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飛び方講座2

「あ……あの、劫火さん」


 無言でソファーにどっしり腰を下ろしている劫火に、早紀は震えながら声をかけた。


「何だい? 早紀?」


 表情は笑っているが、長年一緒にいる早紀は、劫火が怒っていることは一目見ただけで分かった。


「お……怒ってますよね」


「怒ってないよ。早紀は何も悪いことしていないじゃないか」


(私じゃないことは分かってますよ!)


「それよりもコーヒー淹れてくれるかな? 熱々のやつを」


 どこか圧を感じる劫火の言葉に、早紀は黙って従った。


(だれ~? 劫火さんを怒らせた人は?)


 早紀は沸騰機に水を入れてスイッチを入れる。それと同時にインターホンが鳴り、訪問者をモニター越しで確認する。


「はい、劫火小隊です」


『すみません……遅くなりました、西原です』


「あ、西原先輩! 今開けますね」


 早紀は扉のロックを解除し、遼を部屋の中に招き入れた。何も知らない遼はソファーに座っている劫火の横に立ち、軽く頭を下げた。


「劫火さん、遅くなってしまって、すみません」


 劫火は相変わらず、作った微笑み顔で遼に目を向ける。


「……西原くん、座って」


「はい!」


 劫火の向かいのソファーに座った遼は何かを感じ、顔を引きつる。


「随分、時間にルーズのようだね~西原くん」


「す、すみません!」


「君は学生であることは知っているけど、ここでは学生気分はやめてもらいたいね」


「すみません! 数分前までウチの隊長が飛び方を教えてくれていて、少し遅くなってしまいました」


「ほぉ……君は僕からよりも水澤ちゃんに技術を教わりたかったということか?」


 その一言を聞いた遼は顔を青ざめて、深々と頭を下げた。


「いえ! 決してそんなわけじゃ!」


 真面目に反省している姿勢を見た劫火は仕方なさそうな表情を浮かべて、言葉を返した。


「まあいい、1回目のミスだ。今回は見逃すことにするよ」


「すみません!」


「ただし、次はないよ。次遅刻したら覚悟してね」


 遼の体に寒気が走り、体を自由に動かすことが出来なかった。


「劫火さん、お待たせしました」


 早紀が涼しい顔で、熱々のコーヒーをテーブルの上に置いた。コーヒーの香りを楽しんだ劫火は表情を和らげて、一口飲む。怒りが鎮まったのを確認した早紀は、ホッと胸をなで下ろし、遼の耳元で文句を言った。


(先輩! 劫火さんは怒ると怖いんですから気をつけてくださいって!)


(すまない……まさか遅刻するとは思わなかったんだ)


(もう! 先輩は訓練して終わりかもしれないですけど、私とお兄ちゃんは劫火さんの怒りを鎮めなきゃいけないんですよ? 今度から怒らせないでくださいね!)


(き……肝に銘じておくよ)


 早紀は不満そうな顔を浮かべ、逃げるように個室に向かっていった。


「ところで、水澤ちゃんが飛び方を教えてくれたと言っていたが、どんなことをしていたんだ?」


「いや……その……」


 静かに怒っていた劫火の姿が脳裏に焼き付いている遼は、話して良いものなのか困っていた。


「大丈夫だよ、もう怒ってないから。ただ単にウチの隊員も行っているから気になっただけだよ」


「そうですか」


 遼は苦笑いを浮かべながら、玲奈の飛び方講座を劫火に話した。



 ======



「さ、私がやったみたいに翼を使わずに飛んでみて?」


『で、出来るわけないだろぉ!!』


 翼を使わずに飛んだ玲奈を見て、遼、詩織、仁の3人は声を重ねた。


「え? 出来ないの? 今までよく飛んできたね」


「普通に考えろ! 人は翼を持って、初めて飛ぶことが出来るんだぞ? 風だけじゃ飛べないって!」


 遼は声を大にして、玲奈に詰め寄る。


「そうだ! 第一、お前は風が読めるから良いけど、俺たちは風を読むことが出来ないだぞ? そこをちゃんと理解してくれ」


 追い打ちをかけるかのように、仁も玲奈に詰め寄る。玲奈はため息をついて、遼と仁に言葉を返す。


「分かった。今すぐ翼を使わずに飛べって言う方が無理だったね。それじゃあ、翼は使っても良いけど、羽ばたかずに飛んでみて」


 しかし、翼を羽ばたかせずに飛んだことがない3人は顔を見合わせ、順番を譲り合っていた。


「私、後が良いな~」


「西原が飛んだら飛んでみようか」


「ちょ、お前らズルいぞ!! 俺は2人の様子を見て飛ぼうと思ってたのに!」


 言い争うが始まりそうな雰囲気を感じた玲奈は仁を指さした。


「元々はあんたのための飛行訓練なんだから、あんたが最初に飛んで」


「チッ!」


 仁は舌打ちし、最初に飛ぶことを回避できた2人はニッコリと微笑む。


「ほら、時間が惜しいからさっさとやって」


「……覚えてろよ」


 ここぞと言わんばかりに玲奈は仁を急かす。仁は安全フェンスの上に立ち、翼を生成する。翼を広げると、強風が襲いかかり、体を持っていかれそうなほど煽られる。


「おおっと!」


 一瞬体勢を崩しそうになる仁だが何とか耐え、覚悟を決める。


(どうにでもなれ!)


