表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Hope〜希望を信じて〜  作者: 伊澄 ユウイチ
ようこそホープへ
35/80

仲間の温かさ

「仁、こっち来ても良いぞ」


 劫火は仁の個室に向かって声を発する。劫火の声を聞いた仁は、ゆっくりと扉を開けて、再び劫火の横に座った。


「桜井、ありがとな」


 遼は仁に軽く頭を下げる。


「礼を言うなら劫火さんに言え」


 そして仁は遼の耳元で、あることを呟いた。


(劫火さんを怒らせると怖いから気をつけろよ)


(今言うことかよ!?)


 遼は優しく微笑んでいる劫火を見て、仁の言葉を疑った。


(嘘言うなよ。劫火さんは優しそうな人じゃねえかよ)


(幸せな奴め。そう思っていられるのも今のうちだと思え)


 仁は遼の耳元から顔を離し、口を固く閉じた。


「何話していたんだ?」


 話の内容が気になる劫火は2人に尋ねるが、2人は答えなかった。


「話は変わるが、西原。抄さんが家族を助けられなかった理由を教えてやる」


 遼は真剣な表情を浮かべて仁の顔を見つめた。仁が今から話す内容を察したのか、劫火も少し険しい表情に変わる。


「それを聞くためにここまで付いてきたんだ。納得のいく理由だろうな?」


 仁は軽く目を閉じて、遼に真相を話した。


「抄さんは……伊澄真里さんと同じ小隊で、伊澄真里さんと同じレジェンドランク隊員だ」


「え?」


 仁の言葉を聞いた遼は一瞬、目の前が真っ白になった。


「姉貴が……伊澄さんと同じ小隊? レジェンドランク?」



 ======



「2人とも毎日戦って飽きないのかな」


 真里は小隊部屋に設置されているテレビを使って、抄と宏大の模擬戦の様子を見ていた。


「同じ相手で、同じ戦法同士で戦っていたら、私なら飽きるね」


 静佳は自分の考えを述べて、真里の隣に座った。


「似たもの同士。考えることも、飽きを感じないのも一緒なんじゃない?」


 映像に目を向けず、悠香は携帯ゲームをしながら言葉をこぼす。


 2人の戦いは主に殴り合いだった。抄は自分の体に四色を纏わせ、宏大は一色を纏っていた。拳がぶつかり合うたび、周りに衝撃波が走り、木々や建物は吹き飛んでいった。


「やっぱあんたの拳は重くて熱くて良いね。私を本気にさせる拳だよ」


「お前こそ、速くて威力があって面白いよ。俺の一色をさらに熱くさせる!」


 2人は大きく振りかぶって、右の拳をぶつけ合う。再び衝撃波が走り、今度は地面が割れる。そしてお互いの力に弾かれ、強制的に離れる。


「これならどうだ?」


 宏大は思いっきり地面を殴り、抄の足下周辺に火柱を発生させた。火柱に囲まれた抄は焦ることなく、体に纏っている四色の雷を周囲にまき散らす。炎と雷はぶつかり合った結果、相殺という形で消える。


