玲奈VS遼
「丁度良い。玲奈、西原と戦ってみろ」
仁は遼の表情を見て、玲奈に提案した。
「でも……」
玲奈は訓練隊員である遼と戦っても大丈夫なのかと思った。しかし、仁は玲奈の思いを尊重することはなく、提案を取り下げなかった。
「大丈夫だ。西原からの挑戦なら問題はない。それに訓練隊員と言えども、七色の基本は習っているはずだ。遠慮することはない」
「遼、本気なの?」
玲奈は不安そうな顔で遼を見つめる。
「本気だ。つべこべ言わずにいつも通りやるぞ」
遼の真剣な目を見た玲奈は、何かを感じて覚悟を決める。
「……分かった。遼がそこまで言うならやろう」
玲奈の了承を確認した仁は、その場でルールの説明をする。
「10本先取の飛行有り。七色使用有りの、なんでもあり。場所は異次元電脳チャンネルのビル市街地だ。本質は玲奈の七色練習だ。10本先取で文句はないな? 西原」
仁が遼に目を向けるが、遼は返事をすることなく、コクリと頷いた。そして、足早に部屋を出て行き、転送装置のある訓練棟に行ってしまった。
「何か……遼、変」
「そうだな。何があったのか分からないが、こっちは予定変更なしだ。使ってみたい七色を思う存分使ってこい」
仁は玲奈の肩に手を置いて送り出す。玲奈は静かに部屋を出て行き、遼の後を追った。
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無事、電脳チャンネルに転送された玲奈と遼はお互いを見つめる。2人の間に会話はなく、玲奈は遼の顔を不安げに見つめる。
『2人とも準備は良いか? バトルサポート起動5秒後に戦闘開始だ』
「了解!」
「はい……」
玲奈の元気ある返事と、絶えず鬼気迫る表情を浮かべる遼の声が重なる。そして2人はバトルサポートを起動し、臨戦態勢に入る。
『5・4・3・2・1……始め!』
仁の無線によって2人は弾けるように行動する。
遼は左腰に携えていた中距離武器のキャノンを手に取る。そして、玲奈の足下めがけて3発、銃弾を放つ。玲奈は真横に移動し、銃弾を回避する。しかし、着弾した場所から爆発が起き、玲奈の左足は爆風によって吹き飛んだ。
「なッ!!」
その様子を見ていた仁は冷静に分析して、玲奈に無線を入れる。
『一色だ。少し横に移動した程度じゃ躱しきれないぞ』
左足を失った玲奈はバランスを崩しながらも、反撃に出る。
「いきなり七色を使うなんて……こっちも使ってやる!」
玲奈は遼と同じくキャノンを右手で持ち、一色を纏わせた弾丸を放つ。一色を纏った銃弾は遼の足下に着弾し、爆発を生んだ。一色の爆発で遼を捕らえたと確信する玲奈。しかし、爆煙の中に遼はいなかった。
『何を呆けている! 横だ!!』
「え?」
横に目を向ける玲奈だが、時既に遅し。四色を纏った銃弾が玲奈の心臓に風穴を開けた。
『……戦闘不能を確認、水澤ダウン』
仁が玲奈のダウンを告げる。体の修復を始めている玲奈を、遼は表情を和らげることなく見つめた。
「……やってくれるね」
「本気で来い。玲奈」
遼は玲奈に銃口と視線を向ける。そして、再戦の合図が出て、2人は再び激しく動き合う。
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「何で付いてくるんですか?」
詩織は抄と真里を連れて、自分の小隊部屋に向かっていた。
「2人の恋が実る瞬間を見たいから」
抄の悪趣味な発言に詩織は苦笑いを浮かべる。
「伊澄さんもですか?」
何も言わずに付いてきた真里に、詩織は目を向ける。
「抄ちゃんが暴走しないように見張るため」
真顔で言葉を返す真里に、抄は取り乱す。
「ちょっと! 私をなんだと思ってるの!?」
「自分の胸に手を当てて聞いてみたら?」
「ま~り~」
少ない会話の中で、真里と抄が長い付き合いだと感じた詩織は軽く微笑む。その詩織の表情を見た2人も軽く微笑む。
「さっきまで泣いていたのに、可愛い顔するじゃん」
「可愛いだなんて……お世辞でも恥ずかしいですよ~」
顔を赤くする詩織を見て、抄はいじりたくなる性格を抑えられずにいた。
「このこの~。もっと良い顔しなよ~」
不意を突いて詩織の脇腹をくすぐって笑わせようとした。
「えッ!? ちょ、ちょっと!! どこ触ってるんですか!?」
「おお~。恥ずかしがっている顔は真里以上に萌えるね~」
小隊部屋に着く前に暴走し始めた抄を、詩織と真里は必死になって止める。
「いい加減にしてください!」
「いい加減にして!」
しかし、2人の怒った表情は抄にとって眼福ものだった。
「って、騒いでいたら着きましたよ」
詩織は小隊部屋の扉の前に立ち、ロックを解除して2人を部屋の中に招き入れた。
「ただいま~」
『お邪魔します』
「ん? 月影さん……と伊澄さんに西原さん」
小隊部屋のリビングには仁の姿があった。
「あれ? 仁くん。どうしてここに?」
詩織が不思議そうな顔で仁に尋ねる。仁はリビングに設置されているモニターを見つめながら返答する。
「玲奈の訓練を見ているところです」
詩織は「なるほど」と言わんばかりの表情を浮かべて、仁に近づく。真里と抄も詩織の後に続く。
「どんな訓練をしているんですか?」
「七色を思う存分使わせているだけです」
「あ~七色ね。玲奈ちゃんは座学とか受けてなかったから、使えなかったもんね」
詩織はモニターに目を向けて玲奈の様子を見る。遼を探しているのか、抄が部屋を見渡しているが、遼の姿はなかった。
「仁。私のおと……遼は帰ってきていないの?」
ずっと部屋の中にいたであろう仁に、遼の居場所を尋ねた。仁は一瞬、モニターから目を離し、抄に言葉を返す。
「帰ってきましたよ。そして今、玲奈と戦っているのが西原ですけど?」
『は?』
詩織と抄は声を重ねて驚き、真里は無表情を貫いて、モニターを見た。
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(まだ玲奈は飛ばないが、地上戦なら戦える!)
