実家訪問2
薄暗い個室で少女は無言でパソコンを操作する。流れるような指の動きでキーボードを叩き、画面を見て思わず笑みを浮かべる。
「やっと出来た……バトルサポートの機能を向上させるプログラムが……」
少女は心から喜び、今後のことを想像する。
「これを実戦投与できれば霊力消費は軽減されるはず……そしてこの功績で私は技術員として認められるはず……」
「暁美~? 入るぞ?」
薄暗い部屋の入り口からに眩い光が差し込み、少女は目を庇う。
「うわあぁぁ!! 眩しいぃぃ!!」
「うっわ、何だこの部屋。真っ暗じゃないか。電気くらいつけたらどうだ?」
「よ、芳香さん!! 部屋に入るときはノックくらいしてくださいよ!!」
暁美は怒りながらも、優しい口調で部屋に入ってきた人物に文句を言う。部屋の入り口で、暁美にポカポカ叩かれている芳香は悪びれた様子もなく笑う。
「アハハハ! 悪い悪い。でも、こんな暗いところでパソコン作業していたら目が悪くなるぞ」
「むぅ~。本当に悪いと思ってないくせに……」
「それはそうと、今日もやるぞ!」
その一言を聞いた暁美は露骨に嫌そうな顔を浮かべ、不満を口にする。
「え~、今日も模擬戦ですか? 私、バトルサポートの改良案を考えているんですけど」
「そんなのエンジニアに任せておけば良いって!」
「私はそのエンジニアになりたいんですけど?」
「何だって? あんたエンジニアになりたいの? 勿体ないことをいうなよ~。誰がどう見たって、お前は戦場に出るべき隊員だぞ」
暁美は呆れた表情を浮かべて芳香に言葉を返す。
「勝手に決めつけないでください!」
「そんなことよりも早く行こうよ! お前と模擬戦すると燃えてくるんだよ!」
「そんなの知らないですし、私を巻き込まないでください!」
芳香は強引に暁美の腕を引っ張り、部屋の外に連れ出した。その時、暁美の耳に遠くから呼ばれるような声が聞こえた。
「……お……ろ、あけ……み……暁美?」
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「んん?」
「暁美、起きろ」
暁美は横から聞こえる優一の声によって、目を覚ます。アイマスクを外して目を擦り、寝ぼけ眼で優一たちに目を向ける。
「ぐっすりだったぞ?」
「疲れてたのかな……夢まで見てしまった」
「どんな夢を見たんですか?」
真里が優しく微笑みながら、暁美に夢の内容を尋ねる。暁美は掠れ声で言葉を返す。
「他人の夢の内容に興味を持つのは良くないぞ? 伊澄。それよりもどうしたんだ?」
「もう少ししたら、ヘリでは近づけない場所に到着するんで起こさせてもらいました」
「ヘリで近づけない? どういうことだ?」
暁美は目を細めて、玲奈に説明を求めた。
「私の家は木々に囲まれています。ヘリだと着陸するには遠い場所に着陸しなくちゃいけません。それに上空からだとお母さんの特殊な能力で家が見つかりません」
その話を聞いた優一が首を傾げて、言葉の一部を復唱した。
「特殊な……能力?」
「私も詳細は分からないんですけど、お母さんは広範にわたって物の存在を隠すことが出来るんです」
「……恐らく、それは二色だな」
暁美が冷静に分析した内容を口にした。その言葉を聞いた優一は「なるほど」と顎に手を当て、玲奈はキョトンとした表情を浮かべる。
「二色って、あの二色ですか?」
「そうだ。昔からあの人は七色の使い方が上手かった」
「……本部長は私よりもお母さんのことよく知っていますね」
「いや、私はあの人を理解していない。理解したくても、本当のことを隠されていた」
『隠されていた?』
3人が声を重ねて暁美に一斉に目を向ける。それに気づいた暁美は1つ咳払いし、話を逸らす。
「それよりも、ヘリが着地できないんならどうするんだ?」
玲奈は姿勢を正し、この後の移動内容を説明する。
「取り敢えず私たちは5分後、ヘリの外に出て、家の近くまで飛びます」
「ヘリの待機場所は?」
「家から西方向、30㎞地点の場所に使われていない放牧場があるので、そこに待機してもらいます」
暁美はコクリと頷いて、玲奈の段取りに納得した。
「私が先行しますので、付いてきてもらえますか?」
「フッ。置いて行かれないよう努力する」
優一と真里も玲奈の段取りに賛成し、ヘリの外に出る準備をする。
(何年ぶりだろう……自分の翼を広げて飛ぶなんて)
大自然が広がる景色を見ながら、暁美は自分の飛行サポートが作動するか確認した。
『間もなく予定のポイントです』
ヘリの操縦士が無線で4人に報告し、手際良く優一がヘリの扉の開閉ボタンを操作して、扉を開ける。
『乱気流なし。周囲にゴースト反応なし。飛行予定者のサポート確認……異常なし。速度減速、発進可能です』
「行きます!」
ヘリの操縦士が安全を確認すると同時に、玲奈たちは宙に体を預けて翼を広げる。全員飛んでいることを確認した玲奈は、翼を羽ばたかせて実家を目指す。
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「あ~玲奈がいないと、なんかつまらないな」
本部で留守番をしている遼が、頬杖をついて天井を見つめていた。
