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初めての友達

 仁はカプセルに閉じ込められている桜を見て、玲奈に声をかける。


「……さっきは」


「仁、ごめん!!」


 玲奈は仁の言葉を遮って、深々と頭を下げて謝罪した。いきなりの展開に困惑する仁は、驚いた表情を浮かべて玲奈に目を向ける。


「止せよ! お前は何も悪いことはしてないだろ? 何で謝るんだ?」


「私は仁の気持ちを考えずに酷いことを言ってしまった……負けて落ち込んでいるのに無神経なことを言ってごめん!」


 涙をポロポロ流す玲奈を見て、仁は軽く息を吐き、玲奈に歩み寄る。


「玲奈……」


 玲奈はゆっくりと顔を上げて仁の顔を視界に入れようとする。しかし顔を上げる途中で額に痛みが走り、玲奈は額を手で隠す。


「痛ッ!! 何するの!?」


「落ち込んでなんかねーよ。師匠に勝ちたいとは思っているけど、負けて落ち込んでなんかないから」


 玲奈の口はポカンと開き、仁は玲奈の目に浮かんでいる涙を拭った。


「寧ろ、お前に冷たく当たって、怒らせてしまったことに落ち込んでいたよ」


「え?」


 仁は再び桜に視線を移し、優しい表情を浮かべる。呆けている玲奈も桜に目を向ける。


「なんで……こんなところに桜が?」


「この桜は俺が入隊するずっと前から観賞用として一年中花を咲かせている。花は散ることもなく、蕾が開くこともない。一番美しい状態を保ったまま、この場所で人に勇気を与えているんだ」


 仁はカプセルに触れ、スッと目を閉じる。しかし玲奈は違和感を感じ、思ったことを口にする。


「……仁はこれを桜だと思うの?」


「……玲奈は何に見えるんだ?」


 玲奈は息を吸い込んで、意見を述べる。


「強制的に花を咲かせ続けて散らせないなんて……それは桜でも植物でもない……ただの映像だよ」


 玲奈の意見を仁は黙って聞き続ける。玲奈はさらに意見を述べる。


「それに、この桜は1本しかない。他の桜がいないと、より綺麗な花を咲かせようとしない。今のままで満足しようとしている。もっと輝けるのに他人が勝手に押しつけた自由がこの桜をダメにしている」


「……同感だ。玲奈」


 仁は玲奈に目を向け、自分の思いを語る。


「この桜はまさしく今までの俺を映している。自分の思いを押し殺し、周りを拒絶して1人で戦ってきた。力のみを求め続け、俺は他人から認められるほど強くなった。だけど、俺の周りには人はいなかった……。そして孤高の存在でブレーダー1位を守り続けた俺だったが、特別入隊試験でお前に負け、病み上がりの師匠にも力及ばなかった。敗因は分かってるんだ……俺は1人で戦ってたから負けたんだ……そして、それを分からせてくれたのがお前だ」


 仁は堅く拳を作って、さらに思いを語る。


「もし、俺に心を許せる友達がいたら俺はもっと輝いていたはずだ……もっと咲き誇っていたはずだ。劫火さんや早紀、師匠は仲間だと思うが、俺の友達ではない。過去に俺に近づいてきた奴は何人もいたが……そいつらは全員俺を利用しようとした奴らばかりで、本当に俺と友達になろうと思って近づいてきた奴は1人としていなかった。そんな自分勝手な奴らに俺は心は開けない……だけど……」


