実力差
遼2本先取の展開から玲奈の逆襲が始まり、あっという間に8対2で玲奈の大量リードに変わってしまった。精神的に限界が来ている遼に対して、玲奈は余力有り余る状態だった。
「私的には結構七色使ったし、やめる?」
疲れ果てている遼の姿を見た玲奈は、限界と察して中断を持ちかけた。しかし、遼は中断を受け入れることはなく、ユラユラと立ち上がった。
「まだ……10本先取していないだろ……続行だ」
『玲奈。情けをかけたい気持ちは分かるが、挑んできたのは西原だ。予定通り、10本先取するまで終われないぞ』
玲奈の気持ちを察した仁だが、本来の目的も兼ねると中断を認めることが出来なかった。
「……分かった」
再会の合図が出されるが、満身創痍の遼が最高の動きをすることは出来なかった。
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「圧倒的だね」
水澤小隊の小隊部屋で、玲奈と遼の一騎打ちを観戦していた真里が率直な感想を述べる。弟が惨敗する姿を見る抄の表情は、心なしか険しかった。
「予想はしていたが、ここまで差があるとは……」
冷静にモニターを見ていた仁が、言葉をこぼす。
「だが、負け続けているにも関わらず、挑み続けるなんて大した根性だな」
「…………根性だけじゃ、この世界では生きていけないよ」
堅く口を閉ざしていた抄が、拳を握りしめながら口を開ける。その場にいる3人は一斉に抄に目を向けた。
「しょ、抄ちゃん?」
心配そうな表情を浮かべながら、真里は抄の肩に手を置いた。
「今の遼じゃ水澤どころか、他のCランク隊員にも勝てない」
弟を贔屓するのかと思えば、厳しいダメ出しだった。その発言以降、会話が飛び交うことはなかった。
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空中戦で、玲奈に敵わないことを理解している遼は、極力飛ばずに、中距離で玲奈を攻撃し続けていた。しかし、どれだけ銃弾を放っても、どれだけ七色を纏わせても、玲奈が被弾することはなかった。
「クッソ!! 何で当たらないんだよ!!」
完全に冷静さを失った遼は、闇雲に銃弾を放ち続ける。そして遼のダウンは突然訪れる。
「がはぁッ!!」
数秒前まで遠くにいた玲奈が、六色の光速を使用して距離を詰め、遼の腹部目掛けて刃を突き刺した。的確に急所を突いた玲奈の剣は、問答無用で遼をダウンさせた。
「これで9対2。次で最後になるよ?」
体の修復を終えた遼は、息を切らしながら玲奈を睨みつける。
「まだだ……はぁ……はぁ……まだ終わってない!」
玲奈は目を細めて、遼から離れる。そして、キャノンの銃口を遼に向ける。
「強くなっているのは分かる。だけどね、遼には1番大事な物が欠けているよ」
「欠けている?」
遼はゆっくりと立ち上がり、玲奈にキャノンの銃口を向ける。
「そう、大事な物。だけどそれを教えるのは最後の1本が終わってからね!」
再会の合図が出され、玲奈は勢いよく遼の懐目掛けて駆け出す。真っ直ぐに突き進んでくる玲奈に、遼は通常の銃弾を放つ。しかし、銃弾は剣で弾かれ、玲奈は止まらなかった。
「甘いよ!」
玲奈は遼の腹部目掛けて、切っ先を突き出す。遼は翼を生成して上空に逃げ、真下に向かって一色を纏わせた銃弾を放つ。そして爆風が玲奈を包み込む。
「はぁ……はぁ……この程度じゃ、ダウンを取れないか」
間一髪、一色の爆心地から離れることが出来た玲奈だが、右腕を爆風によって吹き飛ばされた。
(右腕が吹き飛んだ……まだ行ける!!)
