実家訪問3
古風で大きい水澤家の家を瞳に映した優一と真里は、呆気にとられていた。
「玲奈ちゃんの家、大きい……」
「確かに大きいな……」
「家の広さは野球場2つ分くらいで、2階建てです」
見とれている2人に、玲奈は家の大きさを説明した。
「相当だな……」
思わず苦笑いを浮かべる優一だが、玲奈の口から、さらなる衝撃な発言を耳にする。
「庭の広さを合わせたら野球場10個分はあるらしいですよ」
「じゅ!? そんな広さを二色で隠そうものなら1時間で霊力がなくなるぞ!? お前の母親の霊力量どうなってるんだ?」
「気になる?」
優一の背後から突如、低めの女性の声が聞こえ、優一は飛び跳ねてその場から離れ、真里は瞬時に霊力で生成した青い槍を手に持つ。
「誰だ!?」
「随分な挨拶だな。人の家の敷地に勝手に入ってきて失礼じゃないか?」
女性を視界に入れた玲奈は、明るい笑みを浮かべて女性に駆け寄る。
「お母さん!!」
「え? 誰?」
玲奈は母と呼ぶ女性に抱きつき、抱きつかれた女性は困惑した表情を浮かべる。玲奈の嬉しそうな表情を見て、優一と真里は目を丸くして女性を見つめる。
「こ……この人が玲奈の母親?」
「……ねえ玲奈ちゃん」
真里は女生と玲奈を交互に見て、玲奈に声をかける。嬉しそうな表情を浮かべたまま玲奈は真里に顔を向け、言葉の続きを待つ。
「本当にこの人がお母さん?」
「そうですよ。私の自慢のお母さんですよ」
優一と真里は信じがたそうな表情を浮かべるが、暁美の一言によって現実だと思い知らされる。
「お元気そうですね。芳香さん」
暁美に声をかけられた女性は、暁美の顔を見て、笑みを浮かべる。
「……久しぶりだな暁美。19年ぶりか?」
「そうですね。会えて嬉しいです」
女性につられるように暁美も笑みを浮かべる。その様子を見ながら、優一と真里は小声で会話をし始める。
(これは……本当のようだな)
(信じたくないけど、そうみたいだね)
(お母さん小さくね!?)
(お母さん小さい!!)
優一と真里が目を丸くして驚いていたのは、玲奈の母親、芳香の容姿だった。
長身でスーツが似合う大人の女性を象徴する暁美とは対照的で、とても小さく、幼い顔をしていて、服装は真っ白なパーカーに黒のハーフパンツ。体型も服装も見ただけだと、玲奈の妹と思ってしまうほど少女感を漂わせていた。
「ところで暁美。こいつは誰?」
芳香は玲奈を指さし、暁美に確認をとる。玲奈はショックを受けた顔になり、暁美は苦笑いを浮かべて言葉を返す。
「自分の娘でしょ? 分からないんですか?」
「はぁ!? まさか玲奈!? 雰囲気は似ているけど、私が最後に見た玲奈とは全然違うぞ?」
玲奈は倒れ込み、四つん這いになって落ち込む。
「そ……そんな~。酷いよ、お母さん」
暁美は玲奈の体が急激に成長した経緯を軽く説明して、芳香に本当に娘だと伝える。真実を知った芳香は猛ダッシュで玲奈に駆け寄り、強く抱きしめる。
「ごめん玲奈!! お母さんが悪かった!! 許してくれ!!」
芳香は泣いて玲奈に許しを乞う。玲奈も目に涙を浮かべて、芳香の背中に腕を回す。
「もう忘れないでね……」
「忘れない!! あんたの容姿と纏う風は絶対に忘れない!!」
茶番を見せつけられている優一と真里は声を発することが出来ず、その場からも動けなかった。
((何やってんだ? この親子?))
