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暁美の呼び出し

 食事処で遼と詩織と別れた玲奈は本部長室に向かっていた。その道中、医療スタッフが誰かを車椅子に乗せて前を歩く。玲奈は少し早歩きし、横目で車椅子に乗っている人物を確認した。


「ゆ、優一さん?」


「玲奈……」


 車椅子に乗っていたのは優一だった。


「なんで車椅子なんかに乗っているんですか?」


「いや~それが疲労がピークに達してね。しばらくは車椅子生活だよ」


「疲労って……大丈夫なんですか?」


「大丈夫だ。何度も経験しているし、心配いらないよ」


 心配するなと言われても心配するのが人間の性。自分の小隊の隊員がいきなり車椅子にお世話になっているのを見て、心配しない人はいない。


「車椅子に乗ってどこに行くんですか?」


「暁美に呼ばれてな。玲奈ちゃんは?」


「私も本部長に呼ばれたんですけど……」


 その一言を聞いた優一は顔を曇らせる。


「暁美に? 何か悪いことでもしたのか?」


「いえ、そんなことはないと思うんですけど……」


 本部棟の最上階にある本部長室に行くため、玲奈と優一はエレベーターに乗り込み、最上階を目指した。


 本部長室の扉の前に立った玲奈は何故か緊張し、手に汗を握っていた。優一は医療スタッフに「ここまでで良いです」と告げ、医療スタッフは足早に去って行った。


「毎回思うけど、緊張する相手じゃないよ」


「緊張しますよ! 本部長ですよ!? ここのトップですよ!?」


「そうだけど、友達感覚で接したらあいつは喜ぶぞ」


『喜ぶわけないでしょ!』


 ドアの横に取り付けられているカメラ付きインターホンから、暁美の怒り声が聞こえた。玲奈はビビり、優一は「聞こえてたのかよ」と言葉を漏らす。


「暁美、玲奈も来ている。入るぞ」


『ったく、さっさと入りなさい』


 扉が開き、玲奈は優一の車椅子を押して、部屋の中に入っていった。客人用の大きなソファーと作業用デスク。それ以外は何もない至ってシンプルな部屋のソファーで、暁美は足を組んで座っていた。


「水澤さん、忙しいのに来てくれてありがとう」


「い、いえ!」


「俺には来てくれてありがとうはないの?」


「はいはい、ありがとね」


 暁美は仕方なさそうな表情を浮かべて優一に言葉を返す。


「で? 俺と玲奈を呼び出して、何の用だ?」


「急かすな。物事は順番に片付けるのが鉄則だ」


 優一はため息をつき、玲奈は車椅子を押しながらソファーに足を運んだ。


「水澤さん、気を楽にして座ってください」


「あ、はい! 失礼します」


 玲奈はソファーに腰を下ろし、足下に視線を向ける。暁美は自分に目線を向けてもらうため、咳払いをする。


「水澤さん、お母さんは元気ですか?」


「お母さん? 元気ですよ」


 緊張していた玲奈は、予想していなかった質問に思わず戸惑う。


「そう……今も水流山に住んでいるの?」


「はい……本部長、私のお母さんを知っているんですか?」


 暁美はスッと目を閉じ、深呼吸をした後に言葉を返した。


「あなたのお母さんには、色々お世話になってね……久しぶりに会いたいからアポイントを取ってもらえないかしら?」


「アポなんて取らなくても、いつでも会えますよ」


「そう? じゃあ、来週お邪魔して良いか聞いてくれる?」


 玲奈はドヤ顔を浮かべて「任せてください!」と了承した。


「待て!」


 優一の一言は、その場を凍り付かせるかのような口調だった。暁美は鋭い目つきで優一を睨みつけ、一瞬鳥肌が立った玲奈は目を丸くして優一を見つめる。


「暁美……勝手に話を進めているが、もっと詳しく俺に教えてくれないか?」


「今お前に話すことはない」


 玲奈と話すときの口調と一変し、暁美は冷たい言葉を優一に放つ。優一は目を細めて暁美を睨みつける。


「勝手に呼んでおいて、俺を話に混ぜてくれないのは何故だ?」


「言ったはずだ。物事は順番に片付けるのが鉄則だ。お前に詳細を話すのはまだ先だ」


 玲奈は訳も分からず2人を交互に見る。優一は歯ぎしりし、力を振り絞って車椅子から立ち上がる。フラついた足取りで暁美に近づき、拳を作る。


「あんたはいつもそうだ。勝手に話を進めて、巧妙に物事を隠す。なんで詳細を話してくれない」


 暁美は優一から目を離さず沈黙を続ける。


「優一さん……」


 玲奈はフラついている優一を見て止めようとするが、体が動かなかった。


「暁美!! 何か言えよ!!」


 暁美の顔面に向かって、優一は拳を振りかざそうとする。行動に気づいた玲奈は止めようとするが間に合わないと感じた。殴られそうになっている暁美は無表情のまま、優一から目を離さなかった。しかし、優一の拳は暁美には届かなかった。


