自分らしさ
~数日前~
水澤小隊のリビングにて、玲奈と仁は飛行訓練の映像を見返していた。詩織や早紀と比べて、飛び方が安定しない仁に対して、玲奈は頭を悩ませていた。
「う~ん……前日でメンタル面が問題だってことは分かったけど……どこから手を着ければ良いか分からない」
「すまない……俺なんかのために」
暗い顔をして、顔を伏せ始める仁に、玲奈は明るい笑顔を浮かべて励ます。
「心配しないで!」
その一言は仁にとって、追い詰める一言であることは玲奈も理解している。しかし、その言葉以外にかける言葉は見つからなかった。
(メンタル面で不安を抱えているのに……私のバカ!)
「で? どうするんですか?」
悩んでいる2人に、早紀が横から口を出す。
「早紀ちゃん、また来たの?」
苦笑いを浮かべて玲奈は早紀を見つめ、見つめられた早紀はニッコリと微笑む。
「早紀……気になるかもしれないが帰ってくれ」
「私が水澤先輩に相談したんだから、私もいて良いでしょ?」
「……勝手にしろ」
仁は早紀から目を逸らし、玲奈はその様子を見て苦笑いを浮かべつつも、仁の問題解決の糸口を探していた。
「取り敢えず、私の質問に率直な思いで答えてくれる?」
仁はコクリと頷く。そして玲奈は液晶端末を手に持ち、仁に質問し始める。
「翼を広げるとき緊張する?」
「はい」
「上手く羽ばたけないことがある?」
「いいえ」
「無意識に飛行速度を落としてしまうことがある?」
「はい」
淡々と玲奈は質問し、仁は素直に返答する。早紀は口を挟むことなく黙って聞き続け、数個質問した後、玲奈は最後の質問をする。
「最後、飛ぶことは好き?」
「…………」
仁は言葉に詰まり、素直に「はい」と答えることが出来なかった。
「お兄ちゃん……」
黙って聞いていた早紀が思わず声を漏らす。玲奈は表情を崩すことなく、仁を見つめ続ける。
そして仁から震えた声が帰ってくる。
「……きだ」
掠れた声を聞いた玲奈と早紀は言葉の続きを待つ。
「……す、すきだ。俺は飛ぶことが好きだ」
仁が言い切ったのと同時に、玲奈はニッコリと笑ってあることを確認した。
(大丈夫……その一言が出たんなら、大丈夫だよ)
「どうしたんだ?」
仁は首を傾げ、見守っていた早紀は玲奈と同じようにニッコリと笑った。玲奈は立ち上がり、液晶端末を机の上に置いた。
「答えは出たよ。今から私と一緒に飛びに行きましょう」
「は? おい」
仁の呼び止めを無視して玲奈は部屋の外に出て行った。仁と早紀は顔を見合わせて玲奈の後を追った。
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生活棟の屋上で風に当たる玲奈は目を閉じて、大きく深呼吸をした。追ってきた仁と早紀は、玲奈の背中を見て空を見上げる。
「……良い風。強くもなく、弱くもない。冷たくもないし、熱くもない。飛ぼうか? 早くしないと日が暮れちゃうよ」
玲奈は仁と早紀の返事を聞く前に、翼を生成して羽ばたく。仁は黙って翼を生成し、早紀はオドオドしながら翼を生成して地面から離れる。
「玲奈……一体何を?」
玲奈の考えていることが理解できない仁は、目を細めて玲奈の目を見る。玲奈は微笑みながら言葉を返す。
「遊覧飛行。ずっと電脳チャンネルの作りだした空ばかり飛んでいても、つまらないでしょ? たまには本物の空を飛ばないと」
「あの……今更なんですけど、私も付いて行って良いですか?」
不安そうな顔をしている早紀に、玲奈は笑顔で答える。
「来る者拒まずだよ。訓練じゃないし、気楽に自分の飛び方で良いよ」
早紀は明るい笑みを浮かべ、未だに玲奈の思考を理解しようとしている仁は難しそうな顔を浮かべる。そんな仁の顔を見た玲奈は呆れ顔になり、腕を組む。
「考えるのは良いけど、今この時間は考えるのはやめてくれない?」
玲奈の言葉を聞いた仁は、ため息をついて玲奈を見つめた。
「さあ、私の後ろについてきてね」
玲奈は軽く羽ばたいて移動し始め、仁と早紀は後に続いた。
(お兄ちゃん)
(なんだ?)
飛んでいる最中、早紀は口を開けずに会話することが出来る無線を利用して、仁と会話する。
(戦うとき以外で飛ぶなんて久しぶりじゃない?)
(そうか? ……そうかもな。ここ数ヶ月、遊覧飛行なんてしてなかったからな)
(どう? 気持ちいい?)
