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Hope〜希望を信じて〜  作者: 伊澄 ユウイチ
ようこそホープへ
32/80

玲奈VS詩織

 苛立った状態のまま小隊部屋に戻れないと自覚している遼は、訓練棟の大浴場に足を運んだ。周りは仲間同士で入浴したり、背中を流し合っていたが、それらを尻目に遼はサウナに籠もっていた。そして、どうしようもなく苛立つ心を懸命に抑えていた。


(ちょっと前まで苛つくことなんてなかったのに……どうしたんだよ!)


 心境が大きく変化したのは、間違いなく姉の抄に会ってからだった。


(久しぶりに姉貴に会えたのに……嬉しいはずなのに……)


 視線を落として、遼は自分の言動に酷く悔いた。姉貴には冷たく当たり、関係のない玲奈に問答無用で勝負を挑む。挙げ句の果てには、現実世界に戻った玲奈を殴ろうとした。思い返せば返すほど、いかに自分が愚かだと実感させられる。


 頭の中がぐちゃぐちゃになっている時に、サウナ部屋の扉が開く。


「ここにいたのか、西原」


 遼は顔を上げて声の主に目を向けた。


「仁……」


 サウナパンツを履いて、頭にタオルを巻いている仁が、遼の隣に腰を下ろした。そして、仁は深くため息をついて、天井を見上げた。


「あの女子ばかりの場所じゃ、思いは語れなかっただろ? 俺で良かったら聞いてやる」


「だ、誰がお前なんかに!」


 遼は相変わらず他人に対してキツい口調で突っぱねる。しかし、仁はその場から離れず、諭すこともしなかった。


「……チッ! 出て行ってくれ!」


「俺が出て行っても気持ちは落ち着かないぞ。お前みたいな奴は、吐き出さないと気分が落ち着かないのは知っている」


「出て行かないんだったら俺が出て行くよ!!」


 遼は勢いよく立ち上がり、出口に向かった。しかし、扉を押しても開かず、引いても開かなかった。


「なんだよ!」


「ちょっと扉に細工させてもらった。外からも開けられない。その扉を開けて出たいのなら、俺に全てを話すんだな」


 遼は仁を睨みつけて、元いた場所に座り直した。


「……話す気になったか?」


「んな訳あるか。お前がサウナの暑さに耐えられなくなるまで待ってやる」


 仁は鼻で笑い、サウナ勝負を受けた。



 ======



 遼の説得を仁に任せた玲奈と詩織は、小隊部屋に戻って一息ついていた。詩織は椅子に座ってカフェオレを飲み、玲奈はソファーでソーダ味のアイスを食べていた。


「……ねえ、詩織」


「何? 玲奈ちゃん?」


「どうして遼は焦っているの?」


「さぁね? 今日は私と一緒にいたけど、途中まではいつもの遼くんだったけどね」


「……もしかして、遼のお姉さんが関係しているの?」


 詩織の顔は無意識に引きつり、その顔を見た玲奈は「図星ね」と呟いた。


「私は遼にお姉さんがいたなんて知らなかったし、どんな関係かも分からない。だけど詩織。あんたは少なからず知っているはずだよ。どうして私に何も言わないの?」


 詩織は口を固く閉ざして、玲奈から目を背けた。玲奈は詩織の顔を見るのをやめ、テレビを見ながら話を進めた。


「隠し事されるなんて……信用されてないみたいだね」


「違うッ! 玲奈ちゃん違うよ!」


 玲奈の一言に、瞬時に反応した詩織は、玲奈と再び目を合わせようとした。


「違う? 何が違うの? 少なくとも私は、あんたたち2人を友達だと思ってたし、親友だとも思っていた。そして、あんたたち2人は私を隊長にさせて命を預けてきた。遼が変になったのに、どうして何も話さないの? 信用していないから話さないんでしょ?」


