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Hope〜希望を信じて〜  作者: 伊澄 ユウイチ
ようこそホープへ
29/80

詩織の過去

 とある小学校の教室。


 その教室の隅で銀髪の少女は顔を伏せて座る。人に見せられないほど醜い顔をしていて伏せているわけではなかった。


 ただ、人の目が気になっていただけだった。


「おい、見ろよみんな。ばあさんお昼寝タイムらしいぞ」


 環境変化の影響によって変色した銀色の髪が、彼女を苦しめていた。


 そう、彼女はクラスからいじめを受けていた。


 少女は誰にも言えずに我慢していた。親には心配かけまいと黙り込み、担任に相談しようと思ったが、その後の報復を想像してしまうと声が出なかった。いつしか少女は声を出すことが出来ない体になっていた。


 一日の授業が全て終わり、教室から出ようとする少女を囲む数人の生徒。


「もう帰るのですか? おばあさん」


 少女の顔を下からのぞき込むように見る男子生徒。少女は無言で視線を逸らす。そして横から女子生徒が少女の銀髪を掴む。


「返事くらい出来ないの~? 詩織ちゃん? 何か言ったらどう?」


 詩織は声を出すことは出来なかった。声を出すことが出来ない少女の態度に、腹を立てた女子生徒は詩織を地面に伏せさせる。


「喋れよ。根暗女が」


 詩織を脚で押さえつけ、動けなくする。その他の生徒も彼女を踏みつけたり、蹴り始める。言葉にし難い激痛が詩織を襲う。


「蹴っても踏んでも何も言わないの? ホントあんたって生きてんの?」


 詩織はやっとの思いで女子生徒を見る。詩織の瞳を見た女子生徒は、汚いものを見たような表情を浮かべる。


「何見てんの? キモいんだけど?」


 詩織を押さえつけている脚の力が強くなる。


「……クッ! ハッ!!」


「フフフ、ようやく声を出したね」


 このままじゃ自分の体が壊れてしまう……詩織は抵抗するのをやめようとした次の瞬間。


「お前ら邪魔だ」


 詩織をいじめている生徒たちは声が聞こえた方向に目を向ける。そこには不機嫌そうな表情を浮かべる、茶髪の少年の姿があった。


「これはこれは、カラメル頭の西原くんじゃないか」


 男子生徒は馬鹿にするような声で少年に声をかけた。少年は詩織に脚を乗せている女子生徒に向かって歩を進めた。


「こんなことをして頭おかしいんじゃねーの? お前ら」


 少年は挑発的な言葉とともに、女子生徒を詩織から引き離す。その様子を黙って見ていた生徒たちは、表情を曇らせる。


「西原~。お前なにやったか分かってる? 俺たちに歯向かってんじゃねーよ!!」


 数人の男子生徒が少年に襲いかかる。少年は詩織から離れ、迎え撃つ。何人かは、少年の攻撃で蹲って倒れるが、不意を突いて少年を取り押さえる。


「弱いくせに毎回反抗しやがって。お前も詩織と一緒にボコってやるから安心しろよ」


 女子生徒は詩織を再び脚で押さえつける。しかし、腕の自由を奪われている少年はニヤリと笑う。そして教室の入り口からシャッター音が鳴る。


「良いものが撮れた~」


 入り口から携帯端末を持った女子生徒が入ってきて、嬉しそうな顔で近づく。


「あんたたち、こんなことして大丈夫? ウチの学校いじめには厳しいんだよ?」


「ゲッ!! 西原の姉ちゃんだ!」


 詩織たちをいじめている生徒たちは、青ざめた表情で女子生徒を見る。女子は不安そうな顔で一歩後ろに下がり、男子生徒は歯ぎしりしながら女子生徒を睨みつける。


「さあ、写真と動画を先生たちに見られたくなかったら、こんなことはやめなさいよね」


 証拠をチラつかせると、男子生徒は一斉に女子生徒に襲いかかる。


「元気なのは良いけど……」


 男子生徒は一瞬にして地面に寝転がってしまった。


「女子だと思って甘く見た? 上級生に喧嘩は売るもんじゃないよ」


 軽く微笑む女子生徒の姿を見た、いじめっ子たちは血相を変えて逃げてしまった。


「すぐ逃げるくらいなら、人をいじめんなよ」


 背を向けて逃げる生徒たちに、女子生徒はドスの利いた声で独り言を呟く。拘束されていた男子生徒が服装を整えて、倒れている詩織に手を差し伸べる。


「大丈夫か? 立てる?」


 詩織は差し伸べた手を取ろうとする。しかし、腕に激痛が走り、その手を取ることは出来なかった。


「おい……怪我してるのか?」


「……」


「遼、その女の子が?」


 いじめっ子を追い払った女子生徒が詩織と、遼と呼ばれる男子生徒に駆け寄る。


「前から姉ちゃんに相談していた女子」


 詩織はぎこちなさそうに立ち上がって、2人に軽く頭を下げて帰路につこうとする。不自然な方向に曲がっている詩織の左腕を見た遼の姉が呼び止める。


「折れてるよ。一緒に病院に行こう」


 詩織は沈黙を守りながらコクリと頷く。



 ======



 詩織は西原姉弟と共に病院で診察を受けた。案の定、左腕は骨折しており、左肩にもヒビが入っていた。流石に重傷と判断した医師が学校に連絡し、詩織たちは学校に事情を話した。


