幻の八色
少し遅くなりました……。
「仁のフルアタックを受けてもダウンしないなんて……」
電脳チャンネルに居続ける優一の姿を見て、玲奈は顔を青ざめる。対峙している仁も焦りの表情を隠すことは出来ず、攻撃を仕掛けることが出来なかった。
「仁、さっきの霊楼秘技、奥義は流石に驚いたぞ。ここまで成長しているとは正直思わなかった。ホープ本部のブレーダー1位に君臨するだけのことはある」
冷静に仁の攻撃を解析し、称賛する優一だが、仁の耳に褒め言葉は入ってこなかった。
(バカな……師匠に初めて繰り出した秘技と奥義なはず……見切られて躱した? それにしては位置が変わってなさ過ぎる。一体どうして?)
「納得のいかない状況になると、考え込む癖は相変わらずだな。戦場では考えるよりも体を動かせ」
「クソッ!!」
「久しぶりに楽しめたぞ。お礼と言っては何だが、俺の最高の技で、お前を電脳チャンネルから除外してやる」
優一は不気味に微笑むと、持っている黒い剣を鞘に収める。鞘に収められた剣は、優一から送られてくる霊力を蓄え続ける。本来なら纏いきれないほどの霊力が送り込まれると、霊力はどこかに流れて行ってしまうのだが、刃が鞘に収めているお陰で、霊力が漏れることはなかった。
「一体何をしようと?」
心配そうな顔で玲奈は仁を見守る。しかし、仁は相変わらず攻撃を仕掛けることが出来なかった。一見、武器を相手に向けていない優一の姿は、隙だらけに見えるが、仁は何かを感じていた。
(何だ!? 急に体が重く……地上に吸い寄せられるような感覚は?)
「動けないか? 仁」
ピクリともしない仁の姿を見て優一は言葉を続ける。
「最後だ。良いことを教えてやる。お前の奥義は完全に防がせてもらった」
「防いだ? どうやって防いだんですか?」
「……七色に分割された霊力の色。実は七色で全色じゃないんだ」
モニターで見ていた玲奈は「嘘!?」と驚きの声を上げる。仁も初耳だったようで驚きの表情を浮かべる。
「幻の色、八色。それを使えるのはホープ本部だと、俺と暁美と伊澄さんの3人だけ」
「幻の色……八色」
仁は目を細めて優一を睨みつける。
「そうだ。そして今から放つのは、全色揃ってようやく使える奥義」
仁はやっとの思いで身構え、優一は剣を鞘からゆっくり引き抜く。引き抜かれた剣の刃は黒色ではなく、全ての七色と幻の八色目を纏っていることによって、虹色に輝いていた。
「行くぞ。八色奥義・エターナルブレード!!」
優一は体を捻り、戻る力も利用して剣を振り抜く。剣に纏っていた虹色の霊力が、斬撃波となって仁に飛んでいく。仁は回避することを選択せず、霊楼剣に霊力を纏わせた。
優一が放った奥義に違和感を感じた玲奈は、思わず仁に無線を送る。
『ダメ!! 避けて!!』
しかし仁は玲奈の無線を無視し、飛んでくる斬撃波に刃を振る。
「負けるもんか!! 霊楼奥義・桜吹雪!!」
桜色の斬撃波が、優一の放った奥義めがけて飛んでいくが、全て打ち消され、一瞬にして仁の上半身と下半身が引き離される。仁の体を引き裂いた奥義は数百メートル飛んでいった末に、輝きを失って消えた。そして仁は電脳チャンネルから除外された。
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現実世界に戻った仁は、ヘルメットを外し、天井の一点のみを見つめていた。
「……なんだ? あの斬撃は?」
「仁!」
玲奈は転送室に入るなり、横たわっている仁に駆け寄る。仁は玲奈に目を向けることなく、天井を見つめ続ける。
「何で避けなかったの!?」
「……分からない。分からないけど、あの斬撃を前にした時、避ける選択は思いつかなかった」
呆然としている仁を見て、玲奈は眉をハの字にして口を閉じた。
「一時はどうなるかと思ったよ」