「本当に違うんだってば!」


 詩織は記憶から消したほどの醜い過去を、自分の口から語りたくなかったのだった。仮に話しても、玲奈の態度が変わるんじゃないかと心配していたのだった。


「……あ~、前から思っていたけど、あんたって頑固だね」


「なッ!?」


「話さないと決めたらずっと話さないし、やりたいと思ったら成功するまでやり続けるしね。ほんっと良いところでもあって、悪いところだよ」


 詩織は黙って玲奈を見つめ、自分の性格を再確認させられた。そして玲奈はゆっくりと立ち上がり、詩織の前に立った。


「このまま平行線って訳にもいかないし、どう? 私と勝負してみない?」


「玲奈ちゃんと?」


「そう、私が負けたらあんたの言うことを1日聞いてあげる。その代わり、私が勝ったら隠していることを全部話して。これは隊長命令。あんたは受けて立つしかないよ」


 詩織は制服のスカートの端をギュッと握って、玲奈の顔を見て考えた。玲奈の瞳から本気だと感じ取り、詩織はやむを得ず勝負を受けた。


「……分かったよ」


 詩織の返事を聞いた玲奈はルールの説明を始めた。


「ルールは飛行を制限。1分以上の飛行禁止。七色は使用あり。その他は何でもあり……これでどう?」


「飛行を制限? 本気で言っているの?」


「もちろん本気だよ? ハンデ付けてもあんたにも、遼にも勝てるから」


 玲奈は不敵な笑みを浮かべて、詩織と共に転送室に向かった。



 ======



 サウナ室で遼は大量の汗を掻いて、30分以上暑さに耐えていた。水分を欲しがる体に無理を言わせて耐えているが、張り合っている仁は汗こそ掻いているが、余裕の表情を浮かべていた。


「ぜぇ……ぜぇ……そろそろ辛くなってきたんじゃないか?」


「全然大丈夫だ。お前こそ辛いんじゃないか?」


 仁は苦笑いを浮かべながら、息が上がっている遼に目を向けた。


「馬鹿野郎……まだまだ大丈夫だ」


「そうか。まあ、無理だけはするなよ」


 仁の余裕の表情を見た遼は、少し苛立ちながらも暑さに耐え続けた。しかし、既に限界を迎えていた遼の体は水分を欲し始めた。


「……クソッ! ……水……」


「話す気になったか? 無理は良くないぞ?」


「……わ、分かった。話すから外に出してくれ」


 ついに遼は折れ、仁に頭を下げた。


「意地を張らずに最初からそうしていれば良いものを……あと、その扉に細工したのは嘘だ」


「は?」


 仁は扉の前に立ち、ノブ下に付いていた鍵をひねった。


「ただ単に内側の鍵を閉めただけだ」


 遼はその場に倒れ込み、意識を失った。仁はため息をついて、遼を担いでサウナ室から退室した。



 ======



 電脳チャンネルのビル市街地にて、玲奈と詩織は対峙した。


「泣いても笑ってもダウンは即敗北。詩織、全力で来て」


「玲奈ちゃんこそ、本気で来て」


 いつも優しい表情を浮かべる詩織が、真剣な顔つきになり、玲奈を睨むように見つめる。玲奈は軽く微笑みながら、詩織に背を向けた。詩織も玲奈に背を向けて、2人は10歩ずつ歩く。そして歩き終えると、2人は再び向き合い、玲奈はキャノンの銃口を向ける。


「先手必勝!」


 玲奈は容赦なく四色を纏った銃弾を、詩織に向けて放つ。詩織は軽く瞳を閉じて、ある七色を発動させて姿を隠し、銃弾を回避する。


「躱された?」


 姿を消す七色、二色を発動した詩織は飛翔して、30階建てのビルの屋上で遠距離武器『ホーク』を構えた。そして、スコープ越しで玲奈の姿を捉えて、ゆっくりと引き金を引く。


(通常の弾だと躱される……なら、四色を使って……)


 詩織は銃弾に四色を纏わせて、弾速と威力を高めた。しかし、銃弾が銃口から放たれた瞬間、玲奈は姿を消し、銃弾は空しくも地面に着弾した。


(それでも躱すの!?)


