飛び方講座1
学校から戻り、夜の訓練に備えて玲奈たちは小隊部屋で一息ついていた。
「はぁ~、やっと終わった~」
玲奈はソファーの上に倒れ込み、クッションを抱えた。
「落ち込んでたときと雲泥の差だな」
「でも玲奈ちゃんは明るいのが一番だよ。あと着替えてね」
「心配かけました。よく考えたら、くだらないことで悩んでたと思ったよ。お母さんが隊員だったなんて過去の話だし、今の私にはあまり関係ないし」
「いや、関係はあるけどな」
遼は呆れながら静かにツッコむ。
「さあ~て、今日からあのドS男に飛び方を教えてあげることになると……想像しただけで笑いが止まらないよ」
「お前も相当なSだよ」
「仁くんが羨ましいよ。玲奈ちゃんから飛び方を教えて貰えるなんて」
「俺も同感だ。桜井の前に俺たちに教えてくれよ」
遼と詩織は仁を羨ましがり、玲奈は2人に目を向ける。
「別に良いよ。何人でも教えるよ」
玲奈から意外な返答が出たことにより、遼と詩織は目を輝かせて玲奈に詰め寄る。
「本当かッ!?」
「良いのッ!? 玲奈ちゃん!?」
「別に。1つだけ聞くけど、あんたたちは飛ぶときに大事なことは何だと思う?」
遼と詩織は首を傾げながら真剣に考え始めた。そして2人が辿り着いた答えは。
「翼を大事にする!」
「意外と何もない?」
「2人とも違うし、詩織に至っては舐めてるの?」
玲奈の鋭い眼光が詩織を貫く。一瞬、恐怖を感じた詩織は思わず遼の腕にしがみつく。
「おい、離れろ! 詩織!」
「玲奈ちゃんが怖い~」
じゃれ合っている2人を横目に、玲奈はため息をつく。
「……飛ぶときに大事なことは風を体で感じること」
「風?」
遼の腕から離れた詩織は首を傾げる。
「そう、風を体で感じて飛ぶ。ただそれだけのこと」
「玲奈のくせに難しいことを言うな」
「2人とも分からないの?」
遼と詩織は同時に首を縦に振る。
「……はあ、着替えてから詳しく説明するよ」
玲奈は足早に自分の個室に入り、遼と詩織は未だに玲奈の考えが理解できず、首を傾げながら、それぞれの個室に入っていった。
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「看護師さん、病室って窮屈だし、やることがなくて嫌だね」
点滴を変えに来た看護師に対して、優一は不満を吐露していた。
「そうですね」
「お世辞にもご飯は美味いとは言えないし、ベッドは硬いし、どう思う?」
「そうですね」
「だから俺のことを気遣って、ここから出してくれない?」
「ダメです」
「そこは『そうですね』じゃないの? 頼むからここから出してくれよ」
看護師は大きくため息をつき、優一を睨むようにして目を細めた。
「いいですか? あなたは患者。体が万全じゃないのに出すわけないじゃないですか。それに先生から大丈さんはしばらく外に出すなって釘を刺されているんですよ」
優一は頭をガリガリと掻いて不満そうな顔をする。その表情を見た看護師は鬼の形相で、優一に拳をチラつかせた。拳を見た優一は恐怖を感じ、布団に隠れた。
「ったく。大人しく寝ててくださいね」
看護師は足早に病室を後にし、出て行ったことを確認した優一は布団から顔を出し、ため息をついた。
「あ~暇だな。こんなことになるんなら、単独行動なんてしなきゃ良かった」
優一が自分の行動に反省してる最中に病室の扉がノックされる。ノックに気づいた優一は「誰だ?」とぶっきらぼうに返事をする。
「折角お見舞いに来てあげたのに、酷い言い方だね」
病室に入ってきたのはナノマシン研究者の穂香だった。
「お、穂香か。気を遣ってくれてありがとな」
「無様に疲れ果てている姿を見たかったのに、案外大丈夫そうだね」
「人の不幸は蜜の味ってか? いつまでも具合悪そうな顔してる訳にはいかないだろ?」
穂香はクスクスと笑い、ベッドの横にある椅子に腰を下ろした。
「AAAランクに降格してもVIPルームに入院できるなんて、良いご身分じゃない」
「病室の時点でVIPもクソもないよ……で? 今日は何の用?」
「私がいつも優一くんに用があるみたいな言い方はやめてくれない? どっちかって言うとあなたがいつも私のところに来て面倒ごとを押しつけてくるじゃない」
優一は軽く微笑んで「そうだっけ?」と言葉を返す。
「まあ、確かに今日は用があってきたよ」
「聞かせてもらおうか」
穂香はいつも持ち歩いている鞄の中からノートパソコンを取りだし、ある画面を優一に見せた。
「これは?」
画面にはエラーの文字だけが映し出されていた。
「玲奈ちゃんの霊力測定。特別入隊試験の後コソッと測定させてもらったけど、それでもエラーが出たの」
「お前のアルカディアが原因じゃないのか?」
穂香は頬を膨らませて、反論する。
「そんなわけないじゃん! 私のアルカディアは欠陥1つない完璧なナノマシンだよ! 霊力くらい測らせてくれるよ!」
優一は苦笑いを浮かべて穂香を落ち着かせる。
「冗談だから。ここ一応病室だから。落ち着いて」
「もう! 面白い話だと思って来たのに」
(欠陥1つないは嘘だろ……)
「悪かったって。で? エラーは何が原因なんだ?」
1つため息をついて穂香は話を戻した。
