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数時間にわたる飛行訓練が終了し、電脳チャンネルから現実に戻った仁、詩織、早紀の3人は具合の悪そうな顔をしながら、転送室から出てきた。
『何か……疲れた』
その様子を見た玲奈はキョトンとした表情を浮かべる。
「何言ってるの? あの訓練で疲れることないじゃない」
「お前、マジで言ってんの?」
仁は嫌そうな顔を浮かべて玲奈を見つめ、詩織と早紀は魂が抜かれたような顔になる。
「羽ばたかずに飛べたからって、何の利点があるんだよ」
訓練中、仁はずっと疑問に感じていたことを玲奈にぶつける。玲奈は液晶端末をスカートのポケットから取り出し、仁に見せつける。仁は目を細めて画面を凝視し、詩織と早紀は仁の肩越しで画面を見る。
「な……なんで? なんで、羽ばたいていないのに時速300㎞出てるんだ?」
「わッ! お兄ちゃん自己ベストに近い速度出してるじゃん!」
「風の力を使えば、羽ばたかなくても飛行速度を速めることが出来る。それを知ってもらいたくて羽ばたくなって言ったの」
「でも、速度が出てるのに何で墜落してしまうの?」
詩織は首を傾げながら玲奈の目を見る。
「それは風を意識しすぎるからだよ」
仁は首を傾げて玲奈に言葉を返す。
「風を体で感じろと言ったのはお前だぞ? 意識するのは当たり前じゃないか。言っていることメチャクチャだぞ?」
「言葉が足りなかったね。意識しないで風を感じるの」
3人は首を傾げ、玲奈の言葉を理解しようとした。
「みんなは呼吸するとき、意識して呼吸しているの? 無意識だよね? 一々、意識しながら呼吸していたら、他のことに集中できないもんね」
「ちょっと待て。お前が何を言いたいのかさっぱりなんだが」
仁の一言に対して、玲奈はため息をついた。
「空を飛んで、風を必死に感じようとしている奴が、生き残れるわけないでしょ」
玲奈は3人に背を向けて、歩き始める。
「通路で立ち話するのもなんだから、小隊部屋で続きを話すよ」
3人は顔を見合わせ、玲奈の背中を追って歩き始めた。
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小隊部屋に戻った玲奈たちは、食卓用の椅子に座る。そして詩織が気を遣って缶コーヒーを、それぞれの前に置く。早紀はすぐに缶コーヒーを開け、グビグビと飲み干す。
「はぁ~、生き返る~」
「あまり飲み過ぎるな。夜眠れなくなるぞ」
早紀は仁に子供扱いされたのが気にくわなかったのか、頬を膨らませて顔を合わせなかった。プチ兄妹喧嘩が始まろうとしたとき、玲奈が1つ咳払いをし、注目させる。
「夜も更けてきたし、お腹も空いてきたから、話の続きをするよ」
玲奈は液晶端末を操作して、3人に画面を見せた。
「みんなの飛んでいる姿を撮っていたから振り返っていこう。まずは詩織」
玲奈は画面内の詩織を拡大し、動画を再生した。何度も風に煽られ、墜落していく詩織の姿が何度も映し出される。映像に付け加え、玲奈の感想が入る。
「相変わらず詩織は下を見て飛びすぎ。下を見ているから高度も下がっていくし、障害物に当たるのよ。もう少し前を見て、自信持って翼を広げれば風が運んでくれるよ」
「下を見ないようにしていたけど、結構見てたね。今度から気をつけるね」
自分の飛んでいる姿を見返した詩織は、素直に玲奈のアドバイスを受け入れた。次に玲奈が目を向けたのは早紀だった。
「次は途中参加の早紀ちゃん。飛んでいるときの姿勢や、翼の角度は完璧だけど、風に逆らってばかりで墜落しているね。今度、風を体で感じる方法を教えてあげるね」
「難しすぎるよ~。風って目に見えないものなのに感じろだなんて~。私は水澤先輩と違って風を読むことは出来ないんですよ~」
泣き言を放つ早紀に、玲奈は軽くため息をついた。
「私は生まれたときから風の流れを読むことが出来たわけじゃないんだよ? いっぱい飛んで、何度も煽られ続けてきて、ようやく読むことが出来たんだよ? 勘違いしているようだけど、風読みは先天的なものじゃないからね。飛ぶことが楽しいと思ったときには、風は読めているよ」
その一言を聞いた早紀は目を輝かせて玲奈に言葉を返した。
「本当ですか!? 私も努力すれば水澤先輩のような風を読むことが出来るんですか!?」
「出来るよ。だけど、焦っちゃダメだよ。ゆっくりで良いから、風を体全体で感じることから始めようね」
「はい!」
希望が見えた早紀は嬉しそうな表情を浮かべる。そして玲奈は目を細めて、仁を見つめる。
「そして、思った以上に問題児がいたね……」
仁は目を逸らし、誰のことを言っているのか分からないような態度を取る。玲奈は液晶端末を操作し、仁の飛んでいる姿を再生する。仁の飛び方は、詩織や早紀よりも繊細さがなく、途中ズルをしている場面も見受けられた。
「あ~!! お兄ちゃん途中で羽ばたいている!」
「私より墜落回数が少ないと思っていたら、ズルしていたんですね」
真面目に訓練をこなしていた2人から、集中砲火を食らう仁は何も言わずに目を逸らし続ける。しかし玲奈は何かに気づき、仁に言葉をかける。
「もしかして、仁……あんた飛ぶのが怖いの?」
詩織と早紀は目を丸くし、仁は言葉も返すことなく目を逸らし続ける。
