すれ違う思い
シャワーを浴びてリフレッシュした西原抄は部屋着を身に纏って、リビングにある冷蔵庫の中を漁り始めた。
「何かないかな~? 飲み物も欲しいけど、お腹も空いたし食べ物も欲しいな~」
そして抄は、コーヒー牛乳と「悠香の」と書かれたプリンを手に取った。
「誰かいる? あ、抄ちゃんがいた」
自室に籠もっていた真里がリビングに顔を出す。
「ん? どうしたの……って、あんた遠征用の隊服着てどうしたの?」
真里が遠征用の隊服、所謂一張羅を着ているのを見て、抄は頭上にクエスチョンマークを浮かばせる。
「実は明後日、本部長と一緒に遠出することになったから服の確認していたんだけど、どこか痛んでいるところない?」
抄はプリンを口に運びながら真里の服装を確認した。
なめ回すような視線に、真里は少し照れながら抄の感想を待つ。
「改めて見たけど、ウチの遠征用の隊服って高校生の制服みたいだね」
感想を聞いた真里はクルリと一回転し、自分の目でも服の確認をした。
「私も思うけど、このデザインじゃないと嫌だって言う人が1人いるからね……」
「……静佳だね。全く、いい歳して学生服を着たいだなんて……長いこと付き添っているけど、変な趣味さえしなければ良い奴なんだけどな……」
「誰が変な趣味だって? 抄ちゃん?」
抄の背後に満面の笑みを浮かべる静佳の姿が現れる。突如現れた静佳に驚いた抄は思わず飛び跳ねる。
「し、静佳!? いや、これは……」
「若いときだけだよ~。可愛い服着られるのは。ましてやスカートなんて年を取っていくと履けるタイミングなんてないんだから」
『いや、可愛さは私たち求めてないから』
真里と抄の声が重なる。2人の率直な意見を聞いても静佳は折れなかった。
「2人とも可愛いのに可愛い服をあまり着ないのは勿体ないよ。もっと色々開拓していかないと」
「あんまり可愛いとか言うな!」
「開拓するまでではないと思うけど……」
「うるさいな~。ゲームに集中できないでしょ~」
リビングで騒がしくしている3人に注意しながら、携帯ゲームに集中している悠香が自室から出てきてソファーに座る。
「あ、悠香ちゃん。また徹夜でゲームしていたの?」
悠香の顔を見た真里は、悠香の目の下に出来ているクマを見て問い質す。悠香は真里に目を向けることなく、無表情で指を動かし続ける。
「あはは。おしゃれに気を遣わない人間がここにも居たよ」
抄は笑いながら持っているスプーンを悠香に向け、その言葉を聞いた真里は苦笑いを浮かべる。
「悠香ちゃんはおしゃれに気を遣ってるよ?」
『え?』
真里と抄は意外そうな顔で悠香に目を向け、声を重ねる。
「私はファッションとか詳しくないから静佳に全部任せているの」
相変わらず周りに目を向けることなく、携帯ゲームに夢中になっている悠香はやる気なさそうな声で静佳の言葉に自分の思いを付け加える。
「委ねる相手を間違えているような気がするけど……」
真里は苦笑いし、抄はため息をついてコーヒー牛乳を一口飲む。
「それはそうと抄」
「ん?」
悠香のやる気のない口調が抄に向けられる。抄は瞬きを数回しながら悠香に目を向ける。
「何食べているの?」
「え? プリンだけど?」
「私の記憶が正しければ冷蔵庫の中にあったプリンは1個しかなかったはずだけど?」
「おお!? 確かに1個しかなかった! もしかして欲しかったの?」
「それともう1つ。そのプリンには私の名前書いてあったはずだけど?」
抄は容器の蓋を確認すると、そこには確かに「悠香の」と書かれた紙が貼ってあった。
「あ……」
「覚悟は出来てるんだよね?」
悠香は携帯ゲームをソファーの上に置いて拳をポキポキと鳴らす。抄は顔を青ざめて真里や静佳に助けを求めようとするが、2人とも苦笑いを浮かべて抄を見捨てる。
「は、悠香ごめん!!」
「許さない」
2人は部屋中駆け回り、最終的には悠香に捕まり、抄はボコボコにされた。
『抄ちゃん……自業自得だよ』
真里と静佳は声を重ねる。
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(仁のヤツ! 二言目には無理だって言って! そういうところがムカつく!)