 強くフェンスを蹴り、空中に体を預ける。体を空中に預けた瞬間、再び強風が吹き荒れる。


「風が強い! 羽ばたかずに飛ぶのは無理がある!」


『羽ばたいたらダメだよ~。グライダーをイメージして』


 無線越しで、玲奈のアドバイスを聞いた仁は体勢を立て直し、グライダー飛行を始めた。前には進むものの、徐々に降下し始め、地上との距離が近くなった。


『取り敢えず、5分間は飛んでね』


「無茶言うな! 5分も持つわけないだろ!」


『文句言わない。ほら、落ち始めているよ』


「どわあぁ!!」


 冷静さを失った仁は体勢を崩してしまい、墜落してしまう。


『電脳空間だから良いけど、現実だったら死ぬよ』


 電脳チャンネルの仕組みにより、怪我が瞬時に回復した仁は怒り混じりの声で玲奈に言葉を返した。


「……こんな無茶な訓練があるか! そもそも羽ばたかせない意味が分からない!」


『分からなくても良いから。文句があるなら明日から教えないよ』


 仁は歯ぎしりし、怒りを抑えながら玲奈たちのいる屋上に戻った。


「じゃあ、この調子で次々行ってみよう!」


 遼と詩織は青ざめ、仁は玲奈を睨みつけた。



 ======



「それで何度も飛んだり、落ちたりしていたら時間が過ぎていて……」


 劫火は呆けた顔を浮かべ後、腹部を抱えて笑い始めた。


「ハハハハ!! 翼を使わずに飛んだ!? 漫画みたいな話だな!! 水澤ちゃんは面白い奴だな!」


「笑い事じゃないですよ。5分間も羽ばたかずに飛べって言われても出来ないですよ」


 劫火は笑いを無理矢理我慢し、遼に言葉を返した。


「聞いた話によると、玲奈ちゃんは飛行に関してはAAAランク顔負けの腕なんだろ? だったら黙って言うことを聞くしかないじゃないか」


「それはそうですけど……」


 少し困った表情を浮かべる遼に、劫火は優しく微笑む。


「自分の仲間に何かを教えるなんて、良い隊長じゃないか」


「そう……ですか?」


「そうだよ。それに、今の君は訓練を拒否するような立場じゃない。技術を身につけられる内に身につけておかないと、後で後悔するのは君自身だよ」


「後悔?」


「ああ。ここでは貪欲に生きていかなきゃいけない。様々なものを取り入れた者勝ちだ。一見、使いどころがなさそうな技術でも、いつかは使えるときが来る……このことだけは覚えていてくれ」


「は、はい!」


 遼は一瞬返事が遅れるが、元気な返事を聞いた劫火は満面の笑みを浮かべて席を立つ。


「さて、お喋りはここまでだ。疲れているかもしれないが、今から君に中距離での戦い方を教えるよ」


「よろしくお願いします!」



 ======



 こっそりと自分の小隊部屋を抜けてきた早紀は、玲奈の飛行訓練の内容が気になり、玲奈たちのいる電脳チャンネルに自身を転送した。


「やけに静かだな~。本当に訓練しているのかな?」


「きゃああぁぁ!!」


 突如背後から叫び声が聞こえ、早紀は反射的に物陰に隠れた。物陰から恐る恐る様子を見ると、地面に倒れている詩織の姿が見えた。


(月影先輩!?)


 数秒後、詩織から少し離れた場所で何かが墜落するのを確認した早紀は、遠距離武器「ホーク」のスコープを使って墜落してきたものを見る。そして、スコープ越しに見えたものは。


「お兄ちゃん!?」


 兄である仁が地面に顔を伏せて倒れていたのだった。詩織は思わず声を上げ、駆け寄ろうとした。


「コラ! 墜落するたびに寝ない!! すぐに起き上がってやり直す!!」


 空を飛んでいる玲奈が詩織と仁に向かって、怒っているかのような声で叫ぶ。その声を聞いた2人は体に鞭を打ち、翼を生成してビルの屋上に向かう。そして広げた翼を羽ばたかせずに飛び始める。


「もう何回失敗したか分からないよ~」


「風の流れを読むなんて、無理な話しすぎるだろ!」


 詩織は弱音を吐き、仁は文句を言いながらも、風の流れを予想しながら飛ぶ。


「その調子で5分間、飛び続けて!」


 2人の飛び方は安定していなかったが、羽ばたいたときよりも加速していた。しかし突風が2人を襲い、詩織はバランスを崩し、再び叫び声を上げながら墜落する。


「突風で……押し戻される!!」


 仁は何とが踏ん張り、羽ばたくことなく、突風をやり過ごした。


「耐えたのは褒められるけど、押し戻されるのは風を読めていない証拠だよ。風を読めば突風に煽られることはないよ」


「読めていたら苦労はしない!」


 飛行に集中しながら玲奈に言葉を返す仁だが、次は横風に派手に吹き飛ばされ、ビルに叩きつけられる。その様子を見た玲奈は腕を組んでため息をつく。


「何? この無謀な訓練」


 呆然と訓練を見ていた早紀は、思わず言葉が出る。そして上空にいる玲奈と目が合い、玲奈は笑みを浮かべて早紀に声をかける。


「早紀ちゃん来てたの? 早紀ちゃんもどう? 風を読む練習」


 早紀は顔を青ざめさせ、全力で首を横に振り、電脳チャンネルから離脱しようとしたが、いつの間にか玲奈の姿が目の前にあり、玲奈は早紀の腕を掴んだ。


「ヒィッ!」


「良い経験になると思うから一緒に訓練しよう!」


(あ、終わった)


 早紀は脱力し、玲奈の手によって空に投げ出された。

いつもご覧になっていただき、ありがとうございます!


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