間を縫うように飛んでいく。あっという間に芳香はゴーストの大群を突き抜け、突き抜けた1秒後にゴーストの大群が消滅する。その様子を見ていた暁美は目を丸くして、思っていたことを口に出す。


「速い……綺麗」


 次々とゴーストを倒していく芳香だが、四方八方からの遠距離攻撃によってピンチを迎える。暁美は思わず「水澤先輩!!」と大声を出すが、芳香はニヤリと笑って目を閉じる。


「……この風かな?」


 目を閉じたまま芳香は飛行を続行し、一度も目を開けることなく攻撃を躱す。常人では不可能と言えるほどの動きに、暁美は口を開けずにはいられなかった。


「これで最後!!」


 芳香が赤い銃弾を放つと、広範囲にわたって爆発が起き、爆発に巻き込まれたゴーストは全て消滅する。


「……すごい」


 芳香は耳に手を当てて、誰かと通信を始める。


「状況終了。今日も稼がせてもらいましたよ。義弘さん」


『良くやった。見事な手際だな。俺が到着する前にゴーストを全て倒せるのはお前だけだな』


「嘘つき。来るって言っておいて、本部から一歩も出てないでしょ?」


 通信相手はクスクスと笑い、芳香に言葉を返す。


『ありゃ? バレてたか? 長年、一緒にいると分かってしまうか?』


「そうですね。被害は周囲の建物の損傷。負傷者は今のところ確認していない。万が一ってこともあるから医療班も派遣してください」


『分かった。後始末は任せろ。とにかくお疲れさん』


 芳香は暁美のいる屋上に向かって飛び始め、暁美の前に舞い降りる。戻ってきた芳香を見て、暁美は明るい笑みを浮かべて駆け寄ろうとする。


「水澤先輩!」


 暁美が芳香に抱きつこうとした瞬間、『パン』と音が鳴り響く。音と共に、暁美の左頬に痛みが走り、暁美は左頬を手で覆う。


「み……水澤先輩?」


 芳香は暁美の胸ぐらを掴み、お互いの鼻が触れそうになる距離で説教する。


「なんで逃げろと言ったとき逃げなかった? 自分が危険な場所にいるってことを自覚していたよね?」


「み、水澤先輩がホープ隊員だって知らなかったんです! 他人を置いて1人だけ逃げようなんて出来ないですよ!」


 芳香は軽く舌打ちし、暁美の胸ぐらから手を離す。そして暁美に背を向け、堅く拳を作る。


「そんなきれい事……口ではいくらでも言えるよ」


「き、きれい事なんかじゃないです! 本当に水澤先輩が心配だったんです!」


「……何も出来ないくせに言いやがって!」


 芳香が振り返った瞬間、暁美の体がゆっくりと倒れ始める。ドサっと鈍い音が響き、数秒遅れて芳香が動き出す。


「暁美!!」


 暁美の頭を自分の膝にのせて、懸命に呼びかける。しかし、暁美の顔色は徐々に悪化し始め、手足の指先が紫色に変色し始める。


「暁美起きろ!! おい!! 暁美!!」


 芳香の声が空に響き、その数秒後に屋上の扉が開く。



 ======



(……あれ? ここは?)


 暁美は見知らぬ天井を見て、周囲に目を向ける。ついさっきまで屋上にいたはずの自分が、ベッドの上で横になっているのに疑問を抱く。


(なんで私寝てるの? それに色んな場所に点滴打たれてる……どういう状況?)


 その時、「カラン」と何かが落ちる音が聞こえる。

 音がした方向に暁美は目を向けると、そこには今にも泣き出しそうな顔をしている芳香の姿があった。


「あ……暁美……暁美!!」


 芳香は勢いよく暁美に抱きつき、状況が理解できていない暁美はさらに混乱する。


「み……ずさわ……せんぱい?」


「馬鹿野郎……私の言うことを聞かないから……」


「……わたし……どうしちゃったんですか?」


「それは私が教えましょう」


 芳香の背後から優しい女性の声が聞こえ、暁美は声の方向に目を向ける。そこには、高身長且つ魅力のある体型。茶髪のロングヘアーで、優しい顔立ちの女性がいた。


「あなたは?」


 女性は微笑みながら暁美に近づき、自己紹介をする。


「私は大丈京香だいじょうきょうか。あなたの担当医よ」


 京香は紫色の瞳で暁美を見つめ、その瞳を見た暁美は自分の全てを見透かされているように感じ、体に寒気が走る。


「運が良かったね。もう少し処置が遅れていたら、あなたはあの世行きだったわよ?」


「え?」


「1ヶ月前、ゴーストが出現したときの死風を大量に浴びたあなたのナノマシンは崩壊し、自分で体の調子を維持することが出来なくなったあなたは、意識を失って倒れたの」


「ちょっと待ってください。1ヶ月前って……」


 京香はスッと目を閉じて言葉を返す。


「あなたは……1ヶ月間、ずっと死線を彷徨っていたのよ」


 容赦なく告げられた現実に、暁美の思考回路が一瞬止まる。


「でも大丈夫。今も体の中にナノマシンは入っていないけど、あなたは生きている。私の治療のお陰……って言いたいところだけど、今回は芳香ちゃんのお陰よ」


 京香と暁美は一斉に芳香に視線を向ける。自分に視線が集まっていると感じた芳香は、即座に明後日の方向を見る。


「水澤先輩……」


「い……言ったでしょ? 私が守ってやるって……」


 少し頬を赤くする芳香を見て、暁美は優しく微笑む。


(噂を聞いて勝手に怖い人だなって思っていた自分が恥ずかしい……)


「現場に到着したとき、心臓が止まっているあなたに心臓マッサージをしていたのは芳香ちゃんなの」


「きょ、京香さん!! それ以上言わないでください!!」


「あらあら、芳香ちゃんったら~。照れちゃって可愛いね」


 芳香は顔を赤くして、飛び出すように部屋から出て行く。


「京香さんのバカ!!」


「……一応、ここ病室だから静かにしなさいよ」


「あの……私がベッドで寝ている経緯はなんとなく分かりました。それで、ここはどこですか?」


 京香はカーテンが閉まっている窓に目を向け、思いっきりカーテンを開ける。眩い太陽光に目が潰されそうになる暁美だが、うっすらと目を開けて窓の外を見る。目に映り込んできたのは数本の巨大なビルだった。


「ビル……それも1本1本が大きい……」


「ここはホープ本部……正式にはホープ・Centralセントラル。その医療棟よ」


「ホープ……」


 京香は白衣のポケットからあるものを取り出し、暁美に手渡す。


「芳香ちゃんが、あなたが目覚めたときに渡してくれって頼まれていたもの」


「……私の眼鏡」


「自分で渡せば良いのに……って言いたいところだけど、なんか訳ありみたいだから許してあげて」


 いつも愛用している眼鏡を見た暁美は、無意識に涙を流していた。その涙を見た京香は、慌てて声をかける。


「どうしたの!? どこか痛むの!?」


「……私、水澤先輩に謝らなくちゃいけないんです。あの時、先輩は逃げろって言っていたのに、私は言うことを聞かずに……」


 暁美は枕に顔を伏せ、当時の自分の行動を深く悔いる。嗚咽している暁美を見た、京香は優しく頭を撫でる。


「……霧峰ちゃん。少し、話をしても良いかしら?」


 暁美は涙を流しながら、京香を見つめる。京香は椅子に座り、目を閉じて語り始める。

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