転送室の扉が開き、優一が余裕綽々の表情で仁に声をかける。相変わらず、仁は天井を見つめ、優一は構うことなく言いたいことを口にする。
「久しぶりに熱くなっているお前を見てホッとしたよ。それに強くなっていて驚いたぞ」
仁はムクッと起き上がり、ベッドの上に座って優一に言葉を返す。
「あんな隠し球があってよく言いますね。自分こそ、熱くなっている師匠を見たのは初めてですよ」
「そりゃそうだ。まさかお前相手に八色を使うことになるとは思わなかったよ」
「優一さん、八色って?」
2人の会話に玲奈が口を挟む。優一はニッコリと微笑んで、玲奈と仁に八色の説明をする。
「八色……それは霊力を消費して使える七色とは異なり、プログラムで使えるようになるものじゃない……極意って言ったら分かりやすいかな?」
「極意? それにプログラムじゃないって?」
玲奈は首を傾げて説明を求めるが、優一は無視して言葉を続ける。
「八色は攻撃ではなく、防御特化の色術。発動すると、使用者が思い描いた場所に透明な壁を張ることが出来る。その壁はどんな攻撃をも受け止め、包み込むことが出来る。仁の放った無数の斬撃を無傷で耐えられたのは、俺の周りに八色を展開させていたからだ」
「どんな攻撃も……それって最強じゃないですか!」
玲奈が驚いた表情を浮かべて、八色の性能を理解する。
「さっきも言ったが、誰でも使えるわけじゃないんだ」
優一は優しい眼差しで玲奈と仁を交互に見る。
「八色は強い思いを抱いている人間しか使えないんだ。それも特定の感情じゃないと使えない」
『強い思い?』
玲奈と仁は声を重ねて首を傾げる。理解に苦しむ2人を見て、優一は満面の笑みを浮かべる。
「まあ、今のお前たちに八色の話をしても理解できないのは当然。八色を理解しようとする前に、お前たちはまだまだ覚えることも、身につけることも多いだろ? 今は理解しようと思うな」
「え~? ここまで話して教えてくれないんですか?」
玲奈は残念そうな表情を浮かべ、仁はジッと優一を見つめ続ける。
「当たり前だ。ひよっこどもに教えられるもんじゃないんだよ。文句は俺を倒せるようになってから言え」
そう言うと、優一は高らかに笑いながら部屋を後にしていった。そんな優一の背中を玲奈は変人を見るような目で見つめた。
「今時、笑いながら出て行くなんて……」
「模擬戦で勝ったときの高笑いは昔からだ。変人を見るような目で見ないでくれ」
「あんな途中まで話して、有耶無耶にされると余計に気になるんだけど……」
「師匠が今は考えるなと言ったんだ。いったん忘れた方が良い」
ため息を吐く仁を見て、玲奈はしゃがみ込んで目を輝かせる。
「それはそうと、あんたの今日の戦い方は鳥肌が立ったよ! なんなの~霊楼剣技って? 私の時には使ってこなかったじゃない」
「お前相手に使うわけないだろ」
「私、霊楼剣技使ってみたいな~」
「無理だな」
即答する仁に対して、玲奈は顔を膨らませて言葉を返す。
「なんで!?」
「俺が他人に易々と技術を教えると思うか?」
「思う」
「即答だな……教えるわけないだろ。いや、恐らく身につけることは不可能だと思う」
「どうして? なんで不可能だと思うの?」
仁はスッと目を閉じて、不可能だと思う根拠を玲奈に打ち明ける。
「昔、早紀も同じことを言ってきて、渋々教えてやったが技術を身につけることは出来なかったんだ。それも1年かけたんだぞ?」
「早紀ちゃんは、でしょ? 私は違うかもしれないよ?」
仁はため息をついて玲奈の気楽な発言に対して言葉を返す。
「自慢じゃないが、早紀は人よりも物覚えが良くて、忠実に再現することが出来るんだ。そんな早紀が出来なかったんだから、お前に出来るはずがない」
その一言にカチンときた玲奈は、眉をヒクつかせ、不気味な笑顔を浮かべて仁を見つめる。
「言ってくれるじゃない、このシスコン男。絶対に身につけてみせるんだから!」
「勝手にしろ」