好機だと判断した遼は、四色を纏わせた銃弾で玲奈に追撃する。その時、玲奈は不気味に微笑み、姿を消した。そして、玲奈に向かって放たれた銃弾は、空しくも地面に着弾した。
「消えた!? また六色か!?」
遼は周囲を警戒し、玲奈を見つけ出そうとした。しかし、六色で移動したはずの玲奈の姿はなく、攻撃してくる様子もなかった。
(どういうことだ? 玲奈の気配が全く感じられない)
再度、周囲を確認するが、やはり玲奈の姿はなかった。その時、遼の頭上に影が出来、それに気づいた遼は上を見上げた。
「何!?」
遼は素速く移動し、玲奈の奇襲弾幕から逃れた。
「意外と使えるね、これ(二色)」
「二色で姿を消すなんて……うっかりしていた」
「反省するのは終わってからにして!」
玲奈は翼を羽ばたかせて、遼との距離を詰める。回避行動をとる遼は、振り切ろうと懸命に飛び回るが、玲奈は涼しい顔で付きまとった。
「クッソ!! 振りきれねぇ!!」
玲奈は片腕を失いながらも、キャノンを構え、照準を合わせる。そして容赦なく引き金を引き、四色を纏わせた銃弾を放つ。遼は急降下し、なんとか回避することが出来たが、後ろにつかれている状況は変わらなかった。
「風読みだか、なんだか知らないが、付いてこれるなら付いてこい!」
ビルとビルの間を利用し、遼は玲奈を引き剥がそうと懸命に飛び回った。しかし、その程度では振り切れないことを理解している遼は、一色を纏わせた銃弾を2つのビルに向かって放つ。そして一色の爆発によって、2つのビルは倒壊し始め、玲奈の進行方向を遮ろうとした。
「考えたね。だけど、甘く見ないでもらいたいね」
玲奈は風を読んで、スピードを落とすことなく、ビルの瓦礫を縫うようにして突き進む。そして再び遼の背後に付く。
「しつこい奴め!」
玲奈の風読みを目の当たりにした遼は、最後の手段を取った。体をくの字にしてブレーキをかけて、玲奈に前を譲る。そして、玲奈が前に出るか出ないかのところで、キャノンを構えてチャージ弾モードに切り替える。
「吹き飛べ……」
狙いを定めるために、玲奈に目を向ける遼だが、視界に玲奈が映り込んだ瞬間、寒気が走る。
「……これで終わり」
不意を突こうとした遼の戦術は、玲奈に見破られていた。遼と玲奈が横に並んだ瞬間、遼よりも早く、玲奈がチャージ弾を放った。引き金を引くタイミングが遅れた遼は、まともにチャージ弾を食らい、電脳チャンネルから除外された。
『勝負あったな。10対2で玲奈の勝利だ』
玲奈は飛びながら静かに瞼を閉じて、大きく息を吐いた。そして遼の後を追うように、電脳チャンネルから離脱した。
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現実世界に戻った遼は、転送用のフルフェイスヘルメットを外して、床にたたきつけた。
「クソッ!!」
堅く作った拳は小刻みに震え、憤りを感じているのが見て分かる。
「何で当たらなかった……何で躱せなかった……何で勝てなかったんだ!」
さっきまで横になっていた転送用のベッドを思いっきり蹴った瞬間、背後の自動扉が開く。
「簡単な理由だよ」
遼に話しかけながら部屋に入ってきたのは、玲奈だった。
「あんた、全然冷静じゃなかった」
遼は振り向いて、玲奈の顔を凝視する。玲奈は遼の目を真っ直ぐ見つめて、理由の続きを述べた。
「あんたがどんな思いで私に挑んできたのかは分からないけど、はっきり言って、今日のあんたは1番弱い西原遼だった」
「何だと?」
遼は玲奈を睨みつけ、思わず手が出かける。しかし、遼の手は玲奈に届くことなく、何かに抑止される。
「玲奈の言うとおりだ。それに、自分の隊長であり、無抵抗の人間に手を上げるのは感心しないな」
遼の腕を止めたのは仁だった。
「遼……」
遼の姉、抄も駆けつけ、遼は顔を強ばらせて、目線を地面に向ける。そして、水澤小隊の部屋にいた詩織と真里も転送室の入り口で様子を窺う。
「遼、何があったの?」
抄は優しい口調で語りかけ、遼に歩み寄ろうとするが。
「来ないでくれ!!」