玲奈から1本取った遼は、地上戦では自分が優位だと確信し、中距離での攻撃を続けた。通常の銃弾から七色を纏わせた銃弾を使用し、玲奈を徐々に追い詰める。
一方玲奈は、1本取られたにも関わらず、焦ることなく、冷静を保っていた。
「初めてだね……私から1本取るなんて」
「ああ。だけどまだ終わりじゃない。このまま押し切らせてもらう!」
遼は通常の銃弾で攻撃し、わざと玲奈に回避させる。そしてフリーになっている左手を使って、玲奈に一色の霊力弾を放つ。
「その一色は読めてるよ!」
放たれた一色の霊力弾は着弾後、爆発を生じたが、玲奈を捕らえることは出来なかった。玲奈は遼との距離を詰めて、両刃剣を鞘から抜く。思いっきり振りかぶり、遼の体目掛けて斬るが、後ろに退かれてしまい、躱される。
「俺もその動きは読めてるよ」
「私の真似! ……遼のくせに生意気だね!」
玲奈は四色を纏わせた銃弾を放つ。四色によって弾速を速めさせていたが、銃弾は遼に当たることはなかった。
「消えた!?」
「六色だよ」
遼は光の速さで玲奈の背後に移動し、四色を放つ。背後からの攻撃を躱すことが出来なかった玲奈は、2度目のダウンを宣告された。
「俺も遊んでた訳じゃないんだ。仮にもCランクで1位になれたくらいだからな」
その言葉を聞いた玲奈は驚きの表情を浮かべて、遼を凝視する。
「上位ランク隊員がやる訓練も進んで受けた。苦手な座学も詩織と一緒に受けた。そして、お前に認めてもらうために、俺は死に物狂いで努力した」
心中を口にする遼を、玲奈は黙って見つめた。
「追いかけ続けて5年……俺は強くなった! お前の立っている場所に並んだ! そして、俺はお前に勝つ!」
言いたいことを言い終えた遼は、玲奈に向かって再び構える。玲奈は真剣な眼差しで遼を見つめて、閉じていた口を開けた。
「そんなこと思っていたの? 馬鹿じゃないの?」
「何だと?」
「言っておくけど、あんたは確かに私と並んだかもしれない。だけどね、それは傲慢だったときの私。今の私は以前とは違うよ」
遼は歯をギリッと鳴らして、玲奈を睨みつける。
「友人相手だから少し手加減してたけど、次からは本気で行くね」
そして再び再戦の合図が出る。
(玲奈の奴……手加減してただと? 2本取られているのに余裕だな……)
遼は一色を纏わせた銃弾を玲奈の足下に放つ。玲奈は大きく横に回避し、爆発範囲から外れる。回避を読んでいた遼は、四色を纏わせた銃弾を玲奈に向かって放つ。しかし、四色を纏った銃弾は玲奈に当たることはなく、剣に弾かれる。
「なッ!? 銃弾を弾いた!?」
距離を一気に詰めた玲奈は、横一線に剣を振る。遼は瞬時にキャノンの銃身で剣を受け止め、耐える。
「受け止めたね。だけどこの距離じゃ撃てないでしょ?」
玲奈は不気味に笑いながら押し切る。ダウンは免れた遼だが、派手に吹き飛ばされ、地面に伏せるような形で倒れてしまった。
「ぐぅ……まだだ」
玲奈の追撃を警戒し、遼は体を即座に起こし、玲奈を視界に入れようとするが、遼の胴体と首が離れる。いつの間にか、玲奈は遼の背後に立ち、背を向けていた。
「え?」
「追撃を警戒するのは正解だけど、遅すぎるよ」
『戦闘不能を確認。西原ダウン』
そして遼はダウン宣告を受けた。
「六色を使ったのか?」
自分の体の修復を待っている間に、遼は玲奈に尋ねる。玲奈は軽く微笑んで答える。
「違うよ……追撃したときに七色は一切使ってないよ」
「何だと?」
遼の表情は曇り、玲奈は変わらず微笑む。そして再開の合図が出され、戦闘が再開される。今度は玲奈が一色や四色を纏わせた銃弾を放って、遼に回避行動を取らせる。
「よく躱すね……だけど、これはどう?」
玲奈は続けざまに銃弾を放つ。その銃弾は様々な方向に軌道を変え、遼を追尾する。追尾されていることに気づいた遼は、その七色を解析する。
「三色!?」
慌てて翼を生成し、遼は上空に逃げて三色を纏った銃弾を回避する。しかし、それが玲奈の狙いだった。
「やっと飛んでくれたね」
遼が上空に逃げるであろうと予測した玲奈は先回りし、容赦なく遼を斬りつけた。躱すことが出来ない遼は、ダウンを宣告された。
『西原ダウン』
「これでイーブン。誰に並んだって? 遼?」
驚異的な玲奈の戦闘センス。そして玲奈の何気ない微笑みに、遼の体は震え始めた。