 玲奈は仁の目を真っ直ぐ見つめ、仁も玲奈の目を見つめ返す。


「お前の意見を聞いて俺は覚悟を決めた。玲奈、俺と師弟関係ではなく……と、友達になってくれ」


 仁は深々と頭を下げ、地面を見つめる。そして玲奈は仁に言葉を返す。


「……顔を上げて、仁」


 仁はゆっくり顔を上げ、玲奈の顔を見る。


「あんたの思い……確かに受け取ったよ」


 玲奈は軽く微笑み、仁を見つめる。その笑顔に見惚れた仁は思わず呆然とし、目の焦点が合わなくなる。


「私が仁の隣に咲く桜になるよ。だから、仁はもっと輝いてくれるよね?」


「玲奈……ありがとう」


 再び仁は頭を下げ、玲奈はその頭を優しく撫でる。その様子を屋上の陰で見ていた優一は2人に声をかけることなく、煙草を咥えながら微笑む。


「理想の展開……仁に足りなかったパーツが揃うどころか、玲奈ちゃんも足りなかった手に入れる……フフフ、この先楽しみだな」


 優一は紫色の瞳を一瞬輝かせ、2人に気づかれないように優一はその場を離れる。



 ======



 大きな段ボールを抱えて、遼は自分の小隊部屋に向かっていた。


「遼、大丈夫か?」


 やっとの思いで歩いている遼を見て、劫火は心配りをする。遼は顔を引きつりながら劫火に言葉を返す。


「だい……じょうぶです。もう少しで着くので」


「とても大丈夫そうには見えないが……それにしても何だこれは?」


「多分……注文していた隊服だと思うんですけど……」


 ずり落ちそうになる段ボールをしっかり抱えて、今一度力を振り絞る。劫火はため息をついて遼に片腕を貸す。


「劫火さん?」


「師匠だからって気を遣わなくても良いんだぞ」


「あ、ありがとうございます!」


 やっとの思いで小隊部屋に着いた遼はリビングに段ボールを置く。


「やっと着いた……」


「遼くんお帰り……と、劫火さんようこそ」


 小隊部屋にいた詩織が2人に声をかける。遼は言葉は返さず、手で返事をし、劫火は「お邪魔します」と微笑みながら詩織に言葉を返した。


「あれ? 劫火さんも来たんだ」


「早紀、また迷惑かけに来たのか?」


 早紀の姿を見て劫火は呆れ顔になる。


「違います! つい数時間前から、私は水澤小隊の人と関係を持つことになったんですよ~」


 早紀の一言で劫火は目を丸くし、詩織は慌てた様子で早紀の口を塞ごうとする。


「関係? どういうことだ?」


「早紀ちゃん! 他の人に喋らないって約束だったじゃない!」


「どうせお兄ちゃんと劫火さんにはバレちゃうんだし、言っても大丈夫ですよ~」


「早紀、詳しく聞かせてくれるか?」


 劫火は椅子に座り、早紀は自慢げに話し始める。


「私は水澤小隊の月影詩織さんの師匠になったんですよ!」


「詩織に師匠?」


 遼は呼吸を整えて、詩織に目を向ける。劫火は腕を組んでスッと目を閉じる。


「早紀、師匠になるってことは大変なんだぞ?」


 早紀は喰い気味に劫火に言葉を返す。


「分かってますよ! 覚悟も出来てます! 私は責任持って詩織さんを一流スナイパーにしてみせます!」


 劫火はため息をついて早紀に鋭い視線を送る。


「教える教えないじゃなくて、お前は弟子が窮地になった時、自分の身を削ってまで助けられるのか? って聞きたかったんだ」


「助けます! 命に代えても!」


 早紀は真剣な眼差しで劫火の目を見る。本気が伝わったのか劫火はすぐ顔を和らげ、嬉しそうな顔を浮かべる。


「そうか。ついに早紀も師匠になったか~」


(切り替え早ッ!!)


 遼は思わず声に出そうとしたが、我慢を効かせ何とか発言を阻止することが出来た。


「ところで、月影ちゃんはなんで隠そうとしていたの?」


「え? だって、水澤小隊全員が劫火小隊の人たちと師弟関係を持っているってなったら、他の小隊の人から何か言われるんじゃないかなって思って……」


「確かにね。このことは内密にしておいたほうが良いね。早紀、自慢したくても話しちゃダメだぞ」


「は~い」


 早紀はふてくされることなく、素直に返事をする。会話が一段落した時、小隊部屋の扉が開き、玲奈と仁が入ってくる。


「ただいま」

「お邪魔します」


「あれ? お兄ちゃんまで来た」


「早紀……劫火さんも……一体どうしたんですか?」


「俺は遼と一緒に荷物を運んだんだ」


「私は詩織さんとお喋り。お兄ちゃんは?」


「玲奈の……友達の……部屋に遊びに来たんだ」


 仁は照れくさそうに言葉を返し、早紀と劫火は雷に打たれたかのように一時思考が停止する。


(と、友達だと!? 他人を拒み続けてきた仁に……友達だと!?)