玲奈はイラついた思いを抑えながら、自らの小隊部屋に向かって歩みを進めていた。
「お~い、玲奈~」
玲奈の背後から声かけ、近づいてきたのは訓練を終えたのであろう遼と劫火だった。
「遼、それに劫火さん」
「水澤ちゃんも訓練終わりか?」
劫火は優しい笑顔で玲奈に声をかける。玲奈は無理矢理作った笑顔を遼と劫火に見せる。
「玲奈、イラついているのか顔に出てるぞ」
「そ、そう? イラついてなんかないけどね」
「もしかして、また仁が何か言ったのか?」
正解と言いたくなるような劫火の質問に、玲奈は言葉を返すことは出来なかった。
「その様子だと当たりのようだね」
劫火は腕を組んで、困った表情を浮かべる。その表情を見た玲奈は慌てて言葉を返す。
「いや! そうじゃない……ってわけじゃないんですけど、あ~! なんて言えばいいか分からないよ~」
劫火は軽くため息をついて、ある提案をした。
「良かったらコーヒーでも飲まない? いったん落ち着いて話をしよう」
「はい……」
玲奈は視線を落とし、劫火の提案に乗った。
「遼も来なよ。好きなのを頼んでいいよ」
玲奈と遼は先を歩く劫火の後を追った。
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喫茶に着くなり劫火はコーヒーを注文し、玲奈と遼もそれぞれ飲み物を注文した。
「飲み物だけで良いの?軽食もあるし何か頼めば良いのに……」
「今は……そんな気分じゃないんで」
玲奈の声が少し低く感じた遼は、玲奈を横目で見て劫火に言葉を返した。
「俺は玲奈に合わせます」
劫火は「そうか……」と言葉をこぼし、足を組んで背もたれに背を付けた。
「水澤ちゃん、今日何があったのか教えてくれないか?」
真っ直ぐ見つめてくる劫火の目を見て、玲奈は渋々今日起きたことを話し始める。遼と劫火は口を挟むことなく、玲奈の話を聞き続けた。途中から感情的になったのか、玲奈は目から涙を流し始める。
「なるほど、話は大体分かった。だけど仁が君に冷たく当たってしまうのは分かる気がする」
すました顔で劫火は届いたコーヒーを飲み、ため息をつく。
「劫火さん、仁の気持ちが分かるって、どういうことですか?」
「戦闘内容は分からないけど、仁が霊楼秘技・奥義を使ったってことは、本気で優一さんに勝つつもりだったんだろうな。だけど力及ばず優一さんに負けた……弟子に良いところを見せようとしたが恥ずかしい姿を見せて落ち込んでいるんだろう」
「……そうでしょうか?」
玲奈は目を細めて劫火の目を見る。
「それに、水澤ちゃんも無神経にも程があると思うよ」
「私が? 仁を傷つけるようなことは言ってないはずですけど?」
「君は自覚がないかもしれないけど、負けて落ち込んでいる仁に対して霊楼剣技を教えてくれって言うのは、傷口に塩を塗っているように感じているのは俺だけかな?」
玲奈は自分の言ったことを思い出し、仁の立場になって考え始めた。玲奈の横に座っている遼は、腕を組んで横目で玲奈の様子を見る。
「確かに仁の霊楼剣技は魅力もあって、教えて貰いたくなる気持ちも分かる。だけど、他人に砕かれた剣技を他人に教えたいと思うか?」
劫火の口調が冷たくなり始める。その瞬間、遼は自分が怒られていないのにも関わらず、姿勢を正す。
「弟子だからって人の気持ちを踏みにじっていいもんじゃない。その場で君がするべき行動は沈黙だったんだよ」
玲奈は視線を下に向け、周りに表情が見えなくなるまで首を曲げる。見えなくても涙を流しているのは誰でも分かった。劫火は優しく玲奈の頭を撫でる。
「少し厳しくしすぎたね。大丈夫だよ。仁が今まで君に吐いてきた暴言に比べるとかわいいものじゃないか。これでおあいこってことで、仁に謝ってこれる?」
玲奈はコクリと首を縦に振る。
「しかし、桜井が落ち込んでいるとはな……」
遼は頬杖をついて天井を見つめて言葉をこぼす。
「あ~このタイミングで言っていいのか分からないが、多分あいつ落ち込んでないぞ」
劫火の一言で玲奈は顔を上げる。遼は理解できない表情を浮かべる。
「確かに負けたのはショックだったかもしれないが、久しぶりに師匠と模擬戦出来て嬉しかったんじゃないかな?」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。長年付き添っている俺が言うんだ。間違いないよ」
玲奈はホッと胸を撫で下ろし、安堵の表情を浮かべる。
「だけど、ちゃんと謝るんだぞ。無神経すぎると人に嫌われるぞ?」
「はい! 謝ってきます!失礼します!」
玲奈は劫火に頭を下げて、足早に喫茶を後にした。その後ろ姿を見ながら劫火はコーヒーを飲み干す。
「劫火さん、面倒ごとに関わってくれてありがとうございます」
遼は玲奈の代わりにお礼の言葉を劫火に伝える。劫火は優しく微笑んで言葉を返す。
「いや、玲奈ちゃんには敢えて言わなかったが、仁も悪い。負けた程度で人に当たるようじゃまだまだ未熟だ。本当に強い人間は感情を上手く隠すものだ。仁はまだそのレベルにまで達していない」
「それでも……ありがとうございます」
「こちらこそ力になれて良かったよ」
(優一さんが仁と水澤ちゃんをくっつけた理由がなんとなく分かる気がする……優一さん、やっぱりあなたは恐ろしい人だよ)
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(何やってんだよ俺は……玲奈は俺の剣技を素直に評価してくれたのに……何で突っぱねたんだよ)
仁はフラフラとした足取りである場所に向かって歩みを進めていた。その場所とは……。
「……やっぱりこれを見ると落ち着くな」
仁が立ち寄った場所は、医療棟の屋上で巨大カプセルに管理されている桜の木の前だった。
(初めてお前を見たとき、俺も常に咲き続ける桜になると心に誓ったが……俺は散ってばっかりだ)
近くにあったベンチに腰を下ろした仁はスッと目を閉じた。瞼の裏に散っていく桜の花びらを想像して、自分と優一の模擬戦を思い出す。久しぶりに師匠と戦えて喜びも込み上がってきた仁だったが、やはり負けたのは悔しかった。
(こんなんじゃ、玲奈に戦い方を教えられないな……)
「仁!!」
不意を突くように呼ばれた声に反応した仁は、反射的に目を開ける。目の前には今にも泣き出しそうな顔をしている玲奈の姿があった。
「玲奈……」
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