「そうだね。なんかちょっと寂しいね」
「これじゃあ、1ヶ月いなかったときと一緒だな」
詩織が遼の目の前にコーヒーとお菓子を置いてクスクスと笑う。
「そうだね。だけどあの時は心配していたから、生きた心地しなかったけどね」
「同感。つまんないとか言ってる場合じゃなかったもんな」
遼はコーヒーを一口飲み、お菓子に手を伸ばそうとしたその時、入り口の扉が開き、ある2人が部屋に入ってくる。
「お邪魔します……そっか、そういえば玲奈は今日はいないんだったな」
「水澤先輩いないの?」
部屋に入ってきたのは桜井兄妹だった。2人を見て、遼は頭を抱え、詩織は苦笑いを浮かべる。
「お前ら……とうとうインターホンすら押さなくなったな」
「玲奈ちゃんが合鍵渡したからね……」
「どうしてそんな嫌そうな顔するんですか? 遼さん?」
「ちょっと待て。お前はいつから俺を下の名前で呼んで、先輩呼びしていない?」
遼は些細なことに反応し、早紀に詰め寄る。早紀はキョトンとした表情を浮かべて首を傾げる。
「え? 気に入らなかったですか?」
「下の名前で呼ぶのは構わないが、なんで玲奈は先輩呼びして、俺は先輩と呼ばないんだ?」
「気分ですよ。気分」
早紀の軽々しい言い方に苛立った遼は、血管を浮き出させて怒りをぶつける。
「納得いかないし、何だその言い方は!!」
「怒ってるんですか? 年下に対して少し大人げなくないですか?」
遼を小馬鹿にする早紀は、見下すような顔で不敵に微笑む。遼は顔を真っ赤にして怒りのボルテージを上げ、今にも殴りかかりそうな勢いになる。
「そこまでだ2人とも。くだらないことで一々腹を立てるな、西原」
「早紀ちゃんもあまり遼をいじめないで。結構ナイーブなんだから」
間に入って止めようとする仁と詩織だったが、2人の仲裁の言葉は遼の怒りのボルテージをさらに上げた。
「全員馬鹿にしやがって……と言うかお前ら2人は何しに来たんだよ!!」
遼は仁と早紀を指さし、2人は顔を見合わせた。そして2人は声を重ねて言葉を返す。
『暇だったから遊びに来た』
その一言を聞いた遼は頭を抱えて、椅子に座り込む。詩織は苦笑いを浮かべて、2人に飲み物を用意しようとした。
「折角来たんだし、何か飲みますか?」
「じゃあ、お茶で」
「私はミルクティーで!」
詩織は「はいはい」と返事をして、湯を沸かしに行く。詩織と入れ替わるように、仁は遼の向かい側に座り、ある提案をする。
「ところでお前も暇してたんだろ?」
「悪いかよ! 暇してるよ!」
怒り静まらない遼を見て、仁は鼻で笑う。
「どうだ? ハンデありで俺と模擬戦でもしないか?」
「模擬戦? お前と?」
仁はコクリと頷くが、遼は冗談だと思いまともに相手にしなかった。
「Cランク隊員の俺に、AAAランク・ブレーダーNo.1の桜井さんが相手にするわけないだろ?」
しかし、仁の目を見て寒気が走った遼は、本気だと感じ、不敵な笑みを浮かべる。
「マジかよ……」
「俺は冗談を言わない主義だ。月影さんと同時に来ても良いぞ?」
「え? 私も? 私スナイパー志望なんだけど……」
火の番をしている詩織がキッチン越しで声を上げる。
「良い機会だからお兄ちゃんと模擬戦してみれば良いじゃないですか」
他人事のように勧める早紀に詩織は目を向けて、ため息をつく。
「それにスナイパーといえども、近接の戦い方を知っておいた方が良いですよ」
「……詰め寄られたら脆い、講義でも習ったよ~」
「それなら話が早いですね。やってください。これは詩織さんの師匠である私の指示です」
(横暴な師匠ね……)
詩織は渋々了承し、遼と共に仁と模擬戦を行うことになった。
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標高1,500メートルある橙色の山、水流山を見ながら玲奈たちは20分間、飛び続けていた。
「水澤、大分飛んでいるが、まだ着かないのか?」
飛び続けたのに疲れたのか、暁美が玲奈に無線を送る。玲奈は地上に視線を向けて、減速し始める。
「タイミング良いですね。丁度着きましたよ」
ゆっくりと下降し始める玲奈の後を追って、優一、真里、暁美も下降し始める。地上に着地した4人だが、周囲に家屋は見当たらず、木だけが並んでいた。
「本当にここ?」
不思議に思った真里が、玲奈に声をかける。すると優一が目を細めて口を開ける。
「……間違いないな。ここだな」
「え?」
困惑している真里を余所に、玲奈はゆっくりと歩きだし、突如3人の目の前から姿を消す。
「消えた!?」
「俺たちも行くぞ」
優一と暁美は足早に玲奈の後を追い、置いて行かれた形になった真里は不安そうな顔を浮かべながら後を追う。ほんの数歩、歩いただけで木しかなかった場所に、古風ながら大きな家が現れる。
「え? ええッ!? 家が出てきた! しかも大きい!!」
お金持ちじゃないと建てられそうにない家を見た真里は、目を丸くして驚いた表情を浮かべる。
3人に背を向けていた玲奈は、クルリと半回転し笑顔で紹介する。
「ようこそ! ここが私の家、水澤家の家です!」
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