束の間の休息
「ただいま~」
「水澤先輩、お疲れ様です」
玲奈は目を擦って目の前に居る人物を二度見した。そして小隊部屋のネームプレートを確認する。
「どうして早紀ちゃんがここに?」
「月影先輩に入れてもらいました!」
「半ば強引に入ってきたの……」
詩織の表情を見た玲奈は出来事を察し、詩織を咎めなかった。
「まあ、いいや」
「水澤先輩やっぱり格好よかったですね! 三上じゃ相手にならないでしょ」
「確かに無傷で勝ったけど、弱くはなかったよ」
「でも、これでサポーターにならずに済みましたね」
「気になってたけど、サポーターって必ず必要なの?」
三上がサポーター勧誘していた事を思い出した玲奈は、早紀に尋ねる。
(必ず必要って、言葉おかしくない?)
遼と詩織は苦笑いを浮かべて、2人の会話を聞き続ける。
早紀は嬉しそうな表情を浮かべ、説明する。
「サポーターは必要って訳じゃないんですけど、情報を伝達してくれて、連携が取りやすくなります。あと、ナノマシンの調整やプログラム追加もしてくれるので、やっぱりいた方が良いと思いますよ」
「プログラムの追加ね~」
サポータの役割を改めて聞いた玲奈は、頭の中である人物を想像した。
「まあ、そんなことは置いておいて、今からご飯食べに行きましょう!」
真剣に考えようとしている玲奈の手を取って、早紀は食事に誘った。部屋の奥から遼も出てきて腹部を抱えていた。
「お前の模擬戦終わるまで待ってたんだぞ。食事処にいくのは不本意だけど」
「大丈夫ですよ! 私持ちで食べに行きましょう!」
「年下に出させるわけにはいかないよ。私たちが出すから」
「こう見えても良い給料貰っているんですよ?」
早紀は胸を張って、自分の財布を手に持つ。玲奈は思い出したかのように詩織と遼に尋ねる。
「そういえばあんたたちって、今日給料日だったよね?」
「あんたたちって……お前も貰う日だろ?」
瞬時に玲奈の表情が曇り、遼は失言したと察した。
「昨日今日入隊した人間に給料くれるわけないじゃん! 薄々分かってたけど、途中入隊したのは失敗だったよ!」
落ち込む玲奈に詩織は優しく声をかけた。
「玲奈ちゃんは入院してたんだから仕方ないよ。来月は確実に貰えるはずだから頑張ろう?」
「……いくら貰ったの?」
『は?』
遼と詩織は呆気にとられ、口を開けていた。
「だから、今月は手取りでいくら貰ったの?」
「なんでお前に給料教えなきゃいけないんだよ!」
「私は貰えなくて無一文になっちゃったんだから少し貸してよ!」
遼は大きくため息をつき、詩織は苦笑いを浮かべる。すると、ずっと口を閉じて様子を見ていた早紀が口を挟む。
「西原先輩と月影先輩は実戦に出てなかったので、今回は十五万程ですよ」
手取りをぶっちゃける早紀に、遼は鼻の先に指を当てて、話さないでくれと言わんばかりの表情を浮かべる。手取り金額を聞いた玲奈は、遼と詩織に頭を下げる。
「貸してください」
「やだ」
「流石にね……」
「私は良いですよ」
遼と詩織が渋る中、早紀は嫌な顔をすることなく、了承した。
「いや、水澤小隊の問題だから早紀ちゃんから借りるわけにはいかないよ」
「本当に大丈夫なんですよ。私が水澤先輩に貸したいだけなんですよ」
「そんなこと言ったって……」
するとインターホンが鳴り響き、詩織は訪問者を確認する。
「どちら様ですか?」
『桜井だ。早紀がここにいると聞いたんだが』
訪問してきた人物は仁だった。
「あ! 今開けますね」
詩織は部屋のロックを解除し、仁を部屋に招き入れた。
「早紀、小隊部屋にいなかったから心配したぞ」
「お兄ちゃん来たんだ」
「来たんだじゃない! 今日の晩、卵づくしの料理が食べたいって言ったのは早紀だぞ! さっさと部屋に戻るぞ」
仁は無理矢理、早紀を連れて帰ろうとする。早紀は懸命に抵抗するが、仁の力は想像以上に強く、腕に痛みが走った。
「いたたたたッ!! お兄ちゃん離してよ! 私は水澤先輩と一緒にご飯食べたいの!」
「あまり玲奈たちに迷惑かけるな」
玲奈に助けを求めようとする早紀だったが、玲奈は軽く微笑み、手を振って見送った。
「また来てね~」
「そんなあぁぁ!!」
「……良いのか? 後輩見捨てて」
仁たちが部屋の外に出て行ったのを確認した遼は、玲奈に声をかける。玲奈は顔を引きつらせて、遼と詩織に目を向ける。
「良いの。仁に借金がバレるのは避けたいから」
遼と詩織は声を重ねて「なるほど」と呟いた。
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暁美は本部長室の椅子に座り、優一の報告を思い返していた。
「ゴーストが……人間に取り憑く?」
「そうだ。今までのゴーストは霊力で自分の体を作っていた。だから、攻撃は霊力を纏わせたものじゃないと通用しない」
「だが、人間に取り憑いて体を得ると、霊力を纏っていない攻撃でも通用するんじゃないか?」
暁美は優一の言葉を冷静に返す。
「暁美の言うとおりだ。体を得た奴らは霊力を纏わなくても倒せる」
優一は目を細めて話を進める。
「だが、体を得た奴らの方が厄介になった」
「厄介?」
暁美は眉をつり上げて、優一に続きを促した。