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ようやく茶番が終わり、客間に通された優一と真里は客間の至る所に目を向けていた。
「イメージはしていたけど和風だな……」
「ここまで日本の文化を再現しているのは珍しいね。大陸が1つになってから畳を作るのにも一苦労なのに凄いね。独特な匂いがするけど私好きかも」
畳の匂いに感動している真里と、未だに観察を続けている優一の注目を集めるため、暁美は軽く咳払いをする。
「他人の家であまりキョロキョロするな」
優一は観察をやめ、仕方なさそうな顔を浮かべ、真里はハッとなって現実に戻る。
「お待たせしました。お茶です」
緑茶が入った湯飲みを運んできた玲奈が3人の前に湯飲みを置き、3人は同時に一口緑茶を飲む。優一は口に合わなかったのか渋い顔を浮かべ、美味しかったのか真里は嬉しそうにお茶を飲み続ける。
「お待たせ~、お茶菓子だぞ~」
後から部屋に入ってきた芳香は、煎餅が大量に詰められた容器を机の上に置く。そして煎餅を1つ手に取り、豪快に囓ると、芳香は幸せそうな顔に変わる。
「やっぱり醤油味も美味しい……」
「お母さん昔から煎餅大好きだったね」
煎餅を食べる母を見て玲奈はニッコリと微笑む。芳香は玲奈に向かって親指を立てながら言葉を返す。
「あったり前よ! これとお茶さえあれば私は生きていけるよ!」
他愛もない会話を少しした後、芳香は暁美たちに視線を移す。
「で? 何のようだ? 暁美……っとその前に2人とは初対面だったな。私は水澤芳香。知っての通り、玲奈の母親だ」
突如始まる自己紹介に戸惑う優一と真里だが、軽く頭を下げて自分たちの名前を名乗る。
「玲奈ちゃんの小隊でお世話になっている大丈優一です」
「私は伊澄真里です」
2人の顔をジロジロと見る芳香は、難しそうな顔を浮かべたかと思えば、明るい笑みを浮かべて、何かに納得する。
「うんうん。暁美が連れてくるだけのことはあるな。2人とも良い顔してるよ」
優一と真里は顔を見合わせて、頭上にハテナマークを浮かべる。2人が呆け始めたとき、長らく口を閉ざしていた暁美が不機嫌そうな声で芳香に尋ねる。
「そろそろ良いですか?」
「相変わらず堅いな~。話すときに許可もらうなんて昔から変わってないな~」
芳香は煎餅を頬張りながら暁美に言葉を返す。相手にするのが疲れたのか、暁美はため息をついて本題に入る。
「芳香さん。久しぶりに会って単刀直入に言うのも何ですが、ホープに戻ってくる気はありませんか?」
暁美の一言によって、その場の空気が重くなり、誰も口を開けることが出来なかった。芳香は表情を変えることなく、煎餅を噛み砕きながら暁美の目を見続ける。
「え? 暁美何言ってんの? 嫌に決まってんじゃん」
芳香の答えはノーだった。あっさりとした感じで返答された暁美だが、表情を崩すことなく、芳香の目を見続ける。
「そういえば、お母さんホープの隊員だったんだね。どうして教えてくれなかったの?」
「聞かれなかったからね。それに知ったところで何か変わったの?」
芳香のあっさりとした口調の中に冷たさが混じり、それを感じ取った玲奈は背筋を伸ばして口を閉ざす。
「暁美……そんなくだらない話のためにここまで来たの?」
「くだらなくはないです。私は真剣に考えた結果、芳香さんにお願いしているんです。芳香さんにふさわしい立場も用意しています。どうか考えてくれませんか?」
暁美は畳に額を付けて芳香に、自分の思いは本気だと見せつけた。しかし芳香から返ってくる言葉に変わりはなかった。
「土下座しようが何をしようが、考えを変える気はないよ。こんなところに来る時間があるんなら1体でも多くのゴーストを消滅させな」
「ちょっと良いか?」
横から口を出してきたのは優一だった。