「囲んだところで決定打になってないよ?」


 抄は不気味に微笑みながら宏大との距離を一気に詰める。腕で防御を試みる宏大だが、抄の回し蹴りが腹部に決まり、宏大は勢いよく建物を壊しながら吹き飛んでいった。


「効くでしょ?」


 宏大が飛んでいった方向に抄は声をかけ、瓦礫の中から宏大は言葉を返す。


「ああ……効いたね」


 しかし宏大の体は、言葉とは裏腹でピンピンしていた。


「嘘つき」


 抄は再び宏大との距離を詰め、追撃を試みるが、宏大の周辺温度が急上昇する。それを感じた抄は追撃を中断し、宏大を睨みつける。


「お前の蹴りのお陰で、火力が上がったみたいだ」


 宏大はゆっくり抄に歩み寄る。そして抄は電圧を上げて、迎え撃つ準備を整える。お互いに駆け出し、渾身の一撃を繰り出す。


「うおおおおおおぉぉぉぉ!!」

「はああああああぁぁぁぁ!!」


 拳がすれ違い、どちらかの体に当たった瞬間、土煙が舞い、2人の姿が隠れる。


「おお!?」


「相変わらず、決着のシーンだけはかっこいいんだから」


 小隊部屋で様子を見ていた静佳と真里は、思わず言葉が出る。


 舞っていた土煙が晴れていき、2人の姿を確認できた。2人とも背を向けて、未だに振り返らない状態が続くが、しばらくして1人が地面に膝をつける。


「……クッ! ……クソッ!!」


 地面に膝をつき、悔しがる声を上げたのは宏大だった。そして、宏大はダウンを宣告され、電脳チャンネルから除外された。勝利を手にした抄はホッとした表情を浮かべて、電脳チャンネルから離脱した。


「今日は抄ちゃんが勝ったね!」


 静佳は自分のことのように嬉しさを露わにし、結果を見た真里は軽く微笑んだ。


「これで894戦中434勝・430敗・30引き分けだね。何とかまた4勝分リードになったね」


「え~抄勝ったの? 勝つと機嫌良くなってうるさいんだよな~」


 結果を聞いた悠香は露骨に嫌そうな表情を浮かべる。その言葉を聞いた真里は苦笑いを浮かべる。


「だあぁ~、クソッ! 負けた……」


 宏大は転送用のベッドに横たわったまま、悔しさを言葉にした。


「惜しかったね。あと0・3秒速かったら私が負けてたよ」


 抄は宏大の転送室に入って、最後の一撃について感想を述べた。宏大は体を起こし、抄に歩み寄った。


「今日もサンキュー。言い訳なしで俺の完敗だ」


「ありがとう。次も私が勝つから」


「次は俺だ」


 2人は笑い合いながら軽く握手を交わし、それぞれの小隊部屋に戻っていった。



 ======



「本当に……姉貴がレジェンドランクなのか?」


 遼は驚いた表情を浮かべて、仁に確認をとった。仁は遼から視線を逸らすことなく答える。


「本当だ。抄さんは真里さんとほぼ同時期にレジェンドになった。AAAランク時代でも、真里さんに次いで、ブレーダー部門で2位になるほどの実力を持っている。レジェンドランクは世間には極秘の存在。身勝手な判断で戦線に立つことは許されていない」


「……ってことは、俺が中学だったとき、姉貴はもう……」


「そうだ、レジェンドランク隊員になっていたからお前の元にも、両親の元にも行けなかったんだ。本当は自分の口から言いたかったはずだが、規律により、話せなかったんだ」


 自分は見捨てられた、という遼の考えは勘違いだった。


(なんだよ……そんなの最初から知っていれば……俺よりも姉貴の方がずっと辛いじゃねぇか……)


 遼は視線を落として、項垂れる。遼の気持ちが沈んでいるのを察した劫火は、遼の肩に手を置き、優しく声をかけた。


「西原くん。今日はもう休むと良い。気持ちが沈んでちゃ、何をやっても身が入らないよ」


 遼はスッと顔を上げて、劫火の言葉に甘えた。


「すみません。今日は失礼させてもらいます」


 立ち上がって小隊部屋を後にしようとする遼に、劫火は一方的に話す。


「明後日」


 遼は振り向き、劫火に目を向ける。


「明後日の夜、君の実力を見せてもらうよ。またここに来てくれ」


「あ……」


「返事は?」


 戸惑っている遼に対して、劫火は少し目つきが鋭くなり、返事を求めた。終始、優しそうな表情を浮かべていた劫火が表情を変えたことによって、遼は少し身震いして返事をする。