「甘いね、詩織。あんたが狙撃してくることは百も承知の上だよ。だけどね、あの場で突っ立っているバカはいないよ」


 玲奈は咄嗟の判断で六色を使用して、狙撃されるであろう場所から離れた。そして、狙撃された方向を確認して、一気に詩織のいるビルに向かって飛翔する。


(気づかれた!?)


 詩織は向かってくる玲奈に向かって銃弾を撃ち続ける。だが、慌てて発砲した分、精度は少し落ち、放った銃弾は全て躱される。そして、玲奈は自分の間合いに持ち込み、両刃の剣を鞘から引き抜き、振り下ろす。詩織は咄嗟にホークの銃身を使って剣を受け止める。しかし、近接戦に慣れていない詩織は弾き飛ばされ、安全フェンスに叩きつけられる。


「がはッ!!」


 一瞬、息が出来なくなるような衝撃を受けた詩織は膝をついて、項垂れる。


「遼と一緒だね。距離を詰められると対処の方法に困る。前から言っていたけど、臨機応変に戦い方を変えないとやられるよ?」


 玲奈はゆっくりと詩織に歩み寄り、両刃の剣を輝かせる。


「そうだね……だけど、まだ終わらないよ!」


 詩織は地面に手をつき、一色を発動させ、自分たちのいるビルを盛大に爆破し、足下を崩させた。


「おおっと!!」


 玲奈は辛うじてバランスを保ちつつも、詩織に向かって突き進む。しかし、詩織の周りに赤い球体が現れ、詩織の合図で球体は玲奈に目掛けて飛んでいった。


「やば!?」


 赤い球体は玲奈の周りで一斉に爆破し、爆風が玲奈を襲った。


「玲奈ちゃんは隊員になったばっかりだから知らないでしょうけど、銃弾は武器から放つだけじゃないんだよ? 何もないところに自分の霊力を具現化させて、それを銃弾として放つことも出来る。知識が力に勝った結果だよ」


 詩織は翼を生成して、崩れ始めるビルから離れる。そして勝ちを確信して、ゆっくりと地上に降り立とうとする。


「玲奈ちゃんの言葉を借りるとしたら、これで終わりだね」


 詩織は玲奈のダウンを確認するため、模擬戦状況を見た。しかし、そこには玲奈のダウンは表示されておらず、続行のままだった。


(ダウンしていない?)


「まさか!?」


 詩織は慌てて上空を見渡した。そこには流れ星のように空を駆けていく玲奈の姿があった。


「あんたの言葉を借りるとしたら、まだ終わらないよ!」


 詩織は今一度、気を引き締めて玲奈にホークの銃口を向ける。玲奈は狙われていると分かり、近くのビルの屋上に待避した。詩織は地上から狙撃するため、自分の体を遮蔽物に隠し、狙撃体勢に入った。そしてスコープを覗いて玲奈の姿を探すが、中々見つからなかった。


(移動した? でも二色を使った感じもなければ、飛んでもない。建物の中に入ったのかな?)


 玲奈の詮索をするため、詩織はその場から離れようとした。だが、足を前に動かした瞬間、自分の左腕が吹き飛んだ。


「え?」


 何が起こっているのか理解できない詩織は、次々と肢体が吹き飛ばされる。


(こ……これは!? 狙撃!?)


 詩織は目を細めビルの屋上に目を向けると、ホークを構えた玲奈の姿があった。


「これで終わり」


 玲奈は詩織の心臓付近に照準を合わせて、引き金を引いた。心臓一点を撃ち抜かれた詩織はダウン宣告され、電脳チャンネルから除外された。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読みごたえある力作ですね! またゆっくり読まれて頂きます^_^
2020/09/06 01:46 退会済み
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