「そこまでだよ、優一くん」


「伊澄さん……」


 優一の腕を掴んで、拳を止めたのは真里だった。


「伊澄さん!? どうしてここに?」


 いきなり現れた真里を見て、玲奈は目を丸くする。暁美は表情を崩すことなく口を開ける。


「私が呼んだんだよ」


「伊澄さんも?」


 真里は力尽くで優一を車椅子に座らせ、暁美に目を向けた。


「何の気なしに入ってみたけど、何で殴られそうになっているんですか?」


「優一の好奇心が抑えられなかったんだよ」


「お前が何も話さないからだろ!」


 声を大にして自分の主張を述べる優一に、真里は悲しそうな表情を浮かべた。


「何で気が立っているのか分からないけど、少し落ち着いて」


 優一の肩に真里が手を置くと、優一は乱れた呼吸を整え、スッと目を閉じた。


「話の続きをしよう」


 暁美は強引に話を戻し、視線は暁美に集中する。


「優一、伊澄さん。来週、水澤さんの家……水流山に行くよ」


「水流山?」


「俺たちも?」


 真里は首を傾げ、優一は怒りの形相からキョトンとした表情に変わる。


「あなたたち3人は知っておく必要がある」


「どういうことですか?」


 玲奈は眉をハの字にして暁美に尋ねる。


「ここでは話せないけど、1つだけ言えることは水澤玲奈の母親、水澤芳香みずさわよしかさんはホープ創設時の隊員だったの」


『え?』


 話に付いていけない優一と真里。そして母の過去を初めて聞いた玲奈は、頭が真っ白になり、動けなくなった。



 ======



 小隊部屋に戻った遼と詩織は、明らかに怪しかった玲奈の言動を考察していた。


「詩織はどう思う?」


「私は仁くんからの呼び出しなんじゃないかと思っているけど」


「1回ここに来た奴が呼び出すか?」


「急用なんじゃないの?」


 遼はソファーにふんぞり返って、頭をフル回転させていた。詩織は温かいコーヒーを遼に手渡し、向かいのソファーに座る。


「絶対、桜井じゃないと思うんだけどな」


「じゃあ、他に誰がいるの?」


 詩織は冷静に言葉を返し、遼は言葉に詰まった。


「三上でもなさそうだし……他に誰か心当たりが……」


「もう! 余計なことに頭を使うんなら、明日の訓練の内容を確認したらどう?」


「お! 明日と言えば、劫火さんが夜の訓練に付き合ってくれるんだった」


「劫火さん? 劫火さんって、仁くんの隊の隊長さん?」


 遼は嬉しそうな表情で詩織に自慢し始める。


「そうだ! 劫火さんが師匠になってくれたんだよ」


「へぇ~師匠ね……って師匠!? どうして?」


 コーヒーを口に運ぼうとしていた詩織は驚いた表情を浮かべて、遼に目を向ける。


「桜井の助言もあって、中距離での戦い方を教えてくれるってよ!」


「助言って……本当に引き受けてくれたの? ただの妄想?」


「お前、俺を馬鹿にしてるな」


「だって現実的に考えたらAAAランク隊の隊長がCランク隊員の面倒なんて見るわけないじゃない。嘘をつくならもっとマシな嘘をついてよ」


「嘘じゃねえって!」


 必死に現実だと伝える遼だが、詩織は全く信じなかった。


「私は信じないよ!」


「自分の師匠がいないからって拗ねんなよ! 第一お前は狙撃の腕は完璧なんだから師匠はいらないだろ!」


 遼の一言にカチンときた詩織は怒りを爆発させる。


「狙い撃つ努力は自分でも出来るけど、戦い方や心得は講義を聞いても理解しきってないもん! ちゃんとマンツーマンで教えてもらいたいよ!」


「その気持ち、分かります!」


『……え?』


 遼と詩織は同時に入り口に目を向ける。そこには仁に連れ去られたはずの早紀がいた。


「また来ました~」


「どうやって入ってきた? って言うかどこから聞いてた?」


 早紀は2人に歩み寄る。


「質問が多い男性は嫌われますよ? 西原先輩。何度もインターホンを押させてもらったんですけど、反応がなかったのでハッキングしました」


「堂々とハッキングしたって言うな」


「話の内容を聞いていたのは、嘘じゃねえって! から聞いていました。確かに劫火さんの弟子は西原先輩です」


 遼は「ほら見たか!」と言わんばかりの表情を浮かべて詩織に目を向ける。それでも詩織は納得しがたい表情を浮かべていた。


「お気の毒です。劫火さんの弟子なんて」


 早紀は合掌し、遼を哀れな目で見た。


「どういう意味だよ!」


「それは私の口からは言えません。ただ一言、お気の毒です」


「だからどうしてその言葉が出てくるんだよ!」


「そんなことよりも!」


 早紀は怒り始めた遼を無視し、詩織に目を向ける。


「月影先輩、師匠が欲しいんですか?」


 早紀は目を輝かせて詩織の目を見つめる。


「え、そうだね。師匠欲しいと思っているよ」


 早紀から感じた圧に耐えつつ、詩織は言葉を返す。


「それなら優良物件がありますよ!」


「優良物件?」


 詩織はキョトンとした表情を浮かべて言葉の続きを待った。早紀は満面の笑みを浮かべて自らを指さす。


「私が師匠候補になっても良いですか?」


「は?」

「へ?」


『ええッ!?』


 遼と詩織は声を重ねて驚きの声を上げる。それと同時にインターホンが鳴り、来客がロックの解除を求める。


『早紀! いるのは知ってる! あんまり他の小隊に迷惑かけるな!』


「お兄ちゃん!」


 詩織は扉のロックを解除し、仁を部屋に入れた。仁は早紀の頭を鷲掴み、早紀は涙目で「アババババ!!」と声を上げた。


「全く、目を離した隙にいなくなるんだから……2人とも、妹が迷惑をかけてすまない」


「いえ、大丈夫ですよ」

「大丈夫なわけあるかよ」


「ほら! 帰るぞ!」


 無理矢理、手を引っ張って連れて行こうとする仁に抵抗する早紀だが、再び引きずられる。


「やだ~! もう少し話したいよ~! 月影先輩! 前向きに検討してくださいね!」


「この短いスパンで2回連れ戻されるとはな……」


 遼と詩織は苦笑いを浮かべて、その光景を見守った。

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