「はい! お願いします!」


 声を張って返事をし、自分の小隊部屋に帰って行った。


「劫火さん。本当に俺のわがままに付き合ってもらって、ありがとうございます」


 遼が部屋の外に出て行ったことを確認した仁は、今一度劫火に頭を下げた。劫火は湯飲みに残っていたお茶を飲み干し、仁に声をかけた。


「珍しいな……いや、初めてだな。お前が他人を気にかけるなんて」


「そうですか?」


「もしかして、弟子のお陰か?」


 劫火はニッコリと笑って仁を見つめる。仁は顔を赤くして視線を逸らす。


「いえ……いや、劫火さんに隠す必要はないですね。弟子に頼まれて西原を落ち着かせてくれと頼まれたもので」


 仁が動いた理由を聞いた劫火は、ソファーにふんぞり返り、大きく息を吐いた。


「仲間思いの良い隊長じゃないか。今度、ゆっくり話をしてみたいもんだな」


「面白い奴ですよ。きっと劫火さんも気に入るはずです」


「それは楽しみだな」


 仁と劫火が軽く談話していると、部屋の奥から声が聞こえた。


「お兄ちゃん~、私お腹すいた~」


 仁の妹、桜井早紀が腹部をさすりながら、個室から出てきた。その様子を見た仁は呆れた表情を浮かべて、言葉を返す。


「早紀、今日は用事があるから外食してくれって言ったじゃないか」


「外に出ようとしたら、さっきまでいたお客さんが来たから出れなかったんだよ~」


「はぁ……何が食べたい?」


「え? 作ってくれるの? じゃあ、オムライス」


「今週ずっとオムライスじゃないか。もっと他のものにしろよ」


 早紀は頬を膨らませて仁に反論する。


「だって、お兄ちゃんのオムライス美味しいんだもん!」


「それ以外は不味いって言いたいのか?」


「そうじゃないもん! 全部美味しいけど、オムライスが良いのッ!」


「仁、作ってやれよ」


 劫火が優しい口調で仁を説得する。自分の援護をしてくれたと感じた早紀は、明るい笑みで劫火に駆け寄り、腕に抱きつく。


「ほら~劫火さんもこう言っているし、作ってよ!」


「早紀、離れなさい」


「はあ……分かった待ってろ」


「わ~い! お兄ちゃんありがとう!」


 兄妹仲良く会話する姿を見て、劫火は微笑む。



 ======



 水澤小隊の小隊部屋の前に辿り着いた遼だったが、入るのを躊躇っていた。


(2人とも……呆れているのかな?)


 心に我慢が効かなく、荒れた自分の姿を見せたことに、遼は後悔していた。そのまま部屋に入ることが出来ず5分経ち、遼のナノマシンに無線が入る。


「はい、西原です」


『いつまで外に突っ立ってんの?』


「れ、玲奈!?」


 無線相手は玲奈だった。


(何で外にいることが分かる? 監視でもされてんのか?)


『早く入ってきなさい』


「あ、ああ」


 無線が終了し、遼は勇気を振り絞って扉のロックを解除する。扉の向こうのリビングに玲奈と詩織の姿はあった。


「遅い!」


「遼くん、お帰り」


「すまない……2人とも」


「そんな事どうでも良いから、あんたは隊服どれが良い?」


 いきなりの話題に遼はキョトンとする。そして、詩織が遼に説明する。


「ホープから支給される隊服とエンブレムのデザインを2人で決めてたの。私たち2人じゃ中々決まらなくて……遼くんの意見も聞きたかったの」


「不抜けた顔してどうしたの? さっさと選ぶよ」


 数時間前の自分の言動に、触れてこない玲奈と詩織を見て、遼は問いかける。


「2人とも怒ってないのか?」


「何で怒るの? まあ、強いて言うなら帰ってくるの遅すぎ」


 玲奈のドライな対応に遼は視線を落とす。


「……悩みくらい、私たちだって聞いてあげるから」


「え?」


「だから、困ってることがあったら何でも言ってよ。聞くだけ聞いてあげるから」


「私たちで良かったら、いつでも相談に乗るよ」


 玲奈は少し照れくさそうな表情を浮かべ、詩織は優しく微笑む。そんな2人を見た遼は驚いた表情を浮かべた後、ニッコリと笑って2人の傍に歩み寄る。


「ありがとな、2人とも」


 玲奈と詩織は顔を合わせて微笑む。


(いつまでも昔の事で悩むわけにもいかない……前を見て、2人を信頼して、俺は2人と一緒に強くなる!)


 そして夜が更けるまで、3人は楽しく自分たちの隊服とエンブレムを考えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