「まずは外見だ。一見、普通の生きている人間にしか見えない……だが、中身は自我を失って見境なく人を襲うゴーストだ。見分けが付きにくいから、隊員たちが初めて見ると混乱しかねない。俺もじっくり見るまでは普通の人間と見間違えたくらいだ」
「人に化けて襲ってくる……か。他は何か変わったことはなかったか?」
優一は少し体を起こして話を進める。
「攻撃方法とかは変わってないが、一番の脅威は霊力だ」
「霊力?」
暁美は首を傾げて優一を見つめる。
「取り憑いた人間の霊力を使う」
「……なるほど、霊力量が増えたから、攻撃力が上がるって訳ね」
「ああ。それに取り憑いた人間の運動能力も自分のものにしている。走る速さや、飛んでいるときの速さも普通のゴーストより速い」
「人間を……ただ襲っていただけのゴーストが……人間を取り込むなんて」
優一は真っ直ぐ暁美の目を見て、自分の思いを述べる。
「不意を突かれたから終世プログラムを使ったが、もう不意は突かれない。なんとしてでも見分ける方法を探すぞ」
そして今に至る。
(優一は簡単に言うけど、あいつのように皆が皆、『全てを見る目』を持っているわけじゃない。終世プログラムを使うとナノマシンの全サポートが強制的に休止するから、優一が見た人間に取り憑いたゴーストの画像もない。思いのほか厄介な案件ね)
暁美はナノマシンの無線機能を使って、ある人物に連絡を取った。
『……本部長から無線なんて、珍しいこともあるんですね』
「長いこと会ってないな。明日くらい顔を出せるか?」
『いつでも良いですよ。穂香に仕事を押しつけてでも行きますよ』
暁美は苦笑いを浮かべて言葉を返す。
「相変わらず面倒ごとは嫌いなようね」
『本部長、勘違いしないで欲しい。俺は興味のある面倒ごとは歓迎だ。だが、興味のない面倒ごとは心の底から嫌なんだよ。分かってくれる?』
無線相手は声を高らかにして笑う。暁美は軽く用件を伝える。
「新種のゴーストに関して頼みたいことがあると言ったら?」
無線相手の声色が変わり、真面目な声になる。
『……興味深いが、その案件は難航しそうだな』
「説明していなくても分かるか?」
『大方、終世プログラムを使った優一絡みなんだろ? ナノマシンが活動停止している状態だと、情報を本部に送信することは出来ない。終世を使う前の情報を見たって、当てにもならないだろうし』
「あなたなら出来ると思って話しているの」
無線相手は黙り込み、暁美は明日の約束を取り付けた。
「夜8時。本部棟の最上階の和食屋で待っている」
無線相手からの返事はなく、暁美はため息をついて、通信を切断した。
(変な奴だが、いざって時には頼りになる。どこまで解析することが出来るか……あとは)
暁美は再び無線を使い、相手の応答を待った。
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「玲奈ちゃん! もうそれ以上食べるのはやめて!」
食事処で玲奈が大食いを発揮し、大盛り7人前を軽く平らげ、さらに追加注文をする。あまりの暴食に、詩織は玲奈に注意する。
「いつ食べられなくなるか分からないし、美味しいし、もう少しだけ」
静かに見ていた遼も呆れ、追加注文をキャンセルした。
「あ! 遼! 何でキャンセルするの!?」
「何でじゃねーよ! お前タダ飯なんだから少しは遠慮しろ! 詩織もそう思うだろ?」
「いや、奢るのは良いけど……でも、それ以上暴食したら肥満体型になるよ!」
「それがね~、食べても食べても体重が増えないの」
玲奈の一言で詩織がキレる。
「何それ嫌味!? 食べる分だけ体重が増えてしまう私に対しての嫌味!?」
「おい詩織! 落ち着け!」
玲奈の胸ぐらを掴もうとした詩織を懸命に抑える遼。そして詩織をキレさせた玲奈は、無心で料理を口に運び続けた。
「お前も甘いものいっぱい食べても太らないだろ!?」
「甘いものは別腹なの!!」
「なんだその言い分は!! 別腹って言ったって、本当に別の腹に行くわけじゃないからな!!」
「遼、詩織。ご飯中は静かにするもんだよ?」
言い争っている2人を見て、冷静に言葉を呟いた玲奈に矛先が向けられる。
「お前が食い過ぎるのが悪いんだろ!?」
「とにかく食べるのやめて!!」
玲奈は仕方なさそうな表情を浮かべて、テーブルの上に置かれている料理を全て平らげて、手を合わせる。
「ご馳走様でした」
遼は顔が引きつり、詩織は頭を抱えて仰け反っていた。
「今度からは遠慮してくれよ」
「善処するよ」
玲奈たちがテーブルから離れようとしたその時、玲奈のナノマシンの無線機能が反応する。相手が分からず、玲奈は警戒しながら無線に反応する。
「水澤です」
『夜遅くに済まないな。霧峰だ』
「え? ほ、ほんぶ……」
『待て、周りに人はいないか?』
玲奈は遼と詩織に目を向ける。無線の内容が聞こえていない遼と詩織は、首を傾げて玲奈を見つめる。
「今、小隊メンバーと一緒にいます」
『そうか……済まないが、30分後に1人で本部長室に来てくれないか?』
「え? 私だけですか?」
『あなたにどうしても確認したいことがあってね』
無線から聞こえてくる暁美の声は、心なしか嬉しそうに聞こえた。
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