『図星ね』
3人の声が重なり、仁は一瞬体をビクつかせる。
「別に恥ずかしがることないよ。10人いて、10人全員が飛ぶことが好きって言うわけでもないし、嫌いな人だっているよ」
「…………ない」
「え?」
仁はポツリと声をこぼし、玲奈は聞き取ろうと、耳を傾ける。
「……すまない。動画の通りで、お前の言うとおり、俺は飛ぶことが怖いんだ」
仁の意外な一面を見た詩織は「そうなんだ……」と呟き、兄に弱点があったのを知った早紀は引き続き、目を丸くする。
「本当なの!? お兄ちゃん!!」
早紀は事実確認をしながら、仁の襟を掴んで前後に揺さぶる。
「ほ、本当だ! 本当だから揺さぶるな!」
早紀は襟から手を離し、仁は服装を整える。
「どうして怖いの?」
玲奈は動画を止め、飛ぶことに恐怖を抱いている仁に原因を尋ねた。
「高いところが苦手って訳でもないし、翼も良く広げていたのに、何が怖いの?」
仁はスッと目を閉じて、胸の思いを伝える。
「……俺は一度、ゴーストに翼を折られたことがある」
早紀は何かを思い出したような表情を浮かべ、玲奈と詩織は真剣な顔で仁の話を聞く。
「翼を失った俺は為す術なく墜落し、地面に叩きつけられて、強制的に戦場から離脱させられた。幸い、バトルサポートを起動していたから体は無傷で、後遺症もなかったけど、俺は空で戦うことに恐怖を抱いてしまったんだ。特別入隊試験のお前のように」
仁は玲奈に目を向けて、玲奈は当時のことを思い出し、顔を少し歪ませる。
「その後の飛行訓練で、俺は飛ぶどころか、翼すら生成することが出来ないほど、精神的に参ってしまったんだ。だけど、周りの人のお陰で俺は少しずつ立ち直ることが出来て、普通に飛び回ることが出来るくらい回復することが出来た。だけど……俺の心のどこかに、飛ぶのが怖い……って思う部分があるんだと思う」
玲奈はガリッと爪を噛み、詩織は気の毒そうな顔を浮かべる。数秒沈黙が続き、その沈黙を嫌うかのように早紀が声を発する。
「水澤先輩! お兄ちゃんは、本当は飛ぶことが大好きなんです! 水澤先輩以上に!」
「おい! 早紀!」
暴走しかける早紀を止めようとする仁だが、早紀は止まらなかった。
「飛んでいるときの姿は綺麗とは言えませんが、凜々しくて、力強い羽ばたきで空を飛んでいたんです。そんなお兄ちゃんを見て、私は隊員になりたいと思いましたし、一緒に飛んでみたいと思いました。今のお兄ちゃんの飛び方じゃ、一緒に飛びたいとは思いません……私からのお願いです。お兄ちゃんを……空が大好きなお兄ちゃんに戻してください」
早紀は深々と玲奈に頭を下げる。玲奈は驚くこともしなければ、表情を崩すこともしなかった。
「おい! 早紀! これは俺自身の問題なんだ。玲奈に迷惑かけるな」
「良いよ。お願い引き受けるよ」
あっさりと返答する玲奈に、仁は驚きの表情を浮かべる。
「私に戦い方を教えてくれる師匠であって、飛び方を教える弟子だもん。そんな話を聞いて、見捨てる訳にはいかないよ」
「玲奈……」
「何より、仁の言ったとおり、私も一時は飛ぶことに恐怖を抱いて飛べなくなったからね。私が立ち直れたんだから、あんたも立ち直って飛ぶのを楽しもう」
玲奈はニッコリと笑って仁の目を見る。仁は玲奈を見つめ返すことは出来ず、視線を逸らして顔を赤くする。
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異次元電脳チャンネルにて、劫火に中距離での戦い方を習っている遼は、頭を抱えて座り込んでいた。
「あ~、頭痛ぇ」
「基礎の応用を教えただけで頭抱えているようじゃ、中距離で生きていけないぞ」
遼はゆっくりと立ち上がり、嫌そうな表情を浮かべる。
「七色の合成はなんとなく出来そうだけど、状況に応じて七色を使い分けなきゃいけないなんて、頭パンクしそうです……」
「ブレーダーやスナイパーと違って、戦況を冷静に見極めて攻撃をする。中距離のシューターの役割は主にサポートだ。頭脳とシューターとしての経験が必要になってくる。西原くんはお姉さんと一緒で集中力はないけど、センスはあるよ」
「それはどうもです」
遼は顔を引きつるが、劫火は無視して言葉を続ける。
「シューターには色んな種類があって、火力支援、陽動支援、霊力補給支援とか多くあるが、西原くんは霊力量があまり多くないから、陽動支援型のシューターに向いているね」
「陽動……ですか?」
「陽動と言っても色々あって、敵を追い込んだり、自らが囮になって味方に敵を倒させる方法などいっぱいある」
「てことは、まだまだ覚えることがいっぱいあると……」
劫火は満面の笑みを浮かべてグッドサインを遼に向ける。
「その通り! だけど、徹底して覚えてもらいたことが1つだけあるから、今日はそれだけ教えて終わり」
「覚えて……それはなんですか?」
好奇心が抑えられなかった遼は思わず答えを急ぐ。劫火はスッと目を閉じて、電脳チャンネルにホログラムを出現させる。
「立体映像?」
そこに映し出された戦い方を見た遼は、真剣な眼差しで劫火を見る。
「君にどうしても早急に覚えてもらいたいのは、七色の設置型。通称“トラップ”と言われている戦術だ」
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