「月影さんがいじめられていたことは分かりました。証拠もあるから言い逃れは出来ないな」


 内容を理解した校長が、真剣な表情で3人を見つめる。


「後は大人に任せなさい。君たちはもう帰かえりなさい」


 遼と遼の姉は「はい」と返事をするが、詩織は静かに立ち上がって今度こそ帰路についた。


 痛々しい自分の腕や体を見た詩織は、無表情を保ちつつ、歩み続ける。


「お~い」


 遼と遼の姉が詩織に声をかける。詩織は追いかけてきた遼たちを見て、軽く頭を下げる。そして、遼が詩織に掛けた言葉は。


「ごめん。早く助けることが出来なくて、本当にごめん」


 急に出てくる謝罪の言葉に詩織は戸惑う。


「俺も教室では浮いていたが、君みたいに暴力を振るわれるほど酷い目には遭ってなかった。自分さえ良ければ良いって思ってたんだ。だけど、やっぱりダメだって思ったんだ。俺はいじめられていた君を見捨てることは出来なかったんだ」


「あんたラッキーだったね。遼が気にしていなかったら、ずっとこのままだったよ」


 詩織は下唇をかんで、目に涙を浮かべる。しかし、肝心の感謝の言葉を口にすることは出来なかった。すると、遼の姉が詩織の頭を軽く撫でる。


「今は話せなくても良いよ。無理しないで自分のペースで良いんだから。ねえ、遼?」


 姉の言葉に、遼はコクリと頷く。詩織はしゃがみ込んで、声を漏らさずに泣いた。


 その後、遼が詩織に話しかけ続けた結果、詩織は声を取り戻し、他人に心を開き始めた。しかしその日以降、遼の姉と会うことは一度もなかった。



 ======



 小学生の時の記憶を思い出した詩織は、目の前にいる西原抄を見て、涙を一筋流した。


「思い出した……私、本当に一度会ってたんですね。しかも、何も話せなかった私を助けてくれて」


 泣き出した詩織の頭を、抄は優しく撫でる。横にいる真里は浮かべていた涙を拭き取る。


「恩人なのに……なんであの言葉が一番最初に出てこなかったんだろう……」


 詩織は顔を上げて、抄の目を見る。抄は詩織が目に浮かべている涙を拭き取る。


「ありがとうございます……私は……私は……」


「ほら泣かない。そして思い詰めない。私から話してしまったけど、過去のことは引きずらない。今が楽しいんでしょ?」


 抄はニッコリと微笑んで詩織の目を見る。その表情を見た詩織は、目を腫らしながらも微笑み返す。


「だったら昔言えなかったこと。昔出来なかったことをやってみなさい。失敗しても大丈夫だから。あなたは耐えるだけの力はあるんだから」


 抄の言葉で隠していた思いを打ち明けようと決めた詩織。軽く息を吸って、本題に答える。


「私は……私は昔から遼くんのことが好きです」



 ======



「プログラムインストール完了。玲奈ちゃんお疲れ」


 穂香が玲奈のはだけている服を元に戻して、声をかける。


「ありがとうございます。本当にこれで七色が使えるようになるんですか?」


「もちろん~。七色を使いたいときは、バトルサポートを起動している状態で、頭の中でイメージすると纏うことが出来るよ。まあ、百聞は一見にしかずだね、仁くん」


 別室で待機していた仁がスッと出てきて「そうですね」と言葉を返す。


「仁! 早く電脳チャンネルに行こうよ!」


 好奇心を抑えられない玲奈が、輝いている目で仁を見つめる。


「落ち着け。七色を使いたいのは分かるが、忘れていることがあるんじゃないか?」


 仁は机の上に転がっている太刀と両刃剣に目を向ける。玲奈は思い出したかのように机に駆け寄り、武器を手にする。


「私、これを使うよ」


 玲奈が手にしたのは両刃剣だった。仁は軽く微笑み、武器を持参してきた穂香は、剣を納めるための鞘を玲奈に手渡す。両刃剣を鞘に収めた玲奈は、バトルサポートの装備に追加し、武器を収納システムにしまった。


「両刃剣……か。大事に使ってくれよ」


「私が持ってきたんだけど?」


 あたかも自分の物を譲ったかのような仁の口ぶりに、穂香は目を細めてツッコむ。


「いろいろとカスタマイズのしがいがありそう~」


 肝心の玲奈には仁の言葉は届かず、頭の中は七色と自分専用の武器のことで頭がいっぱいになっていた。


「じゃあ、私は忙しいからこれで」


 部屋を早々に立ち去ろうとする穂香に、仁は声をかける。


「もう行ってしまうんですか? 今から七色の訓練をするんですが……」


「見たいけど、本当に私は忙しいの。アルカディアのデータは取りたいけど、また今度にしておくよ」


 穂香は荷物をまとめて、部屋を立ち去ろうとした。


「穂香さん。ありがとうございました!」


 穂香は眼鏡の位置を修正して、玲奈に手を振って退室した。


「さあ~て。七色、使っちゃおう~」


「あんまり浮かれるな。戦場では浮かれることが一番危ないんだぞ」


 説教じみた言葉に、玲奈は嫌そうな表情を浮かべる。その表情を見た仁は、ため息をついて、異次元電脳チャンネル転送装置のある場所に向かおうとした。


 2人が部屋を出ようとした瞬間、遼が部屋に戻ってきた。


「あ、遼。詩織と一緒じゃないの?」


 帰ってきた遼に玲奈は声をかける。いつもはドライな感じを見せつつ、言葉を返してくれる遼だが、少し様子が違った。


「……遼? どうしたの?」


「……玲奈。俺と戦え」


「え?」

「お?」


 玲奈と仁は、遼の意外な発言に困惑する。

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