「最初の測定のときは機械の故障だと思っていたけど、2回目の測定のとき、私はある仮説を立てたの」
優一は静かに穂香の目を見つめて、話の続きを待つ。
「恐らく玲奈ちゃんは…………」
ある一言を聞いた優一は目を丸くし、額に手を当てた。
「……確かにその可能性はある」
「でしょ?」
「だが、普通に霊力量が測定不可能な程、膨大だったってこともあるぞ?」
「まあ、仮説の段階の話だし、あまり鵜呑みにしないで」
優一は目を細めて穂香を見つめる。
「仮説段階だとしても、このことは他言無用にしてくれ」
穂香は首を傾げて理由を求めた。
「……俺はあいつを……玲奈をレジェンドにしてやりたいんだ」
「興味深いね。優一くんがそこまで肩入れするなんて。あの子の小隊に所属したのもそれが目的?」
「たまたまだ。俺を受け入れてくれる小隊がどこにもなかったから、あいつのとこに厄介になってるだけだ」
穂香はクスクスと笑って言葉を返した。
「嘘ばっかり。本当はどこの小隊も優一くんみたいな人が欲しくて堪らないのに。所属を希望すれば、あっという間に受け入れてくれる小隊が名乗り出てたのに」
「意外と何でも知っているな」
優一は嫌み混じりに穂香に言葉を返した。相変わらず穂香はクスクスと笑い、パソコンを片付けて、部屋を後にしようとした。
「とにかく、私は思ったことを言ったから。後は現実で起きたことを受け止めるだけだよ」
穂香は言葉だけ残し、部屋を後にした。優一は枕に頭を置き、スッと目を閉じた。
(……分かってるんだ。俺の目が見ていない訳がない)
優一は大きく息を吐き、天井を見つめた。
(玲奈に……『覚醒』の可能性があることは知ってるんだよ)
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「急に呼び出してどうしたんだ? 夜の訓練にしては1時間早いぞ」
急遽水澤小隊の部屋に呼び出された仁は、迷惑そうな顔をして部屋に入る。
「悪いね。どうしても遼と詩織が飛び方について教えて欲しいって言うから、ついでに仁も呼んじゃおうって思って」
「なるほど。同じ説明を何度もするのが面倒なだけなんだな」
嫌味の籠もった仁の言葉に、玲奈は顔を引きつりながら説明を始めようとする。
「どうでも良いから3人並んで座って!」
玲奈の言われるがままに、遼、詩織、仁の3人はソファーに腰を下ろして、玲奈の顔を見つめる。
「詳しい説明を始める前に、遼と詩織には聞いたけど、仁は飛ぶときに大事にしていることは何?」
「飛ぶとき? ……そうだな、どう飛ぶか軌道を思い描きながら飛んでいるな」
答えを聞いた玲奈は、やれやれと言わんばかりに呆れた。
「飛ぶときに大事なこと、それは風だよ」
遼と詩織は唾を飲み込み、仁は首を傾げて「風?」と言葉をこぼした。
「そう。確かに体幹や翼の扱い、軌道を思い描いたりすることは必要だし、大事なこと。でも、空を飛ぶに至って絶対と言っていいほど付きまとってくるのが風なの。その風を体で感じて、飛ぶことが1番大事なの」
3人は理解に苦しみ、首を傾げながら視線を落とした。玲奈は立ち上がり、あることを提案した。
「まあ、普通の考えとは言いにくいけど、体験してもらった方が良いと思うから、電脳チャンネルに行きましょ!」
詩織と仁はゆっくりと立ち上がり、遼は何か言いたそうな顔を浮かべて立ち上がる。遼の顔を見た仁が、あることを思い出す。
「玲奈。西原は劫火さんとの訓練が控えている。時間を見て抜けさせてやれ」
「あ、そうなの? 分かったよ。それじゃ、行きましょう!」
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電脳チャンネルのビル市街地に転送された玲奈たちは、ビルの屋上に集まった。
「電脳チャンネルなら多少の無茶しても大丈夫だね。私がお手本を見せるから、よく見ててね」
すると玲奈は屋上の安全フェンスの上に立ち、ビルから飛び降りた。しかし、あることに気づいた3人は慌ててフェンスに駆け寄り、玲奈の姿を懸命に探した。
「おいおい、嘘だろ?」
「いくらなんでも……」
「翼を生成せずに飛べるもんか!」
玲奈は翼を生成せずに飛び降りたのだった。3人は地上を見渡すが玲奈の姿はなかった。
「どこ見てるの? ちゃんと見てって言ったでしょ?」
どこからともなく玲奈の声が聞こえ、周囲を見渡すが、やはり玲奈の姿を見つけることが出来なかった。
「上だよ! 上!」
3人は一斉に空を見上げると、そこに玲奈の姿があった。しかも翼を使うことなく、宙に浮いていた。
「一体どうなっているんだよ!?」
謎現象を目の当たりにした遼は、声を大にして玲奈に問い詰めた。玲奈はすんなりと答えを教える。
「だから言ったでしょ? 風だって。私は今、風の力だけで飛んでるの」
玲奈は翼を生成しているときと同じような軌道で飛び始めた。そして数分飛び回り、仁たちのいる屋上に降り立って、ニッコリと微笑む。
「さあ、やってみて」
『で、出来るわけないだろぉ!!』
3人は電脳チャンネルの空に向かって大声を響かせた。
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