 2人はジワッと目に涙を浮かばせて、早紀は仁に抱きつき、劫火は指で涙を拭う。


「お兄ちゃんおめでとう~」


「仁、成長したな」


「おい、早紀! 抱きつくな!!」


(他人の部屋で何やってんだ? この3人は……)


 玲奈たちの思いがシンクロする。そして床に落ちている段ボールを見た玲奈は目を輝かせて、遼に中身を確認する。


「わぁ!! 今日届いたの?」


「本部棟の人に呼ばれて、俺が取りに行ってきた」


「玲奈ちゃん楽しみに待ってたもんね」


 水澤小隊の3人が話し始めたのを見て、仁が玲奈に声をかける。


「玲奈、それって……」


「えへへ。ちょっと前に受注した私たちの隊服。エンブレムのデザインとか3人で考えたんだよ~」


「水澤小隊の隊服……私見てみたいです!!」


 早紀が手を上げて隊服姿を拝見したいと申し出る。


「え? 今? 遼と詩織がBランクに昇級したら着ようかと思ってたけど……」


「えーッ!! 折角届いたんですから、着てみましょうよ~」


「コラッ! 早紀、わがまま言っちゃダメだろ」


 自分の思いを通そうとしている早紀を見て、劫火が抑止に入る。早紀は頬を膨らませて納得のいかない表情を浮かべ、劫火の腕の中で暴れ始める。


「やだやだ!! 見たいもん!!」


 癇癪を起こした早紀を見て、仁は深くため息をついて、玲奈に頼み事をする。


「すまない玲奈。早紀は一度言い出すとしつこくて……どうしても着ることは出来ないか?」


 玲奈は遼と詩織に目を向け、2人はコクリと頷き、言葉を用いずに了承を得た。


「良いよ。ちょっとだけ着てみるよ」


 その一言を聞いた早紀は、喚いていたのが嘘のように静まり、ソファーに行儀良く座る。


「気を遣わせてすまない……」


 謝る仁に、玲奈は笑顔で返す。


「気は遣ってないよ。だって、友達なんだから」


 そう言うと玲奈たちはそれぞれの個室に入って着替え始める。そして数分後に遼が個室から出てくる。


「どうですか?」


「ほぉ……」

「似合ってるぞ、遼」

「西原先輩かっこいいです~」


 3人は一斉に感想を述べる。ぱっと見、黒一色のスーツで、ネクタイも黒いものを身につけていたため、喪服姿のように見えたが、肩付近にホープ本部隊員を表すためのエンブレムが付けられており、胸ポケットには水澤小隊オリジナルのエンブレムが付けられていた。


「胸ポケットのヤツが小隊エンブレムか?」


 仁が白い翼が3枚重なっているイラストを見て、遼に質問する。


「ああ。玲奈の飛び方を見て集まった3人だから、翼が重なっているイラストをエンブレムにしたんだ。一番上の翼が玲奈で、真ん中が俺。そして一番下の翼が詩織だ」


「良いエンブレムだ……誰が考案して絵を描いたんだ?」


 絵の専門が描いたんじゃないかと思うくらい芸術性のあるイラストを、仁は感心した目で見る。遼はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりの表情を浮かべ、自身を指さす。


「絵を描いたのは俺だ」


「マジか!?」


 仁は一瞬目を丸くし、遼に対して疑いの視線で見つめる。その視線を感じた遼は目を細めて「本当だ」と言葉を返す。


「お待たせしました~」


 次に詩織が個室から出てきて全員の視線が詩織に向けられる。詩織も遼と同じような服装で、同じ場所にエンブレムが付けられていた。そして気分転換なのか、前髪に黒いヘアピンを2つ付けていた。


「ほぇ~、詩織さんスカートじゃないんですね」


 早紀が女性の隊服はスカートだと思い込んでいたため、男性用のスーツに身を包んでいる詩織を見て、思わず感心する。


「早紀ちゃんどう? 似合ってる?」


「似合ってるも何も、格好よすぎますよ~。クールビューティっぽさが出て、思わず惚れそうでしたよ~」


「フフフ、ありがとう」


 そして最後に玲奈が個室から出てくる。全員ゆっくりと視線を移し、その姿を見た仁は心を何かに支配される。玲奈も詩織同様、男性用の黒いスーツに身を包み、襟元、黒ネクタイには隊長であることを表す「R」の文字が刺繍されていた。


「……これが水澤小隊の隊服だよ」

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