通路にまで響く遼の大声に、その場は静まり返る。自分の腕を掴んでいる仁の手を振り払い、遼は足早に部屋を出て行った。完全に暴走している遼に、詩織は声をかけようとするが届かなかった。
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優一は密林の中を、数時間かけて歩き回っていた。密林は思った以上に湿気が多く、優一の体力をジワジワと削っていった。
(あ~、疲れた。ちょっと、ここら辺で休憩するか)
周囲に休憩に敵した場所を探していると、洞窟の入り口が見え、優一は洞窟で休憩を取り始めた。収納サポートを操って、水筒を取り出し、失われた水分を補給する。そして、携帯していたおにぎりを口に運んで、空腹を満たした。
「ふぅ~。空飛んでいるよりも辛いな……」
食後の煙草に火をつけようとした瞬間、無線の着信が入る。
「こちら優一」
『ようやく出たか。1時間ごとに報告しろと言っただろ?』
無線の相手は暁美だった。優一は煙草に火をつけて、暁美に言葉を返した。
「悪い。少し詮索に夢中になりすぎた。今は休憩しているところだ」
『まあいい。南側は温度が高いからな。ナノマシンで体調管理はされているが、無理はするなよ』
「ああ。気をつける。それと暁美」
『何だ?』
煙草を吸って、優一は暁美に尋ねる。
「ありがとう」
『な、なな、何を急に言い出すんだ!?』
「いや。散々振り回した挙げ句、今みたいに単独行動をさせてもらっているのに、お礼の1つも言っていなかったからな。遅くなったけど」
『そんなことはどうでもいい!』
無線越しで暁美が焦っている表情を思い浮かべた優一は、軽く微笑んで煙草を吸う。
『それより、進展はあったか?』
「いや、相変わらず地上に降りても何もない……もう少し範囲を広めた方が良いか?」
『しかし、それだとお前の負担が……』
その時、優一は何かに気づき、暁美の言葉を遮る。
「待て!!」
優一は暁美との無線を繋げたまま、洞窟の奥に目を向けた。そして息を殺して、洞窟の奥に歩を進めた。
『どうした? 優一?』
「……見つけたぞ。アレを」
『本当か? 視覚情報の共有を頼む』
優一はナノマシンの情報送信システムを利用して、今自分が見ているものを動画で送った。優一の視線の先にあるものは、柔らかい光を放つ巨大な球体だった。球体は優一と同じくらいの高さがあり、人2人分ほどの幅の大きさだった。動画を見た暁美は、無線で優一に指示を出す。
『いいか? 周りにゴーストがいないことを確認しろ。安全を確認したらどんな手段を使っても構わない。その球体を破壊しろ』
「了解」
優一は慎重に進み、球体の周辺にゴーストがいないのを確認し、球体に近づく。
「ゴーストがこの世に出現するための扉……」
『ディスペアゲート(絶望の扉)。入り込むことは出来ず、一方的にゴーストが出てくる謎の扉……お前の推測通り、やはり人目の付かない場所に存在していたな』
「まあ、他のホープ支部のレジェンドたちも気づいているだろうがな」
優一は左腰に携えている黒い剣を手に取り、ディスペアゲートに対して構える。
「壊す……」
「おやおや、こんなところに人が来るとは、珍しいこともあるんですね」
優一が剣を振ろうとしたその時、背後から聞こえた声に反応して振り向く。視線の先にいたのは黒いフードを被った高身長の人間だった。
「人? 気配が感じなかった……お前は一体?」
「私の正体などどうでもいい。それよりも、そのディスペアゲートを壊すのは阻止させてもらいますよ」
その人間は一瞬にして優一との距離を詰めて、銀に輝く刃で優一を攻撃した。優一は間一髪、携えていた黒い剣で受け止め、押し返す。そして、左手で銃を構えて、フード人間に対して通常の銃弾を放つ。しかし、動きを読まれているのか、フード人間は薄暗い洞窟の中であるにも関わらず、銃弾を全て躱す。
「マジか!?」
『優一! ディスペアゲートは諦める。取り敢えず逃げろ!』
「チッ!! 了解!」
優一は霊力の翼を広げて、洞窟の外に出た。フード人間は優一を追いかけず、逃げていく優一を眺めていた。
「ディスペアゲートを1人で探しに来るだけのことはある。良い戦士だ」