「話の流れが分からなくて付いていけない。1から話してくれないと俺たちは理解できない」
暁美はスッと目を閉じ、芳香は優一に目を向けることなく、次の煎餅を手に取る。
「……芳香さん。ここにいる2人は私が信頼を置いている人間です。少し過去のことを話しても良いですか?」
芳香はやる気なさそうな態度を取り、煎餅を咥える。
「過去の話なんてしても面白くないだろ? って言いたいところだが……」
芳香は優一に目を向け、優一は虚を突かれた顔になり、目をパチパチさせる。
「……真実を知る覚悟は出来てる?」
優一は望むところだと言わんばかりの表情を浮かべ、芳香は玲奈にも目を向ける。
「あんたも覚悟できてる? 玲奈」
玲奈は真剣な顔で首を縦に振る。芳香はため息をついて、暁美に話せと目で訴える。合図を確認した暁美はお茶を一口飲み、過去を語り始めた。
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遼と詩織は2人がかりで仁に模擬戦を挑んだが、結果は惨敗。仁に傷1つ付けることが出来ず、異次元電脳チャンネルの道路の上で2人は寝そべっていた。
「無理ゲー過ぎるだろ。中距離で攻撃しても弾を斬るし、近距離勝負を挑んだら予想通り結末だし……そもそもあいつの戦闘能力が、今まで見てきた人間とは桁違いなんだが?」
遼は隣で寝そべっている詩織に目を向ける。苦しそうな表情を浮かべながらも、遼に言葉を返す。
「絶対人間じゃないでしょ……」
横たわっている2人に仁は歩み寄り、地面に尻を付けて声をかける。
「どうする? まだやるか?」
「やめておく……生存本能が逃げろと言っている」
「私も……」
「そうか……まあ、2人とも悪くはない。自分たちの長所、短所を理解している。西原は中距離の間合い保って攻撃できていたのは良いことだ。ただ、狙っている相手に弾が当たらないんじゃ話にならない。射線も安定していない。もう少し射撃練習が必要だな」
遼は苦笑いを浮かべて仁に言葉を返す。
「誰かさんが躱したり、剣で弾を斬らなければ当たってたんだけどな……」
「回避しない敵はいない。自分の理想で戦うのはやめた方が良いぞ」
遼はやる気のなさそうな声で返事をし、次に仁が目を向けたのは詩織だった。
「月影さんは動きも攻撃も瞬時の選択も正確で、文句の付けるところがない……と言いたいところだが、正確すぎるのが弱点だな」
「正確すぎるのが弱点? 仁くん、どういうこと?」
「言葉の通りだ。テンプレートの動きを正確に出来ている。だが、戦い慣れした人が相手になると動きが読まれやすくなる。教科書通りの動きも大事だが、臨機応変の戦い方が必要だ。それと距離を詰められるとモタついてしまうところがある。一瞬の隙が命取りになる」
「ご丁寧にありがとう。次に繋げるよ」
「聞いた話によると2人は玲奈に勝ちたいと言っていたが、今のままじゃ勝つことはおろか、傷1つ付けられないだろうな」
仁の一言にムッとなる遼と詩織は反論しようとしたが、その気分もすぐに落ち込み、体を起き上がらせて軽く息を吐く。
全員が電脳チャンネルから離脱しようとしたその時、緊急アラートが鳴り響き、遼と詩織の眼前に出撃準備の画面が映し出される。
「なんだ!?」
「出撃準備って……」
いきなりの展開に戸惑う遼と詩織を見た仁は、現実世界にいる早紀に無線を送った。
「早紀、どうなっているんだ?」
『どうなってるって、そのままだよ! ゴーストが出現して、Cランク上位隊員とBランク隊員に出撃命令が出たんだよ!』
早紀の焦っているような声を聞いた遼と詩織は目を丸くし、仁はスッと目を閉じて2人に言葉をかける。
「2人とも行けるか?」
遼と詩織は同時にコクリと頷き、本気モードに入る。
「……無茶だけはするなよ。行ってこい」
遼と詩織は電脳チャンネルから離脱し、仁も後を追うように離脱した。