(ああ。戦っているときは意識していなかったが、風景を見て飛んでいると、心が落ち着く)
他愛もない会話を無線で行っていると、玲奈がチラリと後ろを振り向いて2人の表情を確認した。相変わらずニッコリしている早紀と、無表情だが、考えることをやめた仁の表情は心なしか和らいでいるように見えた。
玲奈は目を閉じ、風の流れを読んで翼を羽ばたくのをやめた。それに気づいた仁は目を細めて、玲奈の姿を目で追った。
「真似しなくても良いよ。私は私の飛びたいように飛んでいるだけだから」
羽ばたかなくなった玲奈はフラつくことなく、真っ直ぐに飛び続ける。仁のナノマシンが玲奈の飛行速度を測定すると、減速するどころか、徐々に加速していることが分かった。
「風の力で飛んでいる……何度見ても、常人離れした飛び方だな」
「安定していて綺麗だね~。学校で何度も見てきたけど、心を奪われるよ~」
玲奈の飛び方に感動している2人は一生懸命翼を羽ばたかせて、玲奈から離れないようにする。2人が無理し始めたと感じた玲奈は、少し体を上に向けて減速し、2人の飛ぶ速度に合わせる。追いついた2人は、玲奈に率直な思いを口にする。
「見事だな」
「やっぱり水澤先輩の飛び方は心を奪われますよ!」
玲奈は少し照れながら仁と早紀に「ありがとう」と言葉を返す。
「私は自分の飛びたい飛び方をした。今度は私が見ているから、2人も飛びたいように飛んでみて」
仁と早紀は顔を見合わせて玲奈の言葉に戸惑う。
「飛びたいように……」
「飛んでみろと言われてもな……今まで戦うために飛んでいただけだから、どう飛べば良いか分からない」
頭を悩ませ始める仁と早紀を見て、玲奈は得意げに微笑む。
「予想通りだね。みんな戦うための飛び方をしているから、型にはまった飛び方しか出来なくなる」
その一言を聞いた2人は思わず「言われてみれば……」と言葉をこぼす。
「訓練通り、マニュアル通りの飛び方じゃ限界がある。だから時々、何も考えずに自分の好きなとおりに飛んで、型を破ってみると、思いがけない発見をするかもよ?」
玲奈の言葉に一理あると感じた仁はスッと目を閉じ、早紀は頭の中を真っ白にして翼を羽ばたかせる。自由に飛び始める2人の姿を見て、玲奈は満足げな顔を浮かべる。
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霊楼剣技で優一にダメージを与えた仁は開眼し、優一との距離を一気に詰める。優一は肩を押さえながら後退し、仁との距離を取ろうとする。
(玲奈はあの時教えてくれたんだ。飛び方も、戦い方も、人それぞれ違うから自分らしくあるべきだと……だったら俺は、型にはまった戦い方を捨てて、自分の思うがままに戦う!)
雰囲気が変わった仁を見て、優一は今一度、黒い剣を強く握りしめた。
「落ち込んでいたかと思っていたが、勘違いだったか?」
「師匠の言うとおり、俺はついさっきまで自分が成長しないことに落ち込んでいました。ですが、もう悩むのはやめました。目の前にいる標的を全力で殲滅することに集中します」
優一は目を細め、仁に言葉を返す。
「言うようになったじゃないか……俺に勝てたことあったか?」
「ありません。だから、今回あなたから勝利をもぎ取ります!」
霊楼剣の刃が桜色に輝き始め、仁は地面に霊楼剣を突き刺した。突き刺した場所から桜色の紋章が現れ、仁を包み込む。そしてどこから現れたのか、仁の周りに桜の花びらが舞い始める。
「久々の本気か? 仁」
「全力で行きます! 霊楼秘技・百花繚乱」
仁は地面に突き刺している霊楼剣を引き抜き、優一に斬撃波を放つ。七色等を纏っていない斬撃波だが、優一は受け止める選択をせず、回避する。躱された斬撃波は数十メートル飛んでいった末、その場で竜巻を発生させ、それに飲み込まれたものは、粉々に斬られ始めた。
「飛ばした斬撃が派生した?」
竜巻に気を取られた優一は、背後に忍び寄っていた仁に気づかず、仁は容赦なく刃を振り下ろす。殺気を感じた優一は、思いっきり地面を蹴って空中に避難するが、仁の刃は優一の左足首を切断する。
(クッ!! 足1本持っていかれたか。一度見たことはあったが、百花繚乱……使用者の身体能力を大幅に向上させる秘技。素早さ、力は当然、霊力も底上げされている。これは、遊んでいる場合じゃないな)
翼を広げて滞空する優一だが、仁も翼を広げて追ってきた。優一はバスターの銃口を仁に向け、引き金を引く。仁は冷静な判断を下して、回避行動を取って銃弾を全て躱す。その後、優一の後ろに付き、キャノンで四色を纏わせた銃弾を放つ。
「百花繚乱を発動させても、空での戦い方はまだまだだな」
優一は弾幕の間を縫うように飛び、宙返りをして仁の背後を取る。仁は焦ることなく、背後にいる優一をチラッと見て、前をしっかり見据えた。
「敵から目を離すな!」
優一は、お返しと言わんばかりに四色を纏わせた銃弾を仁に向かって放つ。しかし、仁はこのときを待っていた。
「今だ!!」
仁は急上昇し、弾幕を回避する。そして霊楼剣を両手で握りしめ、霊力を纏わせる。
「霊楼奥義・桜吹雪」
霊楼剣が一の字に振られ、無数の斬撃波が優一を襲う。上に逃げても、横に逃げても、回避が困難な斬撃波の密度に、優一は思わず舌打ちをする。そして優一の姿は桜色の斬撃波によって隠され、中規模な爆発が発生する。
「これが……自分らしさを尊重した仁の戦い」
モニターで戦いを見ていた玲奈は少し嬉しそうな表情を浮かべる。仁は勝利を確信したのか、霊楼剣を鞘に収める。
「玲奈……お前のお陰で吹っ切れたよ。飛ぶのにまだ抵抗はあるが、いずれ克服してお前を倒す」
玲奈は鼻で笑って仁に言葉を返す。
「また墜落させてあげるよ」
2人はお互いに微笑み合う……だが。
「流石に、あのまま何もしないでやられるわけにはいかないな」
爆煙がモクモクとなっているところから優一の声が聞こえ、仁は再び霊楼剣を鞘から抜く。
「あの程度の攻撃で俺を倒せたと思っているのなら、大間違いだ」
ダウンしたと思っていた優一の姿はまだ、電脳チャンネルで健在だった。
「油断はするな。戦場では命取りだぞ。玲奈も良く覚えておけ!」
優一の黒い剣の切っ先は再び仁に向けられる。
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