玲奈はツカツカと部屋の外に出て行き、仁を置き去りにした。1人になった仁は相棒である霊楼剣を鞘から少し抜き、刃に自分の顔を反射させた。
(俺の剣技なんて身につけるな……師匠に跳ね返された剣技なんて……)
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「はぁ~疲れた……」
Bランク隊員昇級を目指している詩織は訓練を終え、自分の小隊部屋のリビングで倒れ込んだ。
「スナイパーを目指しているのに、なんで近距離訓練しなくちゃいけないの?」
詩織は思わず心に思っていたことを口にし、悪態をつく。大きくため息をついた後、冷蔵庫に足を運び、天然水をガブ飲みする。
「ほぇ~、行儀良さそうな詩織さんでも悪態ついたり、水をガブ飲みすることもあるんですね」
「私だって悪態つきたいときだってあるし、飲み物をガブガブ飲みたいときだってあるよ」
「私は構わないですけど、男子が見たら幻滅しますよ?」
「別に良いよ。振り向いてくれないあの人が悪いんだもん……って、早紀ちゃん!? いつからいたの!?」
知らぬ間に部屋に侵入していた早紀を見て、詩織は顔を赤くして水の入ったペットボトルを握りつぶす。そんな詩織を見て、早紀は和やかに手を振る。
「詩織さんが帰ってくる前からいましたよ」
「それって普通に不法侵入だよ……どうやって入ったの?」
早紀は自分のナノマシンを操作して、映し出した立体映像を詩織に見せた。
「これって……ここの鍵?」
水澤小隊の部屋に入るための電子キーを何故か早紀が持っていて、詩織は目を丸くしてその場に座り込んだ。
「言っておきますけど、盗んだわけじゃないですからね。水澤先輩に頼んで貰ったんで」
「どうせ、しつこくお願いしたんでしょ?」
「ち、違いますよ~」
早紀が慌てた様子を見て、詩織は図星だと確信する。
「別に持ってても良いけど、あまり頻繁に来られても困るよ。それに私たちみたいな下位ランク隊員の相手をしても面白くないでしょ?」
「そんなことないですよ。3人とも個性豊かで、私は一緒にいたいと思いますよ。それに詩織さんからまだ返事を聞いてませんから」
「返事?」
早紀はクスリと笑い、詩織は首を傾げていた。首を傾げている詩織を見て、早紀は目を丸くする。
「え? 覚えていないんですか?」
「何が?」
詩織の素っ気ない返事を聞いて、早紀は肩を落として落ち込む。
「そんな~、私はドキドキして待っていたのに~。忘れられていたなんて……」
急に泣き始める早紀を見て、詩織は焦り顔で駆け寄る。
「ど、どうしたの? いきなり泣いて」
「私の弟子になる話ですよ~。忘れていたなんて……」
弟子という言葉を聞いて、詩織は記憶を掘り起こして思い出す。そして、思い出して「あ~……」と声を漏らす。
「そういえばそうだったね……完全に忘れていたよ」
「酷いですよ~」
「でも、気になっていたんだけど、早紀ちゃんって隊員だったの?」
早紀は涙を拭い、胸を張って言葉を返す。
「こう見えても隊員ですよ! 劫火小隊のスナイパーなんですよ?」
「劫火さんのところの? それじゃあ、AAAランク隊員なんだ……」
「残念ながら私、先日のAAAランク昇級試験で落ちちゃって、未だにAAランクなんですよ」
苦笑いを浮かべる早紀だが、早紀のランクを聞いて詩織は顔をヒクつかせる。
(それでもAAランクなんだ……)
「ランクはAAですけど、狙撃部門ではそこそこの成績なんですよ」
早紀は立体映像で映し出された自分の個人戦績を詩織に見せ、ドヤ顔を浮かべる。戦績を見た詩織は目を丸くして、早紀と立体映像を交互に見る。
「え? ……ええ!?」
詩織の額から一滴、冷や汗が流れる。
「12歳の時からずっと狙撃部門で1位!?」
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