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Hope〜希望を信じて〜  作者: 伊澄 ユウイチ
ようこそホープへ
36/80

仁の妹

 小鳥が囀る朝7時。


 桜井早紀は布団に籠もり、寝息をかいていた。フカフカの気持ちいいベッドと枕に囲まれて、早紀は幸せそうな表情を浮かべる。


「おはよう、早紀。着替え置いておくからな」


 早紀の個室に、兄の仁が入ってきて衣服を置く。早紀から返事はなく、仁はため息をついて、部屋から出る。


 数十分後、早紀の部屋から目覚まし時計のアラームが響き渡る。早紀は寝ぼけ眼でアラームを止めて現在時刻を確認する。


「……ふぁれ? …………ええッ!?」


 時刻を確認した早紀は寝間着姿のまま、勢いよく個室から飛び出す。そしてリビングで優雅に朝食を取っている仁と劫火に、切羽詰まった口調で声をかける。


「お兄ちゃん! 劫火さん! どうして起こしてくれなかったんですか!?」


「おはよう、早紀ちゃん」


 優しく微笑む劫火は、落ち着いた口調で早紀に朝の挨拶をする。


「いい加減、自力で起きたらどうだ? いつまでも俺や劫火さんが起こしてくれると思ったら、大間違いだぞ」


 仁は冷たい口調で、早紀の寝坊について指摘する。早紀は立ち止まることなく、洗面所に向かい、身だしなみを整える。


「出来てたら最初からしているよッ!!」


「全く、朝から騒々しい奴だな。今日は俺も学校に行くからな」


「え? お兄ちゃん、学校に行くの?」


 歯を磨きながら早紀はリビングに向かって顔を出す。仁は椅子の横に置いてあった学生鞄を持って、出入り口に向かって歩き始める。


「学校から嫌なメッセージが来てたよ。今日は中間試験だってさ」


 仁は部屋の外に出て行き、早紀は再び慌て始めた。


「中間試験? って、私を置いていくの!?」


 早紀は急いで身支度を終え、学制服に身を包んで、鞄を抱えながら仁の後を追った。


「行ってきます!!」


 慌ただしく出て行く早紀を見送った劫火は、ボソッと言葉をこぼす。


「朝ご飯くらい食べて行けばいいのに……」



 ======



 玲奈は久しぶりの登校に、少し不安がっていた。


「……大丈夫かな?」


「まあ、見た目が大幅に変わったら誰だって驚くかもな」


 遼は不安がっている玲奈を見て、率直な思いを述べた。ナノマシンが一時的に体から消滅し、成長すべき体に成長した玲奈の姿は、別人のように思われてもおかしくはなかった。


「大丈夫だよ玲奈ちゃん! 自信を持って!」


 優しい声で詩織は玲奈を励ます。しかし、今の自分の体に自信が持てない玲奈は、未だに不安がっていた。


「あ~変な目で見られたらどうしよう……周りから声かけて貰えなくなっちゃう……」


 玲奈は鞄で顔を隠す。


(そんなこと気にする?)


 その様子を見た遼と詩織は、苦笑いを浮かべて同じ事を思う。


「大体ホープ隊員になったのに、どうしてまだ学校行かなきゃ行けないの?」


「隊員になっても学校に通うのは学生として当たり前のことだよ……あ、玲奈ちゃん!」


「ふぇ?」


 鞄で顔を隠していたため、玲奈は前を歩いている人の背中にぶつかる。


「あたッ!!」

「おおッ!?」


 玲奈は思わず顔を手で覆い、膝をつき、前を歩いていた人物は驚いて振り向く。


「ちゃんと前見ろよ」


 遼は恥ずかしがっている玲奈に冷たい目線を送る。玲奈はゆっくりと立ち上がり、ぶつかった人物に謝ろうとする。


「ったた……鞄で顔を隠すのは危ないね。ごめんなさい、驚かせてしまって……って」


「いや、のんびり歩いていたこっちも……って玲奈?」


 玲奈がぶつかった人物は、師匠である仁だった。


「なんであんたがここにいるの? と言うかその格好は何?」


 遼と同じデザインの制服を着ている仁を見て、玲奈は驚きの表情を浮かべる。


「なんでって……俺もお前たちと同じ高校だから」


『ええッ!?』


 玲奈たちは一斉に驚きの声を上げる。



 ======



「同じ高校って、あんたの姿一度も見たことないんだけど」


 玲奈たちは仁と共に学校の門をくぐる。仁は歩きながら玲奈に言葉を返す。


「任務やランク戦があると中々登校できなくてな。空き時間を確保して、ホログラムで授業を受けていたけど、中間試験と期末試験は学校に来いって言われてな……」


「へえ~忙しいね……試験?」


 玲奈は首を傾げて、言葉の意味を理解しようとする。数秒かけて理解した玲奈は顔を青くする。


「い、いやああああぁぁぁぁ!! 試験なの!? 今日!? 久しぶりに学校に来たのに試験なの!?」


「ああ、残念だが今日は試験だ」


 仁が冷静に現実を突きつける。玲奈は仁の胸ぐらを掴んで、揺さぶる。


「冗談じゃないよッ!! 色々あって勉強してないのに!!」


「いや、玲奈は色々なくても勉強しないだろ」


 冷静に遼はツッコむが、玲奈の鋭い視線を感じたのか、遼はそれ以上何も言えなかった。


「ああ~終わった。何もかも終わった」


 しかし、遼と詩織は「あれ?」と言わんばかりの表情を浮かべて2人を見守った。


「あ、やっと追いついた……」


 その時、髪が乱れた少女が駆け寄り、仁の横に立つ。いきなり駆け寄ってきた少女を見て、玲奈たちは呆け、仁は呆れ顔に変わる。


「早紀、なんだ? その身だしなみは? 髪型くらい整えろよ」


「知り合い?」


 玲奈は少女を見て、仁に尋ねる。仁は1つため息をついて、玲奈たちに紹介する。


「初めてだったな。こいつは俺の妹の……」


「あ、桜井早紀です。いつもお兄ちゃんがお世話になってます」


 玲奈たちは少女を見て目を丸くした。


『い、妹!?』


 顔を見比べてみても仁とは似てなく、人形さんのような顔立ちの少女を見て、玲奈は心から出た言葉を放つ。


「ダウト」


「受け入れろ。現実だ」


 玲奈は再び少女を見て、愕然とした。


「ドS男の妹が、こんなにも可愛いだなんて……」


「お前、今俺を馬鹿にしただろ?」


 仁の言葉は玲奈には届いておらず、玲奈は早紀の手を握りしめた。


「わ、私、水澤玲奈と言います! 仁……じゃなくて、お兄ちゃんにはいつもお世話になってます!」


 突如敬語になる玲奈。玲奈の名前を聞いた早紀は、キョトンとした顔で言葉を返す。


「え? 水澤先輩……」


 玲奈に握られている手を早紀は握り返して、目を輝かせる。


「わああああ!! 水澤先輩だ!!」


 突然のテンションの上がり具合を見て驚く玲奈たちを無視して、早紀は思いを爆発させる。


「わ、私、水澤先輩が体育の授業で飛んでいる姿を見て感動したんです!」


「そ、そうなの?」


「そうですよ! それはもう、鳥肌が立つくらいでしたよ! ……ってことはそこにいる2人は……」


 早紀が遼と詩織に目を向けると、2人は自己紹介を始めた。


「俺は西原遼」


「私は月影詩織」


「やっぱり!!」


 早紀は握っていた玲奈の手を離し、2人と握手を交わし始めた。


「いつもお二方の姿も見てました! 西原先輩と月影先輩が色んな事を試して水澤先輩を墜落させようとしてましたけど、残念でしたね」


「なんか……」


「褒められてはないね……」


 口調的に悪気があって言ったセリフじゃないことは理解できた遼と詩織だったが、ド直球な感想に少し凹んでしまった。


「それから……」

「そこまでにしておけ、早紀。これ以上駄弁っていたら遅刻するぞ」


 まだ話したりなそうな表情を浮かべる早紀に対して、仁は少し不機嫌そうな表情を浮かべる。


「え~、もっと話したい!」


「お前が一方的に話しているだけだろ?」


「それに今日は試験だぞ? 早く教室に入って教科書でも見てろ」


 その一言を聞いた早紀はキョトンとした表情を浮かべる。


「え? 何言ってるの? 試験は先週で終わったよ?」


「は?」

「え?」


 玲奈と仁は目を丸くして早紀の言葉を聞き続けた。


「ちゃんと学校からのメッセージ見たの? 当日試験を受けていない人が、今日試験なんだよ?」


「……嘘だろ?」


 話を聞いた玲奈は遼と詩織に目を向けて、自分に指を指した。


「もしかしてだけど、今日の試験受けるのって……」


 遼と詩織は苦笑いしながら首を縦に振った。玲奈は手に持っていた鞄を地面に落とし、脱力した。


「私と仁だけ!?」

「俺と玲奈だけ!?」


 2人の大声は重なり、空に響く。


 数時間後、玲奈と仁の顔からは生気が感じられなかった。



 ======



 正体不明の人物と交戦した優一は、ホープ本部の上空まで戻っていた。


「やっと戻ってきた」


 優一は暁美に無線を入れ、返答を待った。


『遅かったじゃないか』


 暁美の塩対応に反論することなく、優一は本部棟の屋上に降り立ち、煙草に火を着け始めた。数分後、屋上に暁美は姿を現し、優一を迎えた。


「ご苦労さま」


「ああ、暁美……帰って……き……」


 突如優一の体が倒れ始める。暁美は優一に駆け寄り、頭が地面に当たらないように抱きかかえる。そして2人は倒れ、暁美は優一の顔色を確認する。


「……優一? ……優一!」


 優一の顔色は非常に悪く、血が通っていないような白い顔色だった。暁美はすぐに医療棟の関係者に連絡を入れ、到着を待った。


「優一……あんたまさか、またあのプログラムを使ったの?」


 目を閉じていた優一だったが、辛うじて声は聞こえており、掠れた声で暁美に言葉を返した。


「しく……じったよ……見たことないゴースト……帰る……には……これしか……なかった」


「もう喋るな! これ以上無駄な体力を使うな!」


 暁美は優一を強く抱きしめ、それ以上喋らせなかった。優一は震える手で、暁美を抱き寄せ、意識を失った。それに気づいた暁美は歯をギリッと鳴らし、今にも人を殺めそうな表情を浮かべた。


「私が悪かったんだ!! 昔の私に今の権力があれば……」


 医療棟のスタッフが到着し、暁美はストレッチャーの上に優一を乗せた。そして暁美は人が去ったことを確認して、空を見上